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老朽インフラの放置なぜ続く 小泉改革前後し国の投資は半分以下に

 14日、山口県上関町で唯一の陸路である上関大橋(築51年)に20㌢の段差が生じて通行不能となり、1400人の島民の生活が麻痺する事態に陥った【既報】。幸い被害は小規模に止まり、犠牲者は出なかったものの、インフラ老朽化による大事故の予兆といえる事象となった。近年では、コンクリート壁が剥落して9人の死者を出した笹子トンネル崩落事故、作業員2人が死亡した新名神橋桁落下事故などの突発的事故をはじめ、地震、台風、豪雨などの自然災害が加わるたびに老朽インフラに起因する重大事故があいついでいる。高度成長期に整備された橋、道路、鉄道、河川に至る社会インフラが経年劣化し、その多くが更新時期を迎えているにもかかわらず、なぜ放置状態が続いているのか――全国的な現状と要因を明らかにし、国・行政による早急な対応が求められている。

 

上関大橋(背景中央)が通行止めとなり渡船で移動する住民たち

 国土交通省の調べでは、全国にある約70万橋の橋梁のうち、築50年が経過する橋梁の割合は2019年時点では27%だが、10年後には52%に急増する。同じく2033(令和15)年までに、トンネルは約50%、河川管理施設(水門など)は64%、下水道管渠は24%、港湾岸壁は58%が建設後50年をこえる。

 

 老朽化が進むインフラ各分野の管理者【図①・グラフ②参照】は、道路における橋梁(約70万橋)のうち国が4%、都道府県が19%、政令市が7%であるのに対して、市町村が68%を占める。トンネル(約1万本)でも23%、舗装(約3100㎡)で66%、下水道管渠(約43万㎞)では75%、下水処理場(約2100カ所)では84%、公営住宅の39%、都市公園(約10万1000施設)では76%が市町村の管轄にある。

 

 都道府県の管轄も、橋梁の19%、トンネルの46%、舗装道路の21%、公営住宅の43%、河川管理施設の65%(政令市含む)、砂防堰堤では100%(同)を占めている。また、港湾施設(約4万4000施設)の91%、空港(98空港)の68%、海岸堤防(約8000㌔㍍)のすべてを都道府県以下の地方公共団体が管理している。これらのほとんどが建設から30年以上が経過し、老朽化が進んでいる。老朽インフラは「地方に丸投げ」なのが実態だ。

 

全国各地で絶えぬ事故 いまや危険水域に

 

 2012年12月に中央自動車道上り線(山梨県大月市)で発生した笹子トンネル崩落事故は、天井に吊られていたコンクリート製の天井板(270枚)が約130㍍にわたって剥落し、複数台の通行車両を巻き込み、9人の死者を出す大惨事となった。それはインフラ老朽化が限界点に達したことを知らしめた。

 

2012年に起きた笹子トンネル崩落事故

 トンネルの上部と天井板を支える吊り金具をつなぐアンカーボルトが抜け落ちていたことが事故原因だったが、高速道路の管理者であるNEXCO中日本は、日本道路公団の民営化によって生まれた民間会社であり、点検を下請子会社に丸投げし、トンネル完成から37年間(当時)に一度も打音点検をしていなかったことが明らかになった。民営化によるコスト削減がもたらした弊害といえる。

 

 笹子トンネル事故が衝撃を呼び、国は同型の吊り金具によって天井板を支える構造のトンネル(全国49カ所)の緊急点検を実施し、その他のトンネルや橋梁についても5年に一度の近接目視による点検を義務化したが、その後も今回の上関大橋の件をはじめ、各地でトンネルや道路、橋梁の崩落や陥没事故に歯止めはかかっていない。

 

 点検を義務化した後の2016年4月時点では、全国2559の橋が危険な状態にあり、自治体による通行止めや片側通行などの規制措置がとられていることがわかり、その数は点検開始の08年の2・6倍にのぼっていた。

 

