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TPP以上の市場開放迫る米国 トランプ政府がTPP復帰検討へ転換

 アメリカ大統領のトランプが1月25日、ダボス会議出席のため訪れていたスイスで環太平洋経済連携協定(TPP)への復帰を検討する用意があると表明した。トランプは「TPP離脱」を掲げて大統領選挙を勝ち抜き、就任当日に「TPP永久離脱」の大統領令に署名した。就任から1年余で早くも「TPP復帰を検討する」と方向転換を示唆する動きを見せている。そもそもアメリカは2010年の交渉開始以来、多国籍企業の要求を代弁してオバマ政府が主導してTPPを推進してきた。だが、2016年の大統領選挙ではグローバル化・国内製造業の空洞化にともなう失業の増大や貧富の格差拡大に対する国民的な怒りが沸騰し、トランプ、クリントンをはじめ、どの候補も公然と「TPP推進」の公約を掲げることはできず、そのなかで「TPP即離脱」を掲げたトランプが当選したいきさつがある。多国籍企業は「TPP推進」を引き続きトランプ政府に要求しており、「TPP合意水準を上回る市場開放」を獲得するよう迫っている。

 

米大統領選でTPP反対を掲げる民衆(2016年)

 第2次世界大戦後、経済のグローバル化の先頭に立ってきたアメリカの多国籍企業は、「ヒト、モノ、カネ」を世界中に自由に行き来させることのできるアメリカ・ルールを各国に押しつけ、巨万の富を一人占めしてきた。賃金の安い地域を求めて生産拠点を世界各国に拡散して展開してきた結果、アメリカ国内の製造業は衰退し、デトロイトなど製造業の街は見る影もなく空洞化した。労働者は首を切られ、大量の失業者群が路頭に放り出されホームレス大国と化している。中小業者は倒産・廃業の波にさらされ、家族経営の農業は破産の憂き目にあい、中産階級は没落し、国内は1%の富裕層と99%の低所得層に二極分化した。

 

 TPPはこのグローバル化をさらに推進するもので、アメリカ国内では「1%の富裕層を太らせ、多国籍企業の利益のための自由貿易協定だ」と反対世論が強烈に渦巻いている。そうした国民世論を背景にして2016年の大統領選がたたかわれ、トランプは就任当日に「TPP永久離脱」を宣言していた。

 

 この「TPP離脱」にもっとも反対したのは多国籍企業のなかでもアグリビジネスを展開する農業分野の団体だった。オバマはTPP推進のメリットの一つとして輸出増大を掲げていた。TPPの合意内容では、農業分野の対日輸出はコメ、豚肉、乳製品など4000億円の増大を見込んでいた。コメ輸出は23%増、牛肉923億円、乳製品587億円、豚肉231億円などであり、これらが吹き飛ぶと農業団体は騒いだ。だが、直後には「TPPは不十分であり、二国間でTPP以上の譲歩」を勝ちとるようにトランプ政府に要求を突きつけてきた。そしてその標的の第一が日本だと、米国通商代表が議会の公聴会で誓約した。

 

 この農業分野の多国籍企業の要求にも見るように、トランプが「TPP離脱」を表明した後も、「それならばTPP以上の市場開放」を勝ちとれというのがかれらの要求であり、トランプ政府にとって至上命令だった。25日にトランプが「TPP復帰も検討」と表明した内容も、「以前結んだものより、十分に良いものになればTPPをやる」というもので、TPP以上の譲歩を各国に迫る再交渉を条件とする構えだ。

 

 また、オバマ政府はTPP推進により、アジア太平洋地域にアメリカ主導のルールを整備し、影響力を拡大する中国の包囲網を築くことを狙っていた。成長地域であるアジア太平洋において、アメリカが中心になってとくに中国に対抗して通商ルールをつくり、輸出と投資機会を拡大し、アメリカでの雇用を創出することを狙いとしてきた。

 

 だがトランプの「TPP離脱」宣言後、中国がTPPに対抗して中国主導の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉を加速させる方針を示した。TPPは国有企業の制限や模造品防止のための知財保護など、資本主義の進んでいない国では対応が難しいルールが盛り込まれている。一方RCEPは自由化のルール水準が低く、インドや東南アジアなど新興国が参加しやすくなっている。

 

米国離脱後の批准は「TPPプラス」確約の意だった

 

 トランプの「TPP離脱」表明以後、中国の台頭にも対抗し、アメリカに成り代わってTPP早期発効に奔走してきたのが安倍政府だ。安倍政府はアメリカの離脱で破たんが明白になったなかでもなおTPP批准を強行し、アメリカ抜きのTPP11の合意に持ち込んだ。TPP11はアメリカの復帰を前提としたもので、TPP12の協定文から20項目を凍結(アメリカ復帰後に「解凍」)したうえ、マレーシアが主張する国有企業の優遇禁止の凍結や、カナダが求めていた文化産業の著作物保護の例外扱い要求など4項目は未解決のままになっている。

 

