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唐津市沖洋上風力中止せよ 佐賀・長崎・福岡の漁業者が1万9000筆の署名提出

 佐賀県唐津市沖の洋上風力発電建設計画をめぐって9日、地元佐賀県をはじめ、同じ海域の恩恵を受け漁業を営む福岡県、長崎県から10の漁協組合長や関係者が佐賀県庁を訪れ、計画中止を求める署名約1万9000筆を山口祥義佐賀県知事宛に提出した。この署名は昨年12月5日から開始されたが、玄海灘沿岸地域の漁業者、地域住民、事業者などの手から手へと広がり、わずか2カ月足らずで集められたものだ。各地から結集して手を組んだ組合長たちは、すべての浜の漁業者を代表し「この海で一人でも漁をする者がいる限り、海を守る使命がある」「豊かな漁場である玄海灘を分断する死活問題だ」と強固な反対の意志を示している。

 

 唐津沖にある小川島東側の海域では、インフラックス(東京)が最大で64基(総出力60万8500㌔㍗)の建設を計画している。さらに同社は唐津市馬渡島から長崎県平戸市的山大島までの海域に最大65基(総出力61万7500㌔㍗)の建設も計画している。また、アカシア・リニューアブルズ(東京)と大阪ガスも唐津市馬渡島をとり囲むような形で最大75基(総出力60万㌔㍗)の建設を計画している。そして今年1月には新たにレノバ(東京)が最大27~42基(総出力40万㌔㍗)の建設を計画していることも明らかになった。国内最大規模の計画が局所的に集中し、合計200基をこえる風車が乱立することは、この海域で漁業を営む漁業者にとっては死活問題であり、この反対署名活動を通じて多くの漁業者が反対の意志を示している。

 

 

 今回、佐賀県知事に対して計画の中止を求める署名を提出したのは、地元佐賀県の「玄海5漁協連絡協議会」と、佐賀県、福岡県、長崎県の「玄海灘洋上風力発電建設反対協議会」だ。

 

 参加している漁協は
佐賀県 小川島漁協、 大浦浜漁協、外津漁協、 仮屋漁協、屋形石漁協
長崎県 新松浦漁協 (4支所)、平戸市漁協(7漁協・11支所)
福岡県 糸島漁協(8支所)

 

となっており、3県から14漁協(23支所)、正組合員1944人、准組合員2771人、計4715人の組合員が所属している。

 

 知事に向けた署名のなかでは、今回の風力発電計画は、計画地に近い小川島漁協が反対しているだけでなく、長崎県、福岡県の漁業者の生活を脅かすことに直結する無謀な計画であるとし、豊かな漁場である玄海灘を分断するもので、未来ある多くの漁業者にとっては死活問題として、多大な被害が及ぶこの計画を断じて容認できないと訴えている。

 

 また、環境影響評価配慮書では不安な点が多く、自然環境保護の観点や、絶滅危惧種等の魚介類だけでなく、漁業、漁業者にとって重要な種、漁業者の生活にかかわる調査は必要不可欠であること、回遊魚、定着性のある漁種、一本釣りや網漁で採取する魚種によってそれぞれの生態の特徴があるが、確かなことが何も調査されていない問題についても指摘している。

 

 そして、「後継者に自然豊かな海を残すため、玄海灘のあらゆる自然の恵みを自然のままに後世へ継承するため、この(仮称)佐賀県北部海域洋上風力発電事業を中止して頂きますことを強く要請致します」と訴えている。

 

 署名は昨年12月5日に開始した。もともと玄海灘沿岸の漁業者を中心にとりくむ予定だったが、計画のことを知った地域の人々の間でも話題となり、あっという間に協力が広がった。漁業者と地域が一体となって集めた反対署名は約1万9000筆にのぼり、現在もまだ各地で署名活動を継続している。

 

 署名活動を始める前までは地元の漁業者たちもほとんど計画について知らなかったという。しかし署名を各地でよびかけるなかで巨大な風力発電事業が好漁場に集中していることを皆が知り、「これは大変だ」となり、計画の中身について真剣に知る機会にもなったという。署名をとりくんだ佐賀県小川島漁協の川口安教組合長は「この海に一人でも漁師が残るのなら、私たちはその一人のためにこの海を残したい。そして、佐賀の海に風車が建つということは福岡や長崎の漁師にも迷惑がかかることになる。県をこえてたくさんの人々が協力して反対の声を上げられることは心強い」と話していた。