 トンネルでは、1958年に完成した愛知県内の国道151号・太和金(たわがね)トンネルでも2011年8月、直径約2㍍の範囲で頂部の覆工コンクリートが剥落し、土砂が流入。崩落した土砂は150平方㍍以上に達した。

 

 大阪府と和歌山県にまたがる国道371号の紀見トンネル(吊り下げ天井)では、笹子事故後の緊急点検で「異常なし」と報告されていたが、翌2013年1月に頂部に近い側壁から約1㍍四方のコンクリート片が剥落する事故が発生した。

 

 橋梁でも、2016年4月に新名神高速道路の有馬川橋(神戸市)の工事現場で、長さ約124㍍、重量約1350㌧の鋼鉄製の橋桁が15㍍下の国道176号に落下。作業員ら10名が死傷する惨事となった。管理するNEXCO西日本は、吊桁を支えるベント支柱の基礎部に不当沈下が生じ、ベント支柱の傾きが進行したことを事故原因と結論付けた。

 

 2013年には、静岡県浜松市内の国道152号と水窪川をまたぐ第一弁天橋(歩行者専用吊り橋)の部材の一部が破断して大きく傾き、渡っていた高校生6人が負傷した。建設から48年が経過して鋼材が老朽化し、雨水が侵入して腐食していたことが原因と見られている。

 

 2007年6月には、三重県の木曽川大橋(国道23号)でH形鋼のトラス斜材が腐食によって破断し、上下に15㌢ずれていることが発覚して緊急規制がかけられた。供用開始から約40年が経過するなかで鉄骨支柱が広く老朽化しており、あわや大惨事となる寸前だった。

 

 鉄道トンネルでも、1999年6月に山陽新幹線の福岡トンネルで重さ200㌔のコンクリートの塊が落下して車両に衝突し、2カ月後に北九州トンネルで重さ220㌔のコンクリ片が線路脇に落下する事故が発生して点検が強化された。だが最近でも、2015年に北陸新幹線飯山トンネルで消火器保管箱の扉が落下、同じく丸子トンネルでも重さ約5㌔のコンクリート片が落下した。

 

 2018年には東北新幹線の白石トンネルでモルタルの破片9個(約13・5㌔)が落下、19年にも東北新幹線の志賀トンネルで金属板(重さ約18㌔)が線路脇に落下していた。いずれも劣化による剥落だが、事前の検査では「異常なし」と報告されていた。時速200㌔の新幹線に直撃すれば大惨事になりかねず、国を挙げた対策が急務となっている。

 

 また、下水道管の老朽化による道路陥没が、全国で年間3000~4000件規模で発生している。とくに東京都では他自治体に先駆けて下水道の普及が進んだため、法定耐用年数50年をこえる下水道管の延長が1500㌔㍍をこえており、閑静な住宅街でいきなり道路に穴が開く事態があいついでいる。

 

 道路陥没の約8割は、取り付け管(家庭からの排水を幹線に繋げる枝管に流すための管)の腐食や老朽化が原因だ。土かぶりが1㍍未満であり、2003年まで陶製の管を使っていたため、枝管よりも壊れやすいことがわかっており、大規模な設備更新が待ったなしとなっている。

 

 さらに、首都高速では補修が必要な損傷が9万6600カ所ある他、盛り土材に使っていた泥岩が劣化し、地下水位が上昇したところに地震によって大規模崩落を起こした東名高速道路(2009年8月)の事故など、全国各地の高速道路の劣化も顕在化している。

 

 毎年起きる豪雨災害でも、都市部から中山間地に至るまで河川や橋梁、道路が崩壊し、広範囲にわたる地域を土砂や浸水被害に巻き込んでおり、その老朽化がもたらす深刻な被害が年々拡大している。

 

 2014年4月、国交省が諮問する社会資本整備審議会道路分科会基本政策部会(部会長家田仁・東京大学教授)は、「最後の警告――今すぐ本格的なメンテナンスに舵を切れ」とする意見書を発し、概略以下のようにのべている。

 

