いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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高齢者を叩く社会保障改革 

 安倍政府は、「高齢化で膨らみ続ける医療費を現役世代が支えきれない」「若い世代につけを回すのか」といって、年金生活の高齢者に負担を求める法改悪を次次に実行している。2001年に登場した小泉政府が「改革なくして成長なし」といって社会保障費の大幅な削減をおこない、その後に続く歴代政府がそれを引き継いできた下で、高齢者の貧困化はすさまじいものとなり貧困率はおよそ20%と諸外国と比べても深刻な数値がはじき出されるまでになっている。年金が削減される一方で引かれものは増え、生活費は高騰。年金だけでは生活できず生活保護を受給する高齢者は七五万世帯をこえ、全体の半数近くを占める規模となっている。こうしたなかで安倍政府がさらに社会保障費の削減に踏み込み、高齢者が医療にも介護にもかかれないようにしようとしていることに怒りの世論が沸騰している。
 
 独占資本が原資築き使い捨て

 下関市内でも、高齢者世帯の老老介護、孤独死、貧困といった問題がさまざまな形で深刻化している。現役世代も非正規雇用が増え、高齢者の生活を支えることができなくなってきた。近年スーパーなどでも高齢者の万引きが後を絶たない。長年生きてきた高齢者が生きてゆくことも困難な状態に置かれていることに、家族や地域の人人も含めてみなが心を痛め、同時に深い憤りを抱いている。
 70代の婦人は、最近同じ年齢で一人暮らしをしている知人の家を訪れると、家の中からよろよろと出