(2026年9月16日付掲載)

下関市の沖合に造成された人工島「長州出島」(下関市港湾局提供)
三菱重工(東京都千代田区)が下関市の沖合人工島「長州出島」の売れ残っていた産業ゾーンの分譲地10区画を30億円で購入する見通しとなっている。1995(平成7)年に第1期整備工事に着手してからおよそ30年。関門航路の浚渫土砂の捨て場であるという事情があるとはいえ、使い道のない人工島に巨額の税金が注ぎ込まれ、頑丈かつ巨大な道路群が次々に連結し、人工島を中心に下関の道路網は大きな変貌を遂げた。国策による軍事的な臭いを漂わせながら進行してきたこの巨大事業だが、ここにきて三菱重工がその大半の土地を買いとる運びとなっている。「江浦工場の機能の一部移転」などとされているが、なにをするか不明なままで、いよいよきな臭さを増してきたという受け止めが広がっている。本紙記者座談会で論議した。
造船業縮小の三菱がなぜ取得?
A 三菱重工(取締役社長・伊藤栄作)が購入するのは、産業ゾーン約15㌶のうちの14・4744㌶だ。産業ゾーンの分譲を開始したのが2019(令和元)年だが、全部で11区画あるうち、2021(令和3)年5月に新光電業が1区画購入しただけで、敷地面積の9割、10区画は買い手がつかないまま7年が経っていた。そこで降って湧いたように、残り10区画を全部三菱重工が買うという話が出てきた。
B この報道でまず最初に「安い」と思った人は少なくない。1995(平成7)年に第1期整備工事に着手してから、2025(令和7)年度末までに人工島建設にかかった費用はざっくり850億円だという。当初、590億円と予想されていたのからすると260億円の増額だ。国・県・市の三者で負担しているのだが、850億円かけた土地の分譲区画の6割を30億円で買えてしまうのだから「安い」というほかない。しかも、今はまだ緩衝緑地も整備途中(2017年度着工)だし、第3期工事部分の埋立も進行中だ。後回しになっている第2期工事部分がどうなるかは不明だが、まだまだ予算はかかるのだろう。行政が好んで使う「費用対効果」はどうなっているのだろうかとも思うところだ。ただ、30億円というのは三菱重工が値切ったわけではなくて、売出し価格(産業ゾーンは1平方㍍当たり1万9600~2万2000円)なのだそうだ。
C 気になるのは、あの強風吹きすさぶ島でいったい何をするのか? ということだ。「新たな造船関連施設の設置を検討」とか、「三菱造船江浦工場(彦島)の生産機能の一部移管を検討」などと報じられていて、来年4月着工、2030年の操業開始をめざすということは発表されているが、具体的に何をするのかよくわからない状態だ。今、三菱の方で何をするか協議中なのだとか。人工島を購入する話は東京の方で決まった話なのだろう。下関勢もびっくりで「何をつくるんだろう…」と話題になっている。
B 確かに、江浦工場は大正時代からあの場所にあるというし、老朽化していることや、手狭になっているけど立地的に拡張できないとか、ドックがそこまで大きくないから受注できる船のサイズが限られているのだとかいうことはよく話題になってきたところではある。だから、「老朽工場を更新するためにも、とりあえず土地を確保したのだろう」という見立てをする人もいる。「三菱にとっちゃ30億なんて安いもんだよ」と。
C しかし、首をかしげる人は多い。三菱は東大和町にも工場を持っているのだが、ここはボーイングの羽をつくっていたのもとっくの昔に終わり、デッキクレーン(船に積むクレーン)をつくっていたのも中国に工場を移してしまったという話で、今は江浦工場でつくる船の一部をちょこちょこやっているような感じ――みたいな話もよく耳にする。東大和町の工場もあって、江浦の工場もあって、それに加えて人工島を買うというから、「三菱にそんな余力があるのか?」というのが下関界隈の人々の実感のようだ。