 「高度成長期に一斉に建設された道路ストックが高齢化し、一斉に修繕やつくり直しが発生する問題について、当審議会は“今後適切な投資をおこない修繕をおこなわなければ、近い将来大きな負担が生じる”とくり返し警告してきた。
 しかし、デフレが進行する社会情勢や財政事情を反映して、その後の社会の動きはこの警告に逆行するものとなっている。平成17年の道路関係四公団民営化に際しては高速道路の管理費が約30%削減され、平成21年の事業仕分けでは直轄国道の維持管理費を10~20%削減することが結論とされた。そして、社会全体がインフラのメンテナンスに関心を示さないまま、時間が過ぎていった。国民も、管理責任のある地方自治体の長も、まだ橋はずっとこのままであると思っているのだろうか」
 「今や、危機のレベルは高進し、危険水域に達している。ある日突然、橋が落ち、犠牲者が発生し、経済社会が大きな打撃を受ける…、そのような事態はいつ起こっても不思議ではないのである。我々は再度、より厳しいいい方で申し上げたい。今すぐ本格的なメンテナンスに舵を切らなければ、近い将来、橋梁の崩落など人命や社会システムに関わる致命的な事態を招くであろう」。

 

 にもかかわらず、社会インフラの更新やメンテナンスが進まないのは、その原因が国民や地方公共団体にあるのではなく、国による公共事業費削減、地方自治体に対する財政措置の圧縮と行政スリム化の推進にあるからにほかならない。社会インフラの管理を担う地方公共団体は、インフラの維持管理をおこなうための財源不足や人員不足に悩まされ、それは小規模自治体になるほど深刻化している。

 

公務員も中小業者も減 災害対応もできぬ地方自治体

 

 日本が直面している現状は、80年代の「荒廃する米国」の後追いと指摘されている。米国では1920年代に建設したインフラが老朽化し、1980年から道路や橋の崩落事故や鉄道の脱線事故が頻発した。その後、インフラ投資を増やしたものの、今度は新自由主義にもとづく民営化を推進し、大企業を抱え豊かな自治体と貧困層が多い自治体との格差が急速に拡大した。

 

 日本では、70年代の高度成長期に輸出型の製造業によって巨額の経常黒字を抱えたため、双子の赤字を膨らませた米国から「輸出主導から内需主導型にシフトせよ」と迫られ、1970年に「公共投資基本計画」を策定し、公共投資額を630兆円まで膨らませた。国は建設債、地方自治体は地方債を多発し、金融機関も絡んで第三セクターを設立し、不動産投資や大規模インフラ開発に熱を上げるように意図的に誘導されてきた。

 

 ところがバブル崩壊によって、日本全国の資産価値が3分の1にまで下落し、経済が疲弊するなかで税収も減少。建設債や地方債が焦げ付き、08年にはその債務が800兆円にまで膨らんだため、今度は逆に「財政規律」「行政効率化」が叫ばれるようになった。

 

 国による公的固定資本形成(道路・空港・港湾などの交通インフラや河川・海岸・ダム・砂防などの防災インフラをあわせた社会資本投資額)は、1996年を基点にした20年間で、米国が2倍、イギリスは3倍に増やしているのに対して、日本はマイナスの一途をたどり、その額も半分以下に推移している【グラフ③参照】。橋本政権時代の1997年には48兆円あった公的固定資本形成額は、小泉政権の2005年には27兆円にまで激減し、2011年には24兆円に半減、その後は東日本大震災の復興需要などで微増しているものの増加に転じる気配はない。世界的に見ても地震や火山噴火、台風、集中豪雨と自然災害の頻度が高く、急峻な地形を特徴とする国でありながら、その生活の安全を担保するためのストック形成を放棄する異常な政策が続いている。

 

 国と地方公共団体をめぐる環境も、国が地方の面倒を見る70年代からはシフトチェンジし、とくに小泉政権から始まった「三位一体の改革」によって、地方公共団体の財政切り離しと独立採算を求める動きが強まった。自治体の予算は削られる一方になり、退職者があっても職員の新規補充ができない。その行政スリム化の流れのなかで建設や土木にかかわる専門職員も大幅に減少し、多くの自治体は外部委託に頼らざるをえない状態だ。