 

 平戸市のある漁協組合長は「飲食店や旅館、市場関係など、水産業にかかわるすべての人たちが“平戸で魚がとれなくなったら私たちも困る”といって次々に署名に協力してくれた。平戸の定置網は海の流れに乗ってやってくる魚をとる“待ちの漁業”だ。あの海域を潰されてしまうと、回遊魚が平戸まで入ってこなくなる危険性もある。海はすべて繋がっている。佐賀県の海だからといって佐賀の漁場を潰しても、魚は佐賀県のものではない。佐賀の漁師も、自分たちの海で漁ができなくなったからといって、簡単に隣の福岡や長崎まで漁に出るわけにもいかないだろう」と話していた。

 

 平戸市漁協の山中兵恵代表理事組合長は「私たちは、風力発電建設に反対するにあたって、補償金など金のことについては今までもこれからもいっさい口にしてはいけないと思っている。とにかく“自然を残せ”、この一本で結束して訴え続けていく。一時的な補償金などはあぶく銭にすぎない。私たち漁師は、汗水垂らして働いて手にした金でしか生活できない。対馬暖流と島々によって形成された一番の好漁場を潰されるわけにはいかない」と話していた。

 

 糸島漁協の仲西利弘代表理事組合長も「ちょうど市議選があったのでなかなか署名活動がとりくみづらかったが、これからまだまだ風力反対の署名に協力してくれる人が出てくると思う。このたび3人の組合員が市議会に入ることになった。これからさらに市にも水産業を守るために働きかけていきたい」と今後の反対運動拡大への意気込みを語っていた。

 

佐賀県知事に署名を提出する漁協組合長ら

 

玄海漁協は賛成署名 組合員に説明会はせず

 

 佐賀県北部の海域における洋上風力発電計画をめぐっては今年1月7日に、地元の玄海漁協(玄海地区8漁協、正組合員470人・准組合員324人)の代表理事組合長である川嵜和正氏が、唐津市長に対して洋上風力事業への調査協力推進に関する陳情書と3300人分の署名を唐津市に提出している。

 

 陳情書では、漁業者の減少や少子高齢化を防ぐため、調査船の派遣という新たな雇用の場が必要だと主張。川嵜組合長は「新規事業にはどうしても賛成、反対の声がある。われわれは計画を推進する立場として陳情した」と賛意を示している。

 

 だが、玄海漁協の「賛成」についても「漁協の上層部だけだ」との声も上がっている。8漁協の各組合支所では、組合員には説明会などをおこなわないまま「役員が組合を代弁している」といういい分で形の上での「賛成」が決定されていることも話題になっている。今回洋上風力反対を示した1万9000筆の署名を呼びかけるなかで、賛意を示している玄海漁協の組合員の間でも「賛成するつもりはない」「賛成しているのは役員だけだ」との意見が上がっていたという。

 

 佐賀県は、産業労働部に「新エネルギー産業課」を設置し、洋上風力発電誘致の姿勢を示している。今回、佐賀県庁で漁業者が反対署名を提出したさいにも、県は風力誘致の動機を「CO2削減」「佐賀県の経済のため」と主張。一方で漁業者たちは「佐賀だけの海ではない。海は繋がっている」「一番の好漁場であり、佐賀だけでなく長崎や福岡の漁師の生活もかかっている」と、同じ海の恵みを受けている者同士が県をこえて横に繋がり、断固反対の意志を示した。

 

佐賀県と漁協のやりとり まるで電力会社の社員みたい…

 

 佐賀県唐津沖の洋上風力発電建設に反対している佐賀・福岡・長崎の「玄海5漁協連合協議会」と「玄海灘洋上風力発電建設反対協議会」は9日、佐賀県庁で洋上風力建設反対を訴える署名約1万9000筆を佐賀県知事宛に提出した。署名は県知事ではなく、佐賀県新エネルギー産業課の大野伸寛課長が受けとった。各地の漁業者を代表して集まった10人の各漁協組合長たちは、計画海域が重要な漁場で回遊魚の通り道であること、そこに大規模な開発を持ち込むことによって、三県の漁業者に甚大な被害が及ぶことを危惧し、計画の中止を強く訴えた。以下、「県」と漁業者(「漁」)とのやりとりの要旨を紹介する。

