いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

風力先進国で行き詰まる再エネ事業 洋上風力は20㌔以上離すルールも 規制緩い日本に外資押し寄せる

 政府が「地球温暖化をストップさせるため、CO2排出量を2050年までに実質ゼロにする」といって再エネ事業推進の旗を振り、それに乗って全国各地で風力発電やメガソーラー建設計画が目白押しとなっている。しかし目を世界に向けてみると、風力発電先進国といわれるドイツやデンマークなど諸外国では、低周波による健康被害や景観の破壊などに反対する住民運動が広がり、政府による規制も強まって、再エネ事業は頭打ちとなり、事業者は次々と撤退をよぎなくされている。日本ではほとんど報道されない風力発電先進国のこうした事情について、専門家に意見を聞き、どうなっているのか調べてみた。

 

 最近、下関市豊浦町沖に、1基当りの出力1万4000㌔㍗の巨大風車を合計34基建てる計画が持ち上がり、事業者であるRWEリニューアブルズ・ジャパン合同会社(ドイツの再エネ企業RWEの日本法人)が17~19日、地元の漁協組合員や住民に対する説明会をおこなった。

 

 そのなかで、この計画が沿岸から風車まで最短2㌔というきわめて近距離であることに対し、地元住民から「イギリスでは10㌔離す法律があると聞いた」という質問が出た。するとRWEのドイツ人担当者は「そんな法律はないし、そういうルールもない。離岸距離が2・5㌔というプロジェクトも実際にある」と答えた。また、風力発電の低周波音を心配する質問に対しても、「低周波音についてはよくわからない部分があり、学術界でも議論が進められている最中だ。ただ、健康被害が出ているという実体がない。ドイツではクレームがないので測定データが集まっていない」とのべた。

 

 そこで洋上風力発電の沿岸からの距離について調べてみると、日本の電力中央研究所が2019年に公表した「再エネ海域利用法を考慮した洋上風力発電の利用対象海域に関する考察」という文書があった。

 

 それによると、欧州や中国では洋上風力発電の立地を促進する区域、または禁止する区域を決めるさい、立地を認める離岸距離を定めている【表①参照】。それを洋上風力の設備容量が多い国順(2018年時点)に見てみると、まずイギリスでは、2001年時点では実証実験としておこなったために離岸距離を定めず、そのため立地が沿岸部に集中して、住民による低周波音の健康被害や景観の破壊に反対する運動が起こった。そこで2003年に、沿岸から8~13㌔以上離すと定めた。さらに2012年には風車の大型化による健康被害や景観への影響を考慮して、沿岸から一二海里(22・2㌔)以上離すことが決められている。

 

 ドイツでは、連邦海運・水路庁による海洋空間計画において、離岸距離一二海里(22・2㌔)以上の海域を洋上風力発電の立地を促進する区域として指定している。

 

 また中国では、エネルギー部門を管轄する国家能源局と国家海洋局との調整の結果、洋上風力発電の設置には漁業や海上交通路の確保を考慮しつつ、離岸距離10㌔以上の海域に設置することを原則としている。

 

 さらに実際に洋上風力発電が沿岸からどのくらい離れた場所に建てられているかを調べてみた【グラフ②参照】。沿岸からの平均離岸距離は、稼働中のもので、イギリスは20㌔近く、ドイツは40㌔以上、オランダは20㌔以上などとなっている。建設中や計画段階のものは現状よりももっと陸地から離れた場所に設置する傾向が顕著で、イギリスでは平均して80㌔近く、ドイツでは60㌔以上となっている。欧州の海は遠浅だという条件があるものの、沿岸からわずか1~2㌔という、住宅地や病院、学校にきわめて近い場所に巨大洋上風力発電を建てるような計画が出ているのは、世界中で日本だけだ。

 

ドイツ  電気代上昇しFIT破綻

 

 実際、風力発電を世界に先駆けて導入した欧州各国では、住民たちが低周波音による健康被害を訴えて各地で反対運動を起こしており、政府によって環境規制が強化されてきた。

 

