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上関原発 補償金配分を焦る山口県漁協 

 上関原発計画にかかる漁業補償金の受けとり問題とかかわって、12日に山口県漁協の祝島支店で運営委員会(4人)が開かれ、21日に開催する支店総会で補償金の配分方法を採択するよう決定したとして、組合員に参加を促す案内が配られている。今年2月に意表を突いた無記名投票で受けとりを採決し、その後組合員53人のうち31人が再度受けとり拒否を県漁協に通告していたが、反対派の対応は無視され、今回何もなかったような顔をして、配分手続きをゴリ押しする動きとなっている。
 
 21日に祝島支店総会

 関係する人人に取材したところ、12日の運営委員会では10億8000万円を53人に分配する具体案が県漁協本店の職員から示され、1番から53番までの数字表記(組合員名は示さず)で最高額の組合員から最低額の組合員まで53人に配分する金額が詳細に記されていたという。21日はその金額を組合員に提示し、採決を求めるとしている。
 これに対して反対派は14日に集会を開き、あくまで受けとりを拒否し、否決を目指すことを確認。原発反対で30年来の運動を支持してきた全県全国の人人に恥じない対応をしようと意欲を示している。
 ここ数年、祝島の漁業補償金問題は上関原発建設計画の進行とかかわって大きな問題になってきた。2000年に祝島を除いた関係7漁協とのあいだで漁業補償交渉を妥結したものの、当事者を蚊帳の外に置いた合意など意味がなく、祝島が補償金を受けとっていないままの状態では、中電は四代田ノ浦の海面に手を付けられないからだった。二井県政が強面で「補償金を受けとるように!」と指導したり、法務局の供託金が国庫の没収期限を迎えると県漁協が慌てて引き出したり、あの手この手で漁業権交渉が振り出しに戻ることを回避させてきた。
 原発推進勢力が執拗に補償金受けとりを迫ってきたのは、「漁業補償交渉の完全妥結」にもっていきたいからで、逆に受けとりを拒み続けると原発計画は一歩も前に進まないことを示している。上関原発計画にトドメを刺すか、手続きの進展を許してズルズルの延長戦に引きずり込むかどうかの重要問題となっている。
 今回、県漁協側があくまで補償金配分を強行しようとしているわけだが、この手続きでおかしな点は、まず県漁協本店が配分案を作成して、それを組合員らが受け入れるか否か迫ろうとしていることだ。通常の手続きでは、組合員らのなかから配分委員を選び、その代表者らで構成された配分委員会が分配方法について協議し、組合員に示す手順を踏む。ところが祝島では組合員のだれも配分委員を選んだ覚えがなく、むしろ配分どころか「受けとりを拒否する」と過半数の意思を示し続けてきた。県漁協本店が配分委員会を勝手に代行して、「受けとれ」とやっているのだから、この手続き方法についてもインチキ極まりないものといわなければならない。
 また、2月の「受け入れ決定」で、マスコミはさも漁業補償が完全決着したかのような扱いをしてきたが、漁業権放棄をするためには総会の3分の2以上の同意が不可欠である。「過半数」で決められるようなものではない。祝島支店の正組合員は53人なので、3分の2以上になるためには35票が必要になる。「受け入れ賛成」=「漁業権放棄を認めた」と拡大解釈するにしても31票では足りない。いずれにせよ、「受けとり」を過半数で決めたから漁業権放棄が認められた、というのも乱暴な話で総会で漁業権放棄への同意をとらなければ通用するものではない。
 なお、2月に受けとり採決がやられた際は、まず総会の議長選で隠れ推進派の組合員が選ばれ、そのもとで「無記名投票」によって受けとり賛成が31票、反対が21票という結果になった。21日の総会でも同じように「無記名投票」によって、カネ欲しさがこらえきれない部分を結集したいのが中電、山本県政、県漁協側の本音で、祝島全島で警戒する声が高まっている。島民の一部分に過ぎない53人が10億8000万円を山分けするのと引き替えに、長年身体を張って原発に反対してきた島民の願いを裏切り、島を売り飛ばすというなら、これほど悪質な裏切り行為はなく、献身的に行動してきた婦人たちをはじめ、みなが「なんとしても阻止せねば!」という思いを強くしている。執拗な原発推進勢力の攻勢、島民を分断して切り裂いていく攻撃に対して、全島が決起して連帯と団結の力によってはねつけることが求められている。
 
