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広島沖で自衛艦と釣船が衝突  瀬戸内海を我が物顔で航行する自衛艦

 広島県大竹市の阿多田島沖で15日、海上自衛隊呉基地所属の輸送艦「おおすみ」と、広島市内の釣り船が衝突し、釣り船が転覆して乗員4人のうち2人が死亡する事故が起こった。近年、自衛艦の衝突事故は国内航路で毎年のように起きており、そのたびに「再発防止」が唱えられているが、それぞれの事故の個別の事情にかかわらず、漁船や民間船舶の動きに目もくれない自衛艦の体質そのものに危険性をはらんでいることが浮き彫りになっている。今回はとくに瀬戸内海という閉鎖水域であり、沿岸住民とは切っても切れない漁業地帯であるだけに、「通常なら起こりえない」ことがなぜ起こったのか、その真相解明が望まれている。

 歯止めかからぬ自衛艦の事故

 この日、呉基地を出港した「おおすみ」は、江田島と本州のあいだの小島が点在する狭い航路を西方に進み、宮島沖を抜けたところで南に進路を変えて、定期点検をおこなう三井造船のドックのある岡山県玉野市に向かっていたとされる。
 海上自衛隊の輸送艦では最大級の「おおすみ」(全長178㍍・幅25・8㍍、排水量8900㌧)は、安倍政府が進める「離島防衛」作戦の主力艦として陸上自衛隊が導入するオスプレイや水陸両用車両を搭載できるように今年度、4億円かけて大幅な改修をおこない、実質的な海兵隊機能を持たせることが見込まれており、今回の玉野行きもその一環と見られている。
 一方、4人の釣り人を乗せたプレジャー船「とびうお」(全長7・6㍍、幅2・3㍍)は、広島市南区のマリーナを出港し、阿多田島の南方にある甲島を目指していたといわれ、二つの船はほぼ同方向を目指して航行していたとされている。
 事故が起きた午前8時ごろは、晴天、視界も良好で波も「べた凪」といわれ、衝突事故が起こるような気候条件ではなく、現場に近い阿多田島では数度の警笛を聞いて「なにごとか?」と不信に感じた住民も多い。
 住民が船で駆けつけたときには、すでに釣り船は横転しており、住民らも協力して4人を救い上げたという。2人は無傷で助かったものの、船長と釣り客の男性1人は心肺停止の重体で、その後、岩国医療センターに運ばれたが死亡した。
 その後、発表された証言によれば、釣り船は「おおすみ」の右側をいったん、追い抜いたが、その後、「おおすみ」が左に旋回する進路をとりながら追い抜いたため、釣り船の右舷が「おおすみ」の左舷中央部をこするようにして衝突。釣り船は転覆し、4人が海に投げ出された。救助された乗員は、「気づいたときには“おおすみ”が右から接近しており、4、5㍍まで近づいたところで警笛が鳴って、直後にぶつかった」と証言しており、双方がお互いの進路方向について認識していなかったことが明らかになっている。
 事故現場を臨む阿多田島の漁師は、「この海域は、呉の自衛艦、潜水艦、広島宇品港に入る豪華客船や輸送船、廿日市の木材港に入るタンカーなど大小さまざまな船舶が往来するのでベテランでも気の許せない場所。だが、とくに“おおすみ”のような巨大な輸送艦には近づかないのが鉄則で、いくら優先権のある場合でも、われわれ漁船の側が速度を落としていったん先に行かせ、大きく後ろを回って抜いていくというのが操船上のセオリーだ。視界の効かない夜中や濃霧の時期ならわかるが、どうして晴天下であんな事故が起きたのかは不思議でならない」と語る。
 このあたりの海域は、戦前から軍港であった呉港から出る艦船が必ず通る航路であるため、地元の漁師のあいだでは、航海上の規則は別として「とにかく自衛艦には近づくなかれ」が事故防止のための常識となっており、自衛艦もそれを見越して速度や進路を変えたりすることはないという。いわばどんなときでも「自衛艦が最優先」であり、「泣きたくなければ道を譲れ」というのが暗黙の了解事項となっている。

