いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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世界中で貧困・失業の蓄積  1日1㌦生活者が12億人

 チュニジアやエジプトなど中東・北アフリカ諸国で発展している、反政府の大衆行動の根底には、失業や貧困、飢餓に対する積年の怒りと、その変革を求める強い意志がある。失業や貧困の問題は今や、世界の先進国、発展途上国を問わず共通の問題となっている。社会の生産を担い、富をつくる労働者や農民など額に汗して働くものがなぜ失業と貧困に苦しまなければならないのか、他方で資本や土地を持ち、権力を持つ一握りの支配者たちはなぜ他人の労働を搾取し、国の富を強奪できるのか。この不平等・不公正の世界をいつまでも容認するわけにはいかない、なんとしても変えなければならないという意欲が世界各大陸にみなぎり、ほとばしる時代が到来している。
 世界の貧困状態を示すデータによると、▼世界で12億人が1日1㌦(約89円)未満で生活している、▼世界で8億4000万人以上が栄養不良の状態にある、▼毎年600万人にのぼる5歳未満の幼児が栄養失調で死んでいる、▼11億人が浄水を手に入れることができず、24億人が適切な衛生設備なしで暮らしている、▼四〇〇〇万人がエイズに罹患している、▼発展途上国の1億1300万人以上の子どもが基礎教育を受けていない、▼女性は世界の労働時間の3分の2を働き、世界の食糧の半分を生産しているにもかかわらず、世界の所得の10%しか稼いでおらず、絶対的貧困層の70%を占めている。
 これと対照的に、ほんの一握りにすぎない最富裕層と呼ばれる人種は、そのうちの200人の資産が、世界人口の総年収の41%以上にのぼる。ビル・ゲイツ、ブルネイ国王、ウォルトン家(ウォルマート)の3家族の財産をあわせると1350億㌦になる。これは、世界の最貧国で生活する6億人の年収の合計に等しい。国連統計は、最富裕層が世界人口の20%を占めるとしており、彼らが最貧層20%の150倍の富を得ているとしている。近年、この貧富の格差はとみに拡大傾向にある。
 最貧国は後発の発展途上国に多い。その30がアフリカにあり、13がアジア太平洋地域、5がアラブ諸国、そして1がアメリカにある。これらの国は、かつての植民地支配の傷跡をいまだに引きずっており、かつての宗主国や先進国への原材料の供給に過度に依存している。現在、世界大不況のあおりで主要輸出品の市場でのシェアを減らしている。商品輸出が年68億㌦であるのに対して、輸入は90億㌦となっている。多くが食料の純輸入国でもある。
 その国国を一昨年来、食糧価格高騰が襲った。それはたんなる自然現象ではなかった。一つは、アメリカなど先進国がトウモロコシからバイオエタノールをとる戦略で小麦や大豆の収穫を減らし価格高騰を招いた。もう一つは、住宅バブルがはじけて、金融危機に突入するなかで、FRB(アメリカの中央銀行)などが金融緩和で資金供給を拡大したことに乗じて、ヘッジファンドなどの投機家や金融、証券関係機関、アグリビジネス(農業関連産業)大手が穀物や原油、金、銅などの先物市場に殺到、価格を急騰させたことだった。石油製品や食料品高騰は、日本を含む世界各国の人民生活にも大打撃を与えている。