 

 市町村における土木部門の職員数【グラフ④参照】は、1996(平成8)年の12万4685人をピークに年々減少。約3割の地方公共団体では、インフラの維持管理・更新業務を担当する土木系職員が存在しない。

 

 とくに市町村の人員不足は深刻で、市町村の2割で橋梁の保全業務に携わる土木技術者がいない。また道路の維持管理を担当する職員が1~5人しかいない割合は、町で68%、村になれば91%を占める。下水道では、町の84%、村の98%で専門職員が1~5人しかいない(いずれも国交省調べ)。そのため日常の保守点検業務も無資格者がおこなわなければならず、ひとたび地震や豪雨災害に見舞われると、応急処置はおろか、被害の把握すらできない状態にある。少ない人数で、増え続ける老朽インフラの点検や補修業務に追われる職員からは「すでに過労死寸前」という悲鳴も聞こえる。市町村の「自助」「共助」に委ねることは無理筋であることが明白になっている。

 

 また公共事業の削減やダンピングによって地元の中小零細事業者が減少していることも地方のインフラ更新が進まない一因になっている。

 

 全国の建設業者の96%以上が資本金5000万円以下の中小零細企業だが、その数は1999年の60万1000業者をピークに減少し、2016年には77%の46万5000業者にまで減少した(国交省調べ)。

 

 2000年代に入ってからは、地方自治体の公共事業にまでISO取得やWTO(政府調達協定)が義務づけられ、億単位の事業は大手ゼネコンが独占し、電子入札や総合評価方式の拡大によって500万~2000万円規模の公共工事まで入り込んでくる一方で、中小企業が請け負う小規模事業は最低価格ギリギリのダンピングで叩かれる。

 

 これにより中小企業の廃業が進み、熊本地震、九州北部豪雨、広島豪雨災害をはじめとする各地の災害現場では、地元業者の不足で家屋の解体作業、インフラの復旧工事の入札不調が続き、何年たっても崩落した道路や砂防ダム、護岸などが放置されたままの状態が続いている。

 

 「国土強靱化」といったところで、それを支える中小企業が淘汰され、ゼネコンとJVを組む下請業者がいない。一部のスーパーゼネコンだけが途上国のODA(政府開発援助)などでの鉄道や高速道路建設で税金をつかみどりする一方、国内インフラは崩れたまま放置されるという歪んだ状態が生まれている。

 

国による財政出動必須 国土管理する責任

 

 このような事態は、国による大規模な財政出動、とくに地方自治体に対する財政措置を拡大しなければ解決のしようがない。

 

 自民党政府はインフラの老朽化の解決策として「コンパクトシティ」を提唱し、地域コミュニティの集約化、つまり人口減少が進む地方自治体を切り捨てる方針に舵を切っている。IT化によるスーパーシティ構想も、PFI(公設民営化方式)やPPP(公民連携)の導入拡大も、その対象になりうるのは利益率の高い都市部だけであり、そもそも目的が市場創出による企業利益の追求であるため、長期的視野に立った公共性は度外視される。

 

 次世代にわたって国土を維持管理し、人々の生活の安全を守り、治山治水を持続的におこなうためのインフラの維持管理は、財政リスクや税収に左右されない通貨発行権を持つ政府が負うべき責任といえる。

 

 国から地方への財源移譲は一向に進まない一方で、東京五輪、万博、カジノ誘致、リニア開発など一部の利権企業のための投資には大盤振る舞いを続ける国の統治の異常さが浮き彫りになっている。

 

 地方財政逼迫の原因を「二重行政」などの問題にすり替え、「都構想(政令市解体)」などの住民サービス削減や下部団体からの財源を吸い上げたり、公共財産を民間に売り飛ばす行政改革ではなく、苦境にある地方自治体が結束し、人員と財源の拡充に向けて下から国に要求を突きつけていくことが待ったなしとなっている。

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