いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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記者座談会 国解体し米国に差し出す安倍政府

  昨年末の衆院選において戦後最低の低投票率のもとで安倍自民党政府が返り咲き、「アベノミクス」や「景気回復」を叫びはじめてから1年近くが経過した。TPP参加や原発再稼働・海外輸出などを打ち出し、「国土強靱化」名目でゼネコン・金融機関への大盤振舞がやられ、さらに国家戦略特区構想が象徴するような外資に日本市場を丸ごと明け渡していく制度改革が各方面で具体化されはじめるなど、医療、福祉、労働、教育、農漁業、経済政策、軍事など全面にわたって、日本社会の存亡を揺るがすような政策が実行されはじめた。日本社会をどの方向に持っていこうとしているのか、安倍政府の性質について、記者座談会を持って論議した。
 
 国内食料生産は根絶やしに

  昨年末の衆院選で、全有権者数のうちわずか16%(比例代表)の得票で国会の6割の議席を総なめにしたのが自民党で、国会の議席数だけ見たらなんでもできる暴走体制ができ上がった。その後の経過を見てみると、国民世論もあって、改憲は法解釈の問題にすり替えたり、解雇特区の問題も出してみたものの引っ込めたり、原発も再稼働といいながら身動きつかないなど、世論に縛られながら、しかしTPPにしてもゴリ押しするような動きになっている。およそ1年が経過して「アベノミクス」の胡散臭さが大衆的にも暴露されてきたが、各方面でいったいなにをしようとしているのかを鮮明にして、それに対峙した運動方向を打ち出していくことが求められている。各分野でなにが動いているのか、出しあってみたい。
  この間、TPP参加をめぐって農業や医療分野ではとりわけ「国を売り渡すな!」と行動が活発になってきた。農業について見てみると、減反廃止が打ち出されるところまできて、これは国内食料産業の根絶やしが動いているという危機感が一気に高まっている。減反廃止によって米価への補助金が削減されたら、九割の農家が廃業に追い込まれかねない。TPPで補助金禁止が原則になっているが、先取りして実行されようとしている。
 戦後の農地改革によって、地主制度はやめさせて、小作農を自作農にした。その結果、1町未満の田んぼを持っている農家が日本全体の50%を占めている。しかし今度は四町以上の農地を所有している農家にしか補助金を出さないといっている。4町以上の田んぼを持っている農家というと、下関でも5%くらいしかいない。3~5%の大規模農家にしか補助金を与えないというもので、残りの九割に対する退場勧告に匹敵する。
  戦後、農村では協同組合を組織してきた。そこで結束して共同出荷をしたり、信用事業を構築して資金繰りを安定させたり、資材を購入したり、零細な生産者が力を合わせることで農業を成り立たせてきた。農協の上部団体に県信連や全農、JAバンク、農林中金といった組織ができ、今では農協組合員は全国で正準合わせて1000万人いる。農協が農業生産の重要部分を握り、一面では生産者に寄生してピンハネばかりする側面もあって農家と矛盾になってきたが、協同組合の存在は零細な生産者にとってなくてはならないものだ。
 この全国を網羅した農協組織は農家の貯金を集めて、世界的にも「ノウチュウ」で通用するくらいの巨大な金融部門を握っている。JAバンクは91兆円の預金残高がある。共済(保険)はもっと大きく297兆円といわれている。TPPで農業生産をぶっつぶす動きのなかで、米国の保険会社がこの資金を狙っていると見られている。また、米や野菜の販売からいうと50%が農協を通じておこなわれているが、流通部門にも外資が乗り込んでこようとしている。
 B また、農地は農業者以外が所有できず自作農主義というのをやってきたわけだが、それを株式会社が所有できるように法律を変えようとしている。農地も大手外資が握っていける仕組みだ。さらに価格形成はこれまで生産費や需給に見あった価格を前提にしてきたのが、先物取引が介入しようとしている。米の先物取引市場が開設されたのもこの流れで、シカゴ穀物市場などを見習っている。農業分野が投機の対象にされはじめている。

