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11月中のTPP参加急ぐ菅政府 関税撤廃で国内生産は空洞化

 民主党の菅首相は10月1日の所信表明演説で突然「環太平洋戦略的経済連携協定=TPP」への参加検討を表明した。しかも11月13日からの環太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議までの短期間に結論を出し、首脳会議の場で参加を表明するという。TPP参加で関税を完全撤廃すれば、国内の農漁業は壊滅的な打撃を受けることは菅首相自身も認めている。さらに製造業にとっても海外への生産拠点の移転、海外製品の逆輸入増大で国内生産の空洞化が必至である。TPP参加で国内産業は第一次、第二次とも壊滅的な打撃を受け、日本は産業のない国に転落する。日本民族滅亡の道である。これを推進するのはアメリカ・オバマ政府と日米財界であり、菅首相はその走狗となっている。
 TPP参加の中心的な問題は関税の完全な撤廃である。関税の機能には大別して二つある。一つは経済発展の低い開発途上国が、国家財政を確保する手段として重要な収入源になっている場合がある。通常輸入品のみに課す。先進国は通常では関税収入の国家収入に占める比率は低く、5~10%である。日本はさらに低く二%を割り込んでおり、市場開放の最先進国である。
 二つ目には国内産業および市場の保護・振興・育成の機能がある。国内産業で国際競争力の低い産業や衰退しつつある産業等に対して、海外からの輸入品に対して、高関税を課すことにより、国内産業の存続を図る。また徴収した関税を産業振興の資金に振り向ける。
 日本の場合は、主要作物の保護としてコメに770%、小麦260%、バター360%、砂糖305%、落花生730%などには高関税をかけている。だが農産物の平均関税は12%であり、これも世界的に見て非常に低い。
 TPP参加で工業製品はもちろん農産物への関税もゼロにすることをアメリカが要求している。 農業の国際競争力を見ると、欧州の平均耕作面積は50~70㌶、アメリカは180㌶、オーストラリアは3200㌶である。日本はわずか1・4㌶である。これに欧州、アメリカとも膨大な農業補助金をつぎこんでいる。欧州諸国は農家所得の約八割を農業補助金が占めている。アメリカは直接的には農業所得の3割、それに加えて巨額の輸出補助金を投入し、ダンピング輸出をおこなっている。
 こうしたなかで、日本は主食のコメをはじめわずか10品目を、重要作物として保護するために200%以上の関税をかけている。これに対し、アメリカは関税ゼロを迫ってきている。関税をゼロにした場合、農水省の試算でも国内の農漁業生産は壊滅し、食料自給率は14%に下落し、食料の100%近くを輸入に依存することになる。
 農漁業者や消費者、地方自治体の関係者は、日本の農漁業の壊滅は、関連産業の倒産、雇用の喪失など地域経済に対する打撃も甚大であることに警鐘を鳴らしている。また、100%近い食料を輸入に依存することは、国際的な食糧難、穀物高騰の時代に日本国民を飢餓状態におく危険性が高く、また食料を自給できない国は独立国とはいえないとして、国家戦略にかかわる重大問題として国民的な運動で阻止することを訴えている。

 製造業の海外進出促進 逆輸入も関税ゼロ

 他方で前原外相などは「第一次産業はGDPの1・5%にすぎず、1・5%のために98・5%を犠牲にしていいものか」などと発言している。はたしてTPP参加は第一次産業を壊滅させるだけの問題であろうか。
 関税撤廃とは、工業製品を日本が輸入する場合も、アジア諸国などが日本の工業製品を輸入する場合も関税ゼロとなる。 日系企業のアジア諸国進出は増大している。たとえば繊維製品では、かつてはメイド・イン・チャイナが約九割を占めていたが、最近ではタイで生地を生産し、ベトナム、カンボジア、ラオスに輸出して縫製し、できた衣料品を日本に輸出するという形態が多くなっている。また、二輪・四輪車や家電なども中国一極集中を回避し、タイやベトナム、シンガポール、インド、オセアニアなどとの連携が進んでいる。
 たとえばタイには自動車やエレクトロニクスを中心に日系製造業が集積している。ねらい目は安い労働力とともに、タイがASEANにおける一大製造拠点であり、第三国への輸出拠点となっていることである。タイとオーストラリアは05年に二国間の自由貿易協定を結び、自動車の関税率(乗用車は10%)を撤廃し、自動車輸出を増大している。タイの自動車輸出の大半は日系企業が生産している。
 TPPは06年にシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国加盟で発効した。これに昨年アメリカが参加を表明、オーストラリア、ペルー、ベトナム、カナダ、コロンビアなども参加の意向を示している。このように環太平洋地域を包括した自由貿易圏の創設は、独占大企業が日本の労働者を搾り上げて蓄積した資本を投下して現地の安い労働力を搾り、現地で生産した製品を関税なしで、域内の第三国や日本に輸出してさらにボロもうけしようというものである。それを加速度的に推進させようというのがTPP参加である。これまでのFTAのように二国間ではなく、TPP加盟の多国間で関税を撤廃することで独占大企業の利潤が増加するとしている。
 TPP加盟を機に、製造独占企業はアジア諸国など海外への生産拠点移転を格段に進め、安い労働力を搾り上げた安価な製品を日本に逆輸入する。日本の中小の製造業はひとたまりもない。
 経済の専門家は「TPP加盟は、中小製造業が政府の保護なしに世界的な競争に踏み込むことを意味している」「単に貿易自由化、関税撤廃だけでは、数年後には日本国内の自動車産業は壊滅の憂き目にあう」と警鐘を鳴らし、TPP参加が農漁業だけの問題ではないことを訴えている。TPP参加は、農漁業などの第一産業を壊滅させるだけでなく、自動車や家電など国内の製造業も壊滅の淵に立たせるものであり、日本国内の産業という産業を滅亡させる亡国政治である。
 こうした日本の進路にとって重大な問題を菅内閣は短時日のあいだに、ろくな論議もなしに決めてしまおうという狂気じみたかまえである。これは経済危機に陥ったアメリカ・オバマ政府の危機感を代弁している。
 100年に一度といわれる経済恐慌から抜け出せずにいるアメリカのオバマ大統領は、1月の一般教書演説で「5年で輸出倍増」戦略を打ち出し、そのためには、「米企業が海外市場に参入する妨げとなる不公正な関税や非関税障壁を取り除く」として貿易相手国への市場開放圧力を強めることを宣言した。また、昨年11月にはTPP参加を表明し、アジア太平洋への関与を強化することを表明した。
 日本に対しては、TPP参加圧力を加えると同時に、菅内閣の一部閣僚の農業者に配慮した「100%の関税撤廃ではない」などとの弱腰発言をけん制し、「関税撤廃のハードルは下げない」と尻をたたいている。さらに米国産牛肉の輸入制限の撤廃(現在は生後20カ月以下の牛肉だけ検査なしの輸入を認めている)や、簡保の加入限度額引き上げなど日本郵政事業見直しも「金融市場の競争に悪影響を及ぼす貿易障壁」とし、TPP参加の条件に加える姿勢を見せている。
 農漁民をはじめとする国民的な反発にたじろぐ菅内閣に対して、米倉弘昌日本経団連会長は「TPPに参加しないと日本は完全に世界の孤児になる」とアメリカ財界の代弁者となって、圧力を加えている。
 TPP参加圧力は、深刻な経済危機にあえぐアメリカが、第二次世界大戦で占領支配した日本を国ごと犠牲にして生き残りをはかろうとするものである。その凶暴さは同時にアメリカの危機の深さと統治の脆弱さを示すものである。

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