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沖縄が問う「平時の安保」と「有事の安保」 沖縄国際大学大学院教授・前泊博盛

 参議院予算委員会で12日、「外交・安全保障」分野での公聴会に、沖縄国際大学大学院教授の前泊博盛氏が公述人として招かれ、意見陳述と質疑応答をおこなった。辺野古新基地建設の是非を問う県民投票を経た沖縄の現状を伝えるとともに、そこにあらわれている日本の主権と民主主義、安全保障上の問題についての現状と課題を指摘した。発言内容を整理して紹介する。

 

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「選挙民主主義」の否定

 

 「沖縄が問う平時の安保、有事の安保」というテーマでお話する。沖縄が抱えている問題は、日本の主権、民主主義、安全保障など多岐にわたってかかわっている。

 

 先だって沖縄では県民投票が実施された。なぜかといえば、選挙で示された民意が尊重されないからだ。「選挙で示されたものは辺野古移設を否定するものとはみなされない」と安倍政権がいうので、県民は仕方なく、辺野古問題を改めてワンイシュー(単一争点)で問うということで動いた経緯がある。

 

 投票結果は、投票率52・48%、そのうち反対が72・2%という数字になった。この72%のなかには、自民党支持層が4割を占めていることが出口調査で明らかになっている。だが、示された民意が今度こそ生かされるのかと思えば、この結果もまた無視されることになっている。この国は本当に民主主義国家なのか、われわれ県民、国民の一人一人として、投票するまでは主権者であるが、投票後は国会に送り出された皆さんがそれを体現していただかなければ、この国の民主主義はすでに崩壊しているということになってしまうと思っている。

 

 さらには、「安保の呪縛で失う主権」という問題だ。昨年12月、ロシアのプーチン大統領がこんな発言をしている。「辺野古の基地建設を見れば、日本の主権がどの程度かわかる」。日米地位協定第二条では、日本政府の米国に対する施設・区域の提供義務を定めている。北方領土問題の日ロ交渉で「二島返還」が棚上げにされた経緯には、実は、北方領土を返した場合に米軍基地が置かれるかどうかという可能性についてロシアが問うたところ、日本側が「置かないという約束はできない」と発言したことに要因がある。これについては外務省の機密文書『日米地位協定の考え方』でも、「北方領土の返還の条件として『返還後の北方領土には施設・区域を設けない』との法的義務をあらかじめ一般的に日本側が負うようなことをソ連(ロシア)側と約することは、安保条約・地位協定上問題がある」としている。

 

 これに対してプーチン大統領は、「日本が決められるのか、日本がどの程度の主権を有しているかわからない状況のなかで、辺野古をみればその程度がわかる。知事が基地拡大に反対しているが、日本政府は何もできない。人人が撤去を求めているのに基地は強化される。みんなが反対しているのに計画が進んでいる」と指摘している。ロシアのクリミア半島併合の話を抜きにしてプーチン大統領にこのような話をされるのもいささか癪ではあるが、このような発言があることを踏まえると、辺野古問題はまさにこの国の民主主義、そして主権を問う焦点であるといえる。安全保障上も非常に大きな問題を抱えている。

 

 次に、「返らない普天間基地」だ。私も新聞記者としてこの問題を取材してきたが、残念ながら20年前に約束されたSACO(沖縄に関する特別行動委員会)合意が実現する可能性はないと私は見ている。普天間基地をとり返す自信のある国会議員がいるなら手を挙げてほしい。それを米国と交渉してとり返すだけの力のある議員は、私が見る限りこの国には存在していない。それの理由に、SACO合意を勝ちとったのはあの橋本龍太郎総理大臣だった。橋本総理はその当時、沖縄県が要求した基地の整理・縮小、全基地の返還計画をもって揺さぶりを掛けられて、11施設の返還をクリントン大統領と直接交渉して勝ちとっている。

 

 その後の内閣は、この橋本総理が残した財産すら実現できないまま現在に至っている。そしてSACO2、SACO3という形で、沖縄の負担軽減、あるいは日本の主権をとり戻すような、在日米軍基地を減らすような行動は何もしていないということだ。与えられた宿題すらクリアできないような政権しかこれまで続いていないということになる。

