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上関町長選 反対派“敵前逃亡”の真相

 原発の新規立地計画が立ち往生している山口県の熊毛郡上関町で、来月1日告示、6日投開票の町長選・町議補欠選挙が迫っている。町長選を巡っては、原発推進勢力から現職の柏原重海町長が立候補を表明しているのに対して、反対派は立候補を見送ると発表し、無投票の公算が高まっている。福島事故を経て、全県、全国で再稼働や新規立地に反対する世論が高まっているなかで、なぜ上関では反対派みずからが矛を収め、推進勢力を利することになっているのかと疑問の声も高まっている。何が起こっているのか上関現地の取材をもとに記者座談会を持って論議した。

 柏原体制温存で原発延命図る

   反対派が「立候補しない」と発表したのを受けて、上関町内はもちろん、山口県内、全国の人人が「なぜこの時期に反対派が敵前逃亡するのか」と疑問を持っている。これまで必ず対抗馬を出してきたが、現職町長が原発推進の立場であるにもかかわらず、「観光・風力発電など政策面で協力する」と表明したことにも疑問が多い。「現地の状況が知りたい」と全県、全国が関心を寄せている。


  推進派町長の再選を何もせずに空けて通す。「反対派は何をやっているんだ!」の声が高まるのは当然だ。8月に入ってから反対派は不出馬を表明したが、「候補者がおらずやむなく断念した…」というような代物ではない。すでに7月初旬の長島側の会合で「出さない」と決めていた。そして「公式発表まで周囲には漏らさないように…」と念押しまでしている。長島側の会合というのは、祝島島民の会(祝島の島民組織)とは別物で、それらを含めて全町を統括する反対組織という位置づけになっている。この会合に参加した10人余りの人間が「不出馬」を決定した。各組織で論議を経た形跡などまったくない。僅か10人余りの幹部たちが内密に決めて1カ月間を浪費し、選挙直前になってようやく発表した。はじめから出すつもりがなかった。


  この会合を主導した反対派幹部を見てみると、現在共同代表に名前を連ねているのが高島美登里(自然保護活動家、元自治労・県職労書記)の夫で県土木職員だった三家本(自治労出身)だ。夫婦で室津に移住してきてから存在感などなかったが、いつの間にか反対派の代表のような事をしている。記者会見では「今、上関町のなかで一番求められているのは、上関町の存続をかけていかにまちづくりを進めていくのかだ」とのべている。「原発推進・反対で争うのではなく、今は町が一体となってまちづくりを進めていく必要性がある」というものだ。何年か前に移住してきた者が、気付いたら反対派の大幹部になって采配を振るい、推進派町長との共存を宣言している。それを見た町民は「オマエ、いったい誰だよ!」と思っている。不思議な光景だ。


  不出馬を発表した記者会見は、祝島島民の会の代表である清水(町議)を前面に立てておこなったのも特徴だった。幹部会合でも発言権を持っていたはずの山戸貞夫が姿を見せず、まるで責任を押しつけるような格好になった。全国で支援してきた人人からすると、「なぜ選挙をボイコットするのか!」「せっかくカンパしてきたのに、敵前逃亡ではないか!」という批判が高まるのは当然だ。支援してきた人人に対する裏切り行為となる。こういう場面で、ババ抜きでとり残されたように詰め腹を切らされているのが清水で、批判が祝島の島民たちに向きかねない点が見過ごせない。


 町内では推進派幹部までが意識的に清水批判をくり広げている。「山戸は何度も選挙に出て責任をとってきた。清水は一度も町長選に出馬せず、町議のイスを温めている」「清水は卑怯だ」などと話している。選挙で敵がいないのだから手放しで喜んでいるのかと思ったら、むしろこれを契機に推進派として清水やそれを支える祝島の島民に批判の矛先を向けたいという意図を丸出しにしている。清水の良し悪しはどうでもいいとして、これはいったい何が動いているのか? という違和感だ。推進派は漁業補償金問題にしても以前から山戸の裏切り頼みできたが、あまりに正直というか露骨な反応だ。推進派にとってもっとも障害になっているのは祝島島民による漁業補償受けとり拒否なのだ。


 E 結局、町長選は無投票。町議補欠選には推進派から亡くなった右田(町議)の奥さんが候補者として出てきて、これを加納派が全面支援するようだ。反対派は町長選には候補を擁立しないが、町議補欠選には高島美登里が出馬する。これも「(よそ者が)町議ポストだけは狙いにいくなんて…」とひんしゅくを買っている。反対派が批判を買うようなことばかりして、推進勢力を利する行動に及んでいる。反対派の内部から分断・自滅作戦が動いている。



