いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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『ルポ ニッポン絶望工場』 著・出井康博

 少子高齢化で労働力不足が深刻となっている日本社会では今、外国人労働者の増加が続いている。しかし、彼ら留学生や技能実習生たちがなにを思って来日し、どのような生活を送っているのか、最近でこそとりあげられることも出てきたが、実態はまだまだ知られていない。一昨年出版された本書は、2007年から約10年にわたって彼らが働く現場の取材を重ねてきた著者が、なまなましいインタビューを通じて、「現代の奴隷」ともいうべき外国人労働者の実態から、不法就労や犯罪に至る背景を明らかにし、その問題を提起している。

 

 著者は、取材のなかで日本に憧れを持ってやってきた若者たちが、やがて愛想をつかして去って行く姿、「親日」から「反日」へと変わっていく現象を何度となく目にしてきたとのべている。「留学生」や「実習生」などといって日本へと誘い込み、都合よく利用して、さまざまな手段で食い物にする―。そんな事実に気づいたとき、彼らは絶望し、日本への反感を募らせるのだと。静かに日本を去って行く者もいれば、不法就労に走る者、なかには凶悪な犯罪を起こす者もいる。そうした事態を著者は「自分たちを食い物にしてきた日本社会に対し、彼らの“復讐”が今まさに始まろうとしている」と指摘する。

 

ベトナム人フーンさんの体験

 

 著者がたんねんに取材を重ねた内容はなまなましい。たとえばベトナム人のフーンさん(20歳)の場合、著者がインタビューをしたとき、所持金は2000円になっていた。彼女はベトナム南部の出身で、両親は農家を営んでいる。兄の1人はパキスタンの建設現場で出稼ぎ中で、彼女が日本に「留学」したのも、出稼ぎで両親を助けたいと考えたからだという。

 

 きっかけはネットで目にした日本人経営のブローカーの広告だ。そこには緑溢れるキャンパスで楽しげに学生生活を送るベトナム人の若者たちが載っていた。そんな生活をしながら「月20万~30万円稼げる」というから、高校卒業後、実家の農業を手伝っていた彼女は虜になった。フーンさんを日本へと送り出すため家族は田畑を担保に入れ150万円を借金した。日本語学校の初年度の学費が70万円、半年分の寮費18万円、そのほかブローカーに支払う仲介料や渡航費などだ。150万円は一家の7年分の収入に相当するが、それも娘からの仕送りを期待してのことだった。日本語学校の入学には、日本語能力試験「N5」合格が条件となる(ひらがなが読める程度で合格できる)が、彼女は来日前に試験を受けておらず、合格証明書は3万円程度でブローカーが用意した。

 

 ベトナム国民の過半数は農民であり、一般的な月収は月1万~2万円ほどで、海外への出稼ぎは人生を一変させる機会になるのだという。著者によると、安倍政府が「留学生30万人計画」をうち出して以後、中国人が減少する一方でビザ発給が緩和されたベトナム人留学生は急増し、5万人近くに達している。最も多くのベトナム人が利用するのが「外国人技能実習制度」だが、実習制度は最長3年までで、職場を変わることは許されない。そこで職場を選べ、「月20万~30万円」稼げると聞き、留学希望者が殺到しているのだという。ブローカービジネスは隆盛を極め、一つの産業になっている。

 

 しかし、留学生のアルバイトは「週28時間以内」と定められている。守っていると時給1000円のアルバイトでは月12万円程度。人手不足とはいっても日本語がまったくできない留学生にできる仕事は限られ、日本人が嫌がる最底辺の仕事ばかりで、賃金も最低レベル。来日前に思い描いていたようには稼げない現実に遭遇する。さらに日本語学校は何かにつけて金を巻き上げようとする。騙されたと気づいても、借金を抱えたまま帰国できず、日本に居続けるためには日本語学校に学費を納め続けなければならないから、法律違反をしてでも長時間労働に従事するしかない。多くの留学生がそうした状況に置かれている。

 