 

  平戸市長、長崎県議会からも署名が集まった。平戸地区でもまだまだ回収すれば署名は集まるが、今回は間に合わなかった。唐津市内でも反対者が多い。本気で集めるとまだ署名が集まると思うので、第2回目の署名も提出するつもりだ。

 

 県 署名はお預かりいたします。

 

  洋上風力計画海域は対馬暖流が流れる玄界灘の良漁場だ。一次産業は日本を支えてきたし、この漁場のありがたみは漁業者が十分知っている。だからみんなが立ち上がって署名活動をおこなった。佐賀県の漁業権内であれば私たち平戸からは口出しできないが、今回の計画海域は「公海上」にある一番の漁場だ。「平戸に行けば魚がおいしい」ということでお客さんが来てくれる。一次産業がお手上げになれば、平戸や長崎にお客さんは来てくれなくなる。署名はどういうとり扱いになるのか。

 

  どのような人が署名しているのかを確認して保存する。知事にはどこかのタイミングで報告する。新型コロナの関係で簡単に時間をとるのが難しいので…。最終的には知事に相談する。私個人としては説明を開始したばかりなので、今年度から来年度に向けて大きく状況が変わったとは思っていない。どんどん進んでしまうのではないかということを一番心配されているだろうが、もう少し説明は必要だと思う。環境アセスを2社、3社が始めているなかで、不安に感じている人も多いと思う。誘致を進められるかどうかは、法定協議会が立ち上がるかどうかがターニングポイントになる。しかし今時点ではそのような状態にない。洋上風力発電の開発ができる状態になっていないということはくり返し申し上げている。

 

  国土交通省が出しているガイドラインには、「漁業者に悪影響を与える場合は許可をしてはならない」というようなことが書いてある。これだけの漁業者が反対のお願いに来ているのに、何を寝とぼけたことをしているのかと思う。われわれは東京のあらゆる省庁にもお願いに行っている。しかしあなた方(県)がそれを無視するような対応をとるなら私たちもそれなりの対応をとらないといけない。隣り合う県同士なるべく仲良くしていかないといけないと思っているから、書面をもってお願いしている。知事に「後で報告する」というが、反対署名が何万筆来ているかどうかは、今すぐにでも報告できるだろう。

 

  数字だけでもすぐに伝えてほしいという話を今いただいたので、数字だけでも伝える。

 

  漁業者や一般市民が洋上風力建設問題で右往左往している。誤解を招くような状況も広がっている。誘致が決まっていないならそのことをはっきり漁民や市民に説明する必要がある。これだけの漁民が本気になって反対署名をとりくんでいるということを肌で感じていると思うが、それでも佐賀県は洋上風力を推進するのか。海での生産なくして漁民の生活はない。そのことを十分に考えてほしい。70本も100本も風車が建つという話もあるが、実際に現場に行って、海を見てそのことを考えてほしい。

 

  魚の通り道が遮断され、長崎県には魚が寄りつかなくなるのではないかということが心配だ。海中にも魚道といって魚の通り道がある。それが洋上風力によって寸断されることになる。漁ができなくなったらどうするのか。電気会社が儲かればそれでいいのか。

 

  流れが遮断されることはない。現時点で世界中にこれだけ洋上風力発電があるなかで、海の流れに影響があるということは確認できていない。おそらく流れを止めてしまう可能性は非常に低いと思う。

 

  潮の流れの話をしているのではない。魚の流れが止まるといっている。獣に獣道があるように魚にも魚道がある。タイにはタイの、ブリにはブリの、マグロにはマグロの道がある。そこに鉄塔が建てば魚の流れが止まるといっている。再生可能エネルギーは大事といっても、自然を壊してまで作る必要があるのか。

 

  難しいところですよね…。一方でCO2の排出を避けないと温暖化が進む。

 

  だからといって佐賀に作らなくてもいいではないか。風車によって音が起きるが、魚は音に敏感だ。とくに問題なのは回遊魚だ。海流に乗って来る回遊魚が風車ができてしまった海域を通るのかどうかが問題だ。佐賀県だけの問題ではなく、福岡でも長崎でも、魚の動きがどう変化するかは未知数だ。糸島ではゴチ網やサワラのトローリング漁など、音に敏感な魚をとっている。漁獲がなくなれば糸島の漁協としてはお手上げだ。