 風車が回ることから発生する低周波音・超低周波音は耳には聞こえない振動で、頭蓋骨を貫通してめまい、吐き気、頭痛、不眠などを引き起こし、二重サッシにしても防げず、発生源を止めるか転居する以外に解決方法はない。それは誰にでも起こるわけではなく、個人差があるため、企業は因果関係を否定し被害者は精神科の受診を勧められたりしてきた。しかし欧米諸国で風力発電が盛んに建設されるようになった2004年頃から、被害者から医者への相談が頻繁に寄せられるようになったと、ニューヨーク州の小児科医ニナ・ピアポイントが報告している。その後、風力発電が稼働するどの国でも同じような被害が出ていることがわかり、「振動音響病」「慢性騒音外傷」「風力発電機症候群」などと名付けられている。

 

 ドイツは福島原発事故後に脱原発・再エネ強化に舵を切った再エネ先進国だが、そのドイツでも最近では風力発電建設が頭打ちになっている。

 

 2016年に新規に建設された風力発電の設備容量の合計は462万5000㌔㍗で、2017年にはそれが533万4000㌔㍗に増えたが、2018年になると240万2000㌔㍗に減り、2019年にはさらに197万8000㌔㍗に減った。昨年は143万1000㌔㍗と、3年前の約4分の1に落ち込んでいる。新規の風力発電建設基数で見ても、2019年は325基で、2018年の743基の半分以下に減った。ピークの2002年には2328基だったから、いかに急激に落ち込んでいるかがわかる。

 

 その最大の原因は、ドイツ北部を中心に住民たちが健康被害や景観の破壊、野鳥の保護などを訴えて風力反対運動を起こし、住民による建設差し止め訴訟も頻発して、地方自治体が事業者の建設許可申請に認可を出せなくなっていることだ。

 

 北海とバルト海にはさまれたシュレースヴィヒ=ホルシュタイン州のノイエンドルフザクセンバンデという町(人口約500人)は、周辺の半径15㌔範囲に約300基の風車が林立している。そこに住む住民は、自宅から数百㍍のところで3基の風車が稼働し始めると、耳鳴りや吐き気に耐えられなくなり、低周波の健康被害を訴えて訴訟を起こした。住民は2006年から5年がかりでこの裁判に勝ち、3基の風車を撤去させた。

 

ドイツ東ヘッセン州の市民運動「理性の力」地域同盟の呼びかけでおこなわれた風力建設反対の8000人デモ(2015年)

 このような住民訴訟は全国325基の風車を対象におこなわれている(2019年)といわれ、各地の住民の連携も強まっている。

 

 こうした動きを受けて、環境規制を強化する自治体が増えている。バイエルン州は2014年、陸上風車を新しく建てる場合、風車から最寄りの住宅地までの最短距離を風車の高さの10倍にしなければならないという「10Hルール」を決定した。よくある高さ200㍍ぐらいの風車なら、2㌔以内に民家がある場所には建てられないことになる。こうした規制が各州に広がり、多くのプロジェクトが実施できなくなった。この動きに緑の党や環境保護団体は反発しているが、その趨勢を覆すことはできない。

 

 もう一つの原因は、再エネの急増で電気料金が急上昇し、それを負担する国民の反発が強まるなか、ドイツ政府がFIT(固定価格買取制度)を段階的に終了させて入札制に移行し始めたことだ。もうけが少なくなった再エネ事業者は撤退を開始し、海外に新たな市場を求めている。

 

 ドイツ政府は2000年に再生可能エネルギー促進法を制定し、FIT制度をもうけて風力や太陽光事業者に20年間、高い買取価格を保証して参入を促してきた。その高い買取価格の原資は、各家庭から徴集される電気料金の中に再エネ賦課金として上乗せされた。その結果、2000年に1㌔㍗時当り13・94ユーロセントだった電気料金が、2021年には同じく31・89ユーロセントと3倍近くに値上がりし、再エネ賦課金はその2割を占めるようになった。

 

