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「インドネシアから届いたSOS 50年のニッケル鉱山開発がもたらしたものは?」 PARCやFoE Japanなど3団体がオンライン報告会

 「インドネシアから届いたSOS 50年のニッケル鉱山開発がもたらしたものは?」と題するオンライン現地報告会が4月26日におこなわれた。報告会を主催したのは、国際環境NGOのFoE Japan、アジア太平洋資料センター(PARC)、Fair Finance Guide Japanの3団体。ニッケル鉱山の開発現場では長年、先住民族の土地の取り上げや森林破壊など深刻な問題がくり返されてきた。今年3月、住友金属鉱山が50年にわたってニッケル鉱山開発を進めてきたインドネシア・南スラウェシ州の現場で、住民たちが土地権の回復や生活の尊重を求めて抗議行動を始めたところ、事業者が住民との対話を拒否し、3人のリーダーが現地の警察に不当逮捕・拘束された。この報告会は現地とオンラインで繋ぎ、FoE Japan・波多江秀枝氏の報告の後、現地のNGOスタッフや住民たちが直面している状況を報告した。以下、報告会の主な内容を紹介する。なお、写真はインドネシア環境フォーラムWALHI南スラウェシ提供。

 

南スラウェシ州ソロワコにあるPTヴァーレ・インドネシアの精錬所

■日本との関わり   FoE Japan 波多江秀枝

 

 ニッケルは希少金属の一つで、私たちの生活に入り込んでいる。硬貨をはじめスマホやノートパソコンの部品などに使われている。

 

 このニッケルの需要が今、急速に拡大している。というのも、気候変動対策で拡大が見込まれる電気自動車のバッテリーや、太陽光発電や風力発電の大容量バッテリーに使われるリチウムイオン電池の正極材として、ニッケルが必要だからだ。

 

 ただ、現在の大量消費をこのまま続け、気候変動対策が進められるなかで、どのニッケル鉱山でも開発が継続・拡張され、これまで開発現場で地域コミュニティが経験してきた被害がくり返し起こる、あるいはむしろひどくなる可能性がある。

 

 このニッケルの埋蔵量が世界一なのがインドネシアだ。現在、ニッケル鉱石の生産量でもインドネシアは世界一だ【円グラフ参照】。

 

 日本はニッケルをすべて輸入に頼っている。ニッケルのうち、鉱石の輸入相手国はフィリピンやニューカレドニア。ミックスサルファイド(低品位の鉱石を現地で製錬したもの)もフィリピンからだ。そしてニッケルマット(鉱石を製錬したもの)は70%程度をインドネシアから輸入している【グラフ参照】。

 

 このニッケルマットが来ているのが、スラウェシ島の南スラウェシ州ソロワコだ。ここで事業を進めているのがPTヴァーレインドネシア(ヴァーレ社)で、開発権を持つ面積がスラウェシ島全体では11万8000㌶。そのうち南スラウェシ州だけで7万566㌶の開発権を持っており、これは東京23区の面積6万2699㌶より大きい。

 

 ヴァーレ社のホームページには、ソロワコで生産されるニッケルマットは住友金属鉱山と2社間で合意した長期特別契約のもと、すべて日本に輸出していると書いてある。

 

 ヴァーレ社の株主構成を見てみると、ヴァーレカナダが43・79%、PTインドネシアアサハンアルミニウム20%、住友金属鉱山15%、ヴァーレジャパン0・55%、住友商事0・14%などとなっている。

 

 うちヴァーレジャパンの株はヴァーレカナダと住友金属鉱山が持っている。ヴァーレジャパンは三重県松阪市に工場があり、住友金属鉱山が1970年から資本参加し、1978年にソロワコから日本へニッケルマットの輸入を開始している。

 

 また、住友金属鉱山はニッケルマットをヴァーレ社の鉱山から愛媛県の工場に運んできて、電気ニッケルをつくっている。電気ニッケルの日本での生産は住友金属鉱山のみだ。

 

■何が起きているか

   WALHI南スラウェシ事務局長 ムハマド・アル・アミン

 

 インドネシアの現地で日本の企業が様々な問題を引き起こしており、その解決をめざして日本のみなさんとともに行動していけたらと思っている。南スラウェシの鉱山開発の現場で、いかにそこで暮らしている先住民族の人たちがたたかい、いかに自分たちの暮らす森林や土地を守っているかについて理解してほしい。

 

