いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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河井夫妻の処罰だけでは片手落ち 広島での前代未聞の買収劇 黒幕まで厳正に処罰せよ

 2019年7月の参院選広島選挙区をめぐる大規模買収事件は、河井案里が有罪となって当選取消になり、夫の河井克行・元法相(衆院広島3区)も辞職し、実刑を受けるという顛末で検察の捜査も幕引きになりそうな気配を漂わせている。「選挙=金」という自民党の金権体質を露呈した事件であるが、真っ黒な事実が明るみに出た以上、モリカケのようなトカゲの尻尾切りでこと済ませるわけにはいかない。地元議員ら約100人に総額3000万円もの現金を配るという前代未聞の選挙買収がなぜ起きたのか――買収金の原資はどこから出たのか? 金を受けとった側はお咎めなしで済まされるのか? 選挙を采配した安倍事務所なり自民党トップの責任は問われないのか? 本丸について見て見ぬ振りを決め込む検察の体質も含めて、選挙の公正性、公平性は地に堕ち、その権威が崩壊した状態で再選挙という沼に突入しようとしている。本紙は記者座談会で事件の経緯と問題点を整理した。

 

『種まく人』 ジャン=フランソワ・ミレー

『カネまく人』 西沢昌子

  すでに広く知られているように参院選広島選挙区における買収事件の背景にあったのは、自民党内での陰湿な覇権争いであり、自民党本部の懲罰的な選挙介入だった。参院広島選挙区(定数2)では、1993年から5期(26年)連続で議席を守ってきた溝手顕正(岸田派)がいたが、これへの刺客として安倍晋三のもとで党総裁外交特別補佐をしていた河井克行の妻であり広島県議の河井案里をねじ込んだ。溝手が2007年総選挙で惨敗した安倍首相(当時)の責任について言及したり、首相職を放り投げた安倍晋三を「もう過去の人」といってこき下ろしたことに安倍本人が業を煮やしていたといわれ、二階幹事長、菅官房長官(現首相)を含め党執行部をして全力で溝手潰しに乗り込んだ。いかにも安倍的というか、安倍晋三という人間の器がにじみ出ている。

 

 近年の参院広島選挙区では、自民(公明推薦)が50万~56万、旧民主系の野党候補が20万~30万程度で推移し、与野党が1議席ずつ分け合ってきた。自民党は表向き「自民党で2議席をとりに行く」といっていたが、実際には溝手を推していた岸田派中心の自民党県連の意向をねじ伏せる形で河井案里にテコ入れし、河井陣営には溝手陣営の10倍にもなる1億5000万円を選挙資金として注入した。

 

 選挙中には菅官房長官が選挙区に張り付いて「2人3脚」ともいえる選挙戦を展開し、遊説の合間にパンケーキを一緒に食べている様子をSNSで発信したり、これでもかというほど親密ぶりをアピールしていた。ベテランの溝手を差し置いて「1位は河井、2位が溝手」が合言葉になり、河井当選が自民党本部の至上命題であるかのように振る舞って次期総裁選で禅譲を窺う岸田文雄率いる自民党広島県連にプレッシャーを掛けた。

 

  だが、河井克行にしても妻の案里にしても、地元ではあまりにも嫌われていて人望がない。夫婦ともどもパワハラがひどくて秘書のなり手がおらず、「月給40万円でハローワークに求人をかけても集まらない」などの悪評が地元でも語りぐさで、河井自身も特に選挙に強いわけでもない。旧新進党から自民に鞍替えした候補者に選挙区を脅かされ、自民党本部にとり入ることで自身のポジションを保証してもらってきた。河井案里にしても県議四期でなんの実績もない。そんな夫婦が衆参2議席を独占することに県連内部では不協和音しかなかったようだ。それでも、モリカケ桜と同じく「首相案件」で上からゴリ押しした。今回の買収事件が発覚したのも河井選対内部のリークから始まっており、足元からそのツケが噴出した格好だ。

 

  どう考えても初めから無理筋なのに、次期総裁ポストを鼻先人参のようにぶら下げられた岸田文雄(広島県連会長)には、それをはね付ける度胸もなく、いじましく従ってきたあげく総裁選では貧乏くじを引かされ、いまや禅譲路線は風前の灯火になっている。「これだから公家集団といわれる」「これでは総理の座など夢のまた夢」と地元で囁かれている。山口県でいえば、安倍晋三に4区を抑えられて小選挙区にいつまでも鞍替えできずに隣の選挙区に手を突っ込んだ参議院議員の林芳正(岸田派)の境遇と重なるものがあり、支援者としては憤懣やるかたなしの心境だろう。

 

暗躍した首相秘書軍団 選挙区の企業回り

 

