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AI導入で変貌する未来 せっかくの技術革新が大量失業を生む皮肉

誰の為の技術か? 使い方によっては展望にも

 

 世界的規模でAI(人口知能)をめぐる技術革新がすすみ、今後の生活や仕事環境を激変させる流れが加速している。AIをめぐっては「人手不足が解消できる」「生活が便利になる」という宣伝の一方で、「大失業時代が到来する」との懸念も拡大している。現実に日本の大手四銀行(みずほFG、三菱UFJFG、三井住友FG、りそなHD)は3万5000人規模の業務削減計画を開始した。AIの本格導入により世界で3億7500万人が失職し、日本では2700万人が職を失うと予測する研究機関もある。そもそもAIとは何か、さらにAI導入が何をもたらし、社会全体にどのような影響を及ぼすのか見てみた。

 

 「AI」といえば、プロ棋士に勝利した将棋ソフト「ポナンザ」や囲碁ソフト「アルファ碁」、クイズ王に勝利した「ワトソン」などは、メディアで話題となった。人間の動きを見ながら仕草を変えて成長するロボット犬「アイボ」、スマートフォンに搭載される「グーグルアシスタント」や「Siri」といったAIスピーカー…など実用化されたものもある。さらに近年は音声操作が可能な炊飯器、コーヒーメーカー、照明、ユーザーが好む服の洗い方を学習していく洗濯機などAIを活用した「AI家電」の種類も増えた。AIロボットが接客する「変なホテル」、AIカメラやスマートフォン決済を使う「無人コンビニ」もあらわれている。

 

 最近のAIは一昔前の産業ロボットのように単純作業をくり返すだけではない。チェス、将棋、囲碁など限定した分野では世界最高峰の棋士を打ち負かすレベルに達した。「もう何年か経てば人間をこえるAIが出てくるのでは?」「人間がAIに征服されてしまうのではないか?」という憶測や不安まで飛び交うようになった。

 

人員削減進む大手銀行

 

 こうしたなかAI技術の進化で仕事が奪われる職種が顕在化している。もっとも影響が大きいのは、これまで「勝ち組」「エリートの花形」と目されてきた金融業界である。銀行員の給与水準が高いこともあり、真っ先に人減らしのターゲットになっている。大手銀行は2016年頃から既存業務のデジタル化を本格化させた。大手四銀行は昨年段階で次のような人員削減計画を明らかにしている。

 

【三菱UFJFG】
 2023年度までに9500人分の業務量を削減し、6000人を自然減。全516店のうち、23年度末までに70~100店をセルフ店に切り替え。
【三井住友FG】
 2019年度までに4000人分の業務量を削減し、基幹職は2020年度までに2000人分削減。全430店舗を次世代型店舗化。
【みずほFG】
 2026年度までに1万9000人削減。500拠点のうち100拠点を2024年度までに削減。
【りそなHD】
 2019年度までに3000人削減。2021年度末までに15年度比で業務量半減。

 

 こうして大手四銀行全体で3万5000人も減らすことができるのは、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)と呼ばれるソフトウェアロボットの活用が本格化しているからだ。RPAは人がキーボードやマウスでおこなうパソコン作業の内容をあらかじめロボットに記憶させ、その作業を再現する自動化システムで、主としてデータ入力や転記などホワイトカラーの事務作業代替を目指している。ただRPAはAI導入の初歩的段階に位置し、まだ本格導入の域には達していない。

 

 そのため金融業界ではRPAとAIを組みあわせ、高度業務を自動化する研究や実証実験が進行している。すでに過去のデータ分析をコンピューターに担わせ、会話は米IBMの音声認識システム「ワトソン」などを導入し、「融資サービス」「接客業務」「問い合わせ対応」「株価予測などの情報提供」「ロボットアドバイザー」「不正防止」など金融業務全般をAIに代替させる準備が進んでいる。

 

 日本の先を行くアメリカでAI化の影響が顕著にあらわれている。米ゴールドマン・サックスのニューヨーク本社・現物株式部門には2000年当時、約600人のトレーダーがおり、顧客の注文を受けて株式を売買していた。ところが2017年に株式トレーダーはわずか2人に減った。トレーダー業務は、約200人のITエンジニアが運用するロボットトレーダーに変わってしまった。

 

 こうしたなか米マッキンゼー国際研究所は2017年に「2030年までにロボットの利用や自動化で最大3億7500万人が異なる業種への転換を迫られる」と予測している。日本については2700万人が転職を強いられると指摘し、約5900万人の労働人口のうち約半数(46%)が失職すると分析している。OECD(経済協力開発機構)も昨年、自動化で消える仕事の割合は14%と指摘し、32カ国でその対象が6600万人に及ぶことを明らかにした。

