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米大統領選揺さぶる「サンダース旋風」 民主党予備選で支持率首位に

 米国内では11月に本選を控える米大統領選に向けて各党の予備選がはじまっている。共和党では再選を目指すトランプが党公認の座を確実にする一方、複数の候補者が競合する民主党では、国民健康保険制度や学生ローン徳政令などの政策をうち出して4年前に旋風を巻き起こしたバーニー・サンダースが再び台風の目となっている。

 

サンダース(右)とオカシオ・コルテス

 バーニー・サンダースはバーモント州選出の上院議員で、2016年の前回大統領選で有力候補とされていた民主党のヒラリー・クリントンをこえる支持を集めたものの、民主党本部の恣意的な票操作によって次点に甘んじた。みずから「民主社会主義者」を名乗るサンダースは、「99%のわれわれが一つになり、政治や富を独占する1%の富裕層と対決するときだ」と訴え、共和党だけでなく、ウォール街や大資本と癒着して共和党と野合してきた民主党の旧勢力も批判。その主張は10~30代の若年層を中心に新鮮な共感を集め、「サンダース現象」といわれる社会現象となった。サンダースの勢いが増すなかで迎えた最終盤、ウォール街をバックにつけたクリントンを本命とする民主党中枢は「スーパー代議員制度」(古参党員による特別投票)を使って地方での票数を塗り替え、数字のうえで劣勢のクリントンを公認した。


 この民主党の動きや選挙制度について、映画監督マイケル・ムーアは、自作『華氏119』のなかで、「200年前の奴隷制時代の制度が続いている」「有権者が示した意志と選挙での勝者はことごとく逆だ」「大多数が望む方向に政治が進まないのは、大多数を代表するものが政治家になれないからだ」と痛烈に批判している。党本部が票操作によってクリントンを公認したことは多くの有権者を失望させ、トランプとの直接対決となった大統領選では、投票率が過去最低レベルの55%に落ち込み、エスタブリッシュメント(既存権威)との対決姿勢を見せたトランプが多くの下馬評を覆して勝利した。


 だが、サンダース支持の勢いは大統領選後も衰えず、支援する若者たちとともに政治活動組織「Our Revolution(私たちの革命)」を立ち上げ、難民キャンプ出身のイスラム教徒や教師、一般労働者、イラクやアフガンからの帰還軍人など150人をこえる候補者を全米各地の地方議会や選挙区に送り出した。


 2018年におこなわれた米国中間選挙では、移民差別の撤廃や格差是正、ウォール街への課税強化と貧困層の救済、公教育の無償化など「富裕層のためではなく、失業や低賃金に苦しむ働く人々のために投資せよ」を主張する、元ウエイトレスのオカシオ・コルテス(当時28歳)、ソマリア移民出身のイルハン・オマル(同37歳)、パレスチナ移民のラシダ・タリーブ(同42歳)などの若手女性議員が、長年地盤を固めてきた重鎮候補を破ってあいついで当選。いずれも民主党内では「造反組」と呼ばれ、前回の大統領選では有権者登録簿からも名前が削除され、投票権すらなかった若者たちだった。


 現職議員が党の政治資金や企業からの大口献金に依存するなかで、企業献金を拒否し、自分の足で有権者の家を一軒ずつ回って対話をし、小口献金を集める手法で資金を集めながら岩盤を突き崩していったことは、彼女らがもともとサンダース陣営のスタッフであったこととも関係している。皮肉にもこの「造反組」の活躍が民主党にとっての生命線となり、党本部も露骨な妨害ができないほど存在感を放っている。


 巨大金融資本とビリオネアと呼ばれる富裕層の足元で貧困が蔓延し、社会インフラの維持すら困難になった米国社会にあって、長く二大政党制が敷かれてきた米大統領選は、これまでのような「共和党vs民主党」「保守vs革新」という対立軸では動かない。「1%vs99%」「旧勢力vs新勢力」が水面下の対立構図となり、二大政党の外側から起きた大衆的な力が、求心力を失って抜け殻となった既存勢力を揺さぶっている。