 

 沖縄県民からは「政府のやるやる詐欺」「返還詐欺」だという指摘まで出ている。SACO合意は、日米合意が実現されないという一つの象徴的事例だ。一部が返還されたことを評価するとしても、その象徴である普天間基地については「返す、返す」といって返されていない。

 

 20年間返還できずにいたが、5年前に仲井眞知事(当時)と安倍政権が約束をした。「世界一危険な普天間基地については5年以内に閉鎖しましょう」と。その言葉を真に受けて仲井眞知事は、辺野古埋め立ての環境アセスにゴーサインを出している。そして、今年2月に5年の期限を迎えた。このとき現防衛大臣は「沖縄県民が協力しないので実現が難しくなっている」と発言した。そもそも5年前に約束をした段階で、米側は「建設に13年もかかるのに5年で返せるのなら普天間はいらないということになるじゃないか」と矛盾を指摘していた。その後は、この問題はペンディング(保留)されたままズルズルときて、5年経ったら「県民が協力しない」という話だ。このように県民のせいにして約束を反故にしている状況がある。政権を担う側として、約束は守るという姿勢を示し、そして、今後、普天間が本当に返せるという道筋をしっかりと示せるかどうかというところだ。これも示せずに新しい基地をつくるとどうなるか、しっかりと考えてもらいたい。

 

米軍普天間基地

最も危険な嘉手納基地

 

 安倍政権は何回も「普天間基地は世界一危険な基地」と発言している。そして、くり返しそれを強調することによって、辺野古新基地を「唯一の解決策」だとして正当化してきた。では普天間基地が「世界一危険」とする根拠は何か。復帰後(1972~2017年)に沖縄で起きた米軍機の事故は738件ある。そのうち普天間基地の中で起きているのは17件。一方、嘉手納基地では508件も起きている。この数字を見ても、なぜ普天間が「世界一危険」なのか根拠がわからない。沖縄では皮肉を込めて「嘉手納は世界一ではなく、宇宙一危険なのか」とも語られている。しっかりと数字をもって世界一の理由を示し、世界で2番目、3番目はどこが危険なのかという議論もしないままに世界一の座を与えて印象操作をしている感がある。

 

 嘉手納基地については、宮森小学校米軍機墜落事故(1959年)でたくさんの児童が犠牲になった。事故数は最多で、最も危険な基地であるはずなのに、これについて議論しない理由は何なのか。この国の国会を見る限り、解決できない問題を先送りにする。そして森友や加計学園の問題と同じように、解決できない場合は「なかったこと」にするという掟があるかのようだ。このような国会でよいのか。

 

 米軍にとって最も危険な基地は、恐らく普天間基地だ。それは万が一、何かが起きたときに沖縄の全基地返還に繋がりかねないという危険性があるからだ。しかし、日本や沖縄にとって最も危険な基地は嘉手納だ。その嘉手納の問題に触れないようにしているのは何なのか。日米安保のくびきがそういうことを回避させているような気がする。

 

不可能な辺野古新基地の建設

 

 さらに「不可能な辺野古新基地建設」について。県民投票の段階でも「何のための基地建設か」という問題が出てきた。

 

 沖縄の保守政治家は「米軍の名を借りた自衛隊基地の建設ではないか」という。あるいは先だって沖縄県民投票のシンポジウムにお呼びした軍事アナリストの小川和久氏は「普天間の代替機能が欠落している。辺野古をつくっても、有事のさいに必要な500機の駐機場すらない。使い物にならず、米軍は受けとらない可能性がある」と指摘した。ではなぜ強行してつくるのか。「それは企業との約束でつくらざるを得ないのだ。汚職である」とまでストレートにいっていた。根拠が示されないということで報道はされていないが、そういうことも検証する必要がある。

 

 さらに辺野古基地建設の困難さも明らかになっている。まず軟弱地盤の問題。7万7000本の砂杭を水深90㍍の段階まで打ち込まなければならない。それが実際にできるのか? 日本企業の実績としては「70㍍まではある」と国会でもいっている。実績は65㍍という話もある。辺野古で議論しているのは90㍍であるが、その実績は出てこない。

 