 フーンさんは日本語学校に斡旋料を求められ、断っていたためアルバイトを見つけられなかったが、結局日本語学校に2万円払って斡旋を受け、コンビニのサンドイッチ製造工場で夜勤を始めた。仕事は週3日の夕方5時から翌朝3時までの夜勤だ。時給は午後10時までが950円、以降は深夜手当がついて1250円と、最低賃金をわずかに上回る程度に過ぎない。9時間働いて1日当り約1万円、1カ月働いて12万円程度だ。彼女は借金返済と翌年分の学費のため、2つ目のアルバイトを探し、宅配便の仕分け現場で週3日、夜8時から翌朝5時まで働くことにした。労働時間は合わせて週50時間。徹夜のアルバイトを続けて勉強に身が入るわけがない。朝9時からの授業では多くの人が突っ伏して寝ている。

 

 同じようにコンビニ弁当の製造工場で週5日、夜9時から翌朝6時まで働いていた26歳の留学生の男性が突然死する悲劇が起こったことにもふれている。テレビや新聞ではまったく報じられないが、最近日本で亡くなるベトナム人留学生があいついでいるという。

 

 日本語学校に在籍できるのは2年。そこで借金返済を終えることのできなかった留学生たちが、日本語も上達しないまま専門学校や大学に入学金を支払って「進学」していく。少子化に悩む大学までもが「ビジネスチャンス」と捉え、その受け入れに乗り出し始めるなかで、学費の支払いを逃れようと学校から失踪して不法滞在の道を選ぶ留学生も増加している。その数は2015年には前年比22%増の3422人にのぼった。

 

国も加担するピンハネ構造

 

 もう一つの出稼ぎ手段となっている「技能実習制度」についても本書では詳しくのべている。この制度は80年代後半から深刻となった中小企業の人手不足が発端で、受け入れる職種も拡大し続けているが、政府は「国際貢献」や「人材育成」を制度の趣旨だと今もいい張っており、企業も政府と口裏を合わせなければ受け入れを認められない、「裸の王様」のような制度だという。実習生の失踪は早くから問題となっており、受け入れ先企業による「人権侵害」がとりざたされてきたが、著者はそこに疑問を呈している。

 

 理由の一つは月10万円程度と他の労働者と比べて半分以下の手取りになる点だ。企業側の負担は日本人を雇う場合と大きく変わるわけではないが、実習生の場合、「監理団体」と呼ばれる斡旋団体が入り、紹介料や毎月の管理費、組合費などをピンハネしていく構造があることから、実習生の手取りは格段に安くなるという。監理団体には元国会議員など政治家がバックについているケースも多い。

 

 著者は、ピンハネ構造には官僚機構も加わっていることを告発している。実習制度を統轄する公益財団法人「国際研修協力機構」がそれだ。この組織は実習制度が現在の形になる2年前の1991年に設立され、法務、外務、厚生労働、経済産業、国土交通省の5つの中央官庁が所轄している、法務省出身の鈴木和宏理事長、厚労省出身の新島良夫専務理事をはじめ、各省庁の天下り先でもある。ここが受け入れ先企業や監理団体などから年間13億円近くを徴収しているが、何の役にも立たない、単なるピンハネ機関と化しているのだという。

 

 受け入れが認められた約70の職種の多くが単純労働ばかりで、「国際貢献」や「技能移転」など建前に過ぎないと指摘する著者は、新たな監視団体をつくるよりこのピンハネ構造を改めなければ、すでに日本を離れていった中国人のように、今後世界各国で人手不足が見込まれるなか、日本は彼らから見捨てられることになると指摘している。

 

 本書では介護士受け入れの失敗や日系ブラジル人の問題など各方面にわたって詳しく論じている。「留学生30万人計画」や「技能実習制度」など、嘘と建前で塗り固め、外国人を都合よく利用し、食い物にし続けるのなら、いずれ日本が見捨てられていく―。そう指摘する著者の言葉には説得力がある。

 

 (株式会社講談社、189ページ、840円+税

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