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何度やれば気が済むのか 県民葬という名の清和会葬 地元でも一般の市民、県民は興ざめ

 安倍元首相の山口県民葬が15日、下関市にある山口県国際総合センター・海峡メッセ下関でおこなわれた。県民葬といいながら、安倍派を中心に自民党・公明党の国会議員(元職を含む)が大挙して押しかけてメイン席を埋め、招待者約2000人の大半が自民党支持者(招待者の基準は非公開)であり、地元・下関市民のなかでは「そんなにやりたいなら自民党葬でやったらいいではないか」「何度葬儀をするのか…」としらけた空気が漂うなかでの開催となった。当日、海峡メッセ下関の周辺は通行止めとなり、警察官が封鎖した道路を警備。メイン会場の1階見本市会場入り口には金属探知機が設置される警戒ぶりだった。

 

参列国会議員の8割は安倍派

 

海峡メッセ下関でおこなわれた安倍晋三元首相の山口県民葬(15日)

会場内に設置された金属探知機。参加者の手荷物検査も(15日、海峡メッセ下関)

 県が公表したおもな出席者は国会代表・細田博之衆議院議長、閣僚では林芳正外務大臣、西村康稔経産大臣、西村明宏環境大臣、松野博一内閣官房長官の五人のみだが、自民・公明の国会議員は約110人(元職を含む)参加しており、自民党政務調査会長の萩生田光一、自民党国会対策委員長の高木毅、自民党参議院幹事長の世耕弘成、元自民党副総裁の高村正彦のほか、谷川弥一、甘利明、稲田朋美、杉田水脈、下村博文、参議院の山谷えり子や丸川珠代など、大半が自民党国会議員であり、うち約80人を安倍派が占めた。
 また、台湾関係者が約100人招待された。

 

 県民葬では、黙祷ののち安倍元首相の功績をたたえる映像が上映された。追悼の辞で葬儀委員長の村岡嗣政知事は、一官僚だった自分が知事選に出馬を決断するさいに安倍元首相に背中をおされた思い出とともに、「地方の元気なくして日本の再生なし。日本中に、夢と希望が持てる地域をつくり出していく。ここに力を注ぐ根底には、山口への思いがある、そう語られていたことを思い出す。常に、郷土山口県に温かい思いを寄せてくれた。山口のこととなると、どんな時でも、私たちのために惜しまず時間を割いてくれた」などと弔辞をのべた。

 

 国会を代表して、現在統一教会問題の渦中にある細田博之衆議院議長が追悼の辞をのべたのち、喪主の昭恵夫人は、「2007年、第一次政権、病気のために辞任することになったときには“突然、総理を投げ出して無責任な男だ”と大変な非難を浴びることになり、私も大変悔しい思いをしていたが、地元に帰ってくると多くの方に温かく迎えていただき、励ましていただいた」「2009年、自民党にとっては大変厳しい選挙だったが、今までにないような最高の得票率で当選させていただいた」「2012年に負けるかもしれないという自民党総裁選挙に立候補したときも、本当に自民党が苦しいときに全力で応援してくださった皆様方への恩返しの気持ち、再び自民党に信頼をとり戻したい、そんな思いで、“負けてもいい。何度でもチャレンジする”といって総裁選に出馬した。その後7年8カ月、総理大臣を務めることができたのは地元で支えをいただいた皆様のおかげ」と、自民党支持者に対する感謝の言葉を重ねた。

 

参列した安倍派の国会議員ら

 県民葬終了後の午後4時半から予定されていた一般献花には、約700人が列をなした。一時間ほど前から並んでいる人もおり、なかには倒れて運ばれる人も出た。県によると、献花者数は全8カ所で1万245人。下関市が4678人(うち約2000人は参列者)、長門691人、岩国824人、柳井606人、周南1081人、山口1144人、宇部890人、萩331人だった。

 

しらける下関市民 6300万円も使ってやることか

 

 しかし、会場内の安倍元首相を称え、悲しみに暮れる空気とは裏腹に、下関市内ではしらけた空気が漂った。前日からヘリコプターの音が響き渡り、町中に警察の姿が増えるのを見て「あ、明日なんですか?」という人々が大半だった。「周囲で献花に行くという人を聞かないが、いったいだれが行ったのだろう?」と、報道される献花の列を見て疑問を語る人もいた。統一教会と自民党との関係が次々に露呈するなか、「統一教会の問題をはっきりさせないまま、税金を使って葬儀をするのは許されるのか」と、県民に開催の是非を問うたわけでもない県民葬の実施に疑問の声が各地で語られている。

 

 地域住民の一人は、「娘たちも含めて若い親のなかでも“県民葬なんで?”という声が多い。国葬も世論調査で6割が反対だったのに、そのうえになぜまた6300万円も税金を使って県民葬をやらないといけないのかと、みんな疑問に思っている。今、食料品やトイレットペーパーなど、9月、10月にたくさんの物が値上がりして、上がらないのは給料だけ。親たちがみんな苦労しているのに、そういうことがまるで視野にない。どこを向いて政治をしているのだろうかと思う」と話した。

 