 A だが、上でどんな取引がなされようと、選挙である以上、有権者が付いてこなければどうにもならない。野党票を奪うのが容易でない以上、溝手の組織票を奪うしかない。そのため劣勢の河井陣営の応援には、下関の安倍事務所から配川筆頭秘書を含む地元の秘書軍団(5人)が本腰を入れて乗り込んだ。当時、克行氏本人から選対スタッフに「全員表に出て拍手で迎えるように」「応援に来られるのは、安倍晋三事務所の秘書さんではなく、安倍総理大臣秘書と、表現してくださいよ」とSNS上で指示が出ていたといわれており、その後の経緯を見ても、裏選対というか選対本丸が直接乗り込んできた関係だ。

 

 明らかになっているだけでも2019年5月23日、28日、30日の3日間、この秘書軍団がタクシーを借り上げて選挙区内の企業などをしらみつぶしに訪問している。河井克行の公設秘書の証言では「(1日で)最大60軒程度回れることができ、最も少なくても20軒程度回れた」というからフル稼働だ。秘書たちが大きなキャリーケースを引きながら訪問していたなどの目撃情報もあるが、ともかく大規模な買収劇がくり広げられたのはそれを前後してのことだ。一連の選挙活動のシナリオを作ったのが安倍事務所、つまり配川博之(筆頭秘書)が仕切っていたといわれ、1億5000万円もの法外な選挙資金を投じ、河井夫婦自身が「安倍さんから」「二階さんから」といって現金を配っていたことを見ても、組織ぐるみでやっていたと見るのが自然だ。

 

 相手が自民支持者とはいえ100人もの人間に本人が直接金を配る(足が付く)ような公然買収を、河井が個人判断でできるほど度胸のある人間とは誰も思っていない。「バックには安倍さんがいる=警察は動かない」という確かな後ろ盾があったからこそなせる業だ。

 

  現金を受けとったのは、検察が家宅捜索で応酬した「配布リスト」に名前があった人物だけで100人以上にのぼる。地元政治家では、首長2人、県議14人、広島市議13人、安芸高田市議3人、廿日市市議2人、呉市議、尾道市議、江田島市議、府中町議、安芸太田町議、北広島町議が各1人の計40人【表参照】もいる他、後援会幹部、亀井静香の元秘書なども含まれていたという。

 

 議員の中には今も金銭の授受を否認しているものもいる。いまとなっては毒饅頭だったわけだが、複数回にわたってバラ撒かれた10万~200万円もの現ナマを懐に入れて1年半もダンマリを決め込んでいたのだから、いまさら「無理矢理受けとらされた」「断れなかった」と釈明しても有権者からは「往生際が悪い」と憤激を買っている。

 

 そして、かつてなく実弾を乱発した結果、野党が推した森本真治(立憲)が32万9792票で1位当選し、河井案里が29万5871票で2位当選。溝手顕正は27万183票で落選した。

 

 森本が前回から13万5000票増やした一方で、溝手は前回から25万票減らしており、自民党本部が仕掛けた選挙は溝手が得ていた自民・公明票をターゲットにしていたことを示している。現金が投下されたのも自民党関係者ばかりだったことからも明らかだ。

 

  安倍事務所が広島選挙区にこれほど直接のテコ入れするのは、かつて聞いたことがない。山銀がもみじ銀行(旧広島総合銀行)を吸収してから下関でも合人社などの広島企業が公共事業に乗り込んでくるようになった経緯があるが、山口県政界を制圧した安倍派が広島にまで手を突っ込んだのだと山口県界隈では語られている。安倍晋三の実兄である安倍寛信が三菱商事中国支社長(広島市)をやっていた時期もある。

 

 山口県内では、衆院1~4区のうち4区を安倍晋三、2区は実弟の岸信夫が握り、安倍一強体制のなかで、1区の高村正彦は副総裁、2区の河村建夫は選対委員長などの重要ポストを与えられてかしづき、比例議員や参議院議員、知事から市長ポストまで安倍派の子飼いばかりが牛耳るようになった。あげくは山口県と縁もゆかりもない杉田水脈まで山口県連所属…等々、いまや県内代議士ポストは自民党清和会の頭数を揃えるためにあるような状態だ。これに事足りず、ついに隣の広島にまで手を伸ばしたというのがこの河井買収事件の背景だろう。

 

 選挙結果を受けて河井克行には法相ポストが与えられ、河井案里は二階派入り。「そこのけ、そこのけ、安倍派が通る」で他人の選挙区に土足で乗り込んだあげく前代未聞の不正が発覚し、自業自得ではあるがそのツケを広島県連が被るという、なんともいえない顛末にみえて仕方がない。

 

鬱積する有権者の怒り 4月25日に再選挙

 

  有罪になるまで議席にしがみついた河井案里にしても、今になって「神父様の助言」などといって買収容疑を認めた河井克行についても、ただみっともないの一言に尽きるが、メディアも河井夫婦の人格問題で終わらせようとしている。検察も2人の単独犯として幕を引く様相だ。果たしてこれで納得する有権者がいるだろうか?