 下から行動強める祝島 補償金受取り拒否



  この間、実力行動で反対運動を主導してきたのは祝島の島民たちだった。県当局なり山口県漁協が漁業補償金受けとりを迫ってくるのに対して、身体を張って阻止してきた。この漁業権を巡る斗争が最大の原動力になって原発建設を押しとどめている。ここが解決しないことには中電は海に手をつけられない。新規立地を実際上、振り出しに戻す威力を発揮してきた。祝島も平々凡々でここまできたわけではない。島内でも複雑極まりない矛盾関係があって、反対派を内部から崩そうとする裏切り者がさまざまな攻撃を加えてきた。しかし、陰湿な裏切り行為についても重々わかったうえで、婦人たちを先頭に下から大衆的行動によって打ち負かしてきた。この力を弱体化させたいのが推進勢力の願望だ。


  原発計画を行き詰まらせているのが祝島の漁業権問題であることは、受けとりを何度も執拗に迫ってきた県当局の必死さが正直に物語っている。そして、拒否を貫いているものだから、県知事の公有水面埋立許可も宙に浮いて、にっちもさっちも行かなくなっている。中電と県政が春になると書面をやりとりして、延長判断を先送りするしか手がない。反対運動の心臓部、つまり祝島を崩さないことには手続きも何も進まない関係だ。今回、「町長選に立候補しない」というのは、祝島の島民たちが決めたのではない。その主導権から離れた長島側の会合で決まった。ここに問題がある。


  反対派の人たちにも事情を聞いてみたが、要するに不出馬は長島側の幹部会で秘密裏に決めた。その決定を主導していたのは山戸貞夫や息子の孝、自治労から送り込まれている三家本といった面面だ。県当局と関係が深い連中を中心に、柏原町政との共存方針が決まった。山戸貞夫は祝島では正体がすっかり暴露されて相手にされていない。ところが長島側の反対派となるといまだに影響力を発揮している。県漁協の横暴な振る舞いにつながった漁協合併に誘導したのも山戸で、90年代の漁業権切り換えで大裏切りをやったり、いつも敗北に導いていく手法が暴露されて祝島島民からの信頼はない。漁協や島民の会の会計不明瞭にも疑問の声が高まって失脚状態が続いている。それで島民たちがリーダーとして前面に引っ張り出しているのが清水たちで、祝島では随分とこの矛盾が鋭くなっている。「内部から分裂するな!」という世論も強いが、一方が分裂を目的にした攻撃を島民の会に仕掛けるものだから一向に解決しない。


  祝島では力がない山戸貞夫や、町民にとって「オマエ、誰だよ!」状態の三家本、高島美登里など県政与党とつながった部分が長島側「反対派」として親分的な振る舞いをする。こんなことが祝島島民の目が届かないところでいまだに続いている。上関反対派の弱点というか隙間を突いたやり方だ。そのもとで無投票に持ち込んだ。反対派の幹部たちは町民に何の基盤もない者ばかりだ。「三家本」がテレビに出てきても町民は「それ誰?」という状態で、県当局が反対派運動のリーダーに指名したのかとすら思う。町民の支持を基盤に担ぎ上げられたリーダーなどではないからだ。高島美登里についても二井県政の時代に突然あらわれてカリスマ的扱いがされてきた“よそ者”という認識だ。それで何をして飯を食べているかというと、全国の反原発支持者に「祝島の魚」という振る舞いで魚を販売し、その魚は実は祝島ではなく室津の推進派漁師から調達しているというものだ。


 全国の支持者は、祝島を支援しているつもりで購入している。みんなが事情を知らないと思って隙間を突いていくのが癖になっているのではないか。長島側反対派といっても町民のなかで支持基盤がなく、実態が乏しい。


 長島側の場合、住民はほとんど“隠れ反対派”で表だって行動するようなことはない。地縁血縁、長年の中電支配の影響でそうなっている。しかし選挙になると誰が候補者であれ、黙って反対票を投じて意志を示してきた。幹部たちは町民から浮き上がって力はないが、住民の力は揺るぎないものとして存在している。未組織だが根強い反対が存在していることは選挙の度に示している。
 祝島の島民たちからすると、長島側の反対世論は形として見えにくいから「自分たちしか反対していないのでは…」と思いがちだが、決してそんなことはない。この間の祝島の補償金受けとり拒否の行動は、長島側の住民をおおいに激励してきた。祝島の頑張る姿を見てみんなが拍手喝采で応援していた。島民同士のように日頃からの直接的な関わりがないからわかりにくいかも知れないが、長年取材してきた我々にはよくわかる。組織的には壊滅的で表に出てくる幹部はろくなのがいないが、住民のなかには確かな反対世論がある。このなかで反対町民が未組織なのをいいことに「反対派」幹部が好き勝手している関係だ。今回の候補者擁立断念も、その隙間、弱みを突いて起きた出来事だ。


