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放射能で周辺漁場は大打撃 

 東京電力が1万1500㌧もの放射能汚染水を海へ放出しはじめた問題は、周辺の漁業に深刻な影響を与えている。汚染の見つかった茨城県や福島県では、風評被害もあわさって全面的な休漁状態となり、太平洋沿岸漁業全体を壊滅させかねない事態となっている。危機に追い込まれた現地漁業者のなかでは、東電と国のやり方に強い怒りが渦巻いており、漁業者の生存とともに、日本の水産業の存亡、食料安保にかかわる問題として一歩も譲れない攻防となっている。
 福島第1原発の1~3号機の建屋に溜まる高濃度の放射能汚染水が増え続け、水を貯蔵する施設もなくなったため、4日から「集中環境施設」に貯められた低レベル汚染水(法定線量の500倍)1万㌧を海に放出しはじめた。また、5、6号機の地下に溜まった1500㌧の汚染水も放出。各県漁連や漁協には、直前にファックスが送られただけで、説明すらまともにされなかった。東電は、「原発近くの魚や海藻を毎日食べた場合でも年間被ばく線量は自然界から受ける線量の4分の1だ」と弁明し、原子力安全・保安院も「大きな危険を避けるためやむを得ない」とした。
 だが、「影響がない」わけがない。厚生労働省は四日、茨城県北茨城市の平潟漁業協同組合が採取したコウナゴ(イカナゴの稚魚)から1㌔㌘当たり4080ベクレルの放射性ヨウ素が検出されたと発表。5日には、北茨城市沿岸で獲れたコウナゴから基準値をこえる放射性セシウムが検出され、出荷が停止された。たちまち築地市場では、すべての茨城県産の魚介類に値が付かなくなり、震災の困難を乗り越えて出漁していた漁業者たちは港へ引き揚げることとなった。千葉県・銚子漁港では、「安全性が確認されていない」として茨城県沖の水産物は水揚げが拒否されている。漁獲高全国五位の茨城県の「全面休漁」は日本の水産業全体を揺るがす深刻な問題となっている。
 6日には、全国漁業組合連合会(全漁連)が東電や経産省を訪れ、「漁業を踏みにじる許し難い暴挙だ。今後は原子力に理解も協力もできない。日本中の原発を今すぐに廃止して欲しい」と抗議。茨城沿海地区漁連や福島県漁連も、抗議の姿勢を強めている。