 地盤沈下の可能性についても政府が認めている。造成後に地盤沈下する可能性のある基地を米軍が引きとって運用するかどうか。この確認をしておく必要がある。

 

 さらに活断層の問題がある。沖縄各地に活断層があり、辺野古には間違いなく活断層があることを専門家が指摘しているのに、この問題について国会ではまったく議論されていない。こんな危険なところに基地をつくる必要があるのかということをしっかり議論してほしい。

 

 砂杭も含めて、莫大な建設費がかかる。沖縄県の試算でも2兆5500億円だ。こんな莫大な予算を使う余裕がこの国にあるのかという話だ。せめて半分、ないし8割でも米軍に負担させることができるのかどうかという議論も必要だ。防衛大臣は「この数字は大げさだ」といっているが、安倍首相は「いくらかかるかということについて詳細を示すことはできない」と答弁している。お金がいくらかかるかわからないような基地建設にどんどん国税を費やしていくという、納税する側からすれば「ふざけるな」という話になる。

 

 

 さらに航空法上、建設後に高さ制限に抵触する建物がたくさんある。米軍施設である辺野古弾薬庫ですらひっかかる。近くに新設された国立高専もだ。これに対して防衛大臣は「地位協定上、航空法を免除するから大丈夫だ」といっている。国民の安全を守るために定められた航空法を免除することによってしかクリアできないような基地をつくること自体、非常識な話だ。何から何を守るための安全保障なのか。国防とは何なのかを問い直してほしいと思う。

 

 建設期間も13年間という膨大なもので、見通しが立っていない。沖縄県の試算でも、政府の試算でも10年以上かかる。その間、政府が「世界一危険」という普天間は放置される。20年放置されたうえにさらに13年は放置する。そのことがどれだけの危険性を生むのか。

 

普天間第二小学校に設置されたシェルター

 一昨年12月、普天間基地を飛び立った米軍CH53ヘリが窓枠を小学校のグラウンドに落下させた。政府は「危ないので学校上空の飛行をしないでくれ」とお願いしたが、米軍は聞き入れない。そこで日本政府はグラウンドの中にシェルターを2つつくった。そしてヘリが学校上空を飛ぶときには「退避!」と係員が叫んで子どもたちをそこへ避難させる。こんな国が他にあるだろうか? 小学校の子どもたちを守るためにヘリが飛ぶたびに900回も退避をさせる状況を放置している。普天間が放置されることの危険性をしっかり把握してもらいたい。

 

 その他に環境破壊の問題がある。安倍総理は、辺野古ではサンゴを移植したうえで埋め立てていると発言したが、それはわずか1群落に過ぎず、しかも埋立地では移植をしていないと沖縄県が抗議している。政府は「いや、9群落は移植した」という話をしているが、当該地には7万4000群落のサンゴが群生している。このサンゴを埋め立ててまでつくる必要があるのかを含めて議論が必要だ。

 

 大所高所からの外交安全の問題に加えて、沖縄が抱えている問題を踏まえて日本の安全保障のあり方について抜本的な問題解決を図ってもらいたい。

 

◇-----議員との質疑応答-----◇

 

 与党議員) 自衛隊について、また国防の観点から日本をとり巻く安全保障環境についての認識を聞きたい。

 

 前泊 自衛隊問題については、今沖縄ではもう一つの基地問題として大騒ぎになっている。宮古・八重山において、今までなかった自衛隊基地がつくられるということで、地元から反対の声が上がっているが、それを無視する形で建設がされている。

 

 この間、中国脅威論がさかんにとり沙汰されているが、中国という国は日本にとっていらない国なのか、必要な国なのか、むしろ逆にお聞きしたい。脅威論というのは、軍事的な脅威論が強調されるが、経済的な脅威論もある。残念ながら、中国は経済的に日本にとってなくてはならない国になっている。それを軍事的な脅威論だけではね除けることができないところが難しいところだ。貿易量でいうと、中国とは35兆円ほどの取引がある。米国とは25兆円だ。どちらをとるかということで、安全保障上、日本は米国をとるといっているが、中国をとらずしてバランスは保てない。逆にいえば、どちらをとるかではなく、米国も中国も選択しなければこの国は成立しない経済環境にある。軍事的脅威論を強調したいかもしれないが、経済的な安保との両輪であり、順序としてはまず経済安保をクリアしたうえで軍事安保について議論をすることが、国の行く末にとって非常に重要なポイントだと認識している。