  「反対派」としては選挙で候補者を擁立するくらいが最低限の役割だったのに、今回はその機会すら奪った。だから住民は「何のために存在しているんだ?」と疑問を口にしている。反対派幹部については、社会党出身で推進派に寝返った外村勉とか、漁業補償金を真っ先にもらいに行った岩木(元町議)とか、カネに汚い裏切り者とか、そんなのばかりで信頼がない。これでは反対運動は内部から潰されてしまう。しかし、幹部お任せではなくて下から行動に立ち上がったのが祝島だった。この間の漁業補償金受けとり阻止の斗争はこれまでの敗北続きだった上関の運動路線とは根本的な違いがある。中電なり県当局のコントロールが効かない。「反対」の仮面をかぶって補償金をつり上げようとか、人人を騙して自分だけイイ事をしようとか、それが通用しないまで運動の主導権が住民そのものに移ってきた。原発を押しとどめてきた最大の力だ。
 祝島で起こっている地殻変動が全町に広まったら困るのが推進勢力で、必死に分裂策動をしている。全町団結の方向へ進めば、原発計画など吹き飛ぶからだ。



 全町団結へ進めば結着 浮き上がる妨害者



  祝島で山戸貞夫が何をしてきて、いまどうなっているのか。長島側も事情を知らない人がほとんどだ。島民の会の運営を巡って、執拗に妨害をくり返してきたことは全県、全国も知らない。その矛先は島民の会の代表や住民たちに向けられ、ことあるごとに分断を持ち込んで難儀させてきた。あまり表沙汰にはならないが、これはあるがままを暴露して、全県、全国の人人にも状況を理解してもらわなければ、「上関はどうして?」の疑問も払拭されない。


 E あげればきりがないが、例えば祝島診療所を巡って、山戸が連れてきた全共闘崩れの医者について、誤診が多く島民の生命・安全が守れないと判断した島民有志が町に医者の交代を要請したことがあった。これに対して、山戸が町議会でこの問題を発言して、「特定の人物に対する障がい者差別という、人として許せない攻撃がおこなわれていた」「島からの追い出しを町に迫る卑劣な手法」「島の医療を守ってくださっている町長の決意をあらためてお聞きするとともに……自治体あげた差別根絶の努力を続けていただくよう提案する」などと述べて、島民の会を攻撃したことがあった。発言内容をチラシにして島内に配ってまわるなど、大騒ぎしていた。矛先はみずからが代表の座を降ろされた後に島民の会を担っていた中枢メンバーに向けられた。


 UターンやIターンで島に住み、原発反対で頑張るという若者たちに対しても、島に住みにくくするような妨害をしていたのが特徴だった。若者が農業をするために借りていた土地の所有者に対して「なぜ貸しているのか」「又貸しはいけない」などといってまわったり、些末ではあるがこんな出来事が積み重なっている。もっとも島民が問題にしてきたのは補償金受けとり拒否への対応だ。実力阻止はいけないというのが一貫した主張で、島民の会の中枢を批判するビラを闇夜に紛れてばらまいたこともあった。それで漁協総会になると、山戸の周囲を固めていた連中がボロボロと推進になびいて裏切りをやった。反対派住民が疑心暗鬼で分裂して、嫌気がさすようなことにばかり熱を上げていた。「反対派を内部からつぶす」の言葉がピッタリと当てはまる言動だった。ただ、島民分断をやればやるほど山戸や背後勢力が島の中で浮き上がる関係だった。祝島の島民たちは辛抱強く対応してきたと思う。


  「分断はいけない」というのは団結できる相手についてはその通りだ。しかし分断・分裂したがっている相手、その要求に迎合した場合反対が崩れるという局面では断固たる対応をしないといけない。敵の共犯者が内部から崩そうとする時はなおさらだ。島民たちは、「祝島の反対運動は真っ当に今までやってきた。これからも堂堂とやっていく」「私たちはもう免疫ができているから、少少のことでは動じない。島外の人たちで“反対運動は旗を降ろした”と思う人もいるかもしれないが、そんなことはまったくない。これからも原発絶対反対で正面からたたかっていく」と語っている。決して旗を降ろしたわけではない。


 B 県当局とつながりが深い部分が主導して無投票に持ち込んだ。そして山戸と親戚関係にある柏原町長は、今回の選挙について後援会名簿すらろくに集めていない。何もせずに勝てると確信している。反対派が候補擁立を断念することを知っていたような振る舞いだ。