 

 経済産業省はAI導入により2015年度から2030年度の15年間で、735万人の雇用が消失すると指摘した。サービス業は17万人増加すると予測したが、上流工程(経営企画等)=136万人減、製造・調達(製造ライン等)=262万人減、営業販売=124万人減、IT業務=3万人減、バックオフィス(経理等)=145万人減、その他(建設作業員等)=82万人減、というように全産業に大きな影響が出ることを予測している。

 

 オックスフォード大学との共同研究で「10~20年後に49%の職業がAIやロボットで代替可能になる」と結論づけた野村総研(NRI)は、AIへの代替可能な職業として100種を指摘した。その主な職種を見ると、これまで自動化が進んできた自動車組み立て工などの製造業に加え、一般事務員、医療事務員、行政事務員など事務・営業職が目立っている【表参照】。

 

      

 

 それは産業ロボット導入で非正規雇用化が進んだブルーカラーに加え、今度はホワイトカラーまでAI導入で駆逐していく段階に入ったことを示している。

 

代替できない創造性

 

 しかしAIは人間が担っていた業務をすべて成り代わって遂行する機能は持ち得ていない。AIはあくまで大量に蓄積されたデータのなかから、あらかじめ設定された目的にそって適切と思われる答えを探す「道具」にすぎないからだ。例えばグーグルの音声アシスタントを見ても、言葉の意味を理解して応答しているわけではない。話しかけられた声を0・03秒の音の粒に分割し、前後のつながりから何を話しているのかを判断し、応答例として無数に蓄積されたなかからもっとも可能性が高い文面をAIが短時間で探し出し、返答しているだけだ。AI自体には言語を理解する能力も、自分の行動が社会にどのような影響を及ぼすか判断する能力はない。それは「変なホテル」の各部屋に設置されたアシスタントロボが宿泊客のいびきに反応し、夜中中、「すみません、リクエストが聞きとれませんでした」と話しかけ続け、「眠れなかった」と客が激怒したケースを見ても明らかである。

 

 AIはルールや膨大なデータに基づいて諸関係を覚え、記憶や専門知識を引き出し、今後の展開を予測する能力では人間を上回る段階に達している。しかし主体性や意志、感情があるわけではない。そのため人間があたりまえにおこなう「なぜ?」という問いを抱いたり、喜びや悲しみを感じることはない。ひらめきから独創的な企画を生み出したり、創造力を発揮することはできない。いくらAI技術が発達しても、医療・福祉・介護・教育分野など人間性や創造性が求められる分野の仕事は代替できない。

 

 一部メディアやバラエティ番組で「人工知能vs人間」「AIが人間をこえる」と煽る動きもあるが、AIに詳しい研究者やIT関係者ほど「AIが人間の能力をいつ超えるかという問いを立てること自体が無意味」「今のAIは人間にとってのツール」「人工知能とは“知能”の再現であって“人間”の再現ではない」と指摘している。

 

AI技術の飛躍的進化

 

 AIの研究は70年以上の歴史がある。おおまかな流れを見ると、イギリスを中心にした1700年代後半の第一次産業革命では蒸気や石炭を動力源とする蒸気機関が普及し軽工業や鉄道が発達し、アメリカとドイツを中心にした1800年代後半の第二次産業革命では電力やモーター、内燃機関の普及で重工業が発展した。この工業の発展を基礎にして1900年代半ばにパソコンやインターネットが登場し、自動化を促す第三次産業革命へと進んだ。

 

 AIはこのパソコン登場と同時に研究が始まり、1950年代には欧米を中心とした第一次AIブームが起きている。AI研究は人間の脳そのものに似せた機械をつくる立場(強いAI)と、人間がおこなう作業の一部を機械に代替させる立場(弱いAI)の二種類ある。しかし人間の脳の仕組み自体がまだ解明できていないため、歴史的に研究が進んできたのは「弱いAI」の方だ。

 

 第一次AIブームでは、パズルやゲーム、迷路などの知的遊戯をAIに解かせる研究が進んだ。それは「論理(ルールや手順による推論)」をコンピューターに計算方式(アルゴリズム)として覚え込ませることで、人間並みの賢さを目指す試みだった。

 

