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全産業で異常な原料高騰に直面 建設資材から食品に至るまで2~3割値上げはザラ 見積もりや売上見通したたず

 原材料費や電気、ガスなど、ありとあらゆる資材価格が上昇し、中小零細企業の経営は厳しさを増している。コロナ禍の約3年、各国のロックダウンによる生産縮小やコンテナ不足による物流の混乱などで品薄状態が続いてきたところに円安、ロシアのウクライナ侵攻と、さまざまな要素が重なりあって「これまでにない異常な資材高騰」が続いている。企業努力では対応しきれない資材高騰のなかで値上げに踏み切るメーカーが増加している一方、末端の中小零細企業は価格上昇分を転嫁することができない状況に置かれている。企業物価の高騰は消費者物価の上昇へとつながり、家計を逼迫させるが、日本企業の9割を占める中小企業は給料をアップする余力はない。「まずは原因の戦争を早く終わらせること」という声とともに、食料から工業製品まで、生産現場に安さのみを求めて自給力を失ってきた日本の在り方を問い直す声も高まっている。

 

 物価高騰の影響は、日々の生活に欠かすことのできない「食」に関わるさまざまな分野に及んでいる。消費者が日常的に目にする食材や食品の価格は目に見えて高騰しており、家計における食費負担分は日に日に増えている。その背景には食品を製造している業者や、コメ・野菜・果物などを作る農家、乳製品や肉、卵の生産に携わる畜産業者の生産コスト増が大きく関わっている。加工食料品の原材料高騰や、農業肥料、畜産飼料の高騰がかつてないほど生産現場の経営を圧迫している。

 

農家直撃する飼料高騰 配合飼料10万円に迫る

 

輸入飼料の高騰が直撃している酪農

 肉牛や乳牛、豚、鶏などを育てている畜産業界では、2020年末頃から生産費の大部分を占めている飼料代の高騰が大問題になっている。この1年半ほどの間、輸入飼料の価格が上がり続けていることが原因だ。なかでもとくに値上がり幅が大きいのが配合飼料だ。

 

 配合飼料は、トウモロコシや大豆、麦などの穀物系の飼料原料を、それぞれの家畜の種類や成長具合に合わせてバランス良く配合し、豊富な栄養を得ることができる飼料だ。配合飼料の原料はほぼ輸入品でまかなわれており、アメリカや中国などの生産状況や需要によって価格が左右される。ここ最近はコロナが収束した世界各国の経済回復にともなう需要増や海上運賃の値上がり、そこへウクライナ戦争や極端な円安も加わり、値上げが続いてきた。

 

 配合飼料の価格は3カ月に1回改定されており、2020年末には1㌧当り6万5000円ほどだったものが、現在は10万円に迫るところまで高騰している【グラフ①参照】。

 

 養鶏場経営者は「飼料の値上がりが続きすぎてもう頭が追いつかない。安い時期は4万~5万円台だったのが、今ではその倍の値段になっている。エサだけではなく、電気代や燃料費も増えており、水道代も元々月15万円くらいだったのが先月は20万円台にまで増えた。ちょっとした修理に使う工具や材料まで、細かくあげるときりがないほどあらゆるものが値上がりしている。支出ばかりが増えているが、職員の給料だけが上げられない」と話す。

 

 こうした生産コスト増の影響は、小規模畜産農家の強みである“こだわり”の維持を困難にしている。経営者は「先代から30年以上、育雛場を持ち、ヒナから育ててそのうちの一部に無農薬のエサを与え、こだわりの卵を生産してきた。だが昨年、育雛場のボイラーが故障した。今の経営状況のなかで、設備投資をして売上で回収するのは困難だ。結局、ボイラーは修理せずに昨年11月、長年続けてきた育雛を諦め、ヒナを買って育てるようになった。その結果、“育雛からこだわっているから”という理由で卵を買ってくれていた所へは出荷できなくなった。大手養鶏場には価格競争で勝てないため、私たちのような小規模養鶏場は“こだわり”という付加価値で勝負していくしかないが、それすらも難しくなっている。知り合いの同業者は、これまで借金を重ねてなんとか経営してきたが、とうとう金が借りられなくなったと話していた。それだけどこも経営が厳しい」と話していた。