 

  根付きの魚種についてはそれほど影響があるということを確認できていない。どちらかというと影響がなさそうだ。

 

  われわれは定置網をやっているので、根付きの魚ではなくほぼ一〇〇%回遊魚をとっている。問題は回遊魚にとってどうかだ。いろいろな調査を調べてみると、カレイやタラなど根付きの魚は「風車が魚礁になる」といわれている一方で、回遊魚についてのデータは一切ない。

 

  責任がとれないのなら推進しなければいいではないか。各地での説明会ではメリットもデメリットもしっかり説明しているのか。

 

  私どもは「誘致ができたらいいな」と思っている。メリットもデメリットも説明している。デメリットについては「今までのように漁業ができなくなる可能性がある」ということだ。メリットは二つある。火力発電を少しでも減らして再生可能エネルギーにシフトする必要があること。もう一つは、仮に洋上風力を誘致することができるとなると、少なくとも数十人単位の雇用が発生する。

 

  その代わりに1000人、2000人もの漁業者がいなくなってもいいということか。

 

  「佐賀県内の経済」にとってはプラスになる可能性があるので誘致に向けてとりくんでいる。洋上風力事業により地域に仕事ができて、経済波及効果が年間で約20億円ほどになる。対して東松浦半島の漁獲高は推定で20億~30億円だ(漁業による経済波及効果については触れず)。

 

  自分のところだけ発展すればいいのか。他はどうでもいいというようないい方だ。あまりにもおかしいのではないか。

 

  私たちは佐賀県職員としていっている。

 

  佐賀県職員なら佐賀県だけがよくなればいいのか。

 

  佐賀県職員としてとりくむ理由は何かといわれると、当然佐賀県のことを考える。また、九州全体の電力需要は瞬間で千数百万㌔㍗と膨大だ。これをどうするのかという話なのだ。

 

  節電すればいい。

 

  壱岐、馬渡島、小川島の間を通る海流に乗ってやってくるアゴ(トビウオ)を追って、大型の回遊魚が一番おいしい状態になって平戸市沿岸に入ってくる。それを待ってとるのが平戸の定置網だ。そのおかげで私たちは生活できている。佐賀県が責任とることはできないだろう。

 

  責任をとる、とらないの話までいっていない。

 

  数十人の雇用のために一番大事な漁場に洋上風力を建てる必要があるのか。

 

  風車の維持管理をするためにはメンテナンス要員が必要だ。私たちが経済波及効果を分析したさいには30~50人くらいの雇用が生まれる。専門職ではあるが、地元で育成が可能な程度だ。県内の企業が風力関連の仕事を受注すれば経済にとって一次・二次波及効果が期待できる。長崎や福岡の漁師からはお叱りをうけるかもしれないが、少なくとも佐賀県の経済にとっては漁師の仕事が減って、新たに風力のための雇用が増えたとしても意味がない。水揚げ高なり収入が維持されたままプラスにできないかということを考えている。

 

 漁 なぜそんなことができると思うのか。この漁場では一本釣りだけでなく、建網などもやっている。風車が建てば立ち入り禁止になってしまって漁はできないだろう。漁場を捨てることになる。あなたは漁師をしたことがあるのか。沖に出たことがないだろう。滑稽なことばかりいわないでほしい。
 県 ヨーロッパでは立ち入り禁止になっているウインドファームもあるが、日本国内で計画されている洋上風力は、「漁業協調型」を大前提にうち出している。そこに入れないということは…。今申し上げているのは風車から立ち入り禁止になる範囲がどれくらいになるかということであり、その場合、数十㍍くらいかな~と…。

 

 漁 コンサルタントみたいな説明は聞いていられない。帰ります。漁業者たちがこれだけ一生懸命になって、あなたたちから憎まれるようなこともいっているということだけは覚えていてほしい。命がけで構成員に好漁場を残すということがわれわれの本音だ。これだけの署名があったということで、署名の実物を山口知事に見せてほしい。

 

佐賀県庁に集まった3県の漁協組合長や関係者

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