 70代の男性は、「家族葬、韓国での統一教会葬、国葬と3回もやったうえに県民葬。いったい何回やれば気が済むのだろうか。黙っていたら市民葬もやりかねない雰囲気だ。だいたい東京オリンピックの贈収賄事件が今問題になっているが、あれも安倍・森だ。統一教会も安倍と菅。そして円安で大変なことになっているが、これもそもそもをいえばアベノミクスが原因だ。アベノミクスで日本の基幹産業はがたがたになってしまった。それで何が県民葬か」と憤りを語った。

 

 ある自営業者は「国葬も前例がほとんどないのに国会にも諮らず強行した。国民も強く反対していたのに、民主主義もなにもない。突然の銃殺だったから大変だが、それならなんでも好きにできるのだろうか。他の国を独裁国家などといって非難するが、日本も人のことをいえないのではないか。しかも、いつも“金がない”というのに、国葬、県民葬ともすごい金額だ。そんなことに使うより苦しんでいる国民に配ってほしい。だんだん一部の上の者のやりたい放題で、反対は受けつけず、なんでも強行するようになっていると思う。“国民の声を聞く”といいながら、まったく聞くつもりもない政府だ」と話した。

 

 30代の自営業者は、「献花に行くという人を周囲でまったく聞かない。国葬のときには献花で何時間も並ぶ人が列をつくる映像を見たが、地元といわれる下関の方がしらっとしている気がする。国民は生きていくのがとても厳しいときだ。十数億の金が動く葬儀をなぜ何度もしなければいけないのか。亡くなり方が突然で、銃殺だったので当初はかわいそうだと思ったが、考えてみると国民にとっていいことをしてきたかな? と思う」と話した。

 

 40代の企業関係者も、「統一教会との関係をはっきりさせて、自民党も関係を絶つと明言したならまだわかるが、結局なにもしないまま国葬もやり、県民葬もするという。税金を使って何回葬儀をするのだろうか。今、円安や原材料費の高騰で中小企業も大変、一般市民の生活も大変というなかで、それだけ税金を使って何度も葬儀をする必要があるのか? 下関の企業関係者は、安倍元首相の支持者も周囲にいるし、取引先にもいるから、表だって意見をいう人はいないが、心の中で思っている人は少なくないと思う」と話した。

 

 安倍政府の7年8カ月のあいだに、山口県や下関市は再生するどころか、全国でもトップクラスで人口減少と高齢化が進行しており、まさに一将功なりて万骨枯るという言葉がふさわしい現状にある。県も市も「予算がない」の一点張りで、市民サービスの予算削減に邁進し、福祉はもちろんのこと、高齢者の敬老の祝いも縮小され、公園や道路の草刈りさえも回数が減らされているところだ。そのなかで、わずか1日のために6000万円以上が費やされた。

 

2000人の招待者 税金使うも選定基準は非公開

 

会場周辺は前日から警察官が大挙し、物々しい空気に包まれた(15日、下関市)

 今回の県民葬の費用は約6300万円と見込まれている。県による過去の記録と比較しても、安倍晋太郎元外相の県民葬(1991年6月17日、下関市体育館)の予算約3100万円(参列者6500人、うち招待2000人)の約2倍にのぼり、田中龍夫元知事の県民葬(1998年5月14日、県スポーツ文化センター)の予算約2600万円(参列者2200人、うち招待2000人)と比べても破格だ。県人事課は、献花会場を県内7カ所にもうけたことや、警備費の増加などを経費増の要因としてあげており、最終的な経費は終了しなければ確定しない。

 

 費用は2分の1(3000万円超)を山口県が負担し、地方5団体(県議会、県市長会、県町村会、県市議会議長会、県町議会議長会)が4分の1、自民党県連が4分の1を負担する予定だ。地方5団体といっても原資は税金であり、4分の3は税金でまかなわれるといっても過言ではない。

 

 しかし、当初から2000人と発表された招待者は、その選定基準も非公開だ。県議会議員には与野党問わず、元職にまで届いている一方で、下関市議会では自民党以外の議員に招待状は届かないままだった。また、地元企業者のなかでも「当然招待されるもの」と思っていた自民党界隈の人々でも招待されなかったという人が少なくない。自民党林派のおもだったメンバーのなかには、招待状が届かず「これまで安倍元首相に協力してきたのに、招待されないなら献花も行かない」とむくれている人もいるほどだ。

 

 県人事課は「安倍元首相が自民党であり、自民党関係者が多いのは当然ではないか」と説明していたが、「自民党」といっても安倍派ばかりだった模様だ。以前なら、選挙区の調和を保つために安倍事務所が林派にも気を遣っていたはずだが、そうした機能すらすでに働かなくなっている結果とも見られている。すでに葬儀は7月の安倍家本葬、さらには国葬まで実施済みであり、県民葬に至っては一党一派の利害を伴う政治的儀式としての性格が色濃い。誰がどう見ても特定政党(しかも一派閥)のイベントを行政が丸抱えし、その経費を税金で賄うというものであり、「政治的中立」をうたう行政の二重基準が問われる儀式となった。

 

 参列者にしろ、内容にしろ、「県民葬ではなく、清和会葬もしくは自民・公明葬」であり、「そんなにやりたければ税金を使うのではなく、自民党県連なり清和会が全額負担すればいいではないか」という声は水面下で広がっている。なお、自民党山口県連は今月30日にパーティーを開催することを決めてチケットを配っており、喪に服したと思ったら早速「資金集めではないか」と噂されている。

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