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六連島で全国初の戦時訓練  武力攻撃想定し全島避難 下関国民保護計画

 下関市に対する「着上陸侵攻」から「核攻撃」まで想定する「市国民保護計画」を発表した江島市長は、「戦争でもはじめるのか?」という市民の不安をよそに、六連島で大規模な実動訓練をやるのだと張り切っている。訓練は5月末に予定されているが、住民から市職員、警察、自衛隊、海上保安庁まで動員した「全国初の内容」というだけで、詳細は公表されていない。本紙は13日、説明会も開かれている六連島に渡り、住民に伝えられた訓練内容と声を聞いた。

 具体的な内容知らせぬまま


 六連島は、関門海峡の西口に位置し、竹崎漁港から定期船にのって20分ほど(約6㌔㍍)の距離にある。行政区割りでは彦島に属し、自治会も彦島連合自治会に名を連ねている。


 総人口は118人(1月現在)で、他の離島部と違い主な産業は農業。北九州に近い利点と平坦な台地をいかした、菊やカーネーションなどの花栽培が有名な島だ。住民は、農業をしながら暇をみて漁業もしている。「下関ウニ」として全国的に有名な瓶詰めは、六連島の和尚さんが、120年近く前に考案したものだといわれている。島には、縄文・弥生時代から人が住んでいたとされ、島民は口をそろえて「住み良いところ」だと語っていた。


 住民によると、最初に「実動訓練」の話があったのは2月初め。下関市の防災安全課から電話でのお願いだったといわれる。以前から、漁港脇にある日新タンカー六連油槽所(タンク19基)で防災訓練がおこなわれてはいたものの、住民に直接の影響はなかった。それが、「テロ対策訓練」「石油コンビナートが爆破される」という物騒な想定で、警察から海上保安庁、自衛隊まで出動して「全島避難」をする、という内容に自治会関係者もびっくりしてしまった。


 そのため、2月末に自治会役員会で説明を受け、「町民にも理解してもらうように」と要望。今月2日に各種団体代表を集めた会合、9日に住民説明会を開いた。「1軒2人ずつ出席してくれ」との自治会の要請で、5、60人が集まった。


 市防災安全課の職員が、スライドを使いながら説明した訓練想定は、「コンビナートに時限爆弾」「テロリストが、潜水艇で六連島まできて上陸した」というもの。日時は5月25日(金曜日)午前8時半~午後1時までとされた。


 内容は「国民保護計画」をもとにつくられている。午前9時・国が武力攻撃事態を認定し、下関市に対策本部を設置するよう指示したと想定。江島市長を本部長とする「市緊急対策本部」を設置する。島民は避難指示を受けたら、漁港にある連絡船待合い室に集合。定期船と海上自衛隊の艦艇に分乗して、竹崎港まで搬送される(訓練に対応できない高齢者や仕事人もいるので、実数は60人程度)。その後は、用意されたサンデン交通のバスに乗り、東神田町にある市民センターに移動するのだという。当初の説明では、海峡メッセが避難場所だったが、「日程の都合」もあり変更となった。自力で移動できない高齢者や負傷者(仮想)は、小月航空自衛隊のヘリコプターで、小月基地まで運ばれる。


 「避難場所」では、炊き出しがおこなわれ、救護所も設置される。また、「○○さんは怪我をした」とか「○○さんは亡くなった」など安否情報の確認をおこない名簿も作成される。訓練は、午後1時に終了し、江島市長が閉会式で挨拶をする。参加者には、今後の参考のため、アンケートが実施されるのだという。


 なお、住民が「全島避難」してしまったあと、「テロリスト対策」のため集結した自衛隊や警察の部隊が何をするのかは一切不明。住民には、“作戦上の秘密”なのか「自衛隊が浜にテントを設営する」といわれたのみで、「あとは指示に従ってくれればいい」との話だった。担当する防災安全課は、「テロリスト掃討作戦などをするのかもしれないが、現在のところ市はよく知らない」としている。


 蓋井島も動員 輸送はサンデン交通・炊き出しは自治会


 この度の訓練は、作成された「国民保護計画」を具体化し、さらに練り上げる目的をもっておこなわれる。訓練には、六連島だけでなく、蓋井島の住民も参加。市職員や自衛隊、警察、海上保安庁はもとより、輸送手段にはサンデン交通が使われる。避難所となる市民センターでの炊き出しには、周辺の東神田町や向洋町、春日町などでつくる神向自治連合会の会員を動員。また、消防局だけではなく彦島の消防団なども出動するほか、救護所には国立や中央など病院関係が人員を派遣する可能性があるといわれている。


 参加するどの団体にも共通しているのは、「訓練がある」という通知だけで、具体的な内容や全体構造がさっぱりわからないこと。消防局や海上保安庁職員も中身を知らず、「安倍総理から江島市長の上からのラインで決まったものだろう」と語られている。


 六連島の住民の多くは、コンビナート事故の訓練ならまだしも、市町村レベルでは全国初ともいわれる大規模な「訓練」の異様さに驚いている。「喜んでできるようなものでない」「国も本腰を入れていると頼み込まれた」「説明より先に計画があり、しかたがなかった」など、歓迎する人はほとんどいない。「自治会関係者も大変みたいだ」と気遣う声もある。


 80代の婦人は、「何度かの説明会で、“全国初!”とえらく強調されていたみたいだけど、テロ訓練で1番になって喜んでいいのやら。逆に、恐ろしい感じがする。別の話なら、大賛成なのに」と顔を曇らせる。


 60代の男性も、「何で六連島が、テロリストとかミサイルに狙われるのだろうか。こんな島をやっつけても、得はしない。手数をかけて訓練するより、戦争をしない努力をすることが大事だろうに」と話した。


 島民の8割9割を占める花農家は、5月といえば菊などの出荷のために大忙しの時期。「人間も辛いけど、それより花は待ってくれない。暖かいから、すぐに開花してダメになってしまう」とか「市長さんはいいかもしれないが、1番大変な時期なのに」とも指摘される。


 80代後半の婦人は、「テロ訓練などというと昔を思い出す。戦中は、基地もあったし、島の前で1日に何隻も本船が機雷で撃沈されていた。沈む船からボロボロと人が落ちていくのを何度もみた。毎日、流れ着いた遺体の回収もした。戦争をしてはいけない」と危惧(ぐ)を語った。


 六連島は、“のどかな田舎”の反面、関門の要衝としての顔ももつ。関門海峡への玄関口として、戦前には陸・海軍の基地があり、戦後は長期にわたり自衛隊が駐屯している。明治維新前から砲台陣地が築かれ、吉田松陰も視察したほどだ。1昔前には、税関や検疫所もおかれていた。さらに、目と鼻の先には、商業港としては利用価値がなく、米軍基地転用も疑われている人工島がある。戦争体験者からすれば、「テロ訓練」はただごとではないのだと語られている。

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