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倉敷市真備町の小田川決壊 10年以上前から研究者は警鐘 

『水利研究』に掲載されていた内田和子教授の論文

 

 西日本を中心に日本列島の広い範囲を襲った今回の豪雨災害で、岡山県倉敷市真備町は堤防の決壊によって地区の4分の1にあたる1200㌶が浸水し、約4600戸が被災し、10日時点で46人の死者が出ている。実はこの真備町の小田川流域は歴史的に水害常習地であり、10年以上前から専門家が早急な治水事業を国に要求し警鐘を乱打していた地域だった。岡山大学大学院教授の内田和子氏もその1人で、「岡山県小田川流域における水害予防組合の活動」を『水利研究』№320(2011年)に書いている。

 

 真備町は一級河川の高梁川へと注ぐ支流の小田川流域にある。小田川の水源は広島県神石高原町の吉備高原で、そこから岡山県井原市をへて倉敷市真備町を流れ、高梁川に合流する。そのなかで真備町の7・9㌔は勾配がきわめて緩く、増水時には高梁川本川堤が決壊して高梁川からの水が流入したり、決壊しなくても合流点から本川の水が小田川に逆流して小田川が破堤、越水となることが頻繁に起こってきた。

 

 有名なのが1893(明治26)年の大洪水で、高梁川が決壊して小田川流域低地に氾濫水が流入し、小田川も何カ所かで破堤して、今回と同じ地域が浸水した。流出戸数216、全壊戸数189、半壊戸数287、浸水戸数776、溺死68という甚大な被害となった。

 

 この大洪水を契機に、国は明治・大正期の18年をかけて高梁川の河川改修を進め、その後は高梁川の破堤はなくなった。しかし、増水時の高梁川からの逆流や、小田川とその支川の地形要因に起因する洪水はなくならなかった。実際に1972年7月には梅雨前線の豪雨で小田川が破堤、氾濫し、1976年9月の台風17号による降雨でも再び破堤、氾濫している。

 

 そこで小田川地区の住民は、県による治水事業の充実を求めつつ、それでは間に合わないので、1897(明治30)年以降、4つの地区に水害予防組合をつくって水害から住民を守る自衛行動を始めた。

 

 内田氏の調査によると、この水害予防組合というのは、水害常習地の市町村が主体となり、区域内の住民から組合費を徴収し、それを財源に水害防止活動をおこなうもので、戦前から戦後にかけて北海道を除く全国各地にあった。

 

 組合の仕事は、堤防の保護・改築・修繕や排水路の浚渫、ため池の保護・改築などで、川の水位の観測方法や通報の手順、増水時の出動態勢、出動場所、堤防の防御方法、住民の避難場所・避難経路、減水時の対応などについて、具体的で詳細なとり決めをしていた。増水時には支川への逆流をくいとめるために、支川合流部にある樋門に板を差し込んで閉鎖することもやっていたという。

 

 しかしこの水害予防組合は1974年に解散になった。それは、1967年に小田川が一級河川に指定され、管理が国や県に移管されたからだ。また、町村合併によって組合の管理区域がすべて真備町になり、「組合は2つ以上の市町村にまたがる」という規定に合致しなくなったことも一因となった。しかしその後、国や県による水害防止対策は地域の現実に対応するものではなかった。

 

水害常習地の歴史踏まえぬ都市開発の末に…

 

 それどころか1999年、第三セクターの井原鉄道井原線が町内を横断する形で開通すると、行政は、倉敷市や総社市に隣接する真備町のベッドタウン化を進めた。小田川低地を通る国道486号線沿いに新築の家が急増した。真備町の人口は1960年に1万3414人だったものが、2009年には2万3285人に増えた。

 

 それは水害常習地としての歴史を忘れ、その自然条件を無視する無謀な都市政策にほかならない。この頃から専門家は、いったん集中豪雨がここを襲えば浸水被害は甚大なものになると警鐘を鳴らしてきたが、行政は聞く耳を持たなかった。2010年に策定された国土交通省高梁川水系河川整備計画(小田川と柳井原貯水池を結び、高梁川との合流地点を4・6㌔下流に移す)は、着工に至らないまま今回の豪雨災害となった。

 

 治水に対する先人たちの歴史は、過酷な自然条件のなかにある日本で、自然に対する傲慢さを戒め、自然を知悉(ちしつ)し、自然の力を人間のために利用しようとする努力のうえにある。昔から為政者は、治水で成果をあげることが、内政を確立し人心を掌握する必須条件であった。

 

 今回のように各地で48時間の雨量が観測史上最大を更新するというような自然の力そのものは、人間の力ではいかんともしがたい。しかし、大都市一極集中や無秩序な土地開発という、目先の経済的利害のみを最優先する政治が、足下の防災力を決定的に掘り崩しているという事実から目を背けることはできない。

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