 同じ制度を導入している日本の将来を見るようだが、ドイツでは国民の反発が強まるなか、政府は再エネ促進法を改定した。すると20年前に事業を始めた多くの再エネ事業者が今年1月からFITの適用を受けられなくなり、収益が大幅に減ることになった。こうして2025年までには、ドイツの陸上風力発電の4分の1以上に相当する1500万㌔㍗の風力発電事業が閉鎖の危機に直面していると報道されている。

 

 ドイツに拠点を持つルクセンブルクの風力メーカー・センヴィオンは2019年、受注減で倒産した。ドイツ風力産業大手のエネルコンはプロペラ受注額が急減して初の赤字となり、今後は外国での投資を拡大する方針を決めている。

 

デンマーク 低周波で暴れるミンク

 

 ドイツだけではない。同じ再エネ先進国のデンマークでも住民の反対運動が活発になっている。

 

 デンマークでは、2009年1月に「巨大風車の隣人たち」という全国組織ができた。きっかけは、ある町で新規の風力発電計画が持ち上がったとき、別の町では150㍍級の巨大風車が稼働し始めて近隣住民が頭痛や不眠を訴えていると伝えると、住民たちが署名運動に立ち上がり、計画を白紙撤回させたことだ。全国各地で同じ問題が起こっていたことから連携を強めていき、全国各地の179のグループが加盟する組織となった。

 

 デンマークは古くから風車を利用してきた国だが、かつてはそれほど大きくなかった。それが産業用に巨大な風車を建てることで健康被害が頻発するようになった。「巨大風車の隣人たち」は、巨大風車の近くに住む住民を健康被害などから守ることを目的に、騒音・低周波音の規制の強化などを訴えている。政府がヴェスタスやシーメンスなどの風力発電産業の側に偏った政策をうち出すことを批判している。

 

 2013年にはヴィルトビエルクのミンク飼育場で、ミンクが金切り声を上げて荒れ狂い、お互いにかみつきあい傷つけあった。結局、100頭以上を殺処分することになり、獣医師が家の裏で稼働し始めた風力発電を止めるよう訴えた。これが国中に知らされると、2014年には新規の風力発電建設が激減した。

 

 2017年3月、デンマークのエスビャウ市環境計画委員会は、市の域内においてすべての陸上風力発電の建設を禁止するという結論を出した。これによってヴィスレフなど市内3カ所で計画されていた合計34基の風力発電の建設ができなくなった。同委員会のジョン・スネッカー会長は、「風力発電に対する抵抗が爆発的に増えた。反対派はなによりも低周波音の健康影響を不安視している」とのべている。

 

オーストラリア 裁判所が健康被害認定

 

 また、再エネ大国といわれるオーストラリアでは、裁判所が風力発電の低周波音と健康被害との因果関係を認める裁定をおこなった。

 

 2017年12月、オーストラリア行政不服申し立て裁判所(AAT)は、世界で初めて、「風力発電から発生する低周波音や超低周波音を原因とする“ノイズ迷惑”が、病気発生の原因となっている」と認めた。裁判所の見解は、高血圧症や心臓血管病を含む一部の病気が、低周波音による睡眠障害、心理的ストレスや苦痛に仲介され、関係づけられているというものだ。AATはさらに、現在の風力発電の騒音基準(世界中の風力発電でガイドラインになっている)が、この裁定で明らかになった問題を規制するには不適切であると批判した。

 

 報道によると、AATの審問では連邦裁判所首席判事によって、風力発電ノイズの加害力について、現在知られている最新の情報でもっとも徹底的な科学的調査にもとづく考察がおこなわれたという。

 

 そのまとめでAATは、関連する専門家の全会一致の賛同を得て、風力発電ノイズが40デシベル(A)(睡眠を阻害する閾値として認められている)をこえる記録が多数あることを確認した。また、低周波音や超低周波音は耳には聞こえないけれども、聴覚を介さない、まだ十分わかっていない他の影響に媒介されて、人体に悪影響を与えている可能性があると指摘した。

 