 今回の予備選でも、サンダース陣営は主要メディアや財界、民主党本部からも「急進左派」「ポピュリスト(大衆迎合主義)」などのレッテル攻撃を受けながらも、当初トップを走っていたバイデン元副大統領を追い抜いて支持率首位に躍り出た。初日(9日)のアイオワ州党員集会では、巨大企業の支援を受けて刺客として送り込まれたブティジェッジ前サウスベンド市長と互角に争った。不可解な票集計の遅れを経て、民主党はブティジェッジ候補の勝利を発表したものの、前回と同様の票不正操作の疑いが高まり、サンダース陣営が再集計を求める動きにもなっている。直前の同州支持率調査ではトップを独走しており、全米でも50歳未満の若年層から支持率では、ウォーレン上院議員、クロブシャー上院議員を含む全候補者を突き放している【グラフ参照】。

 

     

サンダースの政策にみる米国社会のリアル

 

 サンダースがどのような主張をしており、なぜこれほどの支持を集めているのか。そこからは、日本には伝わってこない米国社会のリアルが見てとれる。以下、サンダースの主な政策をその主張とともに見てみたい。


▼無償の医療保険制度 すべての米国民に保険料も自己負担金もない包括的な医療保険制度を提供する。製薬会社と交渉して、他の主要国の平均価格以上にならないよう薬価を制限し、薬にかかる個人負担を年間200㌦(約2万2000円)以下にすることで、製薬業界が人々を食い物にすることを防ぐ。

 

 現在、米国では3000万人以上が健康保険に未加入であり、高い医療費のために治療を受けられず、健康状態の悪化と乳児死亡率が高い。破産の最大要因でもある。とくに主な処方薬の価格は世界で最も高く、米国人の5人に1人が医師が処方する薬代を払うことができない一方、10大製薬会社は年間690億㌦の利益をあげ、業界トップの役員は年間4億4000万㌦(約484億円)もの報酬を得ている。
 
 昨年だけでも医療費支払いのために800万人が貧困に追い込まれ、破産の約67%が医療費に関連しており、医療破産は年間約50万人に及ぶ。米国人の6人に1人(7900万人)が抱える医療債務810億㌦(約8兆9100億円)を全額免除し、制限法をこえる債務の回収を禁止する。


▼大学無償化と学生ローン徳政令 公立大学の授業料を無料にする。4500万人の学生が抱えてる1兆6000億㌦(176兆円)に達した学生ローンの負債をすべてリセットする。将来の学生ローンには1・88%の金利上限をもうける。年間13億㌦(約1430億円)を大学授業料減免や学生支援機構、低所得者向けの大学に投資する。

 

 約30年前は一般の4年生大学で年間3360㌦(約37万円)程度だった学費が、いまや年間1万㌦以上、家賃など生活費を含めると年間2万1000㌦(約230万円)以上かかる。そのため多くの学生が学生ローンに頼らざるを得ず、6人に1人が卒業時に5万㌦(約550万円)以上の借金を抱えている。全米の学生の45%が飢えに苦しみ、56%が家賃が払えず、17%がホームレスを体験したと報告されている。卒業後も大卒者の時給は下がり、高金利のローン返済に見合うだけの賃金を得られていない。債務を抱える学生の約3分の2は女性であり、南米系や黒人の学生は白人よりも高金利で高い借金を抱えながら学位も取得できずにいる。


 教育は「特権」ではなく、すべての人々の権利である。借金返済のために夢を諦める学生をこれ以上生み出さないため、高等教育における人種および階級間の格差を終わらせる。


 無償化の財源は、約10年前に国の経済を破壊したウォール街の金融投機家への課税で賄う。株式取引にわずか0・5%、債権取引に0・1%、デリバティブ(金融派生商品)取引に0・005%の手数料を課すだけで、全米の学生が抱える推定2・2兆㌦(約242兆円)の借金を返済することができる。高水準の教育を受けるという正しい行為に対して、生涯の借金という「罪」を宣告するばかばかしさに終止符を打たなければならない。