 公的補助切捨て営利の場に 医療も介護も

  社会保障では「税と社会保障の一体改革」といって、一貫して医療福祉の削減が実行されている。そして公的な補助を切り捨てていくなかで、すべて営利市場に委ねていく方向があらわれ、「成長産業」などといっている。集団で社会が形成され、国民の労働によってこの社会が成り立っている。だから国や大企業が大いに負担もして、社会にとって必要な医療や介護を政府が保障していく、そのために税金もとるという建前を投げ捨てて、みな営利の場に変えていく方向だ。医療負担にしても元元頼母子で国民負担によってまかなわれる仕組みできたが、ますます露骨な高負担になっている。給付は引き下げられて、負担だけが増す。70~74歳の医療費自己負担を2割にする方向も打ち出された。
 医療では混合診療の解禁によって自由診療部分を広げ、そこに新薬や新技術を投入し、民間医療保険がこれらの市場で営利を拡大しようと胸を熱くしている。民間保険に加入できず、高度な医療が受けられない貧乏人は薬を自分で買って飲んでおきなさいという対応で、薬のインターネット販売も100%解禁する動きを見せている。劇薬の五%も含めてやっていこうとしている。保険市場に引っかからない貧困世帯については、医薬品大手が薬版・貧困ビジネスを展開する動きだ。
  介護分野ではサービス付き高齢者住宅が国の補助金付きで建設され、街の各所にでき上がっている。不動産ビジネスの火がついていた。これを作ってしまえば特別養護老人ホームのような従来の介護施設は作らず、定期的な補助金を出さずにすむ方向に進んでいる。低所得者はもうけにならないから切り捨て、そのような施設に入れる者だけを対象にした制度だ。もう一方では24時間の介護サービスを制度としては打ち出したが、全国でも一割しか運営されていない。地方都市になると人手不足も深刻で実際上運用できない。それで「介護難民の受け皿を作った」といっている。社会保障の放棄が進んでいる。

 労働者の権利根こそぎ破壊 特区で解雇も自由化

  労働分野では、安倍政府になって産業競争力会議の議員にとり立てられた竹中平蔵が解雇特区を持ち出した。棚上げにはなっているが、国家戦略特区のなかで解雇規制を撤廃する動きを見せている。従来なら企業の側が勝手に解雇することはできず、労働者の権利を守ることを建前にしていた。ところが、事前にとり決めをしておけばいくらでも解雇できるという内容で、労働時間規制についても一定の収入がある人についてはすべて撤廃する方向だ。残業代もタダで延延労働させていくものになっている。以前反発が高まって流れたホワイトカラー・エグゼンプションが形をかえて復活している。「限定正社員」の導入も出ている。地域限定で雇われていた労働者が、工場閉鎖など企業撤退のときにすんなり解雇されるというもの。来年度中に具体化するといっている。
  労働者派遣法は5年以上経過したら正社員にしなければならないが、国家戦略特区では企業側の義務をなくそうとしている。あと、TPPで外国人労働者の受け入れに力を入れようとしているのも特徴だ。自民党が下野する以前に「移民1000万人国家」を標榜していたがこれも復活。日本人より人件費が安い労働力を招き入れて、「国際競争力に打ち勝つ」といっている。大企業が後進国並の人件費で生産体制を構築する体制作りにほかならない。
 製造現場では派遣労働の拡大で生産自体もむちゃくちゃになり、リコールの嵐だが、働く人人がいなければ外国から連れて来ればいいとなっている。現場の労働者も失業者も、「どうして日本人を雇わず、まともな生産をしないで外国から連れて来るのか」と激怒している。日本人労働者全体を低賃金に押し下げていくものだ。
 E 福島事故の対応が象徴しているが、絶対安全といってさんざん推進してきた原発が爆発したら、その対応たるや管理能力もなくめちゃくちゃな実態が暴露されてきた。そして奴隷のようにして低賃金労働者や生活破綻者をかき集めて現場に投げ込んでいく。労働現場ではJR北海道の問題にしても、営利追求で社会的な責任を投げ捨てていく問題が共通したこととして語られる。
 そして、失業者は多いのに現場は人手不足で過密労働が横行している。派遣や非正規雇用がコロコロ変わるから技術継承ができず、欠陥品が増え、まともなものが作れない。そして労災事故も増えている。
 それで大企業はというと、昨年段階で内部留保を二八〇兆円も溜め込んでいる。対抗するべき労働組合は御用組合になって役に立たないし、連合は合法主義でケチ臭い賃金アップを叫んでいる。こういった改良主義では労働者の暮らしは守れないし、資本が横暴に振る舞う状態はなにも変わらないという意識が強まっている。

