いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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選びようない低レベル選挙 下関市長選めぐる記者座談会

 下関市長選の告示が来月3日に迫っている。安倍代議士が再度首相に上り詰めたもとでおこなわれる今回の選挙戦は、有権者が冷め切っているという点で、これまでに経験したことがないほどしらけムードが漂っている。候補者としては、この4年間で公約破棄を繰り返してきた自民党林派の現職・中尾友昭、対抗する形で安倍派若手の西本健治郎(市議)が自薦候補で飛び出して、なんともしれないポスト争奪戦を繰り広げている。ところが、いっしょに盛り上がっている支援者がほとんど見当たらない。政治に期待するものが何もなく、選挙に行く気すら起きないという、衆院選でも顕在化した特徴がさらに進化したあらわれになっている。大不況に直面して失業と貧困の脅威は身近なものになり、下関の経済情勢は衰退の一途をたどるなど、課題は山積している。このなかで現状打開を求める世論はうっ積しているにもかかわらず、選挙となると受け皿がまるでないのだ。選挙情勢とあわせて、市民運動はどう進んでいくことに展望があるのか、記者座談会で論議した。
 
 しらけムード漂う首相のお膝元

 A まず有権者の反応から出しあってみたい。
  とにかく冷め切っている。「選挙がいつあるのか知らない市民が多い」というが、知っていても「今回はパス」という声が多い。「どっちがなっても同じようなものだ」と冷ややかだ。「下関にはこんなタマしかいなくなったのか…」という意見も共通している。「ホラ吹きVSチンピラの何が楽しいんだ?」とかひどいいい方をする人もいる。権威がない。史上最低の低投票率も現実的だ。衆院選は16%の得票率で自民党が大量議席を獲ったが、同じように当選したとしても全有権者の1~2割の支持がせいぜい。江島の最終任期は「19%市長」だったが、それ以下もあり得ると話題になっている。
 C 中尾の評判がとにかく悪い。これは全市的に共通している。この4年間で正体を見たという実感がどこでも語られる。とくに差押えがひどくなり、追い剥ぎみたいに役所が市民の有り金を巻き上げながら、その金を箱物に使い果たしていくことへ批判がうっ積している。来年度予算でも選挙前の“骨格予算”なのに、「代議士にも認められた」「当選間違いなし」という確信で、過去2番目に巨額な予算を組んだ。本格予算になると一般会計1213億円に70億円近く加算されるようで、史上最高額の箱物予算という案配だ。
 江島が「箱物狂い」と批判を浴びたが違いがない。「この大不況の最中に本社ビルを建て替える経営者がどこにいますか! わたしは新庁舎は建てない」といっていたのが、「凍結」にすり替え、就任1年後には解凍して、4年目には建設を始めた。「本社ビル」だけでは堪えきらずに、駅前開発も同じくらい巨額の経費を注ぎ込み、新博物館も、勝山拠点施設も、教育センターも、総合支所も建て替え。次次に箱物を打ち出していった。その総額が200億円。公約をへっちゃらで踏みにじって「公約の進化だ」とうそぶいていく姿勢についても、「民主党以上に質が悪い」という評価が定着している。
  最近になって土建業者のなかでは現職の決起大会に参加するよう上部団体から指令が降り始めた。何十人集めろ! といった類だ。「地元発注」といって地元Aクラスに箱物利権をお裾分けしてきたのが効いている印象だ。ただ、市議補選もあるのに、どの陣営のしおりもあまり見かけない。企業関係がカウンターにポンと置いているくらいで熱心に集めて回る人がいない。この冷め方は異様だ。
  「あいつらの就職活動に付き合う暇はない」と商店主が話していたが、だれかに投票して何かが変わると思っていない感じだ。市長候補も市議補選候補もろくなのがいないという意見も共通している。公約を信用して入れたら破棄するのだから、選挙を信用しても仕方ないということになるんだが、それで「元気アップ」「中尾友昭、次の公約」といってチラシを配るから、「頭がおかしいんじゃないか?」「よく“公約”を口にできるものだ」と唖然として話す人も結構多い。
 前回選挙で、公約破棄することは陣営幹部たちは打ち合わせ済みだった。2万票と見込んでいた市民票が欲しいから「新庁舎建設はしない」「満珠荘は元の通り老人休養ホームに戻す」など叫んでいただけで、勝つための一つの道具でしかなかった。反江島の装いも同じだ。そして当選したら安倍事務所、林事務所の番頭ポストに収まって、嬉嬉としていた。市民からしたら、公約などどうでもいい選挙に付き合ってられないのはあたりまえで、有権者との約束など守らなくても市長を続けられる政治構造そのものに目が向いている。