 瀬戸内海漁業守る国益 全国が注目する斗い

 東日本大震災の後、自然エネルギーの飯田哲也が安倍昭恵を祝島に連れて行ったのを契機に、祝島では「安倍さんは原発反対なのだ」と住民たちを世論動員してきた。ところが安倍政府が発足して蓋を開けてみると、原発政策では再稼働強行を打ち出し、原発輸出に身を乗り出し、さらに首相のお膝元で上関のような新規立地も動かそうとしていることから、今回のように原発手続きをゴリ押しする動きが活発になっている。
 上関原発は全国最後の新規立地といわれ、東日本大震災以後は政府の新設から外れたり、二転三転して現在に至っている。このなかで、全国的に原発反対世論が高揚し、全国54基の再稼働すらままならないなかで、首相のお膝元から突破する動きがあらわれている。補償金を配分すれば一人当たり2000万円というが、まさに福島はじめ全国の原発立地町、貧困過疎地でやってきたのと同じように、札束で頬をひっぱたくような真似を性懲りもなくやっている。メルトダウンした福島第一原発はいまだ収束の見込みがなく、住民たちは仮設に押し込められたまま故郷に戻ることすらできない。棄民状態で「核廃棄物」のような扱いをしながら、反省もなく原発の海外展開や国内立地を進める政治があらわれている。「後は野となれ」で国民をゴミ扱いする政治といわなければならない。
 アベノミクスといって金融市場に巨額の政府資金を垂れ流し、外資ヘッジファンドを喜ばせ、TPP参加で農漁業や医療、法律や社会制度に至るまでみな外資の食い物にして米国基準に委ねる政治を進め、多国籍企業化した大企業は海外移転をくり返し、国内労働者がどうなろうが知ったことではないといって出ていく。その上、法人税減税した企業負担分を消費税増税に転嫁したり、政府を通じて移転先のインフラ整備も税金でまかなって、内部留保やもうけは大企業のもの、負担は国民のものという、大企業天国の国づくりを進める政治が、恥ずかしげもなく、むしろ再登板によって調子付きながら進められている。しまいには対中国、対北朝鮮などアジアの近隣諸国相手に戦争をやろうというのが戦犯の孫・安倍晋三で、そうした国を廃虚にしかねないろくでもない政治の象徴が原発にほかならない。福島を廃虚にしても、まだ物足りないといって新規立地・上関にも手を出し始めている。
 祝島の補償金受けとり拒否のたたかいは、瀬戸内海漁業を守る国益にたった、デタラメな国策に反対するものである。祝島だけの問題ではなく、いわんや53人いる組合員の懐事情の問題に限定されるようなものではない。山口県、広島県、大分県、愛媛県など広範囲の住民生活がかかわるだけでなく、全国的に見てもここで新規立地を叩きつぶすことが大きな意味を持っている。全国が注目するたたかいとなっている。
 米国の尻馬に乗ってTPP、原発再稼働など安倍政府が有頂天になって暴走を開始しているなかで、全県、全国団結の力を広げながら、祝島や上関現地のたたかいをこれまでにも増して強力なものにしていくことが待ったなしである。ここで抽象的に「反対世論が強いから」といって風頼みをやり、漁業補償金受けとりのような手続きを開けて通すなら、107共同漁業権書き換えのように裏切りの二の舞にしかならない。原発が終わりになるところまできて、30年の苦労を水の泡にするのか、全国の期待に応えて郷土を守り抜くのかが鋭く問われている。

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