 英語教育徹底や学校民営化 教育への政治介入

 C 教育分野も安倍政府が力を入れている。第1次安倍政府のときに教育再生会議が立ち上げられて、全国一斉学力テストや教員免許の更新制度、教員評価制度などが始まったが、教育現場に市場原理を持ち込む方向をさらに強めようとしている。学力テストも07年に始まり、競争になるから結果については公表しないとしていたのが、5年たってみて公表段階にきている。大阪の橋下市長や静岡県知事など、安倍ブレーンが既定事実作りに貢献している。
 そのなかで英語教育を徹底しようとしているのが特徴だ。「国際化を断行して、グローバルな人材を作る」といって、小学校3・4年生から英語を導入し、5・6年生から教科化して評価すること、今年から高校では英語で英語の授業をするようにしているが、それを中学校にも広げるとしている。高校でも実際には授業が成立せず失敗に終わっているが、中学校で英語による授業が始まったら、わからない子が続出して1週間のうち1日分くらいはむだな授業時間になるほかない。しかし真顔でやろうとしている。
 現場の教師や父母たちは、「どうしてこれほど英語にこだわるのか?」と語っている。ここまで執拗に英語を推進する意図をみなが考えている。日本市場の米国明け渡しに際して、外資が日本語を勉強して乗り込んでくるのではなくて、植民地従属国に英語を強いて、片言でもわかるような状態を作ろうとしている。
  学力テスト関連では、学校の民営化がTPPの並行協議で出されている。公立学校を閉鎖して民間に委託すると国家戦略特区で打ち出している。学力テストの公表は民間参入とセットで動いている。米国では学力テストの結果で予算が配分され、結果が悪ければ予算がこないし、教師が雇えないので廃校になる。カネのない子は教育が受けられない状態になる。その後追いをしている。
 また、公立学校を統率してきた教育委員会は、戦後はかつての戦争の反省から、独立した組織として政治の不当な支配を許さないとやってきたが、これも首長権限で教育の中身について変更できる方向が論議されている。橋下徹が大阪市で採用した民間校長が、セクハラしたり川下りで子どもを突き落としたりして問題になっているが、教育に政治が介入することになる。

