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タネと人、文化をつなぐ挑戦 八百屋「たま屋」(防府市)・山根たまみ氏の取組

 防府市や山口市で「タネの交換会」を主宰する八百屋たま屋の店主・山根たまみ氏。山口市徳地のあわや自然農園で農作業を手伝いながら、月に2回ほどテントと農園の野菜を持って防府市内で小さな八百屋を出店する。4年前から年に一度、山口市のアースデイのイベントでタネの交換会を開いて、固定種といわれる在来種、伝統野菜のタネを集め、求める人たちに提供し、交換しながら地域でゆるやかにタネと人をつなぎ文化をつないでいくネットワークづくりをめざしている。


  

 スーパーに並ぶキュウリ、人参、大根は、大量の規格野菜を求めるスーパーの流通サイクルに合わせるためにF1品種が大半を占める。だがキュウリにもオクラにも大根にも、実はスーパーに並ばない多様な種類がある。オクラといえば断面が六角形のものを思い浮かべる人も多い。だが例えば八丈オクラと呼ばれる品種は、通常のオクラよりも大きめで、やわらかく断面は星形ではなく丸みを帯びており粘りが強いのが特徴だ。その個性豊かな特徴をもった多様な野菜のタネが、大量生産、大量消費のサイクルのなかで消えつつある。一度失ったタネは再生することはできない。それを危惧した山根氏は、地域でおじいちゃんやおばあちゃんの代から育て続けている我が家自慢のタネ、地域でめぐるタネなど、市場に出回らない野菜のタネをつなげていくために「タネの交換会」を始めた。

 

 3年前に「タネの交換会」で偶然知り合ったというおじいさん。おじいさんが家庭菜園で自家採種してきたタネは、薬袋に入って駄菓子の缶に入れて保管されていた。「何十年も自家採種し続けているおじいちゃん、おばあちゃんたちにとってはそれがあたりまえのこととして暮らしに根付いている。誰かに伝えて残していく価値があるものという意識がない。お年寄りにタネありますかと聞くと、“珍しいものはないよ”と返ってくる。“違うんだよおばあちゃん。あなたがずっと守り続けたタネが欲しいんよ。つくれなくなったら誰かに受け継いでほしいんよ”と伝えている。買えば簡単に手に入るタネだが、あえてそこに手間暇、愛情をかけてタネを採り、みんなで持ち寄り、物々交換、共有することでタネを守っていく」のが目的だ。家庭菜園をする人、若手農業者、自然農をおこなう人など来る人はさまざまだが、タネをつなぐことがひいては人をつなぎ地域の文化を繋いでいくことになる。

 

 ちなみに山根氏が家庭菜園で種継ぎしている品種は八丈オクラと仁保きゅうり、グリーンピース、ツル首カボチャ。その他にあわや自然農園で収穫した野菜(万次郎カボチャ、大和クリームスイカ、マクワウリ等)を食べて、タネだけ採って持っているものもあるという。「30種類の固定種を一人で守るのは難しいけれど、30人が集まって地域でなんとなくタネをつないでいく。もし大雨でタネが流れてしまっても“あなたからもらったタネが生きているよ”というようにゆるやかなネットワークができていければ」と理想を描いている。ちなみに宇部市でもタネの交換会が開かれている。

 

 今年は新型コロナという未曾有の事態に見舞われた。4、5月に八百屋と同時におこなった「タネの交換会」では、コロナ禍で自分の暮らしや食に改めて意識を向け、家庭菜園を考え始める人もおり、タネを求める人が複数いたという。

 

宇部市の竹炭黒五郎さん主宰のタネの交換会(山根氏より提供)

山根氏主宰のタネの交換会で集まった在来種と家庭菜園でとれたタネ

 

 山根氏が「種」に注目するきっかけとなったのは大学時代にオーストラリアを旅していた頃。パーマカルチャー(持続的農業)を実践する農家に滞在しているときの衝撃的な出来事が原点になっている。

 

 「ある朝、この家のお母さんが突然“そこの庭の隅にトマトが芽を出したのよ”と笑っていた。家族も笑っているが、私だけその意味がわからない。誰も種まきしていないのに芽を出したトマトの理由を尋ねてみると、この家のコンポストトイレが重要な役割を担っているようだ。家族の誰かが食べたトマトが体内で消化され、この家のトイレで排せつされる。その後この排せつ物が家族の手によって堆肥化されて庭にまかれていた。この過程を経てトマトは発芽し、育ち、その実を熟させたとき、再び食卓に並び、家族の誰かに食べられる。私たちが、食べる。消化する。排せつする。食べる。消化する。排せつする。日々の暮らしのなかで当たり前にくり返されるこの循環が、トマトの種を通してつながった。なんてシンプルな暮らしなんだろう! 当時の私は、種があれば、こんなにもシンプルに生きられるんだと感動した」という。

 

種苗法に思うこと

  

 山根氏は、現在問題となっている種苗法改定についても食べる側(消費者側)からの反対の声を上げる必要があるとの思いを持ち、フェイスブックで次のように発信する。「私が個人的に感じたことですが、(種苗法について)ベテランのプロの農家さんは反応が薄い…。農業を、経済活動としている以上、効率良く稼ぐってことを考える。その流れで品種改良種(F1品種)が選択される。そのおかげで、私たちは安くて安定的に野菜を買うことができている。ここ、大事」「ただ、食いしん坊な八百屋としては、スーパーでは買えない固定種の野菜も食べてみたい! 地域に伝わるお漬けものを自分でも漬けてみたい! と思っている。そして同じような食いしん坊な消費者の方々の声も農家さんに届けたいと思う。……直接の打撃を受ける農家さんだけが種苗法改正に反対しているのではなく、むしろ食べる人から発信する“種苗法改正反対”が必要なんじゃないかと思う。その延長で種苗法改正を廃案にしてほしい。廃案にするべきです」と。生産者と消費者をつなぐ八百屋の位置から、固定種の野菜の調理法や取扱方法などについてお客に伝えることを心がけている。それによって固定種や伝統野菜が調理され、地域の人々の食卓に並び、またその野菜が食べられる。その「地産地消」こそがタネを守り、食文化を守ることにつながる。「身の回りの人たちでまかなえる小さい暮らしが、地域の未来にとっても人間の暮らし、健康にとってもいいのではないか。とても地味で地道なとりくみですが手から手へ、タネのバトンをつなげていけたらいいなと思っています」と話す。

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