 アメリカを含むTPPで合意した内容をアメリカ抜きのTPP11で運用すれば、たとえばオーストラリア、ニュージーランド、カナダはアメリカ分を含めて日本が譲歩した乳製品の輸入枠を全部使えることになる。そしてバターと脱脂粉乳の生乳換算で7万㌧のTPP枠が設定されているが、アメリカ分が3万㌧と想定されていたとすれば、FTA交渉でもアメリカが少なくとも3万㌧の輸入枠を要求してくるのは必至で、枠は10万㌧に拡大する。さらにアメリカの要求は3万㌧にとどまらない可能性は高い。農業分野だけをみてもTTP11もTPP12と同様日本の国益を損なうものであることは明らかだ。

 

 アメリカが離脱した後のTPP強行批准は、TPP水準をベースとして国際公約するという意味を含み、アメリカに対してはTPPプラスを確約するものだった。これはTPP推進勢力であるアメリカの多国籍企業に奉仕するものにほかならず、投資やサービスの自由化でアジアから利益を得ようという日本のグローバル企業のためでもある。

 

 トランプはTPP離脱を宣言したうえで、1年を経過して「TPP以上の譲歩をするなら復帰も検討する」と再交渉を迫っている。このやり方は北米自由貿易交渉(NAFTA)や、米韓自由貿易協定(FTA)でも同様だが、各国はかえって反発を強め難航している。安倍政府のアメリカ追従ぶりは際だっており、各国の対応との違いが浮き彫りになっている。

 

日本と対照的に抵抗するカナダや韓国

 

カナダのトルドー首相

 トランプは大統領選で「NAFTA再交渉」も公約として掲げた。相手国はメキシコとカナダだ。NAFTAは1994年に発効した自由貿易協定だが、再交渉は最初から難航した。焦ったトランプはアメリカ製自動車部品の使用拡大などの提案が通らなければ、協定を離脱すると脅しをかけて譲歩を迫った。アメリカがNAFTAを離脱すると、メキシコ、カナダからの輸出には関税がかかることになる。

 

 カナダ政府はこれに屈服せず、トランプの貿易政策はルール違反としてWTO(世界貿易機関)に提訴した。内容はトランプが国内産業を保護するために、安い値段で輸入されている外国製品に反ダンピング関税など制裁を課していることに対抗したものだ。

 

 またカナダは、TPP11の合意に最後まで反対したが、これもNAFTA再交渉でのトランプの強硬姿勢への対応の面があった。TPP11の協定内容には「文化例外」規定の緩和が盛り込まれていた。「文化例外」とは、自国文化を保護・育成するため、書籍や映像、音楽などの文化産業を自由貿易の原則から除外するというものだ。国内では「ハリウッド映画に代表されるアメリカの巨大な文化産業からカナダやケベック州の文化を守るために、例外規定は決定的に重要だ」との世論が高い。カナダはNAFTA再交渉で、TPP11で合意したすべての内容についてアメリカから譲歩を迫られることを警戒し、合意に強硬に反対した。結局「文化例外」規定については結論を出さないことでカナダはTPP11に合意した。

 

メキシコのエンリケ・ペーニャ・ニエト大統領

 またメキシコ政府もトランプの脅しに対して、アメリカが離脱すれば再交渉はうち切ると強気で臨んでいる。

 

 米韓FTA再交渉でも、トランプは難色を示す韓国政府に対して、「米韓FTA協定破棄」をちらつかせて韓国政府を再交渉に応じさせた。だが、韓国政府は農業分野での市場開放を迫るアメリカに対して、これ以上の農業市場開放はできないとの姿勢をとっている。

 

 トランプは就任後「アメリカ第一」「貿易赤字削減」を掲げてTPP離脱やNAFTA再交渉などの通商政策をとってきたが、交渉は難航し、封じ込め対象の中国に対する貿易赤字は増えているのが実情だ。通商面では目立った実績が出ていない。秋に中間選挙を控えているなかで、米国の国内世論に抗してでも多国籍企業や支配層の要求実現に奉仕し、なんとしても各国との通商交渉で成果をあげようと焦っている。

 

 「TPP復帰検討」もその一環としてうち出し、第一の標的になっているのは前述したようにアメリカに隷属した日本である。安倍政府はアメリカの多国籍企業の要求に対してどこまでも譲歩する構えがあることをこの間の行動でアピールしてきた。大統領選のほとぼりが冷めたもとで、アメリカ側はまさに総仕上げにかかっており、照応して安倍政府が農業分野をはじめ、医療や知的財産、投資、労働などあらゆる分野においてアメリカの多国籍企業のいうままに日本を売り飛ばす方向に舵を切っているのである。

 

 アジア太平洋地域でRCEP、「一帯一路」に対抗してブロック経済圏を構築するのがTPPであり、アメリカとしては日米を軸にASEAN諸国を囲い込み、この地域の覇権をなんとしても死守しようとしている。TPPすなわち多国籍企業にとっての自由貿易天国を実現することによって、米国でも工場の海外移転や外国人労働者の増大で産業空洞化や貧困化に拍車がかかるが、同時に日本国内でも失業や貧困、中小企業の倒産、農業の破壊、地域の衰退は避けられない。それは日本社会を丸ごと多国籍企業に差し出す行為にほかならない。

 

 モリ&カケ等等で国会審議に時間が費やされている傍らで、海の向こうからは国そのものを強奪しようと手が伸びてきている。「太らせて食べる」が戦後からこの方アメリカの一貫した戦略であり、この総仕上げに対抗する運動を強めることが急務になっている。

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