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売国法案オンパレードの国会 内容知らせず審議も皆無 あってなきに等しい議会 

入管法の審議は実質12時間30分のみ 

 

 安倍政府・与党が27日、外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法(入管法)改定案を衆院法務委員会で強行採決した。先月24日から始まった臨時国会は、水道法改定、漁業法改定、日欧EPA(経済連携協定)関連法など国益を売りとばす重要法案の行方が最大焦点である。ところが国会は閣僚の不祥事や失言をめぐる些末な論議に終始し、大手メディアはカルロス・ゴーンをめぐる騒動など別の事件をぶつけることで国民の関心をそらしている。そのなかで入管法改定法案の衆院通過を強行し、残る重要法案も同じ手法で成立させようとしている。臨時国会では労働基準を全面崩壊させる入管法改定案に加え、水も農漁業もみな外資の餌食として差し出す法案が複数審議されている。この売国法案を阻止することが日本の国益を守るうえで最大の争点になっている。

 

 衆院委員会で採決を強行した入管法改定案は「人手不足の解消」を口実にして外国人労働者の受け入れを無制限に拡大することが狙いだ。これまで「日本の若者の働く場が奪われる」という理由から禁じてきた外国人労働者の「単純労働」への受け入れを認め、無制限の滞在を可能にする新在留資格も創設する。

 

 日本国内では正社員の非正規雇用化、給与削減、過密勤務がまん延するなか、若い世代が結婚や出産ができる環境が悪化し急速に少子化が進んでいる。それがいくら求人数が多くても応募者がおらず、とりわけ低賃金労働力の不足となって顕在化してきた。その「人手不足」を解消するため、日本より給与水準の低い国から外国人労働者を本格的に受け入れ、低賃金労働力を確保するのが入管法改定の目的だ。

 

 そこへ向けて今年6月には「2025年までに50万人の外国人労働者を受け入れる」という「骨太の方針」を発表し、夏の国会では労働時間も最低賃金も労働基準法の規制が適用されない「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)を創設した。このもとで外国人労働者の大量受け入れを野放しにすれば、日本国内で外国人労働者を無法状態で酷使することが可能になるからだ。それは前時代的な奴隷労働を日本国内にまん延させることで現在の労働基準を崩壊させ、日本全体が世界最先端の奴隷労働活用拠点と化すことを意味する。従って入管法改定は外国人労働者の問題ではなく、日本における労働者の労働基準をかつての黒人奴隷並に引き下げる重大問題だった。

 

 ところが臨時国会で与野党の国会議員がくり広げた論争は、片山さつき地方創生大臣が国税庁への口利きで会社経営者から100万円受けとったという疑惑や、公職選挙法違反の疑いのある看板を設置した問題など些末な問題ばかりだった。

 

 そして今月初旬になると桜田義孝五輪担当相(サイバー担当相)が蓮舫(立憲民主党参院幹事長)を「れんぽう」と呼んだことや東京五輪関連経費「1500億円」を「1500円」といい間違えたことで論争を開始した。「パソコンを使わない」と発言すると「サイバー担当としてふさわしくない」とさらに論争をヒートアップさせ、とても国会審議とはいえない様相を呈した。

 

 入管法自体の審議も、法務省が失踪した外国人技能実習生の聞きとり調査結果ねつ造問題が発覚して以後、「まともなデータを出せ」「間違ったデータに基づいた法案は認められない」などの論議に流れ、今回の入管法が持つ意味あいや労働法改悪と連動した意図などを明確にしていく審議ははぐらかし続けた。

 

 そして日本全体を釘付けにするようなカルロス・ゴーン高額給与問題のメディアをあげた大キャンペーンが流れる只中の26日、葉梨康弘・衆院法務委員長(自民)が職権で入管法改定案の採決方針を決定した。衆院の委員会審議は短くても20時間程度おこなうのが目安だが、今回の審議時間はわずか15時間15分(このうち2時間45分は野党が欠席した“空回し”であるため、実際の審議時間は12時間30分)程度だった。重要法案を通すとき、子どもじみた閣僚の資質や不祥事で話題をそらして法改悪手続きを進めていく、安倍政府の手口が浮き彫りになっている。

 

