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「故郷の空を“戦の空”にはさせぬ」  オスプレイ反対住民の会設立 佐賀空港の基地化反対で行動開始

 安倍政府が佐賀空港への自衛隊オスプレイ配備の予算を組み、トップダウンで計画のゴリ押しをはかろうとするなかで、佐賀空港を抱える佐賀市川副町を基盤にして強い反対行動が起こっている。それは、単純に騒音被害などの「地域の迷惑」にとどまらず、「集団的自衛権の行使」による戦時体制づくりのなかで米軍とその下請化を進める自衛隊基地の存在が、日本の平和を守るどころか住民の生活を脅かし、郷土を忌まわしい戦争に巻き込むものであることが鮮明となっている。これまで国策に振り回されながら地道な努力を重ねて第一次産業を守ってきた生産者の誇りとともに、かつての戦争によって塗炭の苦しみを味わった歴史的な体験から「二度と再び郷土を戦場にさせぬ」という底深い怒りを根底にしている。70年にわたって米軍支配下での苦渋を押しつけられてきた沖縄県民をはじめ、全国民の願いと連動した動きとなって広がりを見せている。現地で実情を取材した。
 
 農漁業担う生産者の誇りにかけて

 

 昨年7月、「佐賀空港へのオスプレイ配備」が突如マスコミ報道されて以降、安倍政府は県営有明佐賀空港を陸上自衛隊の大規模な航空基地にすることを狙い、佐賀県、佐賀市に申し入れてきた。


 その内容は、①新設する陸上自衛隊のオスプレイ輸送部隊(17機)を常駐させる、②陸上自衛隊目達原基地(神埼郡吉野ヶ里町)にある対戦車攻撃ヘリコプター部隊(50機)をすべて佐賀空港に常駐させる、③沖縄・普天間基地に常駐している米軍のオスプレイ部隊の訓練基地として佐賀空港を使う――というもので、現在、国内線や中国・韓国と結ぶ格安航空(LCC)が就航するなど観光の窓口となっている県営空港を国内最大級の一大軍事航空基地へと変貌させる計画だ。


 そのなかで今月7日、川副町内の自治会が中心になり、「佐賀空港への自衛隊オスプレイ等配備反対地域住民の会」(古賀初次会長)が立ち上げられた。これまで明確には態度を明らかにせず「対策協議会」としていたが、防衛省から納得のいく地元への説明がないままオスプレイ配備の予算109億円が組まれるなど住民の頭越しに手続きが進められ、市議会特別委員会が方向性を示す8月が迫るなか、蚊帳の外に置かれ続けてきた地元住民の世論がはじめて表面化することとなった。


 約400人が参加して開かれた住民集会で古賀会長は、「防衛省の説明では、肝心のことが何もわからない。しかし、わからないからといって態度表明しないなら、オスプレイとヘリコプター部隊の配備計画はどんどん進む。知事や市長に対する圧力が強まっており、私たちが反対の声を上げるのは今だ。今声を大きく上げなければ、子々孫々の代まで悔いを残す」と住民の会立ち上げの経緯を力強くのべた。


 そして、「安倍政府は各地の基地機能や兵力を増強することは“国民の安全”と“戦争抑止のため”に必要な政策だといっている。しかし、私たちは為政者が“自衛のため”“東洋平和のため”等といって戦争に突入し拡大していった過去の歴史を忘れない」とし、政府が集団的自衛権を認めたことに対して学者などが「アメリカと一緒に、世界のどこででも戦争をする国に変えようとしている」と批判を強めるなかで、「“戦争する国”づくりのために、佐賀空港へのオスプレイ配備計画が進められていることははっきりしており」「平和な佐賀空港が戦争のための出撃基地になるのを許せるでしょうか」と呼びかけた。


 また、「尖閣諸島で軍事衝突が起きることを考えて、佐世保市の陸上自衛隊相浦駐屯地に水陸機動団3000人を新しく配備し、その部隊を尖閣諸島などに急いで運ぶための佐賀空港への自衛隊オスプレイ配備」であることを明らかにした。「安倍政府が進むこの道は、いつか来た道、戦争に突入する道だ。そして、戦争になった場合にはオスプレイやヘリ部隊の基地となった佐賀空港がどうなるか。70年前のあの戦争でも私たちの町は終戦間近に空襲を受けた。今は核戦争の時代だ。中国は核兵器を持ち、ミサイル部隊を実戦配備している。もしも中国との間で戦争が始まり、わが佐賀空港からオスプレイ部隊が戦地へと出撃するなら、佐賀空港はミサイル攻撃の対象になる恐れがある。佐賀空港の軍事化に反対する最大の理由はここにある」と強調。