 エルキャックの訓練場 しめ出される漁業者

 あるベテラン漁師は、「自衛艦は大型でも民間船と違ってかなりの速度が出る。いくらプレジャーボートでも前を横切るのは至難の業だ。このあたりはイワシ網や小型底引きが主流で、沿岸ではワタリガニ漁などもしているが、自衛艦の航行が激しい平日は避けて漁をする人が多い。また、“おおすみ”に搭載されているLCAC(ホバークラフト)の訓練場でもあり、訓練日には放送一つでやってきて、爆音と潮煙を上げながら派手に訓練をするから仕事にはならない。甲島ではメバルやアジなどがよく釣れるので遊漁船も多く出ているが、そんなときは避けるのが普通だ。いくらまともに操業していても、鋼鉄製の自衛艦と木造やプラスチックの漁船では衝突すればひとたまりもない」と自衛策を語っていた。
 また、180㍍もある「山のような」輸送艦に横付けされた場合、至近距離からは「どの方向に進むかはわかりづらい」ことや、25倍もある艦船が作り出す波に「小型船は引き寄せられたり、舵が効かなくなる」ことも語られ、「とにかく船から距離をとらなければ危険きわまりない」といわれる。釣り船がなぜ距離を置かなかったのかという問題とともに、危険を察知して速度を落とすなり、早めに警笛を鳴らすなど自衛艦側の「監視義務」がまともにおこなわれていたのかが疑問視されている。
 ある年配漁師は、「おおすみ」が輸送艦といいながら海上自衛隊初の全通甲板型であることに触れ、「戦前の空母を知っている者から見れば、あの艦船はいつでも空母に転用できる作りになっている。前後を数十㍍伸ばせば、戦前の空母“赤城”と同じくらいの長さになる。だが、前後の甲板をつないで艦載機の移動通路を確保するために船橋を小さくして、右側に寄せているから、左舷側に近づいた船は船橋からは死角になって見えない。4、5㍍まで近づいて警笛を鳴らすのも遅すぎるし、気づくのが遅れたのではないか」と指摘した。
 本来、死角が多すぎる空母は単独航行はできず、イージス艦などの随伴艦をともなうのが原則であり、「漁船がよけるのが当然」という体質で狭い航路を単独航行させていること自体が危険きわまりないのだと指摘していた。
 また、阿多田島では、岩国基地からの米軍機が真上を飛び交って日常生活や養殖業にも大きな支障を与えていること、さらに厚木からの空母艦載機が移転してくれば、「ただでさえ狭い海域に米軍空母まで航行するようになり、漁民は漁場を閉め出される」「原爆の悪夢が蘇る。黙っておれない」と米軍、自衛隊による軍事要塞化に対する怒りは幅広く語られていた。

 横暴な航行で事故増加 「再発防止」どころか

 海上自衛隊の艦艇が民間の船舶と衝突する事故は、近年歯止めがかからない。
 1988年7月には潜水艦「なだしお」が神奈川県の横須賀市沖で遊漁船と衝突し、釣り客と遊漁船の乗組員合わせて30人が死亡。
 2006年11月には、宮崎県日南市沖で海中から浮上する訓練をしていた練習潜水艦「あさしお」とパナマ船籍のタンカーが接触。
 2008年2月には横須賀基地所属のイージス艦「あたご」が千葉県の房総半島の沖合で漁船に衝突し、漁船に乗っていた親子2人が死亡。「監視不十分」の業務上過失致死罪で「あたご」乗員が起訴されたものの、結局、「回避義務はなかった」として1審、2審とも無罪となり、海上自衛隊も「人材育成の強化」などの再発防止策でお茶を濁した。
 さらに09年10月には関門海峡で護衛艦「くらま」と韓国籍のコンテナ船が衝突して護衛艦が炎上。同月には、愛媛県伊予灘の沖合で呉基地所属の掃海艇「みやじま」と漁船が衝突。10年1月には鹿児島湾で試験航行していた潜水艦「おやしお」が漁船と接触。去年九月には山口県の沖合で掃海母艦「ぶんご」と漁船が接触する事故も起きるなど、「再発防止」どころか横暴な航行による事故が増え続ける傾向にあり、もはや暴走する自衛艦に対して民間船が「自衛」しなければならない異常事態となっている。
 近年、安倍政府のいう「国土強靱化」のもとで、集団的自衛権だの、離島防衛だの、災害救助活動などといって自衛隊に多額の防衛予算がつぎ込まれアメリカの代理人となって前面に立って中国や朝鮮との戦争をかまえる体制がつくられてきた。そのもとで足下の国民を蹴散らす体質に一層の拍車がかかっており、国民を守るための軍隊ではないことが浮き彫りになっている。

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