というのも、最近ちょっと大きめのフェリーやら官庁船やらが入ってきて忙しくなってきたらしいが、それだけで人員的にアップアップみたいな感じになっている状況があるからだという。「それ以上に新しい事業をできるのか?」「造船事業の拡大なんて可能なんだろうか?」という感想を抱いている人も少なくないようだ。なんにせよ、一番大事なのは人員だ。土地・設備があっても技術者なり、協力会社なり、人がいなければ船はつくれない。
A だいたい三菱重工は、このところ祖業の造船事業を縮小してきた。主力の長崎工場は大型商船事業から撤退し、防衛省絡みの艦船の建造・修繕や舶用機械などに特化している。2021~2022年にかけては、国内最大級の100万㌧ドックを擁する長崎造船所香焼工場の新造船エリアを大島造船(長崎県西海市)に引き渡した。香焼工場で建造してきた主力の液化天然ガス(LNG)運搬船まで、中国・韓国に負けて2019年ごろを最後に受注できなくなったから、というのが理由だった。
三菱の造船撤退の契機になったのは、2016年に長崎造船所が受注した豪華客船「アイーダ・プリマ」の建造(同型のものと合わせて2隻で1000億円で受注)途中で設計や資材の変更、つくり直しがあいついだために納期が遅れて特別損失が膨れ上がったうえ、1カ月間に3回も艦内火災が発生するなど、三菱の生産能力の低下や管理体制のずさんさが露呈する事態になったことが大きい。特別損失が2500億円を超えたのだ。このときには、長く祖業を支えてきた地元下請けを海外勢と競わせて買い叩いたり、技術者等の人材育成を軽視してきたことによる「必然的な結果」だと指摘されていたし、目先の利益だけを追い求めて衰退した日本のものづくり、産業資本の弱体化を象徴する事態となった。
それ以来、三菱は造船から手を引く傾向にあり、2018年に造船部門が「三菱造船」として重工の子会社化になったのも、下関ではその文脈のなかで捉えられていたと記憶している。そんな感じで、存在感が薄れていたところに、いきなり「造船を強化する」というのだから、「どうした?」となるのも当然だ。
政府が造船に重点投資 三菱造船には400億円

三菱重工が大部分を取得することになった人工島(下関市)の産業ゾーン(青色部分)
C 業界外の人間は「突然なにごとか?」と思うが、じつは造船業界は今、高市政府が戦略17分野のなかに「造船業再生」を盛り込んで動き出したことで湧き立っているそうだ。官民で1兆円規模の投資をおこない、2035年に年間建造能力を現在の約2倍の年間約1800万総㌧(市場規模約5兆円)にまで引き上げる計画だ。「防衛力強化」や「経済安全保障の強化」などがその名目になっている。
今月4日に、経済安全保障推進法にもとづく供給確保計画の第1弾として、今治造船(愛媛県今治市)・多度津造船(香川県多度津町)など3社、ジャパンマリンユナイテッド(JMU、横浜市西区)などの3社、名村造船所・函館どつく(函館市)の3グループの計画を認定し、最大で2131億円の補助を決定。追加で11日に、川崎重工業に最大約156億円、三菱造船に同約400億円、大島造船所(長崎県西海市)に同約61億円、新来島どっく(今治市)グループに同約320億円、内海造船(広島県尾道市)に同約43億円の助成をおこなうことを発表している。
そもそも三菱重工は国策による軍拡の最大の受益者であり、2024(令和6)年だけみても防衛省からの発注は1兆4000億円超となり、国内2位の川崎重工業に2倍以上の差をつけてダントツの首位に君臨している。公金ジャブジャブの官製バブルだ。三菱造船だけで400億円の国費が注がれるなら30億円なんて安いものであり、なかには「どうせ国のお金だし、だれかに恩を売ったんじゃないか? 人工島なんて風が強すぎるし潮をかぶるし、あそこで何かするとは思えない」と話題にしている人たちもいるくらいだ。来年4月、本当に工場の建設に着工するのかどうかに注目している人もいる。
