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自民党総裁選 有権者愚弄した化粧直し 対中強硬や格差拡大は共通

 自民党総裁選を巡る駆け引きが連日のようにとり沙汰され、河野太郎、岸田文雄、高市早苗の三つ巴に野田聖子を加えて、後釜争いがくり広げられている。自民党にとって直接的にはトップの看板すげ替えによって、直後の衆院選での傷跡を少しでも和らげたいという願望から始まった騒動ではあるが、安倍8年、菅1年を経て、とりわけコロナ禍で高まる批判世論に晒され、追い込まれたうえでの七転八倒でもある。この自民党総裁選をどう見るか、また総裁選の直後に控える衆院選の展望について記者たちで論議した。

 

避けられぬ新自由主義20年への審判

 

  目下、メディアは連日のように自民党総裁選を巡る動きを報道して、いよいよ17日告示からの29日投開票、その後の臨時国会の召集と首班指名、解散総選挙へと雪崩を打って進む日程になっている。一連の電波ジャックによって自民党内の暗闘に視線を釘付けにしつつ新総裁へとお色直しをして、「自民党は変わった」アピールによって次の衆院選で首の皮をつなごうというのだろう。それで劇的に無党派層が自民党支持になびくような空気もないなかで、むしろ離れていく自民党支持者の引き留めのような意味合いに見えて仕方がない。

 

 安倍・菅と続いてきて「さすがに今回は自民党には入れたくない」と口にする自民党支持者は保守王国といわれる山口県でも相当数いる。街中で様々な人と話して感じるのは、野党支持者は野党支持のままだが、そうはいっても自民党を支持してきた人々の自民党離れというか、愛想を尽かしたような空気があることだ。年間4000円を納めている党員の数などたかが知れているが、「そうはいっても与党に入れておこう」と考えてきたような層のなかでの変化みたいなものを感じる。とくにコロナ対応について頭にきている人は多く、世代を問わず堪忍袋の緒が切れたような感じだ。

 

 先日も山口4区のある神社の総代会で「自民党には入れたくないな」「でも対抗馬はいるのか?」ともちきりだったと関係者が話していた。神社組織とか氏子組織は自民党の固い支持基盤でもあるが、いわゆるこうした地域の世話役の人たちすら公然と自民党離れを象徴するような思いを吐露し始めている。これまであまりなかった光景だ。

 

  10年一昔というけれど、安倍・菅で既に9年も経つ。2000年代初めに小泉が「自民党をぶっ壊す!」と叫び、郵政劇場で持ち上げられて本格的に新自由主義の旗を振り始め、そこから安倍、福田、麻生とバトンをつないだものの、自民党は叩きつぶされて政権交代に追い込まれた。

 

 あの2009年の政権交代選挙は投票率が69%を記録し、民主党は公示前よりも193議席増の308議席と圧勝した。対して自民党は181議席減の119議席と国会の議席数は綺麗にひっくり返った。当時、比例の絶対得票率としては18%と以後の自民党の16%よりは多いのに、それ以上に批判票が民主党に向かったために議席数をがた減りさせた。これは小選挙区制度の為せる技で、一つの政党がボロ勝ちできる仕組みによるものだが、いずれにしても碁盤の目がひっくり返るように自民党は下野を余儀なくされた。鬱積した自民党への批判世論が民主党を受け皿にして雪崩を打ったのだ。

 

 ところがそんな民主党政権も裏切りの連続で、鳩山降板や小沢切り等等ですったもんだしている間に世論は見離し、最後は野田がみずから安倍自民党に「消費税増税を約束できますか?」みたいなやりとりのうえで大政奉還して今日に至る。あれから9年なのだ。

 

  2009年の選挙では、投票率を見てもわかるように、自民党ではダメだと見なした有権者が2割近く投票行動に出たことで局面が動いた。ところがその後の民主党に幻滅し、潮が引くように2割が選挙からも距離を置いて、50%そこらの投票率だと自民党が圧勝する選挙が続いている。寝た子を起こさないことによって自民党は政権与党の座を欲しいままにしてきたし、野党のていたらくに担保されている構図はその後も変わらない。民主党の残存物である立憲民主党や国民民主党も2009年当時ほどの勢いはなく、野党勢力としての存在感は霞み、「民主党の残りかす」みたく見られがちだ。しかし、それでもなお自民党そのものへの風当たりが強烈で、今回の2021年の衆院選は脅威に感じているし、だからこその化粧直しなのだ。

 

  とはいえ、安倍晋三とか麻生太郎がキングメーカーとして振る舞う総裁選で、一体どこが「生まれ変わった自民党」だよとは思う。安倍晋三がコロナ禍で困り果てて放り投げたところから菅義偉の尻拭いが始まり、いわば「尻拭いの尻拭い」選びなのだ。それなのに放り投げの張本人が尻拭い役を誰にするのかキングメーカー気取りで口出しするというのだから、まったくおこがましいというか、厚かましいというか、傍から見ていると唖然とする。本来なら恥ずかしい話なのだが、一目散に敵前逃亡した者がその後も黒幕気取りで戻ってきたような話だ。最大派閥の実質的な領袖というポジションもあるのだろうが、それでよく求心力が保つものだと思う。