 

 配合飼料の価格高騰に対しては、農家負担を軽減させるために値上がり分を基金から補填する「配合飼料価格安定制度」がある。だが、これだけ長期間にわたって値上げが続いているため、基金による補填の恩恵が薄くなり、畜産農家が負担する飼料価格高騰分を補いきれていないことも問題になっている。

 

牛の輸入乾牧草価格も 個人の努力では限界

 

 養鶏に与えるエサはほぼ100%配合飼料だが、牛の場合は配合飼料以外に牧草などの「粗飼料」も必要になる。日本では、とくに本州の農家は輸入乾牧草に頼っているところが多い。

 

 牧草の高騰に対しては、配合飼料にある価格安定制度のような生産者負担を軽減する措置はないため、価格高騰がダイレクトに経営を圧迫している。また、輸入乾牧草の価格は、この1年で急激に値上がりしており、毎月のように値上がり幅も大きくなっている【グラフ②参照】。

 

 酪農家の男性は「昨年1年間も値上がりが続いていたが、2月にウクライナ戦争が始まり、円安も相まって4月から現在までの値上げ幅が大きい。これまで毎月の飼料代は200万円前後だったが、6月分の飼料代の請求を見ると300万円に上がっていて目が飛び出るほどびっくりした。自分たちには関係ないところで値上がりするので、どうすることもできないのが歯がゆい。エサをしっかりやらなければ乳は出ないので、エサ代は削ることなどできない。かといって牛の頭数を減らせば乳量も減る。自給飼料も作っているが、これ以上増産したくても人手が足りない。新たに人を雇って人件費を払う余裕もない。節約とか個人の経営努力ではもうどうしようもない次元まできている。50年近く酪農業をやってきたが、これほど疲れる思いをするのは初めてだ」と話す。

 

 この酪農家では、乳用牛であるホルスタインに、肉用牛である和牛の種をつけて交雑種(F1)の子牛を産ませ、肉用牛として競りに出荷したり、牛舎で出た堆肥を地域の農家の田畑に撒くなどして、乳の売上以外にも副業的な仕事もしてきた。だが、こうした個人の経営努力も「もう他にやれることがない」というほど積み重ねてきて現在の経営難がある。

 

 男性は「牛乳やコメ、野菜、魚、肉など国民が生きていくために必要な食料を生産する人たち自身がますます食っていけなくなるような社会は間違っていると思う。飼料代の高騰の対策のために、酪農業界では乳価を10円アップさせるという話が進んでいるが、適応されるのは11月からだ。それでは遅すぎる。もうすでにギリギリの状態で倒れそうな農家ばかりだし、たとえ10円乳価が上がったとしても、これから先どれだけ上がるかもわからない牧草価格の高騰を補えるわけがない。乳価10円アップは雀の涙でしかないし、これでもし飼料高騰対策が“手打ち”となるのなら、酪農家にとってはなんの救済にもならない。どこまで我慢すればいいのか、これ以上また借金をして続けるのか。牛は毎日乳を出すし、生きている。赤字だからといってある日突然廃業するわけにもいかない。日々仕事をしていても正直、何のために酪農家をやっているのかわからなくなるときがある」と複雑な心境を語っていた。

 

 飼料を扱う業者は、「飼料の原料となるトウモロコシの価格は昨年末から今年7月までの約半年間で1㌧当り1万8000円値上がりしている。大きなメーカーなら年間1万~2万㌧を購入することもざらにあり、そうなると値上がり分だけで3億円規模だ。うちでも億単位の購入費増となっている」と話す。だが、仕入れた飼料の値上げ幅をそのまま飼料の販売価格に転嫁すると小さな農家は立ちゆかなくなるので、全額転嫁することはできないという。「各部門の担当者が目を皿のようにして為替動向をチェックしながら、為替予約という制度を使って可能な限り変動幅が小さくなるよう仕入れ努力をしている。そこまで徹底しないと、大手でも厳しい」と話していた。