 

 与党議員) 私は日経新聞記者だったので、経済的な意味での中国のプレゼンスや関係は理解しているつもりだ。今の話では、現状日本の国防費は減らしても問題ないと考えているのか。

 

 前泊 防衛費5兆円というのは、この国にとっては非常に大きい気がする。そして外交部分の予算が少ない。今5500人ほどの外交官がいるようだが、中国、ロシアにしても8000人。フランスでは1万人。米国では2万人をこえている。外交力の強化をせず、軍事力だけ増やして解決ができるのかどうか。北朝鮮問題ではっきりしているのは、軍事的な衝突の前に外交で解決しようと、あのトランプ大統領ですらいっている。その外交的な努力を米国に丸投げをしている日本の現状でよいのかとの疑問がある。国民の側からすると、もう少し外交にお金も人も力を入れて、軍事的なものをやるまえに火消しをしていくという作業が必要なのではないかと思っている。

 

 与党議員) 日米同盟、日米安全保障条約は必要と考えるか、いらないと考えるか。

 

 前泊 日米同盟もたいへん大事だと思う。ぜひ大事にしていただいて、ただし日米安保だけではダメだろう。同盟関係は、多国間安保が非常に重要だ。そのために国連がある。日本は米国を唯一とするかのような安全保障体制だが、その米国は世界101カ国との安全保障体制をとっている。101分の1なのか、1分の1なのか。その違いで、日本の外交、主権すらも制限する関係性ができている。日米安保が柱だとしても、あまりにも重きを置きすぎて、そこに縛られ過ぎている。安倍政権は、オーストラリアなどを含む多国間安保に動いているようだが、これを加速して他の国とも、101カ国と安全保障体制を築けるような柔軟性が欲しいと思っている。

 

 Q与党議員) 在日米軍の海兵隊の問題は、自民党政権でも、現在の野党が政権を握っていたときも非常に大きな問題だった。海兵隊をどうするべきなのか、結論を問いたい。

 

 前泊 その前に、海兵隊の必要性と役割についての正確な分析が必要だろう。今沖縄に何人駐留しているか、ご存じの方は何人いるだろうか?

 

 この数字については2011年以降、開示されなくなった。何人いるかもわからないのに、その削減の話だけ出てくる。「1万8000人から8000人をグアムに移転して1万人にする」というが、米軍司令官に聞くと、「今実際には5000人しかいない」という話をする。5000人しかいないのに8000人をどうやって動かすのかという話になる。この数字すら把握していないのに、この国会で議論されている。海兵隊の必要性の前に、海兵隊が何人いて、どのような役割を果たしているかをまず議論し、それを踏まえてさらなる議論をするべきといえる。

 

辺野古基地建設中止を

 

 野党議員) 県民投票について、防衛大臣は「沖縄には沖縄の民主主義、国には国の民主主義がある」と発言していたが、どのように捉えるか。

 

 前泊 いわずもがな県民は非常にがっかりしている。この国には民主主義は根付いていないのかと。その象徴として国会で大臣がこのような発言をする。非常に深刻な事態だ。「国には国の民主主義」というのなら、沖縄は日本ではないのか?という話すら出てくる。せめて公平公正な政治をおこなえる体制を、言葉だけでなく実態で示してほしい。

 

 野党議員) 争点をぼかした名護市長選に引き続き、政府は県民に諦めさせる目的で土砂投入をおこなったと見えるが、それを踏まえたうえで県民投票の結果について評価をお聞きする。

 

 前泊 名護市では昨年2月、基地に賛成あるいは事実上受け入れを容認している市長が誕生したが、県民投票の名護市の結果を見ると反対が賛成の4倍にのぼっている。つまり、県民投票をするまでもなく、市長選で辺野古の是非を問うていれば違う結果が出ている可能性もあった。宜野湾市でも同じような結果が出ている。今度の3区補選、参院選もそうだが、「振興策vs基地問題」という土俵の違うたたかいはもうやめた方がいい。がっぷり四つに組んでたたかって民意を確認することが選挙にとって必要だと思う。県民投票や住民投票を必要としていること自体が問題であり、この国の選挙民主主義が機能していないことの証左だと思う。