 米国に従い対中国戦争準備 国内弾圧の動き加速

 F 軍事関係では、アメリカが新自由主義で突っ走って、中東でも中南米でも各地で世界覇権が破綻していくなかで、中国重視、アジア重視に転換している。このなかで、それに見あったシフトに転換している。米国は表に出ずに、集団的自衛権についても日本政府みずからが決定して周辺の理解を得よ、とやっている。そこで安倍が前面に出てきて旗を振っている。一つは、新ガイドラインの見直しが来年末に向けて進んでいる。これは日本側が求めたもので、「中国の軍備拡張に見あった対応」としてやっている。そのなかで「積極的平和主義」とかPKOへの積極的参加、武器輸出三原則の緩和などが具体化され、12月にもそれに向けた防衛大綱の見直しをやろうとしている。
 また、秘密保護法や日本版NSCの設置など国内弾圧の動きも連動して出てきている。集団的自衛権でいうと憲法解釈の変更を進めて問題になっているが、改憲に向けて国民投票法の準備もしている。離島防衛といって主には尖閣を想定して、これをどう侵攻するかの法的基盤も整備しようとしている。具体的な戦争準備が各方面で進んでいる。
 極東最大の基地になる米軍岩国基地では戦後68年たった段階で、新たに基地内の7割の施設を更新しはじめ、「いったい何十年居座るつもりなのか!」と住民は怒っている。岩国や普天間、下関の都市改造など全般がかかわって動いている。米軍司令部はグアムに引っ込み、日本を盾にして対中国、対朝鮮戦争に備え、いざとなったら「アメリカに向かってミサイルが発射された」場合でも集団的自衛権を発動して自衛隊が米軍の身代わりで戦地に出撃し、鉄砲玉になる関係だ。
  大学の教授と話しになったが、「安倍政府はアジア外交で破綻し、中国だけでなく韓国からも相手にされない状態が続いている。アジア全体から見たときに、弾薬庫は北朝鮮ではなくて、アジアのイスラエル化が著しい日本なのではないか」と指摘していた。米中のあいだで徹底して対米従属をするからアジアで浮き上がる。それで外交は機能せず、尖閣問題など武力衝突しかないような方向に進む。あの無人島のために戦争までしなければならないとなるとバカげているし、なにより原発を五四基も日本列島に抱えて、しかも食料自給がいずれ10%台になろうかという国が、勇ましく吠える姿をどう思うか。とても戦争ができるような国ではない。「鉄砲玉になっても構わない」という者が、米国にそそのかされて国土を廃虚に導こうとする姿をさらしている。
  
 金融資本の食い物 口開けて待つ外資保険 衣食住保障せず

   全体として、なんでもかんでも市場化してもうけの対象にしていくのが一つの特徴になっている。生活実感としてはアベノミクスでますます景気が悪くなっている実感がみなのなかで語られている。病院にも行けず、介護も受けられず、年金は減るばかり。介護保険料などとられるものは増える。まともに生きていけない社会になってきたという実感だ。
 C 薬のインターネット販売が特徴的だが、社会的に必要だから厚労省が対面販売を義務づけて規制をかけていたものを、最高裁が法令で違法と判決する。市場化にとって邪魔なものはみなとり払おうとしている。
 痴呆老人が列車にはねられてJRから損害賠償を求められた事件があったが、痴呆老人を受け入れる施設をつくらず、家庭に押し込んでいて、いざそのようなことになったら家族に損害賠償を要求してくるのだからむちゃだ。ビジネス化というが、いかにしてカネをむしりとっていくかだけを追い求め、カネのない人は相手にしない政策が進められている。
 B 農業をめぐっても、「TPPは米国型ですべてやられるし、日本の法律も変えられて米国型にさせられるんだ」と大学の研究者たちは指摘してきたが、ここまできて米国型というのがなんなのか問題にしないわけにはいかない。国民に安定供給するために、食料生産を国として責任を負ってきたものが、すべてひっくり返っていく。食料生産という生業が生命の糧を生産するという本来の目的を否定されて、金融資本にとっての市場、すなわち食い物にされていく。食料危機が起きれば投機筋が大喜びして先物を買い占め、社会を混乱させる。食料を具材にして、大企業がもうけていく仕組みになっていく。アメリカなどは農業分野に保険が入り込んで、あの手この手でノウハウが発達している。日本国内では農業分野の保険に関しては共済くらいであまり発達していない。そこが狙い目になっている。
 E 医療でも国民皆保険というが、貧乏人は低次元の簡素な医療しか受けられず、新薬や新技術を受けようと思えばアフラックなどの民間保険に入らざるをえない米国型に移行しようとしている。アフラックが日本の医療保険の七割を支配している。残りの3割をアリコやその他の外資も含めた保険会社が占めているわけだが、そういう市場を広げていこうとしている。国民皆保険は制限されて、新薬などが及ばない程度の治療しか受けられなくなる。考えられないような事態になっている。金の切れ目が命の切れ目になっていく。
  食料というのは衣食住のうちの一つで、みなが食べて命をつないでいくために必要なものだ。生命の必要からやっている産業だ。ところが保険や金融資本が食べていくための産業と見なしている。医療についても、人間の健康や生命を守っていくために必要とされ発展してきた医術を、みな算術にしていく。それでみなは医者にかかれずにヒイヒイいっている。これは仕方ない…では済まされない。社会の必要に応じて発展してきた食料生産の技術なり医術なりが、保険すなわち金融資本にとってどうかという尺度で判断されていく。この転倒が大きな矛盾になっている。
  この間の金融資本主義といっても、ギリシャや南欧の国家破綻で暴露されたが、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)とかCDO(債務担保証券)といわれる保険証券、金融核爆弾と呼ばれるものが大暴れして金融資本はボロもうけしてきた。国家破綻に対してかけられる保険で、その保険証券を通じて、国家が破綻すればもうかる連中がいた。国債が暴落したときの保険を通じて、世の中を大混乱に陥れていく。この流れと同じで、すべての産業に金融資本の論理を持ち込んできている。