 「中尾続投」の様な空気 選挙の前から 

  選挙前から「中尾続投」が決まったような雰囲気になっている。安倍派と林派が争いを避け、連合、公明、社民、「日共」といった勢力を引き連れて、下関を安倍・林代理の植民地状態に置いていくコースが浮き彫りになっている。全国よりも先駆けた総翼賛化の政治構造がなせる技だ。「日共」が候補を出したところで、これらが万年市政利権に寄生した与党であることはだれもが知っている。江島市政でもうまいこと折りあっていた。前回選挙以後も中尾与党だ。
  自民党は西本健治郎が出していた推薦願いを蹴って自主投票を決めた。業界などの組織票は全般的に中尾で動き出している印象だ。西本健治郎は父親が安倍事務所の秘書をやっていたし、安倍派のドスが効く県議として有名だった。その関係もあって一見すると「安倍VS林」の代理戦争という捉え方をする人人もいたが、そうはなっていない。安倍事務所が本命で担ごうとしていた経産省キャリア(西高出身)の擁立が失敗した後、それなら西本一本化で動くのかというと、Team政策(安倍派若手の市議会会派)が飛び跳ねている以外には、ほとんどだれも動いていない印象だ。年末に慌てまくって出馬会見を開いたのは、本命を意識していたからだろう。それだけ本人も出馬の欲求が堪えきれなかったから、半ば分派行動のような形で、公約など政策内容も何もないまま一人で記者クラブにあらわれ、出馬宣言に至った。
  安倍派のなかで子ども扱いなのももちろんあるが、「西本では勝てない」という判断と合わせて、安倍晋三が国政集中モードの最中に、地元でおかしな地盤分裂など起こすなという都合が働いている。「(自民党総裁選で)決戦投票まで石破に入れやがって」といきり立っていたのが、林芳正も農林水産大臣に取り込んでいった。その延長線が市長選対応にもあらわれている。
  選挙では「3日前の安倍事務所」というのが常套手段で、市民票が雪崩を打った勝ち馬に連合・公明も従えて乗り換えていくことなど、これまでにも何度もあった。ところが、西本が市民票をかっさらっていく気配は乏しい。それなら持ちつ持たれつで安倍派のいうことを聞かせながら、林派の番頭であれ市長をやらせればよい、くらいのもんだ。どっちが勝っても安倍・林代理なら特段身を乗り出す必要もないし、地盤崩壊のキズがつくよりも好きにしなさいとなっておかしくない。安倍晋三がゴリ押しで擁立したとかいう江島の参院補選も林派の協力は必要なのだろう。
  その辺のバーターを指摘する声はある。市職員たちには「中尾は安倍事務所ともうまくやってきた」という意見も多い。箱物利権の交通整理も含めてのことだ。

