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「安保神話」の呪縛解く元年に―日米同盟の不経済学 沖縄国際大学大学院教授・前泊博盛

 まえどまり・ひろもり 1960年宮古島生まれ。沖縄国際大学大学院教授(沖縄経済論、軍事経済論、日米安保論、地位協定論)。元琉球新報論説委員長。『沖縄と米軍基地』(角川新書)、『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』(創元社)、『沖縄が問う日本の安全保障』(岩波書店)など著書・共著書多数。

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 2020年も初頭から日米関係は正念場を迎える。思いやり予算の増額要求に対する交渉が始まる。北朝鮮問題はICBM発射実験などが加速し、在日米軍基地は北朝鮮のミサイル攻撃の標的となり、トランプ政権から自衛隊に対米支援強化という「安保の双務性」を求められ、F35ステルス戦闘機やオスプレイの「爆買い」を課されている。米軍基地防衛のための秋田・山口へのイージス・アショアの購入配備を呑まされる。「有事に日本を護る」はずの日米安保が、日本を戦争に巻き込み、軍事費の負担増で国富を失う。日米安保の「神話」が、いま崩壊しつつある。


 「駐留米軍の駐留経費4倍~5倍増を米トランプ政権が日韓両政府に要求」という米外交専門誌『フォーリン・ポリシー』の報道に、日韓両政府は大きな衝撃を受けた。2019年11月のことだ。特に日本では「思いやり予算」の4倍以上増という報道をうけ、安倍政権は火消しにやっきになった。11月18日に菅義偉・官房長官は「そのような事実はない」と否定した。


 しかし、過去にもトランプ政権は駐留経費の大幅増額・負担増を日本政府に要求してきた経緯がある。残念ながら菅長官の言葉を真に受ける国民はまずいないであろう。


 今回、焦点となっている「思いやり予算」は、日米地位協定上、負担義務のない駐留経費の一部負担のこと。双子の赤字(赤字財政、貿易赤字)に苦戦する米政府に対し、日本政府が地位協定上の取決めのない経費を「思いやりの心」(金丸信防衛庁長官)で、1978年に62億円の支出をしたのを契機にはじまった予算措置だ。


 在日米軍に関して日本はさまざまな形で費用を負担しているが、思いやり予算はその後増額に次ぐ増額で、一時は2400億円まで膨らんだ。

 

  

 その後、日本政府から減額要求も出され、現在は5年ごとの交渉によって予算額が決められる。現行枠の期限は2020年度末。このため、年明けには次の金額をめぐる日米交渉が始まる。今回の「思いやり予算」4倍~5倍増の水面下での要求は、次年度以降の定額枠交渉を前にしたトランプ政権からの「前哨戦」といえる。


 日本が負担する米軍駐留経費は、このほかにも米軍施設の賃借料や周辺対策費などで1914億円。SACO関連経費で256億円。米軍再編関連経費として1679億円などを負担している。これらの合計額だけでも5823億円(防衛省発表)に上る。

 

 日本が米政府を通じて兵器を購入する『対外有償軍事援助(FMS)』も「対米支援」といわれる。日本が米国から購入する兵器のローンの残高は、19年度だけで新たに7013億円で、現状の未払い額は合計5兆3613億円。この額は次世代に負担が先送りされる。


 安倍政権は、これまでにも武器の大量購入を迫るトランプ政権の要求に応じ「F35ステルス戦闘機」105機(約1兆5000億円)、秋田や山口県への配備問題で揺れるイージス・アショア(2基、計5000億円超)などを購入している。これらの合計額で対米支援はすでに2兆円を超す計算だ。「“みかじめ料”は、もう十分すぎるほど米国に支払っているし、支払ってきた」(半田滋・東京新聞編集委員)との指摘すらある。


 『フォーリン・ポリシー』によると、今回、トランプ政権は在日米軍経費を年80億㌦(約8640億円)への増額を求めている。2019年度(1974億円)の4・4倍の増額要求である。


      

 米国は韓国に対しても米軍駐留経費の負担増を求めている。その額は現在の5倍以上の50億㌦(約5400億円)。半田東京新聞編集委員によると「韓国政府は11月19日の交渉で、米国からの駐留経費負担増を拒否した」とされている。


 また米国は、12月上旬にロンドンで行われた北大西洋条約機構(NATO)創設70周年記念首脳会談でも、加盟30カ国の軍事同盟国に対し、トランプ大統領は「欧州防衛のために米国は不当に大きな負担をさせられている」と主張し、防衛費の増額を迫り、物議をかもした。