 教育の機会も等しく与えず 破綻した米国と酷似

  教育でもそうだ。公教育で次代の国の担い手を育てるとやってきたのを民営化して、ビジネス化をはかろうとしている。国の発展のために優秀な人材を育てるし、教育というのは等しく機会が与えられるというのが従来の建前だったが、そんなものはどうでもよくて、一部のパワーエリートを育てることと、残りはバカ作りで教育を受ける機会すら与えない。一部のエリート以外は勉強しなくて学力がつかなくてもかまわないという方向だ。遅れた子を教育してついて行けるようにはしない。そして陰惨なエリートができている。
 安倍政府は公立学校の民間開放を打ち出している。保育も市場化で、これまでは自治体の責任でやってきたのを民営化しようとしている。米国ではオバマになって30万人の教員が解雇されて、4000校の学校が閉鎖された。学力テストで成績が悪かったら学校に予算が割り振られず、そこに企業が参入していくというのがパターンだ。
 C 総合病院の医者が「アメリカ様様ですよ!」と怒っていた。医療保険市場には、日本生命など国内の保険会社は何年間か参入させなかった。米国資本のアフラックだけが医療保険の市場をつくっていった。そして一定段階の素地ができたうえで解禁した。「こんなことがあるのか」と。日本国内の保険市場で国内の保険会社だけが規制されて、外資だけがやれるのだから。日本生命と郵政が新しい保険を開発しようとして提携して進めていたのに、官邸主導で日本郵政とアフラックだけを結びつけて、日本生命などは話のなかにも入れなかった。そして、アフラックが全国津津浦浦を網羅した郵政を通じて商売していく。アフラックのことを「黒いアヒル」といっている人も少なくない。
 F 郵政民営化で350兆円の金融資産が奪われると問題になったが、丸ごとごっそり日本市場を奪いに来ている。農協資金もすごいが、個人資産1500兆円も政府資産もみな奪いに来ている。なにをしても金融資本が口を開けて待っている社会だ。堤未果の『貧困大国アメリカ』が出版されたころは、「米国はひどい社会だな」と話題になっていたが、数年たってみて日本社会にとってもまったく他人事ではない事態になってきた。マイケル・ムーアの『シッコ』を見て、「米国の医療はひどい」といっていたら、これも現実味を帯びてきた。盲腸の手術をするのに200万円かかる社会が到来しようとしている。カネがなければ病院を叩き出される。不慮の事故で指が2本切断されて、「お金がないので1本だけつなげてください」といわなければならない社会だ。
  公共部門の民間開放、略奪が世界的な動きになっている。日本国内でも図書館や公民館、文化施設などの民託化が進んできたが、世界的にも民間需要が行き詰まっているなかで、公共部門を寄こせ! と略奪していく動きが起きている。国家破綻しているギリシャやイタリアでもそれぞれの国の遺産に指定している島島や、歴史のある城などを格安でレジャー産業に売り飛ばすようゴールドマン・サックスなどの金融資本がガンガン圧力をかけて問題になっている。水道事業、郵便などすべて株式会社化が進んでいる。しまいには政府も株式会社化して、公共部門も金融資本の営利の道具としてとっていく。