 ①墜落事故の絶えないオスプレイは沖縄であれ、佐賀や岩国や横田であれ、どこであろうと飛んでもらっては困る。佐賀空港では1日60回も離発着するといわれ、いったん自衛隊基地になれば、米軍部隊の訓練基地化にも繋がる。


 ②軍用ヘリに加えてオスプレイを配備すれば、佐世保方面、北山方面、大分方面、熊本方面など四方八方に飛び立ち、編隊を組んでの飛行による爆音は広範囲に市民の日常生活を苦しめる。


 ③佐賀空港に面する有明海一帯は日本一の養殖ノリの大産地であり、空港からの排水によってノリの生育環境を変化させ、一度でも海上への墜落事故が起こればその被害規模は計り知れない。


 ④川棚町は農家が並々ならぬ努力を重ねてイチゴ、アスパラ、メロン、トマトなどの名産地となった。川副町の農家は、常に危険を感じながら爆音の下で働くことになり、ビニールハウスへの風圧や騒音がどのように農作業や作物に影響するかまったく説明がない。


 ⑤有明海の干潟はラムサール条約の登録が認められた全国有数の渡り鳥の飛来地であり、軍事基地化は有明海を再生させる希望を打ち砕き、豊かな自然環境を破壊する。


 ⑥佐賀平野の空は、絶好の自然条件に恵まれ、20年間にわたってバルーン(熱気球)フェスタ世界選手権が開かれている平和の空である。軍事基地化されれば「戦の空へ」と変貌し開催が不可能になる可能性がある。


 ⑦佐賀空港の建設・開港に当たって佐賀県と地元8漁協が結んだ公害防止協定(平成2年3月30日)には、「自衛隊との共用を県は考えてない」との一項目があり、佐賀空港開港の絶対的条件として明記されている。県はこの協定を完全に守るべきである。防衛省は昨年7月までは「知らなかった」というが、知った以上は配備計画を撤回すべき。


 ⑧佐賀空港の軍事基地化計画は、中国を仮想敵国とした戦争準備の一環である。「閣議決定」とその後今国会に上程された「安全保障法制」関連法案は、これまでの「専守防衛」から「戦争する国」へと国柄を変えるものとして内外の批判を浴びている。佐賀空港が「戦争する国」日本の下で第一撃部隊の出撃基地にされようとしており、これは世界とアジアの平和を大きく損ない、私たちの郷土が戦場ともなりかねない恐れが生じる。


 ⑨5年前、普天間基地の移転候補地として佐賀空港が挙げられた際、県議会と市議会は全会一致で反対決議を採択した。


 以上の理由を挙げ、今後政府、国会、佐賀県、佐賀市などに対して、自衛隊オスプレイ部隊やヘリ部隊の佐賀空港配備計画および米軍の訓練基地化構想を撤回するよう強く要望していくこと、署名運動、勉強会や話し合いの機会を多くつくり、重要な事項が持ち上がったときは全町的な集会を開く。佐賀市民、佐賀県民とも交流して運動を広げ、計画を撤回させる日まで続けていくことが提案され承認された。


 筑後大堰や諫早干拓 国策と闘い続けた歴史


 佐賀市川副町(07年に佐賀市に合併)は、江戸時代から始まった干拓によってできた広大な平野が広がり、南側は有明海に面し、東側は筑後川を隔てて福岡県と接する第1次産業の町。肥沃な土壌で大麦・小麦と米の二毛作をはじめ多種多様な野菜が生産され、海は全国生産量の4割を占める全国最大のノリ養殖の産地であり古くから生産者が地域の中心を担ってきた。20~30代の若手が多いのも特徴だ。


 「そもそも、川副町民は空港建設自体に批判的だった」と当時を知る元漁協幹部の男性は語る。戦後のコメ増産機運のなかで、1955年に国が農地をつくるために国造地区(現在の佐賀空港周辺)の干拓を計画。当時貧しかった漁業者にも農地を分け与えるとの約束で、漁業者らは漁場を潰して海面埋め立てを受け入れた。だが政府が「食料自給」を放棄して新規の開田を禁止し、減反政策へと舵を切るなかで、干拓が完成する直前の1969年に県知事が佐賀空港建設を表明した。