 

 農業生産に必要な肥料の価格も高騰している。「窒素・リン酸・カリ」は肥料の三要素といわれ、稲や野菜、果物などの成長・開花や実り・根の発育を促進する。日本はこれらの肥料の原料をほぼすべて輸入に頼っており、不安定な世界情勢の下で価格高騰の影響を受けている。JA山口でも6月以降肥料の価格を大幅に上げることを決め、農業者に値上げを通知する文書を送付した。

 

 肥料を扱っている山口県内の農協の担当者は「窒素・リン酸・カリは肥料に欠かせない原料で、これらを用途に合わせて配合し、いろいろな種類の肥料を扱っているが、全商品1・2~1・5倍に値上げした。農家は肥料だけでなく、ビニールハウスの資材や、トラクターなどの燃料費、電気代などあらゆる経費負担が増している。それなのに米価は今年も上がる見込みはなく、昨年と変わらず1万円前後になるだろう。経費だけ上がってコメの価格はそのままでは、農家の赤字は増える一方だ。おまけに物価は上がって農家自身の生活費も負担が増えているのでなおさら生活は厳しくなる」と危惧していた。

 

食料品の輸入原材料も 値上に踏切るのは困難

 

 ここ数カ月で、食料品の値上げも続いている。8月からは冷凍食品などをはじめとする食料品2000品目以上が値上げされている。食品の加工・製造現場でも、輸入原材料の高騰や、製造の過程で必要となる電気やガスなどあらゆる経費が増加している。

 

 食品加工業者は「日本は自給力がないので、海外からの輸入材料が大半を占めている。主力商品の練り製品の原材料であるスケトウダラは、商社がロシアからの材料を敬遠するようになって品薄になっている」と説明する。EUが経済制裁でロシア産を買わないことをうち出しているため、業界全体でロシア産の商流が減少しているという。アメリカ産の原材料を輸入しているが、EUなどもアメリカ産を頼って買い付けるようになり、全体的に品薄になり価格が高騰しているようだ。

 

 元々コロナ禍で海上物流が滞り、コンテナ不足で品物が入りにくくなっていた状態に加え、昨年から米中間の緊張が高まり、エネルギーの奪い合いが激化。それが不安要素となり原油価格が高騰し、さらに年明けからウクライナ戦争や深刻な円安などすべてが重なり「三重苦、四重苦」の状況だという。

 

 別の食品加工業者の社長は「製品の原料であるアメリカ産スケトウダラの価格が半年前1㌔当り500円だったのが700円に値上がりしている。さらに今年9月からの相場は今よりも二割値上がりすると予想されている。それにすり身を揚げるときに使う白絞油も一時期の倍の値段になっており、すでに高騰していた昨年から考えても3割値上がりしている」という。

 

 あらゆる生産コスト増のなかでも大きな打撃となっているのが電気・ガス代だという。社長は「うちは年間売上が2億5000万の規模で、そこから経費や人件費を支払う。昨年度はこのうち電気代とガス代の値上がり分だけで200万円をこえた。原材料や電気・ガスの値上がりを解消するために、製品の値上げは避けられない。今年4月に一度値上げしているのだが、状況次第では年内中にもう一度値上げしなければならないかもしれない」と話していた。値上げをしても、製品が売れて売掛金を計上するなどの過程を経て、値上げ効果があらわれ始めるのは早くても半年後だ。その間にも生産コストの値上がりが続くため、一度の値上げでは資材の値上がり分を補いきれないのだという。

 