 E 民間委託といっても、今は国内大企業かもしれないが、いずれ外資が乗り込んできて、隷属的な国内企業など追い散らして市場略奪をはじめていくのは疑いない。学校給食でも、食品偽装だ! 衛生基準だ! といって大騒ぎして、母屋を乗っとっていくようなことはへっちゃらでやる。米韓FTAを結んでいる韓国では、地産地消で給食をすると定めた条例が、自由競争の障壁になっているといって攻撃された。「障壁」という因縁をつけて国の法律も変えさせていく。当のアメリカではファースト・フードが学校で子どもたちの胃袋を支配している。
 食料支配は戦後から一貫した政策で、いずれ給食がマクドナルドになってもおかしくないといわれている。学校給食などは固い「顧客」がいる分野だ。宇部市では学校給食に東京の業者が参入して問題になってきたが、それこそ国内企業が駆逐されて外資が入るなどわけない。
 B TPPでは政府調達の基準を引き下げる。入札に参入できる金額は相当高額でなければ外資は参入できなかったが、その基準が引き下げられて敷居が低くなる。地方自治体の工事にハリバートンが入ってきてもおかしくない状態がつくられようとしている。
  日本社会のリトル・アメリカ化だ。アメリカ社会の現実とそっくりになっている。
 向こうでは刑務所も企業が参入して、1日働いても手取りが後進国の労働者よりも低いし、しかも刑務所暮らししているのもカネをとられるという。出所するときには一文無しだから再犯を起こす。3回目に捕まったら「スリー・ストライク法」に引っかかって刑務所から生涯出てこれない扱いに切り替わる。刑務所ではなくて実際には格安労働力の収容所になっていて、企業が後進国や移民労働以下の価格で業務をアウトソーシングして働かせる。建前は犯罪者を収容する場所だが、刑務所まで企業に貢献するための場所になる。犯罪者を育成して、究極の囚人労働を生み出していく。新自由主義政治のなれの果てを象徴している。
  なにをやるにも金融資本が口を開けて待っている。日本市場でカネをとってやろうという魂胆で市場化がはかられている。もっぱらカネを使わせる仕組みだが、如何せんみながカネを持っていない。
  生産して消費するサイクルが回らなくなって、市場化、市場化といっている。米国も国内市場は貧乏人ばかりにしてしまったから消費購買力がない。あれだけ国土が広くて3億人の人口がいるといっても世界に出ていかなければ保たない。だから日本市場や韓国市場を奪いに来るし、世界市場を貪欲に我が物にしようとする。資本主義は1国だけでは持たないし、市場が狭隘化したもとで最終的に植民地略奪に訴えていく。その性質が丸出しになっている。
 そこで、日本社会について「どうぞ好きにしてください」といって差し出しているのが小泉・竹中から続く歴代政府であるし、安倍晋三だ。保守の格好をしながらやっていることは売国的で、国家解体に及んでいる。公共性とか社会的な役割を否定して、「小さな政府」すなわち政府や行政不要の無政府状態にして、企業天下、金融資本天下の世の中にするというものだ。
 
