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孤立深める米国とイスラエル エルサレム首都認定に全世界が抗議

劇的に低下する一極支配の力

 

エルサレム首都認定を表明したトランプ米大統領

 トランプ米大統領が6日、エルサレムをイスラエルの首都に認定し、テルアビブにある米大使館をエルサレムに移転する手続きを始めるよう指示した。1948年のイスラエル建国以来、国連でさえイスラエルが東エルサレムを占領して勝手に首都と宣言したことを認めずに撤退を求めてきた。アメリカを含む世界各国が「エルサレムの地位はイスラエルとパレスチナの和平交渉で決める」としてきたものを、ここに来て一方的に覆すというのである。これに対して中東・アラブ諸国のみならず世界中で抗議行動が広がっている。中東をめぐっていったい何が動いているのか、中東研究者にも意見を求め、分析してみた。

 

 トランプのエルサレム首都認定に対して即座に反応したのはパレスチナ人だった。エルサレム旧市街で8日、パレスチナ人数百人が「占領を終わらせろ! われわれに自由を!」と訴えて警官隊と衝突したのをはじめ、パレスチナのヨルダン川西岸地区では6~8日を「怒りの3日間」として各地で大規模な抗議行動がおこなわれた。ガザ地区を実効支配するイスラム主義組織ハマスはインティファーダ(対イスラエル民衆蜂起)を呼びかけた。これに対してイスラエル軍は、抗議行動に参加した青年を射殺したりガザを空爆したりして、わかっているだけで4人のパレスチナ人を殺害し、1600人以上を負傷させている。

 

 また、シリア内戦で米軍の拠点が置かれたヨルダンでは7日、首都アンマンの米大使館前を2000人以上が包囲し、「米大使館を移転する犯罪をやめろ!」「米国製品の不買を!」と叫んだ。レバノンでは、首都ベイルートでデモ隊がトランプの人形を燃やし、警官隊に投石した。世界最大のイスラム教徒人口を持つインドネシアでは、約1万人が「われわれはパレスチナ人とともにある!」と訴えてデモ行進した。ヨルダン、レバノン、エジプト、モロッコ、トルコ、パキスタン、マレーシア、インドネシアなどの国国で、数千から数万人が抗議行動に参加したと伝えられている。

 

首都認定に抗議するパレスチナ人(7日、ヨルダン川西岸の都市・ナブルス)

エジプトのシーシ大統領

 こうした民衆の怒りが燃え上がるのを恐れて、親米アラブ諸国の為政者も次次とアメリカへの抗議を表明している。サウジアラビア国王府は「和平交渉に抜本的に逆行する。トランプ政権がとった行動に対し、非難と深い遺憾の意を表明する」とする声明を発表。アラブ首長国連邦やクウェートなど他の湾岸諸国もあいついで非難声明を発表した。エジプトのシーシ大統領も「(米政府の決定を)拒否する」とのべた。イラクのアバディ首相も「地域と世界の安定を揺るがし、パレスチナ人とアラブ人、イスラム世界、その他の宗教の権利に対する不公正を示すもの。深刻な影響を警告する」と非難した。アラブ連盟(21カ国と1機構)は緊急会合を開き、「アラブ諸国、パレスチナ、キリスト教徒とイスラム教徒への露骨な攻撃だ」との声明を発表した。

 

 アメリカの同盟国であるイギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スウェーデンやEUの首脳もあいついでトランプの宣言に「同意しない」「エルサレムの地位は2つの国家の将来の首都として、交渉を通じて解決すべき」と表明した。8日に国連安保理は緊急会合を開いたが、これまで安保理のヘゲモニーを握ってきたアメリカが、「過去の安保理決議に違反している」と他の理事国から一斉に批判される異例の事態になった。

 

イランのロハニ大統領

 イスラエルと対立するイランのロハニ大統領は、「イスラム教徒は団結して米国のたくらみに対抗しなくてはいけない」と訴えた。ロシアや中国もトランプの宣言を批判している。中東研究者は、「イランのロハニ大統領とトルコのエルドアン大統領が会見して“エルサレムはアラブのもの”と確認し、2つの地域大国が手を結んだ。また、イランがムスリム系56カ国に呼びかけてトランプの宣言に団結して反対する動きになっている。イスラム世界がまとまってきている。トランプにとっては失うものは大きかった」と指摘している。

 

 トランプのエルサレム首都認定は、中東和平のリーダーシップをとるどころか、イスラエルに反発するパレスチナやアラブ諸国の怒りに火をつけ、世界の16億人のムスリムを敵にまわし、欧州各国も従わない。アメリカとイスラエルの国際的な孤立は覆い隠しようもない。アメリカはこの間、イスラムのシーア派とスンニ派を対立させ、イランの脅威を煽りイラン包囲網を作ることで中東を支配下につなぎ止めようとしてきたが、それもほころび始めている。

 

侵略国家を支える米国 歴史的背景を見る 

 