 ただ、値上げ自体がデリケートな問題で簡単に踏み切ることはできないという。「日本中の家計支出が増えて厳しいなかで、値上げをしてもこれまで通り売れるのかは未知数だ。本当なら需要が高まってから物価が上がるのが正常な形だが、モノの価格だけ高くなってしまっている。コロナ禍で飲食店の需要も大幅に減り、観光需要も減り、おまけに戦争や円安と今までに経験がないほど悪い状況が重なりすぎている。これだけの緊急時に国の対策があまりにも乏しすぎる」と指摘していた。

 

建設業等工業分野でも 上がらぬは給料だけ

 

 建設業や鉄工業をはじめ工業分野でも「燃料費が高いので車を4台減らし、人を減らさず回転させている」(屎尿処理業者)、「値上げのファックスが5枚も6枚も入ってきてたまらない」(建設業者)、「上がらないのは給料だけ」(産廃業者)など、経費の高騰が深刻な問題になっている。

 

 コロナ禍のウッドショックや原油の高騰に見舞われてきた建設業界では、今年に入りさらに塩ビ管、アスファルト、コンクリート、砂・砕石、鋼材など、メインの資材から作業着など細かな物まで軒並み値上がりしている【グラフ③参照】。次から次にメーカーから値上げを通知するファックスやメールが届き、経費は現時点でおおむね「1・3倍~1・5倍になった」といわれている。

 

 あまりに小刻みに価格が改定されるため「見積もりの有効期限は1カ月程度。短いときは10日という場合もある」といわれ、先を見通した契約が不可能になっている。

 

 建設会社の資材担当者は、「鉄、木の価格高騰が続いている」と話す。昨年までも「ウッド・ショック」や「アイアン・ショック」といわれ資材は値上がりしていたものの、この4月からはウクライナ紛争や大幅な円安の影響が加わり、鉄や木もさることながら、コンクリートやアスファルト合材、壁紙などに使用するクロスなどあらゆる建築資材が高騰し、値上がり幅も大きくなっているという。

 

 「今後の値上がり幅の見通しが立たないので、相手に見積もりが出せない。どこまで上がるかもはやわからない。どの業者も予測できない事態になっている。相手側には“もしもこれより値上がりした場合、もう一度価格交渉させてほしい”と事前にいっているが、この先どれくらい値上がりするかまったく読めない。もしも交渉の余地がないほど値上がりして相手が値上げを飲めないとなると、私たちが値上げ分を被るしかない。長期の工事になればなるほど値上げのリスクが大きくギャンブル的になってしまう」と話す。

 

 また、「資材の高騰が続いているため、下請業者からもこちらが依頼した工事の見積もりが出せないという話が上がっている。それでも仕事を前に進めていくしかないため、あまり価格のことはいわずに“それでやってくれ”と頼むしかない」と話していた。

 

 電気工務店店主は、「この時期に増えるエアコンの修理や交換に絶対に必要な銅管が高騰している」と話す。銅管は、エアコンの室内機と室外機を繋ぐ「配管」で、冷媒を循環させる役割があるため、必ず必要になる部品だ。

 

 昨年までこの銅管の仕入れ価格は20㍍当り7000~8000円だったが、今年7月末に仕入れた物は同じ長さで1万4500円と2倍になっている。


 店主は「あらゆる資材が高騰している。もっとも顕著なのは銅管だが、それ以外にも半導体不足による電器用品の品薄やそれにともなう高騰もあいついでおり、あげればきりがないほどだ。先日エアコン修理をしたが、商品が入ってこなかったので10日間も待たせてしまった。資材費は上がっているが、値上がり分をそのまま客に請求できるわけではないので、その分工賃を安くして、結局は自分のもうけ分を削るしかない」と話していた。

 

 別の工務店によるとアルミサッシは年末に12%、4月に10%上がり、秋に次の値上げが決まっているという。メーカー側はそれでも原材料のアルミやガラスの値上げに追いついていないというが、工務店は顧客とすでに契約を結んでいる。新築住宅は一生に一度の買い物であり、安易に値上げすることもできない。

 