 

 野党議員) 県民投票の結果を受けて、米国との交渉等を含めて政府は何をすべきと考えているか。

 

 前泊 当然、反対という結果が出た以上、その民意をしっかり米国に伝え、辺野古基地建設を一旦中断するというのは当たり前のことだ。先ほどものべたが、六つのできない理由が明らかになっている。たくさんのお金も期間もかかる。軟弱地盤が見つかり、表に出ていない活断層の問題も出ている。このような事態のなかで、しかも辺野古は普天間の代替機能も持っていないという話であれば、米国に対して「もう無理だ」ということを沖縄県民が県民投票という形で背中を押してあげている、その理由まで準備してあげているわけだから、安倍政権にとっては絶好のチャンスだと思う。20年かけてできなかったことに一旦終止符を打ち、新しい解決策を考えていく。その機会として米国に対して「この問題については中止します」と伝えるのがベストだと思っている。

 

 野党議員) 内閣の方針は「何があっても辺野古の土砂投入を進める」であり、防衛大臣も県民投票の結果にかかわらず工事を続ける意志であった旨を答弁している。この姿勢をどのように考えるか。

 

 前泊 軍事上の必要性というよりも、それをつくらなければならない理由が別にあるのではないかと疑っている。基地をつくらなければならない理由について、もう少ししっかりと説明ができるように国会で議論をしてほしいと思っている。

 

 既出の小川和久氏は「さんずい」(警察用語で汚職)だと話していた。「でなければ、この基地をつくる軍事的な理由がつかない」と。そのような専門家の言葉をどう受け止めるか。環境アセスについても、アセス事業を受注している企業の90%以上が防衛省の天下り企業であるとの報道もある。それらを見ると、国内企業の利権のためにこの基地を建設している可能性もあるのではないかという専門家の指摘に対して、しっかりとこれを検証してほしいと思っている。

 

 野党議員) 海兵隊が沖縄に必要なのかどうか、軍事的に見てどのような見解か。

 

 前泊 これについては、中谷元(自民党)、森本敏(民主党)の2人の防衛大臣がはっきりと、「海兵隊の駐留は沖縄でなくてもよい。しかし、地域の住民の反対でそれができないので政治的理由から沖縄に置かざるを得ない」と発言している。この軍事専門家たちの発言について検証はされていない。1957年、米軍上陸部隊が本土から沖縄へ移転してきた経緯がある。本土で悪さをして、住民の反対運動によって追い出された海兵隊は、行き場を失って沖縄に駐留している。沖縄にいなければならない理由は、後知恵でどんどんつくられてきたのが経緯だ。再配置も含め、本当に日本の総合安全保障において海兵隊の駐留が必要なのかについて再議論すべきだ。でなければ、この問題にとどめを刺すことはできない。

 

 海兵隊は世界のどこにでも展開をし、いまや高速移動が可能になるなかで、あえて日本にいなければならないという理由はない可能性がある。にもかかわらず日本駐留に固執しているのは、安全保障についてほとんど理解のない国会議員たちが議論をしているのではないかという疑念を持っている。

 

 野党議員) 政府は「沖縄の負担軽減」といって辺野古を含む基地の分散化を図ってきたが、負担は減っているのか。

 

 前泊 普天間基地での騒音は以前に増してひどくなっている。夜間も家が震えるほど揺れる。普天間の5年以内の閉鎖といいながら、昨年春から秋にかけては滑走路のかさ上げ工事をおこない、今は兵舎の改築工事だ。2月に返すと約束し、「県民が協力しないから返せない」といいながら、普天間の強化はどんどん進んでいる。何をするのかと思っていたら、嘉手納飛行場の滑走路が一本改修工事に入り、そのため航空機がダイバートで普天間を使うようになって、普天間の被害は倍増している。嘉手納のオスプレイも横田に移転配備されたが、結果として沖縄で訓練をするために飛んできている。そして沖縄のヘリパッドは62カ所だったのが、いつのまにか88カ所に増えている。訓練場所はどんどん増えている。