 NATO諸国は米国の負担軽減のために、2014年の首脳会議で防衛費を24年までに国内総生産(GDP)比2%超にする目標で合意している。これらの経緯も踏まえ、フランスのマクロン大統領は「NATOは金だけでない」と反論し、ロシアに接近するNATO加盟国・トルコの問題で火花を散らしたと共同通信(2019年12月3日)は伝えている。


 NATO加盟国の防衛費合計額は2016年に比べ2019年は1300億㌦(約14兆円)も増えている。2024年には4000億㌦に達する見通しとなっている。


 同盟国に多大な駐留経費負担増などを求めるトランプ大統領に対し、米下院のエンゲル外交委員長やスミス軍事委員長(ともに民主党)は、同盟関係を傷つけないよう慎重な対応を求める書簡をポンペオ国務長官やエスパー国防長官に連名で送っている。


 日米安保体制の中で、米政府や米軍関係者から「日本は友達の少ない国」と指摘された。「中国、韓国、北朝鮮、ロシア、フィリピン、台湾など隣近所と反目、対立し、近所から嫌われている。真の友達といえるのはアメリカだけ。アメリカを失ったら、日本は友達のいない国になる」という。

 そう米国の外交官から言われ、「なるほど」と合点がいった。米国が日本に対して強気な外交を展開できるのは「アジアで孤立した国・日本」「米国強依存」という認識がもたらす「上から目線」のなせる業であろう。


 「日米安保なしでは自分の国を自分で守ることもできない。米国抜きでは日本は何もできない」という認識。これについて、民主党政権を誕生させた鳩山由紀夫元首相が、筆者との共著『終わらない〈占領〉対米自立と日米安保見直しを提言する』(法律文化社、2013年出版)の中で次のように記している。


 「多くの国民は『対米依存』、『対米従属』は当たり前と思っている。日米安保条約によって、万一のときにはアメリカが日本をまもってくれるのだから、アメリカのいうことを聞くことは当然であると思っている。日本を護るために米軍基地が存在することも当たり前で、地理的な状況から米軍基地は主として沖縄にあることが必然で、自分の故郷には置いてもらいたくないと考えている。これが平均的日本人の思考である」


 対米従属の典型的な事例として鳩山氏は「いわゆる郵政民営化もアメリカは自分の国は民営化もしないのに、自国の利益のために日本にはこれを突き付けてきた。小泉内閣はさも郵政民営化が日本のためであるかのように、この実現に力を入れてアメリカを喜ばせた」と告発している。


 鳩山氏は、日本の保守勢力に対し「この国ではアメリカに依存して生きることが日本人の遺伝子に組み込まれてしまっていて、『対米依存』が保守の思想の中核となってしまっている。なぜアメリカに守られている日本をそのままにしておいて『保守』なのかがわからない」「この国の『保守』には、日本をもっと尊厳をもった自立した国にしようという気概は見えない」「その気概をもった人物たちは官僚たちから嫌われ、大手メディアから批判を受け、『変わり者』さらには『間違った思想の持ち主』扱いをされるのである」と批判している。


 米トランプ政権からの「駐留米軍駐留経費」の大幅な負担増要求に、韓国は昨年11月19日の協議の席で、わずか1時間で事実上のノーを突き付けている。対米追従の中で、米国の軍事戦略への過剰依存、「守ってもらっている」という安保神話の中で、軍拡と核拡散に手を貸すことは、結果としてアジアの不安定に手を貸すことになる。


 新年を迎えた今、韓国と日本に共通する「対米安保神話」の実相解明に向け、両国民が動き出す時を迎えている。

 

辺野古新基地建設の断念を求める沖縄県民大会(昨年3月)

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この記事へのコメント

  1.  中国・韓国・アジア諸国と反目させ孤立させ、お友だちはアメリカだけですよ、なんておためごかしの手に乗るなんて。いや、それすら嘘くさい。むしろ進んで膝下に侍り、国富を差し出し、わが身の安泰を図る。隷従こそ安倍一党の身過ぎ世過ぎの便法に過ぎない。これでは属国の民はたまったもんじゃない。もっと貧しくなれもっと苦しめというのか。
    貧しい者も苦しむ者も、山本太郎さんに続こうではないか、長周新聞さんの励ましに応えようではないか。生活を変えるには政治を変えるしかないのだから。
     お年玉(プッ)お受け取りください。

  2. 思いやり予算の名のもとに我々庶民の血税をもって、
    アメリカの世界戦略の戦争に手を貸している。

    「アメリカが守ってくれる」という神話から目覚め、
    思いやり予算で間接的な戦争協力していることに
    気づかなければならない。

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