いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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「物価高で家計は火の車」 給料上がらず食費削って生活防衛 増税メガネよ、これが庶民の現実だ

 食品の値上げラッシュが続いてきたこの2 年。最低賃金が数十円アップしたり、大手企業でわずかながらのベースアップがあったところで物価高騰に庶民の財布は追いつかない。どの家庭も日々の食費や日用品、電気代、ガス代などが上がっていくので節約に節約を重ねる日々だ。岸田首相が今月になってスーパーを視察し「確かに上がっている」とコメントしたが、庶民はもう2年、この状況のなかで預金をとり崩したり、生活を切り詰めながらやりくりし続けており、物が売れなくなっているスーパーも四苦八苦しているところだ。1回きりの「所得税減税」を表明して、国民の支持を得られると思っている政府のピントボケぶりはますます際立っている。

 

値上がりで食品買い控え、売上減も

 

 円安やウクライナ戦争の影響を皮切りに、これまで「値上げ」など口に出せずに耐えてきたメーカーがこぞって値上げを発表した。その数は昨年1年間で2万5768点にのぼったが、今年はそれを上回る3万点をこえる規模になっている。同じ商品が二度、三度と値上げになるケースも多々ある。当初は「値上げも致し方ない」という空気も強かったが、ここまですべての物が値上がりすると限られた家計からの支出を控えるほかない。

 

 調査会社インテージが全国約6000店舗のスーパーマーケットやドラッグストアの販売情報から、多くの食品に値上がりが波及する前の2年前(2021年9月)と今年9月を比較したところ、価格が上がった商品の多くで販売数量が大幅に落ちていた。2年前といえば、コロナ禍が始まり巣ごもり需要などもあってスーパーの売上が上昇していた時期なので、単純比較はできないものの、値上げ商品の販売不振は顕著だ【表1参照】。

 

 ダントツなのがキャノーラ油(菜種油)だ。今年に入り2020年の平均価格の190%前後に高止まりするなかで販売数量は2年前と比べると41%も減少した。その分の一部はサラダ油に切り替えたとみられ、こちらは97%増になっていた。小麦粉は30%減、マーガリンが23%減、砂糖が23%減など多くの調味料で2桁の減少となっている。主食では小麦粉が30%減、カップラーメンが20%減など大きく減少したほか、今や高級食材になったサバ缶や魚肉ソーセージも20%以上減少した。嗜好品でもレギュラーコーヒーが22%減など、幅広い商品での購入減が起きているという。

 

 一方、同じく高止まりしている日用雑貨について見ると、洗濯用洗剤が12%増、歯磨き粉が12%増、トイレットペーパーも5%増など、日用品は底堅い数字となり、どちらかというと食費を削って生活を防衛している様子が垣間見える結果となっている。

 

子育て世帯 食べ盛りの子ども抱えて

 

 小学生の子ども2人を育てる母親は、「高学年になると食べ盛りで、晩ごはんを食べたあと寝る前になって“うどんが食べたい”“肉が食べたい”といって四食目を食べている。たくさん食べてくれることはうれしいが、昨年からはとくに食費の膨らみ方が尋常ではない。考えた結果、晩ごはん時間を少し遅らせて、お風呂に入ってすぐに寝るようにした」と話す。

 

 お菓子は極力買わないようになり、4つ入りのヨーグルトを買って凍らせてアイスクリームのようにして食べている。日持ちもするしコスパもいいのでおススメだ。近所のスーパーが土曜日に新鮮野菜の安売りをしているのでまとめて買って1週間もたせている。肉は夕方の安くなるときを狙って買いに行き、小分けにして冷凍する。これまではスーパーに行けない日は牛乳や卵、パンなどをコンビニで買うときもあったが、コンビニにはまったく行かなくなった。

 

 習い事で週末には子どもたちの弁当をつくっているが、品数を減らし、唐揚げの肉はモモ肉からムネ肉に変わった。油の値段も倍ほどに上がっているので、揚げ物の回数も減らしているところだ。子どもの食費と衣類にかかるお金は削れない。なので自分にかけるお金を減らし、衣類などはほとんど買わなくなったという。値上がり幅の大きな日用品はドラッグストアで20%オフの日に買いに行く。これほど節約しても出費を維持することは難しい。いざというときのために手を付けないでいた児童手当も少しずつとり崩すようになっている。「出ていくばかりで、貯金がなくなっていく」と話していた。

 

 ゼロ歳児を育てる20代の夫婦は、「今までは“要るもの”を買っていたが、今ではスマホを片手に1週間の予算をこえないように計算しながら買い物をして、それからはみ出すものは週をこえるまで我慢する。成長とともにミルク代は減ってきているけど、離乳食の進行とともにお米代がかかるようになっており、一生懸命やりくりをしている。野菜が高く、ほうれん草は手が出ないので、かわりに小松菜を愛用するようになった」と話す。食材の買い物とは別に、飲み物はドラッグストアのほうが安いのでそちらで買いに行く。食器洗い洗剤は水で薄めて増量をして使い、本当は使いたいが芳香剤ビーズを買うのをやめた。赤ちゃん用の無添加洗剤も高いのでやめようと考えているところだという。

