いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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武力参戦の道引きずりこむな  自衛隊動員企む米国の意図  人質事件もっけの幸いに

 「イスラム国」による人質事件をきっかけにして、流動化する中東情勢が日本社会にとっても対岸の火事では済まないところへきている。「イスラム国」撲滅を掲げる有志連合に日本を加え武力参戦させたいアメリカは、この間、日本政府の独自判断を許さず、「身代金要求に応じるな」「テロ集団との人質交換には応じるな」等等、事態がこじれる方向にばかり誘導してきた。オバマ政府は昨年5月、外交・安全保障政策について米国に直接的に影響を及ぼす場合以外は、軍事行動を最小限にとどめ、同盟国の対処能力を向上させて解決を図るという外交姿勢を打ち出した。今回の中東対応についても、人質事件をもっけの幸いにして自衛隊を中東の戦火に引きずり込み、他国の軍事力によってアメリカの中東覇権を守るという意図を貫いている。その強烈な要求に押されるようにして安倍政府が「自衛隊派遣」を口にし始め、国会で集団的自衛権の行使を可能にする安保法制が審議入りする動きとなっている。
 
 米英仏に口実与える残虐テロ

 人質になった2人が何者であれ、今回の事件の直接の引き金を引いたのは、まぎれもなく安倍首相の中東外遊だった。イスラエルやヨルダンなど対「イスラム国」有志連合に参加する国国を渡り歩いて紛争地域の矛盾に割って入り、撲滅資金を提供したことから、報復として殺害予告にまで発展した。昨年夏以後に二人が捕まっていたことや、身代金要求が家族のもとに突きつけられていたことを承知しながら、あえて刺激を与えて「邦人の命」を危険にさらす振る舞いとなった。
 原因をつくった首相なり大臣のなかから身代わりになる者などおらず、事件発生後は大急ぎで中東から帰国し、「テロには屈しない」「人命第一」をくり返すばかりとなった。傍らでは2億㌦の身代金要求に対して、米国から「テロ集団に資金を提供することにつながる」と釘を刺され、要求が人質交換に切りかわってからも「テロ集団の要求に応じるべきではない」とその度に圧力が加えられてきた。
 そのなかで驚かせたのは、火の粉を撒いた安倍首相本人が、「この(人質事件)ように海外で邦人が危害にあったとき、自衛隊が救出できるための法整備をしっかりする」と主張し始めたことで、自衛隊の海外派遣に道を開くために今度の事件を政治利用する姿勢を見せていることである。外遊での軽率な振る舞いを反省するわけではなく、むしろ火に油を注ぐような行動に出ている。
 集団的自衛権の行使や米軍と自衛隊との一体化、米NSCと日本版NSCの連携など、この間、日米両国が進めてきた戦争体制を一気に具体化しようとするもので、人質事件がそのきっかけになろうとしている。ここで対テロ戦争に引っ張り込まれるなら、日本国内もアメリカやカナダ、フランスと同じようにテロの標的にされ、「邦人の命」は現在よりももっと危険にさらされることになる。また、中東に駆り出される自衛隊員は、アメリカの覇権を守るために死ななければならないというデタラメ極まりない道である。
 この間、ボストンマラソンやフランスにおける新聞社襲撃事件など各地で過激テロが頻発して起こり始めた。フランスはそれを理由にテロとの戦争を叫んで武力参戦に踏みだした。アメリカは国力の衰退が著しいなかで軍事力を縮小させ、各国の軍事力を動員しようと必死に有志連合を呼びかけてきた。これに日本が加わるか否かは大きな問題で、戦後70年間貫いてきた国是を投げ捨てさせ、一歩踏み込ませて武力参戦させる、米軍の鉄砲玉にするものにほかならない。