A たしかに日本は1950年代後半にイギリスを抜いて建造量で世界シェア1位となり、1984年までおよそ30年間にわたってトップの座を守り続けた「造船大国」だった。70年代には世界シェアの半分を握っていたくらいだ。しかし、その後は中国や韓国が伸びてきて、2000年に韓国に、2000年代後半には中国に抜かれ、2025年で見ると中国が約62・7%、韓国が約21%、日本が4・9%と、次点の韓国の背中も見えないほど引き離されてしまった。四方を海に囲まれながら、造船業界は斜陽産業みたいになり、満足に自国の船もつくれなくなっている現状が危機的であるのは事実だ。
しかし、本気で造船復活を目指すなら、労働力を使い捨てるような働き方を見直すことや、時間をかけた熟練工の育成、理不尽なコストカットを強いる下請け構造の是正も含めて、ものづくりの体制そのものを抜本的に転換しなければ容易に変わるものではない。国内の景気も上向かなければ、こんなに疲弊していたら船舶需要はしぼむばかりだ。
むしろ、この政府の動きの背後には、アメリカの軍事的な都合からの要請があることは見逃せない。
米国の艦船修理 「日本の乾ドック使え」
C アメリカの造船業は日本よりもひどく、世界シェア0・04%まで落ち込んでいて、米海軍の艦艇保有数も中国海軍に追い抜かれている。香港メディアが米軍事専門サイトの記事を紹介していたが、米海軍の造船計画が慢性的な人手不足や工期延期、予算超過に苦しむ一方で、中国は2035年までに9隻の空母打撃群を構築する目標に向けて着実に艦隊を拡張しているそうだ。「米中間の海軍力競争において、造船インフラの基礎体力差が決定的な要因になりつつある」と、米軍事専門家が指摘しているらしい。
アメリカの原子力空母は11隻あるのだが、整備とか燃料交換とか改修などでアメリカ国内の造船所の能力が間に合っていなくて、実働できる原子力空母が減っていることも、ホルムズ海峡をめぐるこの間の経緯で浮き彫りになったところだ。
トランプ大統領も危機感を募らせていて、昨年4月に「われわれは事実上、もはや船を造っていない。とんでもないことだ」といって造船業を復活させる考えを示した。しかし、すでに消えてしまった火を再び灯すのは容易ではない。とくに業界の衰退にともなって減少した熟練工をどう確保するかが深刻な課題になっている。
A そこで登場したのが、目下の同盟国である日本と韓国の技術を使おうという発想だ。「日本の乾ドックを使うことで、メンテナンスの遅れと格闘している米国の造船所の負担を軽減し、米国が艦隊を拡大できるような造船作業に集中できるようになるだろう」(2024年、ラーム・エマニュエル駐日米国大使)といった発言もなされている。昨年10月にはアメリカと造船能力を拡大するための協力覚書を締結していて、同年7月の関税合意で日本がアメリカに投資を約束した5500億㌦(約85兆円)にも造船分野が含まれている。
日本を使い勝手の良い軍艦の修理・兵站基地に使うというこれらの動きを考えると、当初から軍事利用が取り沙汰されてきた人工島を三菱重工が購入する動きは、それと無関係とは思えないものがあるし、やっぱり何かしら工場を建設するのではないかとも思える。いずれにしても穏やかでない。「30億円で売れた! 港湾会計の赤字解消だ」と手放しで喜べるものではないのは確かだ。すでに22万㌧級の大型艦船が接岸できる岸壁も完成して2023年に供用が開始されており、冬場の強風の問題はあるが、いろいろ体制は整っている。
米軍岩国基地拡張とも連動 巨大な道路網整備
