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アフガニスタンに自衛隊機派遣 実質は米軍協力者の救助 混乱の元凶である米軍が責任を負え

 米軍の占領支配が崩壊したことを受けて菅政府が、アフガニスタンに残る邦人、現地の大使館や国際協力機構(JICA)の外国人スタッフを退避させるため、航空自衛隊の輸送機を派遣した。これまで国外退避に自衛隊機を用いたことは4度あるが、現地外国人を同乗させ日本に輸送するのは初となる。また米紙ウォールストリート・ジャーナルは「米国政府が避難民の一時収容先として日韓両国の米軍基地を検討している」と報道した。菅政府がこうした米国の要求にそって、米国の検閲を受けた「アフガン難民」受け入れに応じるなら「占領米軍の協力者」として日本全体がタリバンや反米勢力の攻撃対象にされかねない事態に直面している。

 

 菅政府は23日の国家安全保障会議(NSC)で自衛隊輸送機を派遣する方針を決定し、岸信夫防衛相がすぐ自衛隊に輸送命令を出した。派遣するのは空自のC130輸送機2機とC2輸送機一機の合計3機。C2輸送機は23日夕方に空自入間基地(埼玉県)を発ち、24日にはC130輸送機2機も出発させた。派遣する陸自部隊の主力は中央即応連隊(栃木県・宇都宮駐屯地)の隊員100人以上で武器も携行している。「輸送対象者防護」のため銃口を向けたり、威嚇射撃をしたりする武器使用を認めている。

 

 今後は、アフガンの近隣国に拠点を設置し、この拠点とアフガンの首都カブールにある国際空港間をC130輸送機2機がピストン輸送する計画になっている。この新設した拠点で現地スタッフや家族の意向を確認し、日本や第三国への出国を支援する流れとなる。拠点から日本へ移動させるときは民間機の活用を想定している。

 

 外務省はアフガンに残る邦人は国際機関などに所属する数人と明らかにした。同時に退避対象には現地スタッフの家族も含める方向を示した。移送規模は「数百人規模を想定」となっている。
 なお派遣した自衛隊はカブール空港外での活動はしない。退避支援活動の期間は「米軍が撤退するまで」と規定している。

 

 今回の自衛隊アフガン派遣にあたって防衛省は、自衛隊法84条の4で定めた「在外邦人等の輸送」を適用した。同条文は「当該輸送を安全に実施することができると認めるとき」という派遣要件がある。これについて加藤官房長官は「米軍が空港内や周辺の安全確保、周辺空域の航空管制をおこない、航空機の離着陸が正常におこなわれている。タリバンが妨害する動きは見られていない」とのべ、安全だと主張した。岸防衛相も「空港は米軍によって安全がしっかり確保されている」と説明している。

 

 また国際法上の常識から見れば、他国に軍用機を派遣するとき、原則として受け入れ国の同意が不可欠だ。だが加藤官房長官は23日の記者会見で「相手国の同意をとらないのか」と問われると、今後も関係当事者の同意を得る努力を続ける考えを示しつつ「人道上の必要性からの輸送なので、明確な同意がとれていないとしても国際法上は問題ない」とし、「相手国の同意」を得ないまま、自衛隊機の派遣に踏み切った。

 

 なお、過去に自衛隊機が在外邦人を輸送したのは次の4例である。
①イラクで邦人人質事件が起きたとき、日本の報道関係者10人をクウェートまで移送(2004年4月)
②アルジェリアでの天然ガス関連施設襲撃事件で日本人7人と9人の遺体を日本に移送(2013年1月)
③バングラデシュでのレストラン襲撃事件のとき、日本人七人の遺体と家族を日本に移送(2016年7月)
④南スーダンの治安情勢悪化で大使館職員四人をジブチに移送(2016年7月)

 

 この過去の事例を見ると、外国人を移送したり、外国の難民を日本に受け入れたケースはない。さらに輸送規模も十数人規模にとどまり、数百人規模の移送をしたケースはない。今回の自衛隊アフガン派遣は、米国が占領に失敗した地域において、「難民救出」と称し「米軍協力者」を大量待避させる活動の新たな前例作りの意味合いも持っている。

 

膨大な数の難民 多くの米軍基地が飽和状態

 

 また、英スカイニュース(電子版)は23日、タリバンのスハイル・シャヒーン報道官が、米軍部隊の駐留が8月末以後も続けば「占領の延長とみなす」とのべたと報じている。もともと米国とタリバンの和平合意は「今年4月末を米軍撤収の期限」と定めていた。それをずるずる引き延ばし、さらなる延長協議を打診したのが米国だった。そのためタリバンの報道官は「8月末がレッドライン」と主張し、「米国と英国が退避継続を求めるなら答えはノーだ。何らかの結果を招くことになる」と明言した。これは対抗措置で攻撃する可能性もあることを示唆した最後通告である。

 

 一方でタリバンの報道担当者は「今後も日本とは良好な関係を維持していきたい」と表明し、日本の大使館やNGOの職員については「生命と財産を保障する」「米国に協力してきた人も含め、誰も標的にすることはない」とのべている。このような時期に自衛隊機や中央即応連隊を派遣し米軍と心中する道を突き進み、友好関係を望むアラブ諸国とのあいだに日本側から亀裂を入れる行為に及んでいる。

 

 他方、米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は21日、米国政府が、米国内外の米軍基地にアフガンからの難民を一時収容する方向で検討に入ったと報じている。それによると、カタール、バーレーン、ドイツにある基地がアフガニスタンから待避した人で飽和状態になり、これに対応するため、他の受け入れ先を検討しているという。すでに米東部ニュージャージー州のマクガイア・ディックス・レイクハースト統合基地で仮設住宅の建設が進行しており、それでも足りないため、バージニア州の「フォート・ピケット」、インディアナ州の「キャンプ・アタベリー」、カリフォルニア州の「キャンプ・ハンターリゲット」などの米軍基地も一時収容先として検討に入った。この一時収容先リストに日本、韓国、ドイツ、コソボ、バーレーン、イタリアにある米軍基地も入っているという。

 

 このうち韓国の鄭義溶外相は23日、米軍基地へのアフガン難民収容について国会で「(米国側と)初歩的な論議をしたのは事実」と認めた。だが「現在はまったく協議がおこなわれておらず、かりにそういうことがあっても費用は米国が負担すべきだ」と主張している。菅政府はそのような打診があったのか明らかにしていない。

 

 アフガン難民をめぐって英国は最大2万人を受け入れることを表明し、米国も大量に受け入れる動きを見せている。だがもともと2001年の9・11テロ事件直後に「テロリストをかくまった」と叫んで、アフガンに無差別爆撃を加え、家や社会インフラを破壊し大量の難民を生み出したのは米国や英国である。その難民数は2020年末時点(国連難民高等弁務官事務所の調査)で550万人規模(住居を失いアフガン国内で避難生活をおくる人が290万人、国外で暮らすアフガニスタン難民の数が260万人)に達している。

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