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シナイ半島に陸自派遣 撤退する米軍と入れ替わり

 安倍政府が今春、イスラエルとエジプトの国境付近にあるシナイ半島に展開する多国籍軍監視団(MFO)に陸上自衛隊を派遣しようとしている。4年前に強行成立させた安全保障関連法(安保関連法)に盛り込んだ新任務の具体化で、国連が統括せず米軍主導の軍事行動に自衛隊を参加させる初の事例となる。

 

 安保関連法成立以後、安倍政府は「宿営地の共同防護」や「米艦防護」など自衛隊の派遣領域を拡大してきた。だが中東では反米闘争が高揚しており、トランプ政府は昨年12月にシリアからの米軍撤退を表明し、1月にはアフガンからの完全撤退も表明した。このようななかで今度は、米軍主導の治安維持任務に自衛隊を本格投入する動きを見せている。

 

 安倍政府が派遣しようとしているMFOは中東戦争後のエジプト・イスラエル平和条約(1979年)に基づき82年からシナイ半島に展開している監視部隊だ。もともとは国連平和維持軍(PKF)の派遣が検討されたが、国連安保理で拒否権を持つソ連(当時)の反対で挫折した。そのためアメリカ主導でイギリス、フランス、イタリアなどがMFOを創設し、パレスチナ・ガザ地区にも隣接するシナイ半島に「国境監視」の駐留軍を置いた経緯がある。

 

 従って、MFOは国際平和の観点から平等に「エジプト・イスラエル両軍の活動調査や停戦監視」をする監視団とはいえない。実態はエジプトやイスラエルの親欧米勢力を支え、アラブ諸国で噴出する反米闘争を抑え込むための「監視団」である。現在は米英など12カ国で構成する多国籍軍と文民監視団の約2000人が駐留している。

 

 他方、MFOを主導するアメリカはトランプ政府登場後、いいなりにならない国への攻撃・干渉・恫喝を強めたが、アラブ地域から撤退せざるを得なくなっている。昨年4月にアメリカはシリアに空爆をおこない、イランには核開発をめぐる6カ国合意を一方的に離脱し、対イラン制裁を再開した。さらにアラブ諸国の強い反発を無視して、米大使館のエルサレム移転を強行した。

 

 ところがその反発が噴出するなかで、MFOの拠点があるシナイ半島でもエジプト軍や検問所への軍事攻撃が頻発し治安が悪化した。同時に、米軍駐留費や軍事予算がアメリカの国家財政を圧迫し、米国内での米軍撤退要求が噴出した。このようななかでトランプ政府は昨年12月、シリアからの全面撤退を表明し、アフガン駐留米軍の半数にあたる7000人に撤退命令を出した。今年1月には今年前半にも駐留米軍約1万4000人の撤退を完了させたいとの意向をタリバン側に伝えている。

 

 米軍が撤退に追い込まれる動きとの入れ替わりで、安保関連法施行で可能になった「国際連携平和安全活動」を初適用し、陸上自衛隊員のMFO派遣を具体化し始めたのが安倍政府だった。昨年秋頃からMFOへの陸自派遣を本格的に検討し始め、1月22日にはMFOから司令部要員の派遣要請があったことを発表した。そして「中東に依存するエネルギーの安定供給を確保する上で重要」という「国益」を装う主張で、MFOの派遣要請に応える動きを本格化させている。

 

 2月初旬には薗浦健太郎首相補佐官(安全保障担当)をシナイ半島北部に派遣し、MFOの拠点などを2日間視察させた。そして「拠点は堅固な防護措置など安全対策がとられ、シャルムエルシェイク周辺では治安も安定していた」「隊員の安全は確保できる」と結論づけ、陸自隊員2人をシナイ半島南端のエジプト・シャルムエルシェイクの現地司令部に派遣する準備を急いでいる。この2人は司令部で連絡調整要員として活動する予定になっており、今後の自衛隊部隊本格投入をにらんだ下準備の意味あいも含んでいる。

 

 2016年3月に施行した安保関連法に盛り込んだ改定国連平和維持活動(PKO)協力法の主な内容は「治安維持や駆け付け警護などの任務を拡大し、武器使用基準を緩和する」「PKOに類する国際的な活動であれば、PKO以外にも自衛隊による海外での支援活動を可能にする」というものだ。それは、国連が統括する組織以外がおこなう活動への自衛隊派遣を認めたことが、最大の特徴である。この改定によって「PKOに類する国際的な活動」を掲げれば、数カ国しか参加していない米軍主導の軍事作戦への自衛隊派遣も可能になる。こうした安保関連法の新任務の前例をつくるために具体化しているのが「シナイ半島監視」を口実にした、陸自隊員のMFO派遣である。

 

 2001年9月に起きたNY同時テロ事件直後にアフガニスタンやイラクを攻撃したアメリカは「ショー・ザ・フラッグ(旗を見せろ)」「ブーツ・オン・ザ・グラウンド(陸上部隊を出せ)」と自衛隊の軍事行動参加を執拗に要求した。このとき軍事行動に踏みきった主体はいずれも、米軍を中心とする「有志連合」だった。安倍政府が具体化を急ぐ陸自隊員のMFO派遣は、今後、国際社会の同意が得られないまま米軍主導で開始する軍事作戦などに、自衛隊が引きずり込まれかねない危険をはらんでいる。米軍の下請軍隊と化している構造を暴露している。

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