 強まる社会化要求 国売る権力との対決

 D
 しかし世論としてはますます社会化要求が強まっている。国家とか国の本質についてもみなが見抜いている。一部の資本のためにどこの国か分からないような状態がつくり出され、大企業も工場閉鎖ばかりしてみんな海外移転で、多国籍企業みたいになっている。それでいて「国際競争力に勝つために」といって国民負担に転嫁し、教育機関には「ハイスペックな英語が堪能な学生を輩出せよ!」といってみずからの育てる役割を教育に押しつけ、国に寄生だけする。
 E それなら政府はなんのためにあるのか? どうして税金を払わなければならないのか? と語る人が増えている。医療も福祉も教育も国が保障しないなら、どうして税金を払わなければならないのかと各所で話題になる。実際に国保など払わない人が大勢いる。政府を見ていても民主党にせよ自民党にせよ、アメリカの代理人丸出しで米国政府の代理人が日本政府を乗っとって売り渡していく姿を見せつけている。
  貧乏人を大量生産する社会にしようとしているが、貧乏人ばかりにして搾取する相手がいなくなったら資本もやっていけない。余りにも搾りすぎて過剰生産恐慌になり、サブプライムのように貧乏人にローンをさせてまで需要を先取りし、その借金を証券化して金融資本がバブルに昂じていたのも破綻した。リーマンショック以後は国際金融資本が国家に寄生して救済資金を補填させてきたが、もう一段新自由主義政策を徹底することで延命を図ろうとしている。TPPすなわち中国封じ込めの経済ブロック化が最たるものだし、その反映が日本社会でもあらわれている。余裕がないものだから急ピッチで体制づくりが進行している。
 安倍も出しては引っ込めたり、憲法改正も法解釈の問題にすり替えて、解雇特区でも一旦引っ込める動きになった。16%の支持率しかない政府が暴走するといっても8割以上が支持していない。民主党のおかげで返り咲いたのが本質で、この政府が続いても4年。先日の川崎市長選でも自公民の相乗り候補が惨敗し、神戸市長選でも票割り候補を4~5人擁立してやっと当選したくらいだ。低投票率で有権者を排除した選挙では自民党が「圧勝」するかもしれないが、国民世論が沸騰したときには吹き飛ぶ関係だ。
 受け皿がない状況のもとで好き勝手しているが、現実の国民との矛盾はすごい。原発政策でも再稼働、新規立地、海外輸出などさまざま打ち出してはいるが、日本国内は原発は一基として稼働していない原発ゼロ状態であるし、国民世論が福島の二の舞を許さない。力関係をあらわしている。
  今年1年の原爆展の反応もこれまでにも増して鋭い。労働の役割や社会的な使命、医療なら人の命を救うとか、教育は賢く立派に育てて人類の築いてきた社会を引き継いでいく人材を育てていく、そういうあたりまえのことができないくらい資本主義社会が行き詰まって、腐朽衰退している。どん詰まりに来ているし、為政者が国民の面倒などみきれないほど余裕を失って、同時に腐敗しているという実感が強い。
  世論としては連帯、団結、みんなが力をあわせて社会を発展させようというものが強まっている。高齢者も68年たって岸信介の孫が戦争政治の旗振りをやっているのを見て、「68年たってこれか?」と憂えている。学徒出陣70周年があって、学徒経験者の声が紹介されていたが、「安倍に憲法改悪をさせたら太平洋から先輩たちが立ち上がってくるだろう」とか、「自分は生き残って、再び戦争がくるときには盾になって阻止しようと思って生きてきたが、そのときがきた。まだ足腰は丈夫だ」とか気合いがすごい。戦争を二度とさせないために、使命感に燃えて子どもたちに語っている被爆者たちの姿とも重なる。「こんな世の中にするために68年生きてきたわけじゃない」という体験者の思いは強い。
  さんざん食い物にして、根こそぎ持って行くところまできた。しまいには米国の盾にしてミサイル戦争の標的にされる。日本社会を売り飛ばしていく権力構造との対決が迫られている。

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