 

 自民党本部が提供した選挙資金1億5000万円が買収資金になっていることは明らかだし、その原資は国民の税金から支出される政党交付金だ。しかも、河井案里の当選によって自民党は約6534万円(議員1人分)の政党交付金を受けとっているのに、当選無効になっても「返す仕組みがない」(菅総理)との理由でシラを切っている。いまや買収費用も税金から出し、その不正選挙で得る報酬までも税金から出される。政治の私物化ここに極まれり、といった状態だ。

 

 そして河井陣営の秘書や、毒饅頭を喰らった自民党県議や市議は法廷証言を求められたが、なぜ選挙を采配した配川秘書を含む安倍事務所の面々はカヤの外なのか? モリ、カケ、桜…そして、今回もまた本丸をスルーして、末端処理だけで終わらせる意図が丸見えなのだ。「安倍事務所を強制捜査しなければ何も始まらないだろ!」と誰もが感じている。

 

 そして、広島選挙区を荒らしに荒らした安倍晋三本人は、コロナ禍での失態も重なって足がもつれ、またも病気を理由に首相職を放り出した。かと思えば周囲には「三度目の挑戦を」などと吹聴しているというのだから、他人事とはいえその尻ぬぐいをさせられる岸田派なり広島県連の面々は深刻に考える必要があるのでは、と思ってしまう。

 

  しかし現状では、その口裏合わせの司法取引なのか、買収に応じて金を受けとった100人、とくに40人の地方政治家たちは1人も公選法違反で刑事処分も起訴もされず、司法的にはお咎めなしなのだ。このダブルスタンダードに広島県民の怒りは強い。

 

 一般に贈収賄というのは、贈賄側と収賄側がいて成立するものであって、現金を受けとった側も罪に問われるのが常識だ。まして議員や首長ともなれば、○○党員である前に有権者の負託を受けた公人であり、地元政治家や候補者から金品を受けとることが公選法上の御法度であることは百も承知のはずだ。その額が5000円でも1万円でも罪は罪として裁かれるのが法治国家というものだろう。今回は明らかになっているだけで、市議が10万~70万円、県議が20万~60万円、現職首長が20万~150万円、県議会議長が200万円だ。これほどの額を懐にしながら1年半もダンマリして、明るみに出た途端に「無理矢理押しつけられた」では言い訳にもならない。

 

 司法関係者によれば、受けとったとされる議員の大半が法廷で買収目的であった事実を認めており、検察の求刑処理基準に照らせば、被買収者の大半は「公判請求相当」で起訴されるべきで、一部の少額(1万~20万円)の事例のみが「罰金刑相当」になるという。いずれにしても河井案里と同様に失職、5年間の公民権停止となり、一定期間、選挙権・被選挙権がなく、選挙運動も禁じられるという筋のものだ。仮に検察に現金授受を認定された県議14人、広島市議13人全員が失職した場合、県議会にしても市議会にしても最大派閥を誇ってきた自民党会派は壊滅状態に陥ることになり、笑うしかない状態だ。たとえ司法で罪を免れても、政治家である以上、その醜態は今後も有権者の目に晒され続けるわけで、禊ぎをしない限り一生「50万円の○○さん」と呼ばれる謗りは免れない。

 

  これらの検証がないまま広島選挙区では4月25日に再選挙がおこなわれようとしていることに怒りは強い。あからさまな被買収者が開き直って選挙に加わるのだから「公正な選挙といえるのか」という指摘もある。

 

 自民党は39歳の経産省官僚を担ぎ出し、先日の事務所開きには、河井から現金を受けとった自民党議員らが勢揃いして「結束を固め合った」というのだから、その厚顔無恥に有権者は呆れている。「お前ら、いい加減にしろよ!」と――。

 

 安倍事務所の指南を受けた河井が「バックに安倍さんがいるから」といって金をバラ撒き、受けとった側は「検察が許してくれた」といって開き直っているのが現状で、「結局みんなグルじゃないか」というのが有権者の大方の評価だ。広島では広島中央警察署で発生した8500万円紛失事件すら真相が闇に葬られたままで、なおさら不信感が増幅している。

 

  モリカケで是正されるどころか、さらに輪を掛けた政治の私物化と腐敗、そして法治主義ならぬ人治主義が進行してきたことを物語っている。「安倍と共に去りぬ」ではないが、三権を牛耳ってやりたい放題の自民党の自壊が必然的に始まっているようにも見える。有権者の怒りは広島のみならず全国共通の憤激となって遠からず爆発するときがくると思う。

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