 

 小さな子どもを育てる家庭では紙オムツなども必需品であるほか、成長期であれば1年前に着た服は小さくなって更新も必要だ。通学のための交通費もかかる。そうした子どもの成長段階に応じて必要なものは削ることはできないから、結局、食費を削るようになっている。

 

 40代の単身男性は、この物価高のなかで朝食を食べることをやめた。日用品類は少しでも長く使えるようにとの工夫で、シャンプー・ボディソープは水で薄めて使っている。衣類もほとんど買わずに、とくに春・秋の合い物は買わなくなった。食事をコンビニで済まそうと思っても、以前はおにぎりは100円程度だったものが今では170円ほど、弁当を買えば500円以上になっているうえ弁当箱の「底上げ」がひどく、お腹を満たそうと思えば1000円近くかかる。とても毎回は買えない。

 

 70代の単身男性は、近所のスーパーに買い物に行き、安売りの鮮魚を買って帰り、冷凍庫に保存して必要なときに使うという。弁当・惣菜類も買っていたが、最近は商品の数が減り、夕方の安くなる時間に買いに行っても棚にないこともしばしば。値引きになってもせいぜい2割で、「安い」と感じられない。これから寒い季節がやってくる。暖房を使えば光熱費がさらにのしかかってくる。「今年の冬はパチンコ屋で過ごそうかな」と一言。結局お金を使ってしまうとはわかっているが――。

 

 男性も女性も、若者世帯も高齢世帯も、生活を維持していくためにみなが生活をきりつめており、「楽しみだったお菓子を買わなくなった」「外食するのをやめた」「ポイント10倍デーにまとめて買い物をして次回以降にポイントを使って買う」「美容院(床屋)に行く頻度を減らした」「美容院に行くときに自分でシャンプーしていけば700円浮く」などといった節約話で巷はもちきりだ。子育て世帯にいたっては、「子どもを空腹状態にするわけにはいかない」「支払い関係は滞らせられないから、食費をどうにかするしかない」と親たちが身を削って一日一日を乗り切っている。家庭でのさまざまな節約術に加え、何曜日が安いか、なんの品目が安いかといったスーパーごとの特徴を調べて走り回っている主婦も少なくない。「走り回るガソリン代を考えるとどっこいどっこいかもしれない…」といいながらも、量を減らすことなく食事を準備するのに精一杯だ。そうしたなかでは外国産か国産かなどにもこだわっておれない。材量を買って自宅で「手作り」するよりも安いからと、値引きとなった弁当を求める母親たちの姿がスーパーに増えている状況に心を痛めている人もいる。一方で、生活のために日々忙しく働いている人ほど時間に追われ「節約をする間もない」という皮肉な実情もある。

 

 みなが食費を削っている様子は、10月12日に帝国データバンクが発表した特別企画「『食品主要195社』価格改定動向調査―23年度家計負担額推計」でも顕著にあらわれている。今年4~9月の食品値上げ分を計算して試算したところ、1世帯当りの月の家計負担額(生鮮食品を除く)は22年度より平均で4058円増える計算になった。ところが、総務省の「家計調査」(2人以上世帯の消費支出データ)では、1カ月の増加額は平均373円とごくわずかな額にとどまった。値上げされた分、家計で月当り約3700円の節約をしているということだ。それでもこれまでの生活を維持できないほど、お金が飛んで行く。

 

高齢者 医者に行くのも控える

 

 さらに厳しいのが年金暮らしの高齢者世帯だ。2カ月に1回の年金だけでは食べて行けず、この物価高のなかで行政機関や支援団体への駆け込みも少なくない。

 

 支援団体の関係者は、「コロナになって生活保護を担当する生活支援課からの支援要請の数が急激に増えた。生活保護の申請・決定から支給までに2週間かかるそうだが、その間のお金がないからと食料援助の要請がある。コロナ以降もその状況が続いている」と話す。ケースワーカーから要請があれば、本人の状況に合わせて物資を選ぶが、電気・ガス・水道を止められている人もおり、煮炊きができない人にはパンや乾パンを支給し、お湯が沸かせるのであればカップ麺やフリーズドライの味噌汁などを提供する。お湯が沸かせずに近所の人からお湯をもらったという人もあった。「コロナで生活福祉資金の貸付を受けた人のなかでは、返済にあてるお金がないため食料を支援してほしいといわれて、定期的に支援をしている」と肌身に感じる生活困窮の実態を話していた。

 