 塗装業界の場合、受注金額の3割ほどが塗料や養生などの経費だという。その各種塗料が約10%ずつ値上がりしており、「3割」をこえるようになっている。個人の大工の下請の場合は原材料の値上げ分を反映してもらえるが、大手の仕事ほど今も下請たたきは激しい。原材料高騰を反映して、たとえば1200万円の見積もりを出すと、「1000万円」「800万円」と価格を提示され、受注するにはそれを飲むほかない。従業員を抱えているところほど安値でも請けざるを得ないが、請けた時点で利益は縮小する。

 

 ある業者は「今、建設業界は忙しくて人手不足になっているので、みんなが“この価格でなければ仕事をしない”といえば大手も原材料費分を値上げして発注するようになるのではないかと思うが…」と厳しさを語った。

 

鉄鋼材も値上げ相次ぐ 中小企業にしわ寄せ

 

 鉄鋼材は昨年から値上げが続いており、工期の長い大型建築や造船などに影響を与えている。

 

 ある資材納入業者は、鉄に関連する製品は6月までの1年間で4回の値上げが実施されたと話す。約20年間業界に携わっているが、これまで値上げがあったのは2回程度だったというから、かつてないことだ。スクラップの買いとり価格も一時高騰し、買いとり価格が高い業者で、5月までは一時鉄が1㌔66円、銅は1㌔1200円まで上昇していた(スクラップは6月ごろから急速に下落している)。溶接などに使うガスも6月に10~15%値上げになっており、7月には作業服や革手も値上がりした。「すべてがちょこちょこ値上がりしていくので、全体でどれだけ上がったのか把握できないくらい」という。

 

 今回ばかりはどこまで値上がりするか先が見えないので、価格転嫁しているが、「値上げした分、売上は上がるはずなのに、前年比でみると大幅なマイナス」だといい、原材料価格の上昇で仕事量が減少する悪循環になっていると話した。

 

 鉄については、これまで「日本の鉄は世界一品質がいいのに世界一安値」ともいわれ、トヨタ自動車一強体制のもとで買いたたかれてきた反動もあることが指摘されている。トヨタをはじめ自動車業界はこれまで、「大口顧客」という圧倒的な強みで材料メーカーと価格交渉することで収益を上げ、鉄鋼メーカーは次々高炉を廃止するなど斜陽産業となってきた。しかし、昨年から世界的に原材料価格が上昇するなかで、その立ち位置が逆転。業界の価格の基準となる日本製鉄とトヨタとの価格交渉で日本製鉄が大幅値上げを提示したことをきっかけに、全体として大幅に値上がりする動きとなっている。これによって日本製鉄は2022年3月期に過去最高益をたたき出した。

 

 「これが社員の給料アップや下請企業への正当な発注価格につながっていけば、いい循環になるかもしれない」という見方もあるものの、現状では体力のない鉄工所や建設業者をなぎ倒しかねない価格上昇だ。

 

政治の無策批判する声 消費税の減税を

 

 印刷・情報用紙の値上げも顕著だ。今春に値上げが実施されたほか、販売シェア首位の日本製紙は8月出荷分から再度の値上げを発表している。

 

 値上げの実施時期は問屋によって異なるが、印刷業界の関係者によると、用紙は今年4~6月にかけて上質紙10%、コート紙10%、ノーカーボン紙(感圧紙)15%といった具合に、全般で1㌔当り20円ほどの値上げになっているという。さらに封筒や名刺用紙、はがき、賞状などに使う用紙は、取引先のメーカー複数社が一斉に7月から15%値上げした。理由は「段ボール、印刷用インキ、版材、製袋のり、窓素材も上がり、物流費の高騰に加えて原紙の値上げがあり、価格に転嫁せざるを得なくなった」というもの。

 

 そして印刷に欠かせない版(CTPプレートなど)は2021年12月、2022年5月に2度の値上げ。上げ幅は28・5%以上だったという。四色使うカラー印刷の場合、表で4版、裏で4版、計8版は必ず必要になる。カラーの冊子になると90版ほどと、大量に使うもので、これが3割値上がりすることの痛手は大きいという。仮に1版当り200円上がったとすると、50版で1万円、300円上がれば1万5000円の値上げになる。