 

 「沖縄の負担軽減」と国会でよく論議されるが、移転先の矢臼別や日出生台での訓練の中身を見ると、17㌔も飛ぶような長距離砲やクラスター弾を撃っている。沖縄での104号線越えの実弾演習では4㌔がせいぜいだ。沖縄ではできなかった訓練をするため「負担軽減」を理由に本土へ移転し、そのための費用を日本側に負担させる。これが宗主国・米国の外交だ。「沖縄の負担軽減」とは基地や訓練地を拡大するための口実であり、そのことによってあたかも沖縄の負担が軽減されているかのような印象操作がおこなわれている。これも国会での検証が必要だ。

 

アジア連合構想に期待

 

 野党議員) 総合安全保障体制の再構築、AU(アジア連合)構想を提唱しているようだが、平和主義、国際協調主義を掲げる日本の外交は今後どうあるべきと考えるか。

 

 前泊 EU(欧州連合)ができてから欧州内での戦争はなくなった。絶え間ない戦争の歴史であった欧州域内での紛争も途絶えて久しい。その一方、アジアの不安定化が欧米の軍需産業を利している一面がある。アジアはアジアにおいて、アジア人の手によってアジア人の血を一滴たりとも流さないという血の誓いを結び、平和の土台をしっかりと築いていくことをAU(アジア連合)に期待したいと思う。そういう発想を持った政治家がこの日本から出てきてほしいと思っている。「東アジア共同体」という構想もあるが、アジアは広く、地球の半分を占めるほどだ。アジアにおいて総合安全保障をしっかりと築いていくという発想が必要だ。

 

 野党議員) 普天間の返還について、政府は「沖縄の協力がないから難しい」と発言しているが、そもそも5年返還は現実的だったのか。

 

 前泊 実は、SACO合意の前段の1993年の段階に、米国はそれとは関係ないところで、普天間基地を嘉手納基地の近くに移転する計画を持っていた。これは最近、米国の公式文書で明らかになっている。それを進めていたところに少女暴行事件が起き、普天間返還要求が出てきたので、日本側に費用を負担させる形で新しい基地建設の話が浮上してきた。当初有力視されていた嘉手納統合案であれば、5年以内の普天間閉鎖は可能だったと思う。だが、米国側は1966、67年に辺野古に新基地を建設する計画を持っていた。この機に乗じてそれを復活させ、しかも「日本側の負担でつくる」と動いたことが、5年以内の閉鎖ができなくなった根源ではないかと思っている。

 

 当時の米国側の基地計画では、大浦湾の軟弱地盤を避けて設計している。浅瀬を利用するものだ。過去の議論すら顧みず計画を進めたために13年、15年という見通しのつかない文字通りの軟弱地盤(泥沼)にはまり込んでいるのが現状といえる。従って政府がいった5年期限という根拠は何もない。県民を騙すための空約束だったというほかない。

 

 野党議員) 日米地位協定を改定するうえでどこを端緒にするべきか。

 

 前泊 沖縄県が他国の地位協定の状況をまとめた資料を作成し、まもなく欧米の例も含めた報告書があがってくると思う。例えばイタリアでは、米軍機がゴンドラを落とし、たくさんのイタリア人が犠牲になった。それを踏まえて、イタリアの空はイタリア人のものであり、イタリア国家のものであると交渉して低空飛行訓練の実施を止めている。ドイツも国内法の適用によって低空飛行訓練を止めることができている。残念ながら日本はそれができない。交渉できる人がいないのにどうやって手続きだけ踏まえるのか。

 

 地位協定の問題でいえば、占領政策の一環として駐留した米軍に対する権限と権利を与えるものであり、それが本当に必要かどうか考える議論がまず必要だ。そのうえで地位協定については、基本的に国内法を適用するという前提から中身に踏み込み、地位協定を一つ一つ外して国内法を適用する手順を踏んでいくべきだと思う。日本政府は「国内法は原則不適用」と説明してきたが、国際法上「原則的不適用」というのはないことが明らかになり、外務省もホームページを修正している。地位協定の「改定」に縛られず、日本の国内法を適用することが主権国家としての最低限の基本だと理解している。

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