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コロナ禍のさなかに種苗法改定案が国会審議入りへ 農家の自家採種禁止で揺らぐ食料安保

 新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言をおこなったもとで、安倍政府は国会では日本農業の根幹にかかわる種苗法改定を強行しようとしている。現在のコロナウイルス騒動のもとでは農漁業者の幅広い意見を反映したり、慎重な審議がおこなわれることは不可能であるにもかかわらず、不要不急の種苗法改定を強権的におこなうことに、農業者をはじめ著名人、知識人、消費者など広範な層の批判世論が広がり、国会の日程は当初予定がずれこんでいる。

 

 安倍政府は緊急事態宣言を出しながらも国会審議は継続し、農水省が今年3月に種苗法の一部を改正する案を国会へ上程し、4月中に即決する予定であった。その後5月のゴールデンウィーク明けの12日に衆議院農林水産委員会で趣旨説明、14日に衆議院農水委員会で3時間の審議だけで採決し、本会議承認、18日の週に参議院で採決というスピード成立を狙っているという情報も流れた。

 

 だが、検察庁法改正案に対する抗議が爆発的に沸騰するのとあいまって、種苗法改正案への疑問や批判の声が広がりをみせ、現時点では当初予定はずれこみ、19日に審議入りの見通しだ。だが即決には抵抗があるため、衆議院での5月採決は難しいとの予測も出てきている。国会会期は6月17日まで。

 

 種苗法改正の問題点については日本の種子(たね)を守る会や農業団体などが署名活動や抗議声明を上げるなど国民世論の喚起をおこなっている。

 

 種苗法改正法案の問題点の中心は、多国籍企業など民間大企業がもつ種苗の知的財産権を強化し、農民がもつ種子の権利を剥奪するところにある。

 

 現行の種苗法では、農業生産者には原則として自家採種が認められている。しかし、例外規定がある。一つは企業が生産者と契約を結ぶ場合。二つ目は農水省の省令によって、生産者の権利を制限する種を決め、その種の登録品種は自家採種を禁止することを可能としている。

 

 現行法のもとでも生産者の自家採種は制限されてきた流れがある。農水省省令による自家採種禁止の植物の種類は、2016年までは82種だったが、翌17年に289種に急増し、18年には356種に、19年3月には387種に激増した。そのなかには、ニンジン、キュウリ、ホウレンソウなど、日常の食生活に欠かせない野菜類もほとんど含まれている。ただしニンジンやホウレンソウは有効な登録品種がないため、現在は自家採種が可能だ。

 

 種苗法改正案では、農家の自家採種を原則禁止にする。

 種子は生きものであり、歴史的に農家が育んできた命だ。種子はもともと農民のものであり、歴史的に何千年にもわたって農家が育ててきた結果として生まれている現在の種子は、公共の財産といえる。多くの農家の自主採種のおかげでさまざまな新品種がつくられ、各地域で多様性ある種子をつくり出してきた。

 

 ところが種苗法改正案は、この種子がもつ社会的性質や歴史性を否定して、ほんの一握りの大企業が種子を独占することを許す方向性を持っている。

 

 種苗法改正の口実は「海外に日本の種苗が勝手に持ち出されて日本の市場が奪われるから、種苗法を改定し、自家採種を禁止する」というもので、農家が自家採種することが種苗会社の経営を苦境に陥らせているという論理だ。だが、地域の中小の種苗会社が経営難に陥っている主な理由は、地域の農業生産が衰退し、種苗を買ってくれる農家がいなくなっていることである。

 

 では今回の種苗法改定は、誰を念頭においたものなのか。政府方針は「種子という知的財産を世界に売ることを優先させる」というものだ。グローバル種子会社、多国籍企業の利益を念頭においたもので、農家の自家採種を禁止し、グローバル企業が種子を独占することを目指している。農家は生産するためには多国籍企業に高い金を払って種子を買わなければならなくなる。それは、これまで農家が生産を担ってきた地域の伝統食や栄養も風味もある多彩な食材が消えていき、極少数の多国籍企業が規格したわずかな品種の農産物が流通を席巻することを意味している。

 

 さらに日本の食料生産をこうした多国籍企業が牛耳ることにもつながり、現在でも6割以上を輸入に依存する国民の食料生産が、さらに深刻な危機に陥る可能性を高める。すでに環太平洋経済連携協定(TPP)11や日米FTA、日欧EPAなどの発効で日本の農産物市場は多国籍企業に食い荒らされている。また、新型コロナ禍のもとで世界的な食料の囲い込みや高騰が懸念されており、食料自給率が低い日本の食料安保に対する考え方を根本的に見直すことが迫られている。

 

 国の根幹である「食」を守るべき時期にありながら、それに逆行する種苗法改定を、農業者をはじめ国民に説明もせず、コロナ禍のどさくさにまぎれて密室採決しようとすることへの批判が噴き上がっている。

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この記事へのコメント

  1. 京都のジロー says:

    こちらの動画で山本太郎代表が詳しく丁寧に説明しています。
    是非、お聴きください。

    https://www.youtube.com/watch?v=9MzMYtPrk4Q

    (みんなで声を上げることが大切です)

  2. 京都のジロー says:

    種子法廃止や種苗法って農家だけの問題ではありません。
    一言で言うと美味しくって安いお米や野菜が食べれなくなることです
    安心できて美味しくって安いお米や野菜を選択できなくなることです。
    日本安心の食卓が外資に奪われることです。 みんなで反対の声をあげましょう!
    より多くの方に拡げましょう。

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