▼すべての人に住居保障 米国では賃金水準が停滞しているにもかかわらず、金融業界の不動産投機が進み、住宅の平均価格は30年間で188%上昇し、家賃の平均値も1960年以来60%以上も高騰した。そのため1800万以上の世帯が、収入の5割以上を住宅費に費やしている。ほぼすべての都市と町で、最低賃金で働くフルタイム労働者はアパートの部屋すら確保できず、50万人が路上やシェルター生活を強いられている。


 一方で、悪徳な不動産開発業者は低所得者向けアパートや住居から家族を追い出し、富裕層向けの豪華なマンションやホテルに置き換えているため、全米で740万戸もの低廉な住居が不足している。さらに老朽化を理由にした解体処分によって毎年1万戸をこえる公共住宅が失われている。家に入れない多くが低所得者、高齢者、障害者であり、ニューヨークやサンフランシスコなどの大規模な住宅市場でも家賃が高騰し、低収入の農村部でも家賃負担が増している。10年間で1・47兆㌦を投資して、手頃な価格の住宅ユニットを構築し、700億㌦を投資して160万世帯が入居待ち状態にある公営住宅を整備する。


 また米国では最上位3世帯の年間収入が1010億㌦増加する一方で、50万人がホームレス状態にある。今後5年間で320億㌦を投資し、恒久的な住宅を建設してホームレスを終わらせる。各州や地域のホームレス支援を拡充し、「誰もとり残さない」社会サービスを実現する。

 

生活支援の窓口に列をつくるホームレスたち(2017年4月、サンディエゴ)

▼社会保障の拡充 55歳以上の世帯のうち約半数が貯蓄がなく、高齢者の5人に1人が年間1万3500㌦(約148万円)未満で生活している。高齢者の飢餓人口は500万人に達する。70万人が政府支援の緊急仮設住宅に頼らざるを得ず、厳しい所得制限のために待機リストにも入れない人も多数いる。


 「すでに破たんした」といわれる社会保障制度には実は2・9兆㌦(約320兆円)の余剰金があり、すべての対象者に16年間、必要額を支給する。さらに社会保障税が減免されている富裕層(年収25万㌦以上)の税率上限を引き上げ、今後52年間の社会保障費が確実に支払えるようにする。現在高齢者だけで480万人が利用する栄養補助食品補助プログラム(SNAP)を拡充し、高齢者の飢餓を解消する。


 年金削減を停止させる執行命令を出し、退職後の生活保障危機に対処する。リーマン危機でウォール街と外国銀行を救済した資金があれば、数百万人の米国人の年金を保護できる。

 

▼公正な富の分配と民主的な企業運営 米国で10%の最富裕層は、株式売買や配当、利息収入を含む全企業収入の約97%を所有する。わずか超富裕層3人だけで下位1億6000万人の米国人よりも多くの富を独占しており、ウォルマート創業家のウォルトン家の株式保有額2000億㌦(約22兆円)は、米国人の下位42%の人々がもつ資産をこえる。


 彼ら富裕層の唯一の関心は短期的な最終利益だけであり、その貪欲で不正な税法によって競争市場は殺され、全米の労働者の生活と社会コミュニティが破壊された。彼らは平均的な労働者の300倍以上もの収入を手にしながら、社会インフラの劣化や環境汚染を放置し、手にした富をケイマン諸島のようなタックスヘイブンに逃がして租税義務を回避している。アマゾン(通販)、ゼネラルモーターズ(自動車)、イーライリリー(製薬)、シェブロン(石油)、ハリバートン(資源)、Netflix(IT)、デルタ(航空)などの巨大企業は何十億㌦もの利益をあげながら連邦所得税をまったく支払っていない。