 入管法改定とともに、目立たないようにして成立手続きを急いでいる法案が、先の国会で継続審議となった水道法改定案と国民投票法改定案だ。

 

水道法改定 水メジャーの参入促す

 

断水に見舞われている周防大島町。水道民営化の行く末を心配する声は強い

 水道法改定は外資や水メジャーの本格参入を促す「コンセッション方式」の導入が柱だが、これは従来の業務委託やJR方式の施設所有権も持つ「民営化」とは大きく異なる。「業務委託」の場合は水道施設所有も水道事業運営も責任は地方自治体にあり、いくら民間企業が請け負っても自治体の求める基準と運営計画に沿った業務が不可欠だからだ。契約期間も1年更新であり、自治体の運営方針に違反すれば業者変更もあり得る。運営原資は自治体の定めた委託料であり、水道施設を使って自由にもうけることはできない。他方、JR方式の施設所有権も運営権も持っている「民営化」も人件費削減や列車の強度基準を落とすなどさまざまな基準改定で利益を捻出することはできるが、自然災害に見舞われるとばく大な施設復旧費が必要になる。

 

 今回の水道法改定はこうした業務委託や災害リスクの大きいJR方式の民営化が抱える不安要因をみなとり除き、外資や水メジャーのために日本の水市場を全面開放することが狙いである。それが「コンセッション方式」であり、「水道施設の所有は地方自治体のままで、水道事業の運営権だけ民間企業に売却する」という仕組みの導入である。

 

 施設の所有権を自治体に残したままにすれば、いくら大規模な災害に見舞われても参入企業は痛手を受けない。しかも全運営権は民間企業が買いとるため、水質基準や検査体制など事業運営の采配はみな民間企業が自由にできる。さらにコンセッションは「契約期間が20年以上」となっているため、途中でトラブルが起き、契約解除するときは自治体が莫大な違約金を払わねばならない。

 

 そして影響が大きいのは運営原資を「委託料」ではなく「水道料金」に変えることだ。水道事業は競合相手がいないため参入した企業は料金を値上げすればするほど利益が増える。反発が出ても企業側は「値上げに不満なら水を止める」だけとなる。そのために今回の水道法改定案は水道料金の規定を、従来の「適正な原価に照らし公正妥当な料金」から「健全な経営を確保するため公正妥当な料金」に変え、民間企業が水道料値上げをしやすくしている。

 

 すでに民営化が先行した海外の事例では、水道料金が2~5倍にはね上がった結果、浄化されていない川の水や井戸水を使いコレラに感染する被害が拡大している。水道民営化で日本が同様の事態を招くのは時間の問題で、さらに水源を水メジャーが支配すれば国民生活とともに全産業が大打撃を受けることになる。

 

国民投票法改定 戦争放棄覆しの一里塚

 

 さらに自・公・維新・希望の党の四党で共同提出した国民投票法案の成立を目指している。安倍首相は臨時国会の所信表明演説で「憲法審査会で政党が具体的な改正案を示すことで、国民の理解を深める努力を重ねていく。そうしたなかから幅広い合意が得られると確信している」とのべ、改憲発議に意欲を示した。その手続きを進めるためにも国民投票法案の早期成立が欠かせないからだ。国民投票法自体に改憲内容を規定する文面はないが、国民投票法改定案が成立すれば、その次の段階として改憲に向けた手続きを一気に進められる関係にある。

 

 現在、自民党は「改憲4項目(9条改正、緊急事態条項、参院選“合区”解消、教育の充実)の素案を示しているが、方向性はすでに「日本国憲法改正草案」(自民党が2012年に決定)で明確に定めている。それは痛ましい戦争の反省から作られた憲法の「平和主義」「国民主権」「基本的人権の尊重」などを「時代遅れ」と見なし、「戦後レジーム(体制)の脱却」へと導く方向である。それは「自衛隊の明記」や「緊急事態条項創設」という部分的なテーマにとどまらず、日本の国是である「戦争放棄」の覆しが狙いである。国民投票法案改定は国民生活全体を「戦後レジームの脱却」、すなわち戦時国家体制へと変貌させる危険な道へ通じている。

 

日欧EPAなど 農漁業を外資の餌食に

 