 現在、私たちは非常に困難な問題にぶち当たっている。ヴァーレ社が操業している現場で、先住民族たちが権利を主張したことによって不当逮捕され、今も拘束されていることだ。

 

 南スラウェシ州ソロワコは、ニッケルの最大の埋蔵量を誇っているところの一つだ。ここは1901年から、オランダ人研究者によって探査が始まった。すでに1938年には、日本にニッケル鉱石が輸出され始めた。1968年にはPTインコ(カナダ・インコ社の子会社)がここで鉱業事業契約を獲得し、1973年から事業を開始している。2004年にはインコ社からヴァーレ社に社名を変更している。

 

 ヴァーレ社が南スラウェシ州で獲得した開発権の面積は、さきほど東京の話があったが、同州の州都マカッサルの約5倍の広さがある。私たちの調査では、すでにソロワコ鉱区で熱帯雨林4449㌶が伐採されてしまった。ヴァーレ社の鉱業事業許可区域はかなりの割合で森林地域と重なっているが、その森林はそこで暮らす人々のためにも、またそこに生息する動植物のためにも大きな役割を持っている。

 

 ヴァーレ社には日本を含む多くの企業が資本参加している。ヴァーレブラジルが親会社であるヴァーレカナダ、住友金属鉱山、ヴァーレジャパン、住友商事がそれだ。日本政府や日本企業が現地の鉱山開発と決して無縁ではないことがわかると思う。そして、鉱山から得られる利益のほとんどはこれらの企業によって収奪されている。私たちは日本企業によって暮らしが奪われることに我慢ができない。なんとかこの状況を打破していきたいと考えている。

 

 私たちは昨年6月から調査を開始した。ヴァーレ社のソロワコ鉱区の事業で10の大きな問題が引き起こされていることがわかった。

 

 第一。ヴァーレ社が開発権を得ている土地は、先住民族の慣習法にもとづく土地であり、コミュニティの畑だ。それが奪われることによって彼らは貧しい状態におかれている。

 

 第二。ヴァーレ社は50年間にわたって事業をおこなっているにもかかわらず、住民たちは大切な情報を一切受けとることができていないし、住民の権利そのものも顧みられていない。

 

 第三。ヴァーレ社は先住民族の権利を擁護したことがない。

 

 第四。ヴァーレ社は依然として環境を悪化させる石炭を発電の燃料に使っている。二カ月前にヴァーレ社の社長がある会合で「私たちの企業は地球を守っていかなければならない」と発言したが、実際におこなっていることと大きな乖離(かいり)がある。ニッケル鉱山による環境破壊だけでなく、石炭採掘による環境破壊にも加担していることになる。ヴァーレ社はボルネオ島カリマンタンでの森林伐採に加担し、石炭を調達している。

 

 第五。インドネシア人や多くの政治家が、ヴァーレ社から日本に向けてどのような鉱物資源が輸出されているかの情報を知ることができない。ニッケルの他にもコバルトが輸出されていることがわかっている。

 

 第六。ヴァーレ社は住民たちに対して、ニッケル鉱山から出た廃棄物や汚染水の処理をどのようにやっているかについて、透明性を持って公開したことがない。先住民族や周辺住民、従業員に対して、廃棄物、煤塵、汚染水がどのように環境に影響を及ぼしているかについて情報を開示したことがない。

 

 第七。汚染水が流されたことによって、これまで川や海で漁業をしてきた漁師たちの漁獲量が減少している。港では漁師は入ってきた石炭運搬船に漁業を妨害されたり、こぼれ落ちる石炭の粉で海が汚染されることに直面している。こうした漁師の生活への影響にも、ヴァーレ社や住友金属鉱山は責任がある。

 

 第八。住民たちが生活を守るために会社側に申し入れをすると、ヴァーレ社は警察や警備会社を動員して住民たちに圧力をかけてくる。今日までヴァーレ社の周辺に暮らす住民たちは、清潔な飲料水を手に入れることができていない。にもかかわらず住民たちは、企業と話し合う機会すら与えられていない。ヴァーレ社は地域の住民のためになにかをするというよりも、ただそこで働く労働力を求めているにすぎない。

 

 第九。ヴァーレ社は自分たちが開発権を得た土地以外の場所でも企業活動をおこなっている。これは契約違反だ。その外側の土地を政府から与えられ、従業員の住宅やボスたちの住居をつくっている。一方先住民族たちは、自分たちの土地を追い出されている。