 

 印刷業界は安値競争が激しく、ぎりぎりの価格で受注しているのに、突然利益が1万円減るようなものだという。「うちとしてもできる限り価格に転嫁していかなければ値上げ分を吸収できない。しかし、電気代も大幅に値上がりしていて、こういう固定費の部分は価格に転嫁していないので、その分利益は圧縮される」と語った。

 

 飲食業界より少し遅れてコロナ禍の影響が及んだ工業分野では、コロナ融資の無利子期間の3年が経過し、これから年末にかけて返済が始まる企業も多い。5000万円借り入れていれば利息1%で年間50万円、15年で450万円と、返済年数が延びるとそれだけ利息も大きくなる。この状態で月々40万、50万円の返済が始まれば、資金繰りに行き詰まる事業者も出かねず、この問題への対応は切実な課題だと指摘されている。

 

 生産コストの増加が経営を圧迫するなかで、人件費の問題や労働力の確保など、雇用環境への影響も表面化している。

 

 食品加工業者の社長は「政府は最低賃金を上げろというが、本来なら十分な需要があって、企業の売上が確保できてからでなければ賃金を上げられない。それでも、短時間の学生アルバイトを減らして、その分他のパートさんの時給を上げたりしながら何とか対応している。だが、人を減らしすぎても十分な企業活動が担保できない。もともとこの業界では人手不足が問題で、同業他社との労働力確保競争もあるため、パートの賃金を下げると人が減る。結局、長年会社に勤めて貢献してくれている正社員の賃金にしわ寄せがいってしまう。本来なら定期昇給があるのに上げられなかったり、ボーナスを減らさざるをえないことが一番心苦しい。せめて正社員のモチベーションが下がらないようにと、自分も現場に出て生産工程に入り、いち作業員としてみんなと一緒に働いている。もう自分にできることはこれくらいしか思いつかない。食品製造に限らず、どの中小企業でも同じような思いの経営者は多いと思う」と話していた。

 

 ある土木業者は、物価高騰分、従業員の賃金を上げる予定だという。「4人家族で月7000円不足するという試算があるので、年間1人当り10万円くらい増額することを考えているが、基本給は社会保険料などさまざまな固定費が上がるので難しい。賞与などで対応しようと思っているが、これだけインフレになっているのであれば、消費税を減税するなり、収入の水準が上がるような施策がなければ日本経済はこのまま衰退することになる」と指摘した。

 

 さまざまな現場の実情を聞くなかで、単なる生産費の増加による経営難だけにとどまらない根本的な問題について指摘する声も多い。酪農家の男性は「ここまで来ると、経済の問題ではなく政治の問題。今の日本の生産現場は、生産者が赤字でもなんとか踏ん張って耐えていたところに、あらゆる資材の高騰で生産費負担が増え、もう限界寸前だ。日本の農業をこれからどうするのか。生産現場を守り維持していくのか、衰退に任せてさらに輸入に頼るのかの瀬戸際に来ている。一度途絶えた生産の灯は簡単には戻らない。日本の立場が問われている」と指摘していた。

 

 養鶏農場経営者は「私たちのような小規模養鶏場は今にも倒れそうな状況だが、それでも卵の価格が生産費に見合って値上がりしないのは、大量生産する大手はその価格でもやっていけるからだ。大手が何の規制もなく大きくなりすぎ、卵の需要に対してそれよりも大量に生産しているため卵が市場に余っている状態が続いている。だから卵の価格も上がらない。自由主義にも限度がなければ、私たちのような小規模事業者にとってはますますやりにくくなるだけだ。先日取引先の営業とも“何か世の中全体のバランスがおかしい”と話になった。中小企業の経営者なら、どんどん手の打ちようがなくなっていく感覚をまさに今感じているのではないか」と話していた。

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