 欧米諸国の失業深刻化 億万長者増の一方で 

 国際労働機関(ILO)は先日、2010年末の世界の平均失業率は前年比0・1低い6・2%になり、3年ぶりに前年水準を下回ったとの報告を出した。
 地域別に見ると、東アジアと東南アジア、南アジアは全域が改善する一方で、日米など先進各国と欧州連合(EU)は、8・4%から8・8%に上昇し、雇用の悪化に歯止めがかからない。先進国とEUの失業者数は4480万人で、金融危機前の07年末から1570万人も増えた。
 年齢層で見ると、若年層(25歳未満)は全体の2倍強の12・6%に高止まりし、世界全体で7800万人の若者が失業している。
 おもな先進国では、昨年の平均失業率はアメリカが9・6%、イギリスが7・9%、フランスが9・4%、ドイツが6・8%、イタリアが8・7%、日本が4・9%であった。国債が暴落、財政危機に陥ったギリシャは12・9%、スペインが20・6%、アイルランドは13・9%だった。
 リーマン・ショック以後、景気回復が進まないアメリカでは、総人口の7分の1にあたる4360万人が貧困ライン以下の生活をしている。また貧困率は、08年の13・2%から09年の14・3%に上がった。1994年以来の最高で、アメリカ人7人のうち1人が貧困者となっている。政府の食料補助計画で食品券を受領している人は、8人に1人となり、同計画実施以来の最高を記録した。もとより失業者や貧困層に、黒人などが多いことはいうまでもない。
 他方、全米の10大都市の億万長者は09年、前年より17・5%増えた。なかでもニューヨーク市はもっとも多く、18・7%増えた。全世界におよそ10万人の巨大富豪がいるが、その3分の1がアメリカにいる。彼らがため込んでいる富は、全米の富の36%を占めている。過去40年来、貧富の格差は日増しに拡大し67年に9・3倍であった所得格差が08年には11・4倍となった。
 ユーロ圏16カ国の平均失業率は、リーマン・ショック以前の7・3%から09年1月に8・5%をこえ、10年1月には10%まで上昇した。欧州ではおしなべて青年層の失業が深刻である。スペインでは25歳以下の失業率は40%。フランスでは若年層が20%台を突破し、経済の優等生といわれたドイツでも7・5%になった。
 現在、欧州金融資本が各国で仕掛けた住宅バブルがはじけて、不良債権がふくれあがっている。結果として、為替相場ではユーロの下落が起こって、対円で約30%、対ドルで約15%も下落した。銀行・金融機関の財務状況は急速に悪化し、07~10年の不良債権の累計は5530億(約70兆円)にのぼり、予想より13%も増えることになる。
 各国政府は金融資本救済のために、巨額の財政支援に乗り出し、深刻な財政赤字となった。その典型がギリシャ、スペイン、ポルトガル、アイルランドである。
 ギリシャの財政赤字は一昨年比で13・6%に達し、累積債務はGDP(国内総生産)比で115%に達した。事実上、債務不履行宣言をしなければならない国家破産状況となった。それがユーロ圏全体に波及することを恐れて、EU当局は米日の銀行などと連携してギリシャ救済に乗り出した。
 その条件として、ギリシャに超緊縮政策を押しつけた。その内容は、公務員の賃金凍結と削減、年金支給年齢の先送り、消費税にあたる付加価値税の引き上げ、燃料やたばこなどの増税に加えて、医療・教育費の削減や公共機関・施設の民営化などももくろまれていた。ギリシャと同様、南欧諸国にも、超緊縮政策による労働者や勤労人民への犠牲転嫁がおこなわれた。ギリシャの労働者や学生らはくり返しゼネストを決行、フランスや南欧諸国の労働者もそれに続いた。
 リーマン・ショックを契機にした金融・経済恐慌は、米ソ二極構造崩壊後にアメリカが世界一極支配を確立するために、グローバル化のかけ声のもとで新自由主義、規制緩和による構造改革を進め、実体経済を崩し、金融バブルでもうけるという寄生的な延命策の破たんであった。公的企業の民営化、大資本への規制緩和によって独占資本や金融資本の競争力を強化しようとした。だが、労働者の首切りや賃下げ、非正規雇用など資本の利益になる規制緩和策は、労働者との矛盾を激化させた。各国の労働者は生きる権利を主張、斗争を展開した。
 にもかかわらず、アメリカを筆頭に日欧も金融危機救済と称して、国債発行による財政支出拡大によって景気回復、雇用拡大をはかり、体制維持に懸命となった。

 危機救済策が危機拡大 国債乱発で大破綻へ 

 現在、その危機救済策が危機を拡大する羽目となっている。まず基軸通貨国のアメリカはその特権を使って、空前の財政危機を国債乱発で、つまりドル紙幣の際限ない刷り増しをおこない、ドル紙幣を世界中に垂れ流している。日欧各国も深刻な財政危機において、国債依存度を高めた。日本はすでにGDPの2倍に達する国家債務を抱えて破たん状況である。なのに、来年度予算はまた、税収入を大幅に上回る国債を発行した。ギリシャやアイルランドも、財政危機を国債乱発で切り抜けようとしたが、ヘッジファンドなどに買いたたかれ、信用力を失って国家の破たん状況となっている。
 中央銀行による国債購入で財政支出を拡大するのは、産業独占資本や金融資本に直接資金を投入し、不良債権を処理し、国際競争に勝ち抜くためであった。生産コストを引き下げるため、資本は国内で労働者に首切りや賃下げ、福祉の切り捨てをやると同時に、安い労働力や土地を求めて海外への企業移転を始めている。
 それは、国内労働者との矛盾を強めるとともに、米欧資本との市場競争を激化させざるをえない。
 また、アメリカは性懲りもなく他国にも金融の自由化、株価市場主義の金融への転換を要求、アメリカ金融資本による世界の金融覇権を確立しようとしている。金融資本は証券の売買を中心に利潤の拡大をもくろみ、彼らの投機によって金や原油、食料価格をつり上げ、世界の貧困と飢餓に拍車をかけている。
 実体経済が回復しなければ、雇用の回復も実需の拡大もない。モノづくりがなくなり、金融バブルが大手を振ってまかり通るところに、消費市場の拡大はない。先進国、新興国、途上国入り乱れての市場争奪の大競争時代が始まっている。それが戦争を引き寄せる一方で、社会変革の波を巻き起こすことは、1930年代の大恐慌が教えている。

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