 

 第一〇。ヴァーレ社のすぐそばにあるマハロナ湖に土砂が堆積しており、湖がどんどん浅くなっているが、企業はそのまま無視し、政府も許容している。

 

3人のリーダーが不当逮捕

 

逮捕された住民の釈放を求めるチラシ

 そしてもう一つ重要な問題は、住民たちがヴァーレ社に対して抗議行動をしたことによって、これまで先住民族の人権擁護のためにたたかってきた3人が東ルウ県警に不当逮捕され、今日まで拘束されたままになっていることだ。この3人はただ、「住民とヴァーレ社との話し合いの場を持ってほしい」「先住民族の権利に対してちゃんと配慮してほしい」「きれいな水を住民に渡してほしい」と訴えただけだった。
 にもかかわらず彼らは、「会社のバスを壊そうとした」というかどで逮捕・拘束されてしまった。

 

 その後、会社側は「バスを襲った」という事実を取り消したが、警察は依然としてそれを理由に彼らを拘束している。拘束されているのは、ハムルラー氏(40歳)、レナルディー氏(35歳)、ニムロッドゥ・シバンティ氏(59歳)の3人だ。

 

 最後に、日本のみなさん、ヴァーレ社と提携している日本の政府や企業に対する私たちの要求は次のとおりだ。

 

 まず、不当逮捕によって拘束されている先住民族3人をただちに解放すること。住友金属鉱山はインドネシアで鉱山開発をおこなうにあたり、現地の住民に対して人権の原則を遵守し、履行すること。ヴァーレ社の周辺に住む先住民族や女性の生活が持続可能なものになるよう、環境と社会の保全のためのシステムを守ること。ヴァーレ社はニッケルを掘り尽くせばここから出ていくが、私たちに残されるのは環境破壊と、人々の生活が立ちゆかなくなることだ。私たちは決してそれを望んでいない。

 

 私たちは日本政府に対し、現地の動植物の生息地として、また先住民族や女性の生活を支えるものとして、南スラウェシの熱帯雨林の生態系を保護するよう努力することを求める。日本政府は製錬所による汚染について、現地で環境監査を実施してほしい。

 

 また、ヴァーレ社が奪った土地の中には先住民族たちの古い墓地やコミュニティの畑があり、その土地を先住民族にただちに返還してほしい。ヴァーレ社は周辺住民の基本的な暮らしのニーズを満たすこと、とくに清潔な水についての要求を認めてほしい。

 

 日本の政府は企業から得られる税金や鉱山開発によって豊かな暮らしを享受できるが、現地の住民たちの暮らしは非常に貧困な状態を続けており、それは公平ではないと考える。

 

■住民たちの証言 ソロワコ鉱区の実情

 

ヤディン氏(右)とユスリ氏

 波多江 インドネシアでは濡れ衣を着せられて住民が逮捕・投獄される事例が数多く起こっている。今回のような鉱山開発現場だけでなく、パーム油プランテーションの現場や石炭火力発電所のための建設現場でも起こっている。WALHIによると、2021年の1年間で少なくとも182人が不当逮捕され、その後数カ月以上収監されている。

 

 そのなかで今日は、住民の方々から直接お話しを聞く貴重な機会をもうけた。こうして話すことは勇気がいることだと思う。まず、ヤディン氏から。

 

 ヤディン 私たちはソロワコのドンギという村の住民だ。これまで長きにわたって、私たちは現地のことをみなさんに話す機会を与えられていなかった。私たちは外の社会の人たちとつながることがなかった。私たち先住民族は「不法滞在の民」として扱われてきた。一切の支援を受けることができなかった。

 

 インコ社(現在のヴァーレ社)がこの土地にやって来たとき、先住民族の権利はどうなるのかと政府に問いただしたが、なんの答えも得られなかった。今、ヴァーレ社が開発権を持っている土地には、私たちの祖先の墓、住居、畑があった。私たちが住むところに電気を供給してくれるようヴァーレ社に要求してきたが、まったく聞き届けられなかった。2011年からたたかいを続けてきて、ようやくヴァーレ社ではなく現地政府から電気を供給してもらえるようになった。

 

 私たちが聞くところによると、ヴァーレ社は私たちの立ち退きに対する補償金を払ったことになっているが、それがいくらか知らないし、受けとってもいない。今、私たちの暮らしは圧迫を受けている。私たちにはいまだに清潔な飲み水がなく、それを企業や政府から供給される可能性がない。