  反対派も組織的には瓦解しているが、推進派も相当に崩壊している。それで苦肉の策で無投票を仕組んだ。中電なり県当局からすると柏原体制を延命して、新規立地計画を温存することに狙いがある。いますぐに手続きを進めたり建設に着手できる状況ではないが、あきらめてはいない。


 C 柏原は当初、「もう辞める…」と周囲に漏らしていた。前倒しで手にした原発の交付金は温泉や道の駅など箱物で使い果たしてしまい、町財政には展望がない。だから四期目には乗り気でなかった。すると、四代の山谷(前議長)や室津の西(議長)がハッスルし始めたものだから、推進派内部で「あれらが町長になるくらいなら柏原でもう一期」との判断になった。ところが推進派も中電がカネを出さないのか動員力がない。町政報告会に柏原が出向いても町民が出てこない。ポストにチラシが投函されるくらいで、運動員の姿が見えない。「今までになく静かだ」と語られている。推進派も弱体化しており、玉虫色の柏原体制で「原発はひとまずおいて、“町づくり、風力発電だ”」と欺瞞している。



 全県・全国の命運握る 売国政治との対決



  上関原発計画は浮上から既に30年以上がたった。国策として旧通産省時代から政府挙げて推進し、そのもとで電力会社やゼネコン、原発製造メーカーなどの大企業群や県当局が暗躍し、金力や権力を総動員してごり押ししてきた。しかし、頑強な反対世論と運動が崩せず、山口県には一基も建てさせずに今日に至っている。近年もっとも焦点になってきたのは祝島の漁業権問題で、実質的に頓挫している。加えて福島事故が起き、この4年間は将来的な新規立地利権として温存しつつ、塩漬けにする対応がやられてきた。


 選挙で柏原体制を温存させたとしても、祝島が漁業権を売り飛ばさなければ漁業権問題も進展しない。未買収の用地を中電が確保できるわけでもない。周辺議会や自治体の反対決議を覆したり、全瀬戸内海の漁民や住民を中電が買収して納得させるのも少少ではない。全県世論との関係で見るなら、いまどき「地元の政策選択」を尊重して山口県や瀬戸内海が廃墟にされても「仕方ない…」と思うような者などいない。また、上関原発を強行突破するよりも以前に安倍政府がメルトダウンする方が先だろう。


 このなかで、原発にぶら下がって町を売り飛ばしてきた過去の遺物たちが、30年前と同じ調子で「推進」「反対」の格好をしながら中電傀儡の支配構造を引きずり、福島事故など知らん顔をして「原発争点隠し」をやるずるさが問題視されている。というか、選挙から敵前逃亡した。


  推進派であれば、福島事故について何を教訓にし、どう責任を持って推進するのか住民に説明しなければならない。福島県民と同じように難民になる覚悟もしたうえで推進しようと訴えなければならない。津波であれ、地震であれ、事故が起きれば、高齢者も多いなかで町民はどこに避難すればいいのか、誰が避難させるのか、二度と故郷に戻れないような事態に遭遇した場合、生活再建まで誰が責任を持つのか等等、正々堂々と述べて支持を訴えなければならない。ところが正面から訴えることができない。反対派の敵前逃亡によって推進派がもっとも安堵している。


  売町政治にダメージを与え、町を復興させる町民の力をいかに強くするか、威張り腐ってきた連中が青ざめるような状態をつくることが重要だ。消滅都市まっしぐらの立ち腐れではなく、原発にけりをつけて産業振興の展望をつくることでしか上関町の将来は打開できない。反対運動についても、いわゆる幹部面した裏切り者の姿をあぶり出しこうした連中を乗り越えて全県、全国とつながった力強い運動にしていくなら負けることはない。


  国政は米軍の身代わりで戦争に加担しようとしたり、TPPで国を売り飛ばそうとしたり、売国政治が恥ずかしげもなくやられている。原発も福島事故の責任など誰一人とらないうちから再稼働を強行し、安倍政府が暴走している。地震列島に原発を作らせてきたのもアメリカだ。国民の生命や安全などないがしろにして地獄の果てまでアメリカと心中しようというのが政府や官僚機構、独占資本で、この対米従属構造との国民的な斗争が迫られている。安保法制反対、原発再稼働反対、TPP反対など共通の敵に対する共同のたたかいが待ったなしだ。上関原発建設阻止も、その一翼を担っている。全瀬戸内、全国の命運がかかった斗いだ。「当面の町作り」の問題ではない。

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