 日本の水産業守る使命 原発被害の怒り重ね

 茨城県内の漁業者のなかでは、復興の芽を絶つ「原発被害」へのやりきれない怒りとともに、日本の水産業を守る使命感にたった復興への強い思いが語られている。
 「このままなにもしなければ、座ったまま死を待っているのと同じだ」。
 原発の放射能で出漁をはばまれた漁業者は、津波で破壊された港を見ながら怒りをぶつけた。
 茨城県随一の漁獲高を誇る大津漁港(北茨城市・組合員130人)は、地震直後の津波によって護岸が壊され、漁協事務所や施設、沿岸の住宅地も波に飲まれた。地震から1カ月近くたっても、数隻もの沈没船、液状化によって崩れたアスファルトやまき網の漁網が山のように道路に散乱しており、津波の激しさを物語っている。「被害がより深刻な三陸地方を優先するため、まったく手が回っていない」という。
 漁船は小型の曳き網船12艘がやられたが、まき網船でやられたのは330㌧の運搬船1艘だけだったため、「国や県待ちではなにも始まらない。主力産業である自分たちが漁を始めることが復興の力になる」と出漁を決意し、先月28日、被災からはじめてまき網船団が千葉沖に繰り出し、1船団100㌧の制限でイワシ網の操業を開始した。
 この大津港では、80㌧のまき網船、運搬船、探索船の3艘で1団を組むまき網船団6カ統が主力で、アジ、サバ、イワシなどの青物を中心に年間水揚高(組合所属のみ)は50億円を超え「北茨城市の基幹産業」といわれている。
 だが、「先週までは1㌔あたり50円だったイワシが、コウナゴの放射能汚染が発表されてから20円を切った。地域によっては6分の1まで落ちたものもあった。千葉沖で獲れたものでも値段が付かない。これでは、乗組員の給料どころか油や氷代もまかなえない。津波で家が全壊した人もいるが、“わしらが漁をやらねぇと町は動かねぇぞ!”とみんなで散らばった網を集めて、元気を出して出漁した矢先だ。原発で腰を折られたようなものだ」と怒りをあらわにした。
 別の漁労長も、7日に視察にきた県や総務省の副大臣にも「お前たちは“すみません”ですむか知らないが、俺たちはなにもしなければ死ぬだけなんだ。みんな暴動直前だぞ!」と怒りをぶつけたという。
 「東電も役人も視察に来るが謝罪だけならだれでもできる。自分たちは40人の乗組員に絶対に給料を払わなければいけない。だが、国や東電からは明確な具体策は返ってこない。港にあった長さ1000㍍、深さ1500㍍の網が引き波で4、5枚も流された。1枚が1億数千万円だが、一度沈んだものは引き揚げても使いものにならない。しかも、漁具も含めて補償の対象にはならず、新たな借り入れをしても個人での復旧は難しい」と話す。
 「一番急ぐのは、崩れて接岸もできなくなった漁港の修繕だ。それが復興の基盤になる。だが国も県もなにもやらない。国は、TPPだ、規制緩和だとやってきたが、このまま放置することは伝統を守ってきた個人船団はつぶれ、東京の商社がまき網業界に乗り込んでくるチャンスが大きくなる。大型まき網は国の許可漁業だし、監督官庁の水産庁と商社が裏でつながって水産業の市場化を狙っていることはみんな知っている。わざとでも本当の漁師をつぶし、東京のネクタイを締めて酒を飲んでいるような人間に船主をさせるつもりだ。漁業を知らない連中が海をつぶすだけだ」と怒りを語った。
 沿岸の漁協でも出漁ができなくなったことへの切実な思いが語られる。
 ひたちなか市の那珂湊漁協では、この日、底曳き船を出してアンコウ、ヒラメ、カレイの汚染レベルの調査を開始。原発被害さえなければ、有名なカツオやサンマの一本釣り漁船や底曳き船、四月からは流し網が解禁となり、スズキやマダイ漁が最盛期を迎えるはずだった。
 底曳き網漁師は、「このあたりの潮流は、三陸沖からの親潮と四国沖からの黒潮が銚子沖でぶつかって鹿島灘によどむような形でしばらく滞留する。サンマ漁は三重沖にまで広がっているので、このまま汚染がすすめば関西や四国方面も無関係とはいえないだろう」と話す。「地震から1カ月近く休漁状態で、まったく収入のあてがない。乗組員や家族を食べさせることができない。沿岸の町は漁業で成り立っているので町全体が衰退する。このまま放置させることは許されない」と話した。
 別の年配漁師は、「港のすぐそばにある家は津波で家財道具や、漁具がほとんどなくなった。とってきた魚やエサを保存する冷凍庫も地震で壊れてしまった。地震や津波で大きな被害を受けたが、原発事故で追い打ちをかけられている。政府の発表することは信用できず、漁師の自分たちもこの辺りでとれた魚を食べるのは気が引ける。太平洋側の漁港は壊滅的な被害を受けたが、絶対に復興しないといけない。だが原発事故でいつ漁が再開できるかも分からない。一時的な補償ですむ問題ではない」と話した。
 漁業者のなかでは、「地震や津波は人間の力で乗り越えられるが、海に出られなかったらこの町全体が殺されるも同然だ。日本の水産業にとって原発は致命的な問題」と語られ、この実情を全国に知らせ、漁業者への早急な補償とともに、水産業を壊滅させる政治を改めさせることが切実に求められている。

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