 「漁業者の同意もなく空港建設促進決議を強行、議決しようとした川副町議会を3000人の漁業者が夜を撤して取り囲み、町長に“町民、漁民の同意なしには進めない”と約束させてきた歴史がある。当時の漁協理事はみなノモンハンやフィリピンなどの戦場から復員した戦争体験世代で、“人口88万人の佐賀県で、県が予測する年間77万人もの空港利用者があるわけがない。赤字になれば軍事基地にされかねない”との危惧から、最終的に“軍事基地との共用はしない”という一筆をいれた公害防止協定を結ぶことで合意した。案の定、初年度の利用は30万人にとどまり、5年前には普天間基地の国内移設候補地として白羽の矢が立った。地域の将来のために血のにじむ努力をしてきた先人の苦労を無にするわけにはいかない」と語った。


 元漁協青年部幹部の男性は、「今回も地元に説明もないままに勝手に話が進んでおり、これを受け入れたら半永久的に好きなようにされる。この地域の漁師は昔から、筑後川を上流でせき止める筑後大堰、諫早干拓、空港建設と巨大な事業を経験して、そのたびに漁協をあげて徹底的に反対してきた。今度も上から強権的に押しつけてくるのなら、絶対に開けて通すことはできない。戦争目的となればなおさらだし、下から行動を起こすしかない」と力を込めた。


 漁業者のなかでは、大規模事業が続いてきたこの数十年来での有明海の変貌ぶりが語られている。有明海の栄養素の7割を注いでいるといわれる筑後川を大堰でせき止めたことで水質が変わり、諫早干拓で海流が変化し、魚類、ガザミや車エビの漁獲は激減。以前は豊富に採れていたアサリ、タイラギなどの貝類も死滅し、それによって干潟の浄化機能が低下して赤潮などの被害があいついできた。さらにノリは酸性には強いがアルカリ性には極めて弱く、大規模工事によってコンクリ成分を含んだ排水が海に垂れ流されただけでも不作に陥る。ノリ養殖は今でも1軒あたり3000万円もの水揚げを誇るが、同時に数千万円の設備投資を必要とし、不作になれば造船、鉄鋼、機械など広い裾野を持つ関連産業すべてに影響が広がり、地域経済の衰退に拍車がかかる。そのため行政を上げて有明海の再生に力を注いできた。


 漁業機械販売にかかわってきた男性は、「オスプレイが一度でも海に墜落して油をまき散らせば、有明のノリは売れなくなる。諫早干拓以降、貝類が死滅して潜水業も成り立たず、魚も安くてやっていけないなかで、ノリが不作になれば有明漁業全体が衰退する。基地による経済の活性化だとか、補償金をもらえばいいという話もあるが、農漁業を衰退産業と見なして、国民から搾りとった札束で頬を叩くのが政府のやり方だ。原発にしても、米軍基地にしても社会全体に迷惑をかけておきながら税金で尻ぬぐいをすることが許せない」と語気を強めた。


 60代の自治会役員の男性は、「最初は自衛隊でも、背後にアメリカが隠れている。米軍基地になればどうなるかは沖縄を見れば歴然としている。市街地を飛ばないといっても約束は守られないし、犯罪が起きても国内法が適用されない。安倍政府はアメリカからの要請には飼い猫のように“ハイハイ”と丸呑みし、憲法解釈まで変えようとしている。なにが“日本の平和のため”なのか。沖縄にいらないものは佐賀にもいらない。自治会は地域の活性化と暮らしの安全を守るための組織であり、それを根底から脅かす計画を、受け入れるわけにはいかない」と話した。反対集会を開いたことで、大刀洗や横田など基地を抱える町の住民から「頑張ってくれ!」と激励の電話があいついでいるとのべ、「軍事基地となれば川副町や佐賀だけの問題ではない。有明海に隣接するすべての地域にかかわる問題だ。この地を引き継ぐ子や孫たちの将来のためにも譲ることはできない」と話した。


 「戦争に巻き込まれることはない」などウソで塗り固め、国会議決だけで憲法を改定しようとする安倍政府への怒りとともに、地元合意を無視して佐賀空港を米軍の最前線基地として奪いとるオスプレイ配備計画は広範な市民の注目を集めている。国の基礎である農漁業を潰し、郷土をミサイルの標的にするという売国政治に対して、生産を基盤にして全国的な独立・平和の要求と繋がった強力な運動を展開することが望まれている。

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