 第二次AIブームが起きたのは1980年代だった。それはAIに専門知識を教え込み、応用する研究だった。医学知識を教え込んだ医師のAI、法律知識を覚え込ませた弁護士のAI、などの研究が進んだ。この技術は「エキスパート・システム」と呼ばれ、患者に「はい」「いいえ」で答える質問をくり返し、それをもとに診断するAIロボットも登場した。しかし状況が変化しルールが変わるたびに設定を変えなければならないうえ、想定外の言葉に対応することはできない。画像認識能力も低かった。そのため広範囲な実用化には至らなかった。

 

 第三次AIブームの発端は2012年だった。コンピューターの画像認識コンテストでカナダ・トロント大学のチームが「ディープラーニング」(深層学習)と呼ばれる技術を使い、それまでとは段階を画した高精度の認識能力を実現したことがきっかけとなった。

 

 このディープラーニングは機械学習の発展版で、近年のAIの核になる技術である。機械学習はコンピューターに大量のデータを読み込ませ、データの規則性や特徴をコンピューター自身に見つけさせる方法だ。ディープラーニングは脳の認知メカニズムと同様の仕組み(ニューラルネットワーク)をコンピューター内に再現した技術という。脳の神経細胞は複数の神経細胞から受けとったデータをもとに、次の神経細胞へデータを伝えるかを決めている。よく使う神経細胞同士のつながりは太くなってデータが伝わりやすくなる。あまり使わないつながりは細くなる。その構造に似せてデータを認識する入力層、入力層と出力層を結ぶ中間層の層を増やして細分化し、より複雑で細かい特徴を正確かつ素早く認識しやすくする技術である。

 

 古くから機械学習の技術はあったが、データ取得能力やコンピューターの性能が追いついていなかった。2000年代に入ってコンピューターの高速化(半導体の性能向上)が進んだこと、インターネットを介したデータ取得能力が飛躍的に向上したことが、AIの飛躍的進化を実現した。こうして現在のAIは「休むことなく正確なデータ処理をおこなう能力」「データを収集して学習し永遠に進化し続ける能力」「一度に多数の人とコミュニケーションをとる能力」「AI機器同士で情報交換する能力」を備えている。2000年代以後はAIの実用化やIoT(モノのインターネット)の利用が広がる「第四次産業革命」に入っており、めざましい技術革新が進んでいる。

 

最も危険な軍事利用

 

 しかし本来は歓迎すべき技術の進歩が現在の社会においては、大量失業時代を引き寄せたり、国民生活を脅かすマイナス要素として作用する姿が浮き彫りになっている。すでに動き出している四大銀行を軸にしたホワイトカラーの大量リストラは大銀行経営陣には恩恵をもたらすが、数万人の銀行員や家族、地域全体に甚大な影響を及ぼすことになる。AIの実用化が進んで、銀行以外の産業でも人減らしが本格化すれば、今以上に消費購買力が落ち込み、格差が拡大するのは時間の問題である。

 

 また安倍政府が具体化を進める「未来投資戦略」は、行政サービスや公営施設管理にAIを導入することが重点施策の一つになっている。それは行政職員の人減らしに直結するが、行政施策遂行の上でも都合のいい体制となる。行政窓口やデータ管理をAIに担当させれば24時間作業し続けることが可能になる。感情がないため「心の病」になったり、忖度することはなくなり、税金徴収業務や差し押さえなど無慈悲な対応に拍車がかかるのは必至である。

 

 そしてもっとも危険な使い道は軍事兵器への応用である。AIは自分の意志がないうえに疲れず、恐怖感もない。一旦攻撃の命令を下せば、どうすればよりダメージを与えられるかを学習し攻撃力を高め続ける極めて厄介な存在となる。米軍がAIを搭載した殺人ドローンや攻撃型潜水艦、陸軍に変わる地上歩行ロボットの研究を急いでいる。政府は防衛大綱で無人爆撃機や無人潜水艦の導入を計画し、防衛省は行政文書管理やサイバー攻撃対処からAIを導入する動きを見せている。

 

 AIの技術革新は本来、国民生活向上のために活用できるなら社会に大きな恩恵をもたらす内容を持っている。ホワイトカラーの業務を低コストで実現できるなら、給与水準を下げたり、失業者として放り出すのではなく、長時間労働を軽減したり、行政が機能して、介護や教育現場の人手不足を解消するための改善策をとることも可能だ。しかし大資本の利益追求のためにしかAI技術が使われないなら、どれだけ技術革新が進行しても、大失業や社会の荒廃をもたらし、挙げ句の果ては大量殺人兵器を生み出す破滅的な技術に転化するしかない資本主義社会の矛盾も浮き彫りにしている。革新的な発展を遂げているAI技術も、いったいだれが何のために使うのかが大きな焦点になっている。

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