 敏感に反応する市幹部 人事まで取り沙汰 

  市長選情勢にもっとも敏感に反応してきたのが市役所の幹部職員たちだった。これもほぼ「中尾続投」を見越した感じで、当選後には池永水道局長が副市長に繰り上がり、河原総合政策部長が定年退職に伴って水道局長に横滑りという人事が早くから取り沙汰される始末だ。2月末に開かれた中尾の決起大会には、副市長候補も部長連中もみな顔を出していた。人事がその通りになるなら大きな問題にならざるを得ない。選挙応援の見返りにポストを与えるのは買収供応だ。
  中尾与党を見てみると、吉川副市長、来見田監査委員長、その他の図書館長や生涯学習プラザ長など、選挙後の吉川人事でポストを得て、市退職者が主立ったポストを総なめにしたのが特徴だった。
 これらは直接には泉田市政時代に与党だった職員グループだ。江島体制で冷や飯を食った恨みを中尾選挙ではらして、選挙で活躍した暁にポストをもらって今日に至っている。
 泉田グループといえば、泉田念書事件というのがあった。地区労の吉村事務局長を助役にしてやるという念書を交わして、選挙では地区労が馬車馬のように泉田応援をやった。ところが当選すると反古にされて問題が明るみになった。当時、似たような全国の事例を調べてもほとんど選挙違反として有罪判決が下るような案件だったのに、安倍晋太郎の裁定でもみ消した。泉田は安倍晋太郎のおかげで命拾いした。その頃に秘書課長をしていたのが現在の吉川副市長だ。あと、中尾与党で生涯学習プラザ長に天下っている野村忠司が広報広聴課長だった。
 革新陣営や自治労といった勢力を取り込んで、市政利権を欲しいままにする体質は今でも引き継がれている。親切ごかしに懐柔して、まるで反江島のような顔をして、やっていることは自分たちが利権を手中におさめたというだけだ。
 C 選挙後の出世が約束されているというけど、河原部長といえば庁舎内では部下たちがもっぱら“パワ原”と隠語で呼んでいる存在で、毛嫌いされている。下で働いた経験がある職員で良い印象を語る人に出会ったことがない。部下が遅くまで頑張ってまとめた仕事も、手柄だけ“ご馳走様”していくとみんながいう。「市長通信に毎号返信を書いている甲斐があって、最近は市長とよく飲みに行ってますよ」ともいう。飲み会の2次会、3次会で聞かされるドラえもんの歌が苦痛…という部下たちも多い。次期水道局長となると、250億円の長府浄水場利権を任されることになる。環境部のときも当時の江島体制で「やばいことにはかかわりたくない」といって前任のY部長が辞めた後を任された経験があった。
 D 市役所に行くと“パワ原”とか“セク原”とか偉い人の呼び方に色々な隠語があって、いったいどんな職場なんだろうかと心配になる。そして嫌われ者ほど出世する。あの部長は毎朝、バス停で市民よりも前に前に出ていって、一番先頭に並んでいるのも有名な話だ。市民を差し置いて真っ先に乗り込んでいく、あれが性格を表しているんだと。市民はよく見ている。別の部の次長もその気があると注目されている。市民よりも先に座席に座りたがる、良いバス位置を取りたがる性根というのは、公務員としては恥ずかしいことだ。これは小さいことのようだけど、今の市役所や中尾市政、安倍・林代理市政の性質をあらわしている。みんな自分の欲が堪えきれない。
  あたりまえみたいになっている。共通性がある。だから天下り退職者が市大理事長でも1400万円の報酬をもらったり、事務局長にも市役所から嫌われ者がやってきて1200万円とか中央病院に天下った幹部職員にしても900万円もらうことにちゅうちょがない。税金で1000万円クラスの給料をもらって、退職金も2000万~3000万円は下らない。「残りの余生くらいボランティアで下関のために働いたって良いじゃないか」と市民は思っているが、「もっとくれ!」の根性が染みついている。
 そのチャンピオンが吉川副市長で、70歳過ぎたお爺さんが副市長になるために、前回の中尾選挙ではムキになった。中尾擁立の手はずから何から、吉川、来見田、山口銀行関係者、松村正剛の4人組が取り仕切ったといわれていたが、吉川については、副市長ポストと選挙応援が前前回のときからセットで取り沙汰されていた。公然とした買収供応の世界だ。市役所退職時点でおよそ3000万円超もの退職金を手にし、文化振興財団の理事長ポストに天下り、今度は年収1300万円の副市長になって、この4年間に対する退職金が1700万円。市民を裏切った中尾選挙で、もっともイイことをした代表格だ。その周囲もみんな選挙応援でポストをもぎとった。だから汚れ選対といわれるのだ。
  要するに買収選挙だ。副市長ポストや水道局長ポストもそうだが、この4年間の公共事業の発注にしても選挙対策でひとくくりできる。市外発注よりも地元発注が良いのはあたりまえでむしろそれ以前が異様すぎただけだが、見方を変えれば露骨な選挙対策。それで土建業者を動員している。だから入札改革にしても、票にならない弱小業界は蚊帳の外だ。JR西日本には駅前開発で法外な補助金をばらまいて、25年度予算ではこれまで払っていなかった事務手数料なるものをコッソリ山口銀行に払おうとしているのも発覚した。サンデンには補助金名目で2億~3億円が毎年ついている。