 トランプのエルサレム首都認定にこれほど世界が反発するのは、歴史的な背景があるからにほかならない。エルサレムは聖書の預言者アブラハムにルーツを持つユダヤ教、イスラム教、キリスト教の3つの宗教の聖地である。現在も1㌔四方の壁に囲まれた旧市街に、古代ユダヤ王国の神殿の一部とされる「嘆きの壁」、イスラムの預言者ムハンマドが昇天したとされる「岩のドーム」、キリストの墓とされる場所に建てられた「聖墳墓教会」という3つの聖地が隣接してある(地図参照)。

 この地域はローマ帝国の支配やウマイヤ王朝の征服、十字軍の遠征などの歴史的変遷があるが、今日に至るアラブ世界の矛盾が形成された発端は、第1次大戦の戦勝国となったイギリスの三枚舌外交にある。イギリスは、①アラブがオスマントルコから自力で解放した地域にイギリスは干渉しない、②アラブ世界はイギリスとフランスが山分けする(サイクス=ピコ秘密協定)、③ユダヤ人がパレスチナにナショナル・ホーム(民族的郷土)を建設することをイギリスは承認し、支援する(バルフォア宣言)という三つの矛盾した空手形を乱発した。

 

 結局、イギリスがパレスチナを委任統治領とし、パレスチナの将来はバルフォア宣言にのっとると決めた。当時、パレスチナのユダヤ人人口はアラブ人の1割未満にすぎなかったが、現地に住んでいた大多数のアラブ人は無視された。また民族解放のために10万の戦士を動員したアラブは、オスマントルコを倒すために英仏に利用されただけだった。アラブ全域で反英・反仏闘争が爆発したのも当然だった。

 

 第2次大戦が終わり、1947年の国連総会は、パレスチナの土地の56・5%をユダヤ国家、43・5%をアラブ国家のものにするという、実際の人口比とかけ離れたパレスチナ分割決議を採択した。またエルサレムは国際管理にすると決めた。しかし翌年にイスラエルが独立を宣言すると、周辺のアラブ五カ国との戦争が勃発し、勝利したイスラエルは西エルサレムを含むパレスチナの75%を分捕った(第1次中東戦争)。

 

 1956年、エジプトのナセル大統領がスエズ運河を国有化すると、イギリスはフランスとイスラエルに働きかけてエジプトに侵攻した(第2次中東戦争)。その結果、イギリスはスエズ運河を放棄。アラブ諸国で民族独立の機運が高揚するなか、イスラエルは1967年、エジプトに奇襲攻撃をおこなった(第3次中東戦争)。これによってイスラエルは東エルサレムを含むヨルダン川西岸、ガザ、シナイ半島、ゴラン高原を占領した。国連安保理はイスラエルの占領地からの撤退を求めたが、イスラエルは応じなかった。

 

 1980年、イスラエル議会は「エルサレムを永久の首都」とする基本法を成立させた。しかし国連総会はこの決定を無効とし、安保理はエルサレムにある外国大使館の退去を求めた。現在、エルサレムに大使館を置く国は存在しない。

 

 このように国連の決議に違反して武力で占領地を拡大し続けたのはイスラエルであり、それを背後で支えてきたのはアメリカである。イスラエルはアメリカに軍事的、経済的支援を依存することによって、国としての存続を図ってきた。イスラエルは1970年代以降から現在まで、アメリカからもっとも多額の経済・軍事援助を受けとる国の一つである。

 

 アメリカは国連安保理でイスラエル非難決議が提出されるたびに、拒否か棄権に回ってきた。アメリカは安保理のなかでもっとも多く拒否権を行使してきた国だが、ほとんどがイスラエルに関するものだ。また、アメリカはイランや北朝鮮が核兵器を持とうとすると経済制裁や軍事恫喝で締め上げるが、イスラエルの核兵器保有は黙認するというダブル・スタンダード(二重基準)をやってきた。イスラエルは現在、300~400発の核兵器を保有しているといわれ、ミサイルや戦闘機、潜水艦などの運搬手段も持っている。イスラエルはイラクの核保有を阻止するため、1981年にイラクの原子炉の爆撃もやったことがある。

 

 一方、あいつぐ戦争で周辺の国に逃れたパレスチナ難民は500万人をこえ、占領地ではインティファーダが巻き起こった。抜き差しならぬ状態になるなか、1993年にアメリカが仲介する格好でイスラエルとパレスチナの「二国家共存」をめざす「オスロ合意」が結ばれ、パレスチナ自治政府が成立した。パレスチナは東エルサレムを将来の独立国家の首都と位置づけている。現在、パレスチナ国(ヨルダン川西岸地区とガザ地区)を承認する国は、国連に加盟する193カ国のうち136カ国と、70%をこえている。

 

 ところがイスラエルはオスロ合意も一方的に反古にし、パレスチナ国家を否定する行動をとり続けている。ガザに対しては壁やフェンスで封鎖して人や物資の移動を制限し、何度も軍事攻撃を加えている。ガザでは電気は1日4時間しか使えず、青年の失業率は6割にものぼる。また東エルサレムやヨルダン川西岸には入植地(住宅)を拡大し、現在では約60万人のユダヤ人が暮らしている。それはパレスチナ人からすれば、先祖伝来暮らしてきた土地を突然奪われ、家屋を破壊されることにほかならない。