 ムスリムを危険に晒す「イスラム国」の存在 

 中東で米国の支配力が弱まり、イラクでは統治が崩壊して手がつけられない状態が広がっている。シリアやレバノンなど一帯で武装斗争が激しさを増し、さらにウクライナ、アフリカなど米軍が抱えきれないほど各地でその権益を脅かす反抗に直面している。
 「イスラム国」の台頭は、直接にはアメリカのイラク侵略とその後の統治失敗から発生したものである。反米であるか否かや信仰、主張の是非は別として、民間人を巻き込んでくり返される残虐なテロや人質の斬首という行為については、決して許されるものではない。
 そのテロや人殺しはアラブ諸国の欧米支配からの解放にとっては逆に害になるだけで、有志連合による武力攻撃の口実を与える効果にもなっている。全世界のイスラム教徒にとって風当たりが強いものになり、抗議の声明もあいついで出されている。「イスラム国」ではとてもアラブ世界を団結させることなどできず、むしろ米英仏を利している点について無視することはできない。
 アメリカは九9・11をきっかけにして対テロ戦争に踏みだし、アフガン侵攻、イラク戦争へと突き進んだ。この口実を与えたのはCIAが育てたビンラディン率いるアルカイダだった。民間人虐殺をいとわぬやり方が非難を浴び、戦争狂いのブッシュ政府やネオコンが「対テロ」戦争を正当化し、戦意を煽る道具にしていった。それとまったく同じことがやられ、「イスラム国」が人質の首を斬首すればするほど世界中の人人に嫌悪感を抱かせ、結果として有志連合によるアラブ世界への武力攻撃、軍事的な抑圧を正当化するものとなっている。
 もともと中東の問題は、米英仏の100年以上にわたる植民地支配とアラブ民族の矛盾が根底にある。
 第1次世界大戦後、ドイツ・オーストリアなど同盟国側で参戦したオスマン帝国は、イギリス、フランスなどの連合国に敗北し、その支配領域は幾つも分割されて植民地支配下に置かれた。イギリス、フランスによる分割統治のもとでアラブ人としての単一国家にまとまることは阻まれ、複数に分裂して独立斗争をたたかって独立を成し遂げたり、あるいはクルド人のように国家を得られずに少数派として存在するなど、複雑な100年を歩んできた。1916年、ちょうど99年前に結ばれた「サイクス・ピコ協定」でとり決めた分割統治が、現在にいたる中東の混乱をつくり出してきた。
 中東での覇権を目論んでいた当時のイギリスはオスマントルコとの戦争を有利に進めるために、原住民だったアラブ人に対しては「イギリスに協力して戦うなら、パレスチナを含むアラブ国家の独立を認める」と約束して対オスマントルコ戦争に動員し、一方でユダヤ人から資金を提供してもらうために、当時イギリスのユダヤ人指導者だったロスチャイルド卿との間で、「軍資金を提供してもらえるならパレスチナへのユダヤ人国家の建設を支援する」と約束を交わすなど二重外交をやった。ところが、戦争が終わってみると、イギリスはフランスともオスマン帝国領分割に関する密約を交わしていた。アラブ人との約束を反故にして、旧オスマン領を英仏露の3カ国で分割するというデタラメをやった。
 その後、ユダヤ人たちがなし崩し的にヨーロッパから入植してパレスチナ人を追い出して建国したのがイスラエルで、第二次大戦後はイギリスが衰退して力を失う過程でアメリカが台頭し、アイゼンハワー・ドクトリンなど中東戦略を展開してイスラエルにテコ入れしてきた。イスラエルとアメリカは軍事的、政治的なつながりが濃厚で、世界的には一心同体と見なされてきた。戦争がしたくて仕方ないネオコン勢力、米国の軍需産業ともきわめてつながりが深く、米国製の武器を調達してはパレスチナやアラブ諸国を相手に武力攻撃をくり広げ、アメリカの覇権を守る中東の砦として機能してきた。
 アラブにおいて、こうした100年以上にわたる欧米列強の支配のなかで貧困や抑圧があり、反抗が不断に起きる最大の要因となっている。力を失ったアメリカになりかわって、そのお先棒を担ぐために、親日的といわれてきたアラブ諸国を敵に回してイスラエルに荷担したり、その覇権を守るために顔を突っ込むことがいかに愚かな道であるかは言を待たない。
 集団的自衛権の行使が、人質事件を一つの契機にして迫られている。米軍の傭兵にされるのは自衛隊である。しかし、ここぞとばかりに「対テロ戦争」や自衛隊派遣が叫ばれても、今回の人質事件の火種をまいたのは誰の目から見ても首相本人であり、みずからが出向いて身代わりになるなり、交渉の前面に立つなりしなければ、自衛隊員に「死んでこい」といえるものではない。
 戦後70年にわたって、いかなる国際紛争も武力参戦ではなく話しあいで解決することを国是として日本は世界から信頼を勝ち得てきた。アラブ諸国からは、欧米列強による植民地支配とたたかってきた歴史が重ねられ、アメリカに原爆を投げつけられた後も復興に立ち上がっていった民族として親近感を持たれてきた。この親日感情を踏みにじり、戦後70年の歩みを覆して中東に踏み込むなら、事は中東にとどまらず、果てしもなくアメリカの駒として世界中の紛争地帯に連れ回され、「邦人の命」を危険にさらすことになる。日本社会の未来を左右する重大な分かれ道にきている。

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