 

 私たちは元々、現地で農民として暮らしてきた。しかし土地を奪われてしまい、有刺鉄線で囲まれてしまったために、私たちが耕す土地はほとんどなく、子や孫たちはどうやって暮らしていけばいいのかと危惧している。先住民族の若者が企業で働く機会も閉ざされている。

 

 波多江 ロスニャータ氏にも話してもらいたい。彼女は不当逮捕されたニムロッドゥ氏の妻だ。

 

 ロスニャータ 私はこの事件を思い出すと、つらくてとても自分で話せない。代わりに息子のアマルに話してもらう。

 

 アマル 父は3月12日午前1時、突然やってきた警官13人に逮捕された。父は以前から先住民族の権利を守る運動に深くかかわってきた。それは亡き祖父から受け継いだものだ。父は先住民族の土地問題や鉱山地区の住民の生活、環境破壊などに問題意識を持ち、たたかいを続けてきた。

 

 この地域では、決して経済的に安定した暮らしを送っているわけではない。私たちは、ヴァーレ社は住民たちの暮らしや福祉に社会的責任を持つべきだ、とくに東ルウ県に住む10の先住民族が補償を受けとるべきだと訴えてきた。だが、ヴァーレ社はそれを実行していない。私たちは鉱山から排出される汚染物質の環境調査も求めてきた。

 

 ヴァーレ社は鉱山の下請け企業を地元以外のところで雇っており、競争力のある地元企業は存在するのにそこに入れない。それは私たちがヴァーレ社のブラックリストに載っているからだ。

 

 私の父を含め捕まっている3人は、あきらめることなく人権を守るたたかいを続けてきたが、ヴァーレ社はその訴えを聞こうとしてこなかった。父の逮捕の前日、住民たちは平和的なデモをしていたが、警備員が下請企業のバスを「住民たちにぶつけろ」と煽った結果、現場は混沌とした状況になり、それが逮捕されるきっかけになった。

 

 私たちの抗議活動は合法的なものだった。にもかかわらずヴァーレ社は3人の釈放を認めていない。というのは彼らが外に出て、再び抗議活動が活発になることを恐れているからだ。どうか日本のみなさん、彼らの釈放のために力を貸してください。

 

■質疑応答より

 

 波多江 本日、私たちとPARCで住友金属鉱山本社に対して現地の住民の声を届けに行った。

 インドネシアにはソロワコ鉱区に駐在員がいるそうだが、この抗議活動や不当逮捕については「知らなかった」そうだ。市民のみなさんとつながってアクションを起こせないか、考えていきたい。

 

 アミン(WALHI南スラウェシ事務局長) 不当逮捕されている3人のパートナーの女性の皆さんや家族が経済的に暮らしを維持できるため、カンパを呼びかけている。

 

 3人が家族のことをあまり気にすることなく、中でのたたかいを続けていけるようにするためだ。(詳細は https://foejapan.org /issue/ 2 0 220421/7668/

 

 波多江 視聴者からの質問だが、今のヴァーレ社の開発権の有効期限は何年までか? それについて環境アセスメントをやっていると思うが、それへの住民参加、WALHIの参加はどうか?

 

 アミン 私たちが得ている情報では、2025年までと聞いている。だからこそ、この50年間にヴァーレ社がいったいなにをやってきたのか。しかも先住民族たちを追い出し、水や土地など一切の権利を考慮してこなかった。そして住民たちと話し合う機会すら持たなかった。さらには住民を自分たちの施設を破壊する破壊者として不当逮捕してきたことを、ちゃんと伝えるべきだと考えている。私たちWALHIも先住民族の代表たちも、住民の生活補償や環境汚染の除去を企業側と一緒に考える場所に呼ばれたことは、この10~20年の間、一度もなかった。

 

 波多江 なぜ、ここまで住民の訴えに耳を貸さないのかと思う。このインドネシアから来るニッケルが私たちの生活に深く入り込んでおり、私たちも日本企業に対応を求めていくことが必要だ。

 

 アマル 住友金属鉱山はヴァーレ社の株主なのだから、現状を理解してきちんとした対応をしてもらいたい。先住民族の権利に配慮し、私たちの暮らしが成り立つようになることを求めたい。

 

 ユスリ(ヤディン氏の友人) 私たちにまず必要なものは水だ。私たちは周囲の自然環境があるから生きていけるのだ。

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