 子ども食堂の関係者は、「地域の高齢者にお弁当を1食200円で配っているが、食材の物価高騰で価格の維持が大変になっている。弁当箱も値上がりしていて50円ほど値上げをしたいが、それすら難しい。この辺りは生活に困窮している高齢者ではないのにその状況なので、生活が厳しい高齢者はもっと大変なのではないだろうか」と話した。乳製品なども大幅に値上がりしており、スーパーでの買い物で1万円があっという間になくなる。子ども食堂の運営も厳しくなっていると話した。また、「知り合いの子持ちのお母さんが、最低賃金が40円上がったが、扶養に入っているからその範囲内で抑えなければならないので、勤務時間が減っただけでうれしいことはなにもないと話していて、若い人も高齢者もみんな大変になっていると感じている」と話していた。

 

 さらに高齢者のなかでは医療機関にかかることを控える動きも出ている。ある高齢女性は病気が見つかり、手術をすすめられている。高額医療費の限度額は2万4600円だが、入院すれば食費、ベッド代などは保険適用外だ。今手元にある使えるお金は3万円で、それらの支払いが足りるのか、使ってしまえばその後の生活はどうなるのか、不安は尽きないなかで治療そのものをやめようと考えているという。

 

 別の70代女性は、けがをして整形外科にかかったが、治療のための補装具については金銭的負担感から断った。気力といえばそれまでだが、まずは食べていくことが最優先だと自己処置をして我慢して過ごしている。

 

消費者と接する商店 値上がり分は自己負担

 

 こうした消費者と日々接する業者側もぎりぎりの経営だ。あるパン屋では、小麦粉はもとより、その後のバターなどの乳製品の高騰で原料価格が高くなった。添加物の入っていないこだわりのパンをつくっているが、そこで必要なバターが急騰し、かといって国産のバターも手に入らない。昨年からの酪農危機の影響だ。メーカーは代用品をすすめてくるが、それでは品質がかわってくる。高いなら安い物にすればいいという問題ではないし、値上げしてお客さんに押しつけることもしたくない。「値上げをしたくてもドーナツ1個を200円、300円もすると買う側になるとやはり高い。日常的に買ってもらえる値段でなければ商売にはならない」。値上がり分は負担をしながらやっていくしかない状況だ。

 

 こうしたなかで政府がまったく無策であることへの怒りも強い。経営者の女性は、「とにかく消費税を今減税するべきだ。みんなの生活が厳しいのだから差別なくみんなを救うには消費税減税しかない。非課税世帯、子育て世帯という線引きなく、みんなが平等に恩恵を受けられる仕組みにせずになにをしているのか」と語気を強めていた。

 

スーパーの実情 値上げで販売数量減る

 

 あるスーパーでは、揚げ物に使う油の価格が倍加しているため、節約のために油かすをとり除くさいに徹底的にかすと油を分離させ、とり除いた油を再利用して大事に使うようになった。価格転嫁はすでにしていて、唐揚げは1個100円ほど、弁当も以前は一番安いもので398円だったが、今は428円に上がっている。単価が上がっているから売上は前年ごえしているが、買い上げ点数は下がっており、電気代なども含めて経費が増大しているので、利益が上がっているとはいい難い状況だ。

 

 高額商品が売れないのも特徴で、ウナギがとにかく高すぎて、今年は大量に売れ残ってしまった。クリスマスやおせちの時期が近づいているが、とくにおせちは1万円をこえるので、需要がなくなるのではないかと心配されている。おせち文化もなくなるのではないか? という情勢だ。スーパーの顔である野菜が高いので、かわりに漬け物を売り出そうという方針をうち出しているスーパーもあるとか。

 

 本社からは「人件費を抑えるために残業をしてはいけない」というお達しが来ているが、人を増やさずに残業を減らすのは無理な話だ。結局、正社員の手取りがどんどん減少していくようになっている。

 

 食品スーパーは、比較的価格転嫁できているといわれているが、消費者の買い控えに直面して、「特売」など値下げ戦略をとらざるを得なかった中小のスーパーが苦境に立たされている。消費者と直接対面する店舗での値上げは限界に来ており、コスト削減によってみなの給料がまた下がる。そして、資金力の弱い地方の中小スーパーの閉店があいついでいる。

 

 この状況のなかで、即家計の足しになるのは消費税の減税と食べていくための現金給付だ。しかし岸田政府が出してきた「減税」案は、所得にかかわらず一定額を差し引く定額減税というもの。21年度と22年度の2年間で増えた所得税と個人住民税3・5兆円を「国民に税の形で直接還元する」として、24年度分の所得税3万円、住民税1万円の計4万円の減税が1回ぽっきりということで収まろうとしている。しかも大変なのは今なのに、来年6月以降になりそうな呑気さだ。児童手当の増額も当初予定の2025年2月を2024年12月に前倒しするといっているが、それも1年以上先の話。岸田の財布でもないのに、ちびちびとけちくさい対策しか出てこない。非課税世帯のみへの現金給付ばかりがクローズアップされ、支援を受けられない人との分断を煽ることにもなっている。

 

 国民の窮状を理解する術も気もないパフォーマンスは、むしろ国民の怒りに油を注いでいる。

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