 市民運動の力が決定的 閉塞した状況打開へ 

  受け皿がない選挙で、有権者は冷め切っている。このなかで市民運動はどう進んでいくかが重要だ。既存の政治勢力があてにならないという意味で、全国の先をいっている。総翼賛化の政治構造も、よそより先駆けたものになっている。連合も安倍派で、民主党の加藤(県議)も市議補選ではTeam政策の補填要員を「娘婿の兄だから」といって民主党の新春の集いに連れて行ったり、全建総連を動員したり、応援で駆け回っている始末だ。労働組合の中枢も自民党の別働隊みたいなものになっている。これが下関の政治の特徴だ。連合、公明、社民、「日共」に至るまで総翼賛化して、安倍支配の植民地みたいな状況になっている。これは市民運動で下から突き上げて、ぶち破っていく以外にないという意識が、現状のしらけともかかわっている。
  大企業は撤退し、中小企業は老舗がつぎつぎに倒れ、若者には職がない。農村部には働き手がいない。水産都市といいながら、漁港市場の主力である以東底引きも減船が続いて残りわずか。産業振興の課題は待ったなしだ。しかし箱物や開発に明け暮れて、下関のお金が働く者のところには回らず、銀行を中心に空中でクルクル回ってパンクしている。これが「アベノミクス」だ。それで産業と雇用がなくなって、山銀も下関では商売にならないから、100万人都市の指定金融機関になりたいという願望とセットで北九州に殴り込みをかけている。山口県内は食い散らかしてしまった。
  市民生活は困難さが増しているし、中尾4年でもさんざんに疲弊してしまった。これをどう立て直すのかが市民の最大関心になっている。少子高齢化が全国ダントツで進行したが、子どもが増えて活気がある町にどうするか。若い親たちの働く場を下関でどうつくるか。農林水産業や製造業など、現金収入になる地場産業をどう守って振興していくのか。地元商業をどう守るか。箱物利権をやめて、市民の必要な事業に目を向けた地元業者への発注をどう増やすか。医療も介護も高負担を緩和し、老人が安心できるようにどうするか。旧豊浦郡の合併後の切り捨てをやめて、急激な過疎化にどう対応するのか。山ほど課題がある。「元気アップ」とかのアホみたいな空文句で解決するような事態ではない。
  散散衰退したところで、軍港化というのが現実問題だ。国政と同じように、市長も議員も自分の損得ばかりが関心で、市民の心配など知ったことかという連中がはびこっている。その浮かれ騒ぎが、市長選、市議補選の空中戦に反映している。市民はそれを見てますます冷めていく。アベノミクスは要するにジョージ・ソロスみたいな投機家が1000億円も円安・株高でもうけたり、外資がイイ事をしているだけだが、下関の借金大盤振舞市政も似たようなものだ。税金をどれだけ苦労して納めても、みな使い果たして下関はいっこうに良くなる気配などない。全国先端の衰退をもたらした原因を取り除かなければ展望にならない。
 中尾市政と市民との対立点を鮮明にして、市民の運動をもっと強いものにすることが重要だ。やはり国、県の支配、安倍・林代理、山口銀行代理の独特な政治支配の構造があるなかで、不断に市民世論と運動の力を発揮して、実行させるというのでなければならない。今のところ組織票優位の裏通り選挙で、選挙そのものは見たことがないくらいの低レベル合戦が繰り広げられている。次の代理人が中尾であれ、西本であれ、閉塞した状況を打開するのは、市民運動の力が決定的だ。

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