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『どうする? 日本の水道』 アジア太平洋資料センター制作 監督・土屋トカチ

 アジア太平洋資料センター(内田聖子・共同代表)が新たにDVD『どうする? 日本の水道』(土屋トカチ監督)を制作した。約40分の短編だが、日本の水道事業の軌跡を辿り、世界でもトップレベルの水道事業を維持してきた側面と、現在水道事業が抱える問題点を整理しつつ、再公営化を進める世界の動きもまじえて多角的な視点から水道民営化問題を考える素材を提起している。

 

 日本の近代水道は1887年、横浜から始まった。当時、日本政府は「水道の経営は営利主義ではなく公益優先主義に基づき地方庁が経営する」と閣議決定する。1890年には現在の水道法の前身となる水道条例が公布され、ここで「水道は衛生を確保するため、私企業ではなく市町村の公費をもって敷設・運営すべき」との理念が明確に規定された。

 

 その後、全国に水道が普及されたが、第二次大戦の空襲により水道施設や管路は壊滅。1950年の水道普及率はわずか26%だった。復興期に制定された水道条例は「清浄にして豊富低廉な水の供給をはかる」とし、憲法25条の生存権を実現するべく水道の整備が進められた。水道の普及率は高度経済成長期の1960年代に50%を上回り、2017年には約98%と国民皆水道を実現している。

 

 「蛇口の向こう側」を描くことを意識して制作したというこのDVDでは、安全な水道水を飲める国は世界で9カ国しかないこと、漏水率の世界平均が20%前後に対して日本は全国平均約5%と、世界でもトップレベルの水準の水道が確立されており、それが公共のものとして運営されてきたからであることを、現場の映像や携わる人人のコメントをはさみながら明らかにしている。

 

 しかし、水道事業は今、人口減少による水供給量と料金収入の減少、水道管・水道施設の老朽化、現場を担う職員の減少と高齢化などの問題に直面している。

 

 水道料金はかかった費用に対して該当地区の人口で割る総括原価方式を採用しているが、コストが上がった分を料金に転嫁していない事業体も多く、全事業体の3分の1が赤字だという。この方式では自治体の事情によって差が生じる。水道料金は全国平均で3227円だが、もっとも高い夕張市は6841円、もっとも安い赤穂市で853円と約8倍もの差がある。2040年には9割の自治体で料金が36%上昇し、なかには約5倍の値上げが予想されるケースも指摘されている。

 

 また、1990年代半ばからおこなわれた行政改革によって1980年に全国で7万6000人いた水道職員は2016年には4万5000人にまで減少している。まっさきに委託対象業務として削られたのが技能職で、専門性の高い技術が自治体から失われつつある。こうしたなかで改定水道法は成立した。

 

 DVDでは、全国で初めて下水道にコンセッション方式を導入した浜松市や上水道へのコンセッション導入を推進している宮城県の事例とそこでの市民運動にもスポットを当てている。

 

 人口約80万人の浜松市は、天竜川水系の水が豊かで水道経営は黒字だ。同市は2018年4月、下水道のコンセッション方式を開始し、上水道でも準備を進めている。下水道の運営権を買い取ったのはヴェオリア・ジャパン社、オリックス、東急建設などが出資する浜松ウォーターシンフォニー株式会社だ。同社は20年間で86億円のコストダウンを提案した。

 

 しかし、「住民の反対運動や訴訟が起きたさいにかかった費用はすべて浜松市の負担とする」といった契約内容や、浜松市が調査を委託したコンサルに対し「コンセッション方式が“最善である”」と報告書に書くよう依頼していたことなどの問題が明らかになっている。

 

 宮城県でも県の資料に「知事から最初に指示を受けたこと」として「とにかく民間事業者がやりやすいようにすること」と書かれていた事実が判明しており、水企業やコンサルなど利害関係者が参画するなどして公正・中立であるべき公共政策を歪めているという懸念が拭えないこと、PFIを導入した公共施設をめぐってもさまざまな問題が起きてきたことも明らかにしている。

 

 世界的には再公営化が進み、企業に水を握られ多くの人人が苦難に陥った長年の経験から、「水は人権であり公共財である」との理念が確立されていくなかで、それに逆行する日本の動きに警鐘を鳴らしている。

 

 現状、多くの問題を抱える水道事業をいかに後世に受け渡していくか。本DVDでは、岩手県中部水道企業団のとりくみや岩手県矢巾町の住民参画の試みなどを紹介し、民営化反対にとどまらず、水道について住民みずからが考え、「公共財」としての水を守り、発展させていくことを提起する内容となっている。
 (非営利活動法人アジア太平洋資料センター制作、一般価格4500円+税

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