 

 イスラエル軍は2014年7月から8月にかけて、50日間で6万5000発以上の爆弾をガザに投下し、パレスチナ人2000人以上を虐殺したが、そのなかには500人以上の子どもも含まれていた。イスラエルがガザ攻撃を始めた10日後、アメリカ上院は全会一致でイスラエル支持決議を採択。続いて上下両院がイスラエルのロケット防衛システム「アイアンドーム」に対する2億2500万㌦の拠出を承認した。そのカネは米軍需産業に環流した。

 

世界が抗議するなか態度表明せぬ日本政府

 

 それでもアメリカは、これまで建前上は「二国家共存」を放棄しなかった。過去の大統領候補者の多くは、選挙中に「イスラエルの首都はエルサレム」と公約しても、就任後は棚上げしてきたし、米国議会は1995年、エルサレムへの大使館移転を促進する法案を可決したが、歴代大統領はその執行を延期してきた。もし実行すれば世界中から総スカンを食らうことは火を見るより明らかだからだ。ところが今回トランプはそこに踏み込んだ。

 

 それは中東和平交渉が頓挫して欺瞞が通用しなくなり、むき出しの力対力の政策に転換したともとれるが、それにしてもあえてアメリカとイスラエルが孤立する道に、つまりみずからリーダーシップを放棄する道に足を踏み込んでいるのはなぜか? という疑問にもなる。

 

 中東研究者のなかでは、トランプには深い思慮などなく、ただ潤沢な選挙資金を提供してくれるユダヤロビーにいい顔をするために後先考えず突っ走ったという意見がある。いや、国内的要因だけではなく、中東において覇権を握り続ける意志のあらわれだと見る研究者もいる。

 

 戦後、中東はアメリカにとって、石油資源を略奪しドル支配を維持するために、また対ソの戦略的要衝として重要な地域だった。そして、アメリカは今でも世界最大の核軍事力を持つ国であるが、はっきりしていることは、たとえ近代兵器で武装した米軍を何十万人投入しようと、今回のようにいったんアラブ世界の反米感情に火をつけてしまえば抑えることなどできないということだ。

 

 実際、アメリカは2001年のニューヨーク・テロ事件を契機にアフガニスタンとイラクに軍事侵攻したが、いまや進むことも退くこともできない泥沼に陥っている。シリアに政権転覆を仕掛けたものの、失敗したばかりかロシアの影響力を強める結果になり、またイランが影響力を拡大している。そして派遣された米兵は、女子どもを含めて見境なく殺さねばならない苦痛に耐えかね、帰国してから精神病になったり自殺したりする若者が急増し、厭戦気分が社会を覆っている。アメリカには戦争を遂行する国力など残されていない。

 

 また、戦後アメリカは、核軍事力を背景にしてドルを基軸とする「国際通貨体制」をつくり、すべての国が貿易の決済のために米ドルを使うよう強制してきた。それは金ドル交換停止の下で、基軸通貨国としてのアメリカが、金の裏付けのない紙幣を無制限に印刷し、軍事力を膨張させることを保証してきた。ところが最近、中国が人民元による決済でロシアから天然ガスと石油を購入し、ロシアはそれを金に交換することで、米ドルでの貿易決済から離脱し始め、イランもこれに加わろうとしていることが明らかになった。また、世界最大の石油埋蔵量を持つベネズエラが、米ドルでの石油取引決済を放棄する動きに出たと報じられている。戦後のドル支配が崩壊しつつある。

 

 トランプの無謀なエルサレム首都認定は、この地域をめぐる新たな武力紛争を引き寄せるとともに、アメリカの指導力の劇的な低下をあらわしている。それはまるで、世界最大の武器市場である中東に米国製兵器を売りつけることには関心があるが、またそのためには戦争の火付け役もやるが、それ以外の「和平の仲介役」からは手を引こうとしているかのようである。アメリカがイスラエルに対して、2019年から2028年までの10年間に380億㌦(約3兆9000億円)という、一国に対するものとしては過去最高の軍事援助を決めているのも、そのあらわれともとれる。

 

 問題は日本政府で、アラブ諸国のみならずヨーロッパ各国もトランプ発言を非難しているなかで、はっきりとした態度を表明していない。中東・イスラム世界の人人は、アメリカによる広島・長崎への原爆投下は史上類を見ない非道なおこないだと強く意識しており、そこから復興を遂げた日本人に尊敬の念を抱いているという。その日本政府がアメリカに従属しきって苦言を呈することすらできず、ましてや自衛隊が米軍の身代わりになって戦場に出て行くなら、長年の信頼や親日感情は一気に崩れ去り、それこそ日本はイスラエル、米国とともに世界で浮き上がることは疑いない。安倍政府の外交姿勢が問われている。

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