 これらの富を根本的にそれを生み出した労働者の手に戻し、労働者に彼らが働く会社の所有権を与える。アメリカ経済における議決権に関する株主の独占を終わらせ、労働者が取締役会での平等な発言を持ち、正常な労働を可能にする公平な分配を実現する。トランプによる法人税の優遇措置を覆して35%に戻し、法人税の抜け穴をふさいで10年間で最大3兆㌦(約330兆円)を調達することにより、大企業に公正な税金負担をさせる。


 解体された労働組合の再結成と保護を促し、公共部門の労働者にもストライキ権を与える。従業員に貧困レベルの賃金しか支払わず、低賃金国に仕事を発注し、労働組合を弾圧し、法外な役員報酬を支払う企業との政府契約を拒否する。


▼極端な富への課税強化 米国全世帯の上位0・1%の超富裕層に対して年間税を設定する。3200万㌦(約35億2000万円)以上の純資産にのみ適用し、今後10年間で約4・35兆㌦(約478兆円)を調達する。15年間で億万長者の富を半減させ、特権階級への富と権力の集中を実質的に崩壊させる。


▼ウォール街改革の実現 米6大銀行の資産は10兆㌦(1100兆円)をこえており、米国のGDPの5割以上を占めている。リーマン危機後に国の公的資金によって救済されたJPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、ウェルズ・ファーゴ、シティグループの4大金融機関は、資産を救済前より77%も膨張させている。「大きすぎて潰せない」といわれ、米国人全体に壊滅的リスクをもたらすほど巨大化した銀行は解体する。クレジットカードの金利を制限し、金融取引税で急速な金融投機を制限する。


▼移民差別の撤廃 米国は移民の国であり、移民労働者は農業労働者の4分の3を占める。そのうち5~7割は統計文書にも入っておらず、多くが最低賃金以下で搾取されている。移民労働者の保護と公民権獲得のためのプロセスを確立する。農業労働者を含むすべての労働者に最低時給15㌦(約1500円)を補償する。


 移民家族を強制的に引き離す米移民税関捜査局(ICE)を廃止して、残酷で非人道的な国外追放プログラムと拘置所を解体し、分離された家族を再会させる。DACA(不法入国した若者救済制度)を復活・拡大し、亡命を求める人々のための人道的政策をおこなう。


▼公平な貿易協定 「移民流入を大幅に減らす」といわれた北米自由貿易協定(NAFTA)の締結以来、貧困ライン以下で生活するメキシコ人が1500万人増加し、メキシコの小規模農家を絶滅させ、逆に移民流入の悪化を招いた。多国籍企業の利益ではなく、米国を含む各国の労働者を第一に考える貿易協定を再交渉する。


▼自由で公正な選挙 大企業の資金による数百万㌦の選挙資金提供を可能にするスーパーPACを廃止し、小口寄付を増幅する公的資金による選挙に置き換える。

 

ニューハンプシャー州でのサンダース陣営の集会(11日)

新自由主義の破綻 日本社会への波及必至

 

 大統領選挙に関するAXIOSの調査では、18~24歳の回答者の8割以上が「アメリカの経済システムの変革を約束する候補者」を歓迎すると答えている。


 サンダースは、「労働者階級は長年エスタブリッシュメントに無視され続けてきた。しかし私たちは、全国の道路や橋、水道、学校など公共施設に何百万もの質のよい仕事を創出し、生活賃金以上で雇用することを約束する。崩壊しつつあるインフラを再構築するのだ」と呼びかけ、各地の集会では数万人規模の大観衆を集めている。民主党の対抗馬たちも富裕税や法人税アップを主張しているが、富裕層に対して厳しいサンダースの主張が全体のイニシアチブを握る。


 米国社会ではじまった地殻変動は、気休めの改良で収まるレベルにないほど深刻度を増した貧困化と経済格差を根底にしており、政治や経済からはじき出された99%の力が形骸化した大統領選を下から揺り動かしている。米国で激化する社会矛盾と新しい政治勢力の台頭は、米国の後を追って新自由主義に舵を切る日本社会の将来にも大きな影響を与えるものとして注目される。

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