 

安倍・麻生の顔色窺う各候補

 

  自民党のなかでキングメーカーといわれているのが麻生太郎・80歳、二階俊博・82歳、安倍晋三・66歳の3人だそうで、この間いわれてきたのは幹事長ポストからの二階外しにあらわれたように安倍・麻生と二階・菅の間にも矛盾があり、この矛盾の狭間で二階を切ったことで菅義偉も政権基盤が揺らいで降板となった。

 

 そしてこれらのキングメーカーたちのご機嫌を伺うかのように、まず岸田文雄が出馬表明して、二階切りの急先鋒をきることで安倍・麻生に秋波を送ったり、ごますりを始めた。岸田ノートを30年書き続けて有権者の意見をメモしてきたとかで、第三者からすると「メモするだけで30年間何やってきたんだよ」とも思うのだけど、当初の出馬表明では、弱肉強食の新自由主義を否定して、「助け合う社会」「令和版所得倍増」などを掲げ、分配による格差是正を訴えていた。

 

 ところが安倍が高市支持を表明すると立場を変節させて改憲を叫び始め森友事件の再調査は「考えていない」といい、外交・安保政策についても対中強硬を強調。アベノミクスの継承を掲げ、原発は再稼働。敵基地攻撃能力保有についても防衛費拡大についても積極的な姿勢を見せ始めるなど、「高市ではなくボクを応援して!」のパフォーマンスに終始している始末だ。それ自体、安倍・麻生の傀儡であることを端的にあらわしており、彼らや彼らの派閥にいかに見初められるかを競っているような光景だ。

 

  今頃になって、どうして高市早苗なんだろう? という疑問もあるが、にわかに飛び出してきたのが高市だった。清和会としては稲田朋美ではなく、現在では無派閥の高市早苗が稲田以上の右巻き風情を丸出しにして総裁選に登場してきた。元々清和会所属ではあるが、そんな彼女の推薦人集めに至るまで安倍が手を回し、派閥領袖ではもっとも早く高市支持を表明した。

 

  どのような経歴をたどった人物なのかだが、もともとは自民党所属ではなく93年の衆院選で無所属で政界に出てきたようだ。そして村山内閣が瓦解した後に小沢一郎率いる新進党にも参画し、二転三転したうえで96年に自民党に入党。その際に身を寄せたのが清和会だったようだ。現在は無派閥だが、元々は清和会所属で、その頃からタカ派的な言動が始まったようだ。「安倍晋三の女性バージョン」という見方もあるが、右翼的な振る舞いがそう思わせるのだろう。アベノミクスの継承として「サナエノミクス」を叫び、原発政策も継承、防衛費は現在の2倍の10兆円にすると主張したり、敵基地の先制攻撃について主張するなど、かなり戦争に前のめりであることがわかる。福祉政策を巡っては過去に「さもしい顔をしてもらえるものはもらおうとか、弱者のフリをして少しでも得をしようと、そんな国民ばかりいたら日本が滅びる」と発言したことが改めてクローズアップされているが、国民や弱者への視線がいかほどのものかを想像するには十分だ。どれほどの実力があるのかはさておいて、いわゆるタカ派の象徴的候補として今回の総裁選では存在している。

 

  安倍晋三が選挙区である下関に戻ってきて自民党員に「党員投票では高市さんをよろしく」とお願いして回っているが、安倍後継としてどれだけの得票になるのかだろう。ただ、細田派のなかでも若手のなかで造反する動きもあるようだ。清和会のなかでは福田赳夫の息子の福田康夫元首相が公文書改ざんなどに批判的なコメントを出したりして、安倍とはそりが合わないふうだったが、その息子の福田達夫をはじめとした若手が今回の総裁選に際して派閥横断的に70人の若手(3期以下)を集めて、「派閥一任ではなく議員の自主投票を」と主張し始めるなどしている。これが派閥幹部に弓を引く行為ともいわれているが、細田派も一枚岩ではないし、如何せん高市では総裁選を勝てずに冷や飯だという危機感に駆られるのだろう。

 

 C 自民党の派閥ごとの勢力図は以下の通り。
 ・細田派 97人 (衆61、参36)
 ・麻生派 54人 (衆41、参13)
 ・竹下派 52人 (衆32、参20)
 ・二階派 47人 (衆37、参10)
 ・岸田派 46人 (衆34、参12)
 ・石破グループ 16人 (衆15、参1)
 ・石原派 10人 (衆10)
 ・旧谷垣グループ 15人 (衆14、参1)
 ・旧菅グループ 23 (衆13、参10)
 ・無派閥 26人 (衆19、参7)