 こうした動きと連動して農漁業の売りとばしが露骨になっている。その具体的な法案が日欧EPA関連法案や漁業法改定案、再生可能エネルギー利用促進法案などだ。

 

 日欧EPA関連法は、来年2月に日欧EPA発効を目指す承認案である。同協定は世界の国内総生産(GDP)の約3割を占める自由貿易圏で、日本側は農林水産品と鉱工業製品を合わせて約94%、EU側が約99%の関税を撤廃することになる。EPAが発効すればEU側が日本製乗用車にかける関税(10%)を段階的にゼロにし、日本製自動車部品は9割以上が無関税になる。一方、日本側はEU産ワインやチーズの関税を引き下げる。自動車大手は欧州に販売しやすくなるが、牛乳・乳製品を出荷する畜産農家など国内産業は大きな打撃を受ける。12月末発効となる「TPP(環太平洋経済連携協定)11」の上に日欧EPAを発効することで農家に甚大な影響を及ぼすことになる。

 

漁業法改定案 70年ぶりの大改定

 

 

 漁業法改定案は70年ぶりの大改定で、自治体が地元の漁業協同組合に優先的に漁業権を与えるルールを廃止することが柱である。養殖用の漁業権については、営利企業が漁協を通さず直接、自治体から買えるようにし、海区漁業調整委員会については公選制から知事が議会の同意を得て任命する仕組みに変更する。乱獲防止策であった沖合・遠洋漁業(許可漁業)漁船のトン数制限を撤廃する方向もうち出している。他方、法律で漁獲上限を定める漁獲可能量(TAC)制度を拡大し、個個の船ごとに漁獲枠を管理する制度に移行する。船の譲渡に伴い漁獲枠の移転が可能になるため、資金力のある企業が漁獲枠を独占することが可能になる。営利企業が漁業者から海を奪う地ならしが動いている。

 

 こうした漁業法改定案と連動して持ち出されたのが、海洋再生可能エネルギー利用促進法案である。同法は夏の国会で廃案になったが、内容を修正し再提出した。その内容は再エネ大手や外資が、日本の海を洋上風力発電事業でもうける草刈り場に変えることが柱である。そのため同法案は「国の責務」で「(国は)海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する」と明記し、地方公共団体については「国の施策に協力して…海域の利用の促進に関する施策を推進するよう努めなければならない」(第5条)と定めている。そして「促進区域内海域の利用又は保全に支障を与える恐れのある政令で定める行為」について「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」を科す規定を明記し、住民の反対運動を抑え込む内容を盛り込んだ。加えて「この法律に定めるもののほか、この法律の実施に関し必要な事項は、命令で定める」(第28条)と規定し、必要な内容はいくらでも追加できるようにしている。

 

洋上風力に反対する下関駅前での1000人デモ(2015年9月)

 さらに原子力損害賠償法改定案では、企業が原発で大事故を引き起こしたときの賠償を国民の税金で賄い、電力会社を守る体制を堅持する内容を引き続き盛り込んだ。現在の損害賠償法は電力会社が原発ごとに1200億円の賠償金を準備する義務がある。だが福島原発事故の賠償はすでに8兆円をこえ、すでに7兆8000億円不足している。そのため電力会社が賠償する義務額の引き上げを求める世論が高まっていた。それを今回の損害賠償法は、負担を嫌がる電力会社を忖度して据え置いた。このような法制度を「原発事故に備え被災者の早期救済のため国が仮払金を電力会社に貸し付ける制度を新設する」と宣伝して、22日に衆院本会議で可決し参院に送付している。

 

 こうした法案がみな今臨時国会で成立した場合、日本では黒人奴隷並みの劣悪労働が野放しになり、水道民営化で安心して水を飲むこともできなくなり、EPA関連法や漁業法改定によって農漁業は壊滅的打撃を受けることになる。挙げ句の果ては改憲による戦時国家体制づくりによって日本が再び戦争で廃虚にされる危険まで迫っている。安倍政府は大手メディアと結託して中心問題とは違う些末な問題に国民の目をそらしつつ、国の命運を左右する重要法案の成立をみな年末のドサクサにまぎれて強行しようとしている。こうした売国法案を阻むことが急迫した中心課題になっている。

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