 これまで風力発電のPRをおこなってきたメディアの多くがAATのこの裁定について沈黙を守っており、批判の声があがっている。一方、AATが指摘した低周波音が高血圧症や心臓血管病などを引き起こす問題は、アメリカ心臓学大学雑誌『Journal of the American College of Cardiology』の論文でもとりあげられている。

 

オランダ  魚介類がいなくなった

 

 オランダでは昨年、洋上風力発電が林立している北海を漁場とする漁業者にインタビューした動画が話題になった。

 

 洋上風力が建設されることで漁場がどのように変化したのか、漁業者たちは次のように語っている。

 

 「北海の東部では洋上風車が建った結果、ヒラメ類のような海底に棲(す)む魚種がほぼ完全に姿を消した。海底に風車のポールを打ち込むと、それが潮の流れを止め、流れを変えた。そして海の中の水流に乱れが起こり、土壌の構成が変わってしまった。魚は種によって特定の沈殿層の上で暮らすことを好むので、それまで棲息していた魚がいなくなったのだ」

 

 「私たちは1960年からホタテの資源量を守ることに努めてきた。しかし風車の建設工事中、稚貝が大量に死んでしまい、努力はすべて無駄になった。風車のあるエリアの近くで二年にわたり操業が禁止されるだけではない。洋上風車ができる世界中のすべての海で魚介類がいなくなる」

 

 「企業がコストを優先して産卵場所である沿岸に風車を建てたため、風車の近くでは漁場は完全に死んでいる。風車の近くではわずかな魚しか見かけない」

 

 「魚の最高の繁殖場所で漁場になっていた海域の中に、広大な風車建設区域ができた。そこは漁業禁止区域となって操業は許されなくなり、漁場をより遠くに移さねばならなくなった。小型船で80~95㌔沖に出ている」

 

 「われわれの島では、漁業は先祖代々受け継がれてきたものだ。沿岸漁業が脅かされれば、800の職業が脅かされる。観光客に新鮮な魚を提供して喜ばれることもなくなる」


 「しっかりした調査はおこなわれていない。だからなにが起こるか誰も知らない。われわれが洋上風力に反対する理由はそれなんだ」

 

 日本では事業者は「洋上風力が魚礁になる」と強調するばかりで、こうした不都合な事実は知らせない。

 

洋上風力増やす日本 低周波音の規制もなく

 

 以上のように住民の反対運動が高まるなか、ドイツ、デンマーク、イギリス、オランダなどでは政府が再エネの補助金を削減したり、FIT制度を改定して買取価格を値下げする動きがあいついでいる。こうして風力先進国では「ブームは去った」といわれ、在庫処分のために新たな市場を日本など海外に求める動きが活発化している。

 

 一方日本では、政府が「2040年までに洋上風力を最大4500万㌔㍗増やす」といい出したために、外資が色めき立っている。ドイツの洋上風力を全部あわせても4000万㌔㍗で、それを上回る巨大な市場が見込めるからだ。

 

 しかも欧州では洋上風力発電の買取価格は、1990年頃には1㌔㍗時当り60円程度だったものが、2015年からは同じく約6~12円程度に引き下げられ、入札制度への移行で2025年までにはさらに半減するという試算がある。一方日本の場合、FITによって洋上風力は36円という高い買取価格が保証されてきたし、昨年9月の経産省の見直しでも、入札の上限を29円とすることが決まっている。原資は電気料金に含まれる再エネ賦課金だから、国民のカネを外資が持って逃げることになる。

 

 おまけに日本は、欧米諸国の動きに逆行して、低周波音に対する規制がないに等しい。環境省は低周波音・超低周波音による健康被害を認めておらず、「風車騒音は超低周波音ではなく、通常可聴周波数範囲の騒音の問題である」といって被害者を切り捨てている。事業者はこの環境省の見解を盾に「影響はない」といいはり、建設をゴリ押ししようとしている。

 

 しかしその日本でも、大企業のもうけのために健康被害で住民の生活を脅かし、海の生態系に影響を及ぼして漁業も成り立たなくする巨大洋上風力発電に対し、各地で住民が反対行動に立ち上がっている。

関連する記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。