 

 細田派すなわち清和会を源流とする実質の安倍派が抜きん出て頭数を揃えていることがわかる。ただ、そのうち当選3回以下が衆参合わせて62人と、第二次安倍政権下の選挙を通じて大所帯として囲い込んできたような格好だ。最大派閥ということで投機的に寄生する者も当然いるだろうし、それが他の派閥のおよそ2倍という規模になっている。その数の力を背景にしているからこそのキングメーカーポジションなのだ。

 

  3人目の候補者に河野太郎がおり、麻生派所属のため領袖の麻生太郎と何度も面談して出馬表明に至るという経緯があった。いわゆる改革派標榜で、こちらもいざ総裁選になると脱原発を封印したり、「日本の伝統は皇室」などと右派を意識した発言を始めるなどしている。そこに「安倍、麻生から嫌われている」といわれている石破茂が河野支持で固まりそうなふうで、同じく安倍・麻生との主導権争いをくり広げる二階俊博や菅、あるいはその他の派閥の利害も絡んだ動きになるのだろうし、あとは党員投票でどれだけ集められるかなのだろう。「世論調査で一番人気」という表現が枕詞のようにメディアでくり返されているが、果たしてそうなのかだ。

 

 要するに自民党内では勝ち馬の瀬踏みみたいなことをみんなしてやっている状態で、勝ち馬に乗った暁に派閥に対する処遇や大臣ポストを見据えているだけなのだ。そのための合従連衡でしかない。実質的には岸田vs河野の争いなのだろう。そして、その「顔」のすげ替えで辛うじて総選挙を乗り切ろうというのだ。基本的には誰が何を叫ぼうが20年来の新自由主義路線をより強烈におし進めていくことは明白で、今になって労働分配率や格差の是正とか小手先の主張を展開したところで、次の日にはブレブレなのが実態ではないか。所詮、人気とりの目くらましであって、衆院選では「これからの自民党」以上に「これまでの自民党」の9年間なり20年来を徹底検証し、審判を下すことが求められる。

 

5割棄権状態の打破を

 

  総選挙に向けて、野党も4党が共通政策で合意するなど、いわゆる野党共闘の動きも急転直下で進行している。1人区をはじめ選挙区での候補者調整も進むのだろう。ただ、肝心なのはやはり5割が棄権しているような政治不信の状況を打破することだ。

 

 先程来から論議してきたように、2009年の政権交代選挙は誰が相談したわけでもないのに自民党を下野させるほどの有権者のすさまじい力が働き、民主党はおかげで政権を獲得した。棚ぼたみたいなものだ。そこからの幻滅感によって有権者がそっぽを向くことで自民党が返り咲いたわけだが、選挙区においても比例においても、自民党自体はその間も得票を減らし続けている。野党がそれ以上に得票を減らしていることによって助かっているだけなのだ。

 

 野党共闘なるものがどれだけ有権者に受け入れられるのかは未知数で、現局面において手の問題としては当然あり得るとしても、果たして魅力があるかというと、一般的には弱小政党の寄せ集めのようにも見える。しかし、それしか自民党批判の受け皿がないというのなら、仕方がないともいえる。高望みできない現実がある。

 

  一気に局面が動くほど甘くはないが、しかし衆院選は地殻変動を必ず反映すると思う。そのうえで将来を展望するなら、あきらめや幻滅を乗りこえて、残りの5割の有権者も政治参加するような局面にならない限り日本社会で新しい政治風景など拝めない。5割は無理でも、せめてそのうちの2割、3割の支持を得る勢力が台頭するなら、国政政党として第一党の位置にのし上がることが可能だ。既存政党がシーラカンスみたく旧世界の遺物と化していくなかで、新しい政治勢力の台頭が待たれる所以だ。

 

 そして、貧困化をもたらした新自由主義からの転換をはかり、多国籍企業の草刈り場みたいな状態を是正し、全ての国民が安心して暮らせる社会を築いていくことだ。対米従属構造からの脱却も重要な課題だ。

 

  ちなみにキングメーカー気取りの安倍晋三だけど、毎週のように選挙区である下関や長門に戻ってきて挨拶回りをくり広げている。それはそれは必死だ。ただ、なぜかマスクもせずにやってくるものだから、地元有権者のなかでは「あの人、マスクもせずにやってくる…」と困惑の世論が広がっている。東京から頻繁に来ることも引き気味に受け止められているが、「せめてマスクくらいせい!」と周囲は教えてやるべきだと思う。

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この記事へのコメント

  1. 今井公一 says:

    たいへん良い記事だと思います。
    選挙に行こう❗政治は国民の幸せの為にこそあることを広めて投票に行こうという雰囲気を作りましょう。頑張って下さい。

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