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『首都直下地震と南海トラフ』 著・鎌田浩毅

 福島県と宮城県で震度六強を記録した2月13日の地震が、10年前の東日本大震災の余震だと聞いて驚いた。地球は、われわれが日々忙しく働いている時間とは別の時間軸で動いているのだ。では、東日本大震災の前とその後では、日本列島をめぐってなにがどのように変わったのか? 京都大学大学院教授で火山学や地球科学が専門の著者が、初心者にもわかりやすく解説した。

 

 その変化は、一言でいえば1000年ぶりに「動く大地の時代」が始まったということ、つまり日本列島全体が地震の活動期に入ってしまったことだ、と著者はいう。

 

 一つ目として、余震活動の活発化をあげている。大きな地震が起きると、そのあとに同じ震源域で余震が起こるが、東日本大震災の特徴はこの余震の数がこれまで経験してきたものよりも非常に多く、いまだに続いていることだ。

 

 東日本大震災は太平洋プレートが北米プレートの下に沈み込み、北米プレートの端の一部が跳ね返ることで起きたが、その結果岩手県から千葉県までの沿岸部では最大1・6㍍も地盤沈下しており、その回復には数十年を要する。「大きなエネルギーが解放されたから、もうエネルギーは残っていない」と見るのは間違いで、プレートに溜まったエネルギーは震源域を南北に広げながら今後も解放される可能性が高いという。

 

 二つ目が、陸域で起こる誘発地震だ。東日本大震災の直後から、震源域から何百㌔も離れた内陸部で突発的に大規模な地震が発生している。いずれも内陸型の直下型地震だった。これは同じ海の震源域で起きた余震ではなく、新しく別の場所で誘発されたものである。

 

 なぜ余震域でない場所で地震が起こるのか? 大震災の後、日本列島は5・3㍍も東側に移動した。東北地方や関東地方が乗っている北米プレートは、今まで巨大な力で押されていたが、今度は思い切り東西方向に引っ張られたことになる。そして近くの弱いところが断層として動き出し、地震が起き始めた。そして誘発地震のなかでもっとも心配なのが、首都直下型地震で、マグニチュード7クラスの地震が突然発生することが懸念されている。

 

 三つ目に、富士山の噴火の危険性だ。東日本大震災の4日後、富士山頂の地下でマグニチュード6・4の地震が起こり、マグマを揺らした。その後10年間、地下で低周波震動が断続的に続いており、もはやいつ噴火してもおかしくない「スタンバイ状態」になっているという。政府は昨年4月、富士山の噴火について警告のシミュレーションを発信している。

 

 300年前の宝永噴火では、火山灰が横浜で10㌢、江戸で5㌢積もった。2900年前の噴火のときは、山自体が崩れる岩なだれが起こり、山手線の内側ぐらいの面積が大量の土砂で埋まったという。今の一極集中の首都圏ならどうなるだろうか。

 

 もう一つ、東日本大震災の太平洋プレートとは別に、フィリピン海プレートがユーラシアプレートに沈み込む南海トラフで、東海地震・東南海地震・南海地震の三つの巨大地震が今世紀半ばまでに起こると、政府の地震調査委員会が予測している。

 

 気になるのはこうした地震がいつ起こるかだが、著者は、現在の地震学のレベルでは何月何日に地震が起こるという地震予知は不可能だとのべている。地下の岩盤をつくっている岩石には多様な種類があり、強度がみな異なるうえ、地下深部の亀裂や含まれる水の量など多くがわかっていないし、そもそも地震を起こす周期は何千年という長いスパンであり、誤差は数十年から数百年もあるからだ。

 

 しかし、だからといって「一かゼロか」ではなく、科学でわかっていることもあるし、わからない範囲を狭めていくことはできる。火山噴火も、予知は不可能だが、1カ月前には噴火開始の予兆はつかめる。問題は、その1カ月で政治が国民の生命を守るために機能するかどうかである。

 

 さて、本書の目的は自然災害の恐怖を煽ることではなく、地球で起きる活動は災害と恩恵が表裏一体だということを明らかにすることだ。

 

 たとえば、琵琶湖の京都寄りには琵琶湖西岸断層帯がある。ここでマグニチュード7クラスの大地震が起こるたび、山が隆起し、降雨の度に表面の土砂が流され、数百万年かけて京都を囲む三方の山と中央の盆地ができた。盆地の下には大きな水瓶がある。水を通しにくい硬い基盤岩の上に、水を通す堆積層が何百㍍も重なっているからだ。ここに蓄えられた豊富な水が農作物を育んできたし、この湧き水で人々は酒、豆腐や湯葉をつくり、京友禅を洗ってきた。近年では半導体産業も、京都盆地の潤沢な水の恩恵を受けている。

 

 「すなわち、2000~3000年に一回起こる地震の営力が生み出した豊富な地下水を求めて、私たちの祖先は京都に都を造営し、産業を生み出し、そこに伝統と文化が生まれたのです。日本が世界に誇る文化と科学技術は、活断層がつくった水瓶のおかげ、とも言えるのです」。

 

 著者がいいたいのは、わずか目先3カ月(四半期)という短いスパンで物事を考えるのをやめて、地球46億年という地球科学的な長いスパンで物事を考える目を持とうということだ。そこから見れば、エネルギーを大量に使って地球の隅々から食べ物をかき集めるより、地産地消の方が人間らしい生活ができるし、国や行政があてにならないのだから地域コミュニティの力を強める方が災害に強い街をつくることができる。東京一極集中や原発再稼働、再エネ・ビジネスなど論外、ということになる。

 (MdN新書、311ページ、定価891円+税

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