B そもそも人工島建設は、米軍岩国基地の沖合拡張が動き始めた1995年前後からそれと歩調を合わせるように進んできた経緯がある。岩国の愛宕山は「夢の宅地造成」という触れ込みだったものがふたを開ければ米軍住宅になり、「滑走路の沖合移設」という名目でおこなわれたものも単なる基地拡張でしかなく、今では極東最大の米軍基地になっている。下関で進行してきたことを見ても、そもそもケチな国が利用目的も定まっていない人工島に向けた巨大道路群の整備にまで税金を投入するわけがないのだ。
1990(平成2)年に着手した北バイパス(国道1919号、延長6・8㌔)が2015年に開通しているが、この事業費は720億円だ。幡生交差点と北バイパスをつなぐ武久椋野線が163億円、北バイパスの武久交差点から沖合人工島入口までの武久新垢田西線に32億円、国道191号からゆめシティ側に向かう長府綾羅木線は、国道191号から旧川中中学校までの区間(延長0・6㌔)で84億円などなど、1000億円規模の予算が投じられている。人工島850億円と合わせると2000億円規模を投じているともいえる。
そうして人工島を中心に、下関駅、高速道路の下関インターチェンジ、新幹線が停車する新下関駅、鉄道輸送の中心となる幡生ヤードなど、要衝から瞬時にアクセスできる道路が続々と完成している。
C 加えて、第2関門橋も具体化し始めている。第2関門橋の必要性について否定するものではない。関門トンネルは老朽化して、いつ崩れてもおかしくないと心配になるような状態だし、関門橋・関門トンネルのどちらかが通行止めになれば、渋滞はすさまじいことになる。九州と本州をつなぐ橋なりトンネルなり、インフラとしての道路は必要だ。
ただ、これで響コンテナターミナルや新日鉄などの鉄鋼製造拠点にも数分でたどり着けるようになるという側面もある。下関側では、彦島大橋を通ってトンネルに入る手前から、海側にまっすぐ道路を通して北バイパスに接続する計画もあって、それができると第2関門橋の料金所を出ると横野まで信号ゼロで行けるらしい。日常的には便利な一面、有事に一般車両を排除するなら、相当なスピードで各方面にアクセス可能な体制が整うということだ。米軍はかねてより「関門シティ」として有事のさいに使えるようにする計画を持っているという話もあるが、次第にその姿があらわれてきているという見方もできる。
A 日本全体が落ち込んでいるなかで、高市政府の経済政策としては防衛産業を成長の大きな柱に掲げている。5年間で43兆円もの予算が注がれるから、その最大の恩恵を受ける三菱重工を筆頭に色めき立っているのが現状だろう。「防衛」と銘打って、本来は自社でやるような工場の建て替えを国の予算でやる大企業もあったりするほど、防衛関連には湯水のごとく税金が流れている。そして、技術力を持った中小企業まで武器産業に糾合されていく状況も広がっている現実がある。造船分野への巨額の投資もその範囲のなかにあることは確かだ。
下関は本州と九州を結ぶ関門海峡に位置し、古くから大陸への玄関口および交通・戦略上の要衝であり、戦前には日本有数の軍事要塞となり、二度の大空襲も経験した。それが近年、2000年代に入ってから「臨検港」に指定されたり、北朝鮮有事や「テロ」に備えた大規模訓練がおこなわれるなど、港湾は軍事利用の色合いが強まっている。三菱が人工島で何をつくるのかは、発表されてみないとわからないが、「気づいたら戦争だった…」の世界になりかねないという警戒は必要だと思う。「軍事依存でまちおこし」など悪夢でしかない。



















人工島は建設当時から下関市民には何のメリットも無いように
感じています 一般公開する事もほぼ無く たまに何処の船籍か
解らないクルーズ船が泊まっていて 近所の人からは
不審な印象しか感じないとの噂しか聞きません
もう少し市民に公開しないと
市の対応に不審感が
爆発しないか心配しています
せめて人工島へのゲート管理は考えて欲しいと思います