いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

『ルポ入管――絶望の外国人収容施設』 著・平野雄吾

 在留資格のない非正規滞在者となった外国人が、各地の入管(旧入国管理局、現在は出入国在留管理庁・地方出入国在留管理局)施設に無期限に収容され、暴行、隔離、監禁、医療放置がおこなわれて、死亡したり自殺したりする事件がここ数年増えている。とくに東京五輪や外国人労働者の受け入れ拡大にあわせて、在留資格のない外国人の取り締まりが強化され、次々に入管施設に収容されているという。本書は、ジャーナリストの著者が2018年から現場で取材してきた実態をまとめた。

 

 そのなかの一例。トルコの少数民族クルド人の家族は、父親がトルコ治安部隊から拷問を受け、家族にも迫害の恐れがあったことから、埼玉県川口市の親戚を頼って出国し、日本政府に保護を求めた。だが、難民申請は認められず、在留資格のない非正規滞在のまま今に至る。入管当局からは「不法滞在だ。国に帰れ」と迫られ、一時入管施設に収容されていたが、その後「仮放免」となり社会生活は送れている。しかし、「仮放免」になると就労は禁止され、居住都道府県から外に出ることも禁止、健康保険にも加入できない。一家にとって医療費の負担は重く、一時借金が600万円にもなった。

 

 在留資格のない「仮放免」の外国人は、月に1回程度入管当局に出頭する。そのさい、仮放免の許可が延長されればいいが、不許可になれば入管施設に収容される。多くの場合、判断の理由は示されない。収容は突然やってきて、家族を分断する。

 

 トルコでは当局から迫害され、日本では入管で抑圧されて、父親は精神を病み首を吊った。家族は「なぜ私たちを犯罪者扱いするのか」と訴えている。非正規滞在者は刑法に触れた犯罪者ではなく、たんに入管当局の線引きによって在留資格がない状態が続く外国人であり、入管収容は行政処分(送還のための飛行機待ち・船待ちの状態)にすぎないのに。

 

 そしてこの線引きだが、日本政府は1981年に難民条約に加入したものの、近年の難民認定率は1%未満。クルド民族に至っては許可はゼロ(トルコ政府との関係から。この民族分断の根は第一次大戦時の英仏の植民地化にある)。これには国際社会からも厳しい視線が注がれている。

 

日本は世界から信頼を失う

 

 見逃せないのは、東京五輪や外国人労働者の受け入れ拡大にあわせ、政府が在留資格のない外国人(非正規滞在者)の取り締まりを強化していることだ。強制退去の対象となったのに送還に応じない外国人を次々と入管施設に収容し、しかも拘束期間が長期化して3年、4年、なかには8年という事例も出ている。事実上の無期限の収容制度のもと、自殺者や自殺未遂があいつぎ、内外から懸念が表明されている。

 

 収容された外国人が送還に同意して出国すれば、拘束は解かれる(年間1万人程度)。だが、母国に帰れば迫害の恐れがあるとして難民申請していたり、家族が日本にいることから同意を拒むと、収容は長期化する。出身国政府が身柄引き受けを拒否する場合もあるし、渡航費が外国人自身の負担になっていることも障害になっているようだ。

 

 それでも以前は条件付きで拘束を解く「仮放免」をやり、犯罪に走るより就労して自活してもらう方が良いとして「不法就労」も黙認していた。ところが東京五輪開催が決まったことを契機に、「外国人犯罪が増えれば、五輪の成功に水を差す」といって、政府は仮放免者の周辺を調査して違反者を次々と再収容し始めた。収容者数は急増し、2018年10月には1400人をこえた。

 

 そのもとでの入管施設の収容の実態を、著者は詳しく報告している。命令を聞かない外国人をうつぶせにし、息ができない状態にする「制圧」。広さ約3平方㍍の隔離室(懲罰房と呼ばれる)に閉じ込めて24時間監視する「隔離措置」。入管の医師が入院を勧め、本人も訴えているのにそのまま放置する。2019年には、こうした無期限の身体拘束や虐待に抗議して、収容所内の数百人がハンストをおこない、そのなかで40代のナイジェリア人男性が餓死する事件も起こった。

 

 難民選手団の受け入れを歓迎するといいながら、日本に保護を求める難民にはこうした仕打ちをしてむりやり追い出そうとする東京五輪とは、いったい何のためのものなのか。

 

 菅政府は2月19日、入管法の改定案を閣議決定した。その狙いは、退去処分を受けた外国人が、入管施設に長期間収容されている状況を解消するためだという。ところが中身を見ると、難民条約は難民認定手続き中の送還禁止を決めているが、入管法改定案では難民認定の申請を3回目以降は認めず、強制退去の対象にする。それに従わない者には1年以下の懲役を科すという。

 

 その一方で政府は、外国人労働者の受け入れを増やそうとしている。ところが、こうした非正規滞在者を増やす原因の一つに、技能実習制度で来日したものの、低賃金や劣悪な労働条件に耐えかねて失踪するという問題がある。政府がこのような入管政策や労働政策を続けるかぎり、「やがて日本は世界からの信頼を失い、外国人から選ばれない国になる」との関係者の指摘は的を射ている。

 

 (ちくま新書、314ページ、定価940円+税)

 

関連する記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。