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水道法改定も強行採決 内閣府担当部署に水メジャー職員が出向の事実も発覚

 水道事業民営化を促す水道法改定案を審議している参議院厚生労働委員会が11月30日に理事懇談会を開き、4日に法案採決へ踏みきることを決めた。同法案を巡っては11月29日の参考人質疑で批判意見があいつぎ、水道民営化を進める内閣府担当部署に水メジャーが職員を出向させていることも発覚し反発が拡大した。しかし安倍政府はその声を無視し、成立を急いでいる。水道法改定案は先の通常国会で衆議院を通過したあと継続審議になっており、衆議院で改めて可決しなければ成立はできない。そのため与党側は会期末(今月10日)前に衆議院に送り、成立させようとしている。

 

 先月29日の参院厚労委がおこなった参考人質疑では、水ジャーナリストの橋本淳司氏と全日本水道労働組合(全水道)の二階堂健男委員長が今回の水道法改定案が持つ危険性を指摘した。

 

 橋本氏は水道を民営化した諸外国で再公営化した事例が180地域に及ぶことを指摘した。企業の業務内容と金の流れが不明瞭になり、多額の役員報酬、株式配当の支払いに回っていたことにふれ「水道へ投資をおこなわず、税金も払わないケースもあった」とのべた。また「コンセッション方式」(自治体が公共施設の所有権を持ったまま運営権を民間企業に売却)で管理監督責任は自治体に残っても現場を熟知した職員が減ることに懸念を示し、いずれ高額な費用を払って専門家やコンサルタントに依存するか、企業側の報告を鵜呑みにしていく危険性を指摘した。また、水メジャーが余った水を海外に売ったり、個人の水使用量情報を集めて他のビジネスに利用したり、個人情報が企業に抜きとられる可能性にも触れた。そして「地域にあったさまざまな対策を講じなければ水道事業は継続できない。豪雨災害対策や森林保全など、従来の枠を超えた総合的な水行政を行う人材が必要だ。必要なのは地域ごとの専門人材の育成であり、コンセッションで民間企業に任せきりにしたら地域に人が育たない」と強調した。

 

 全水道の二階堂氏は、政府が災害対応の責任を明確にしていないことにふれ「安全性を揺るがす事態を招きかねない」と指摘した。

 

 さらにこの日の参院厚生労働委員会では、内閣府民間資金等活用事業推進室に、水メジャーのヴェオリア社日本法人が出向職員を派遣していたことが表面化した。同推進室は公共部門の民営化を促す部局で、いわば内閣府の水道民営化担当部局といっても過言ではない。同推進室側は、昨年4月に政策調査員として公募で採用し、海外の民間資金の活用例の調査にあたっていると説明し、「内閣府はヴェオリア社と利害関係はない。この職員は政策立案に関与していない」とのべている。

 

 ところが今年4月、浜松市が下水道に初めてコンセッション方式を導入したとき、ヴェオリアが参加する事業体が運営権(20年間で25億円)を手に入れた。内閣府と水メジャーを結ぶホットラインが構築されつつある現実に批判は拡大している。

 

地方議会も意見書 衛生的な生活権を破壊

 

 こうしたなか新潟県議会と福井県議会が政府に意見書を提出している。10月12日に新潟県議会が採択した意見書は「コンセッション方式の導入は、災害発生時における応急体制や他の自治体への応援体制の整備等が民間事業者に可能か、民間事業者による水道施設の更新事業や事業運営をモニタリングする人材や技術者をどう確保するのか、などの重大な懸念があり、住民の福祉とはかけ離れた施策である。また、必ずしも老朽管の更新や耐震化対策を推進する方策とならず、水道法の目的である公共の福祉を脅かす事態となりかねない」と指摘した。さらに「麻生副総理は2013年4月、米シンクタンクの講演で“日本の水道はすべて民営化する”と発言し、政府は水道事業の民営化にまい進してきた。ところが、水道事業が民営化された海外においては、フィリピン・マニラ市は水道料金が4~5倍に跳ね上がり、ボリビア・コチャバンバ市では雨水まで有料化され暴動が起きた。フランス・パリ市では、料金高騰に加え不透明な経営実態が問題となるなど、世界の多くの自治体で再公営化が相次いでいる」「水は、市民の生活や経済活動を支える重要なライフラインであり、国民の生命と生活に欠かせない水道事業は民営化になじまず、今般の水道法改正案は、すべての人が安全、低廉で安定的に水を使用し、衛生的な生活を営む権利を破壊しかねない」とのべている。そして「水道法の一部改正案は廃案にするとともに、将来にわたって持続可能な水道を構築し、水道の基盤強化を進めるため、必要な支援の充実、強化、及び財源措置を行うよう強く要望する」と結んでいる。

 

 9月14日に採択した福井県議会の意見書も「水道事業の運営が民間事業者に委ねられることになった場合、日常の給水事業はもとより、災害の復旧活動においても、国民生活に少なからず影響を及ぼす可能性がある」と懸念を示し、「水道事業を民営化したボリビア等では、グローバル企業の参入によって水道料金がはね上がり、国民の反発によってグローバル企業は撤退し、再公営化されている」「国会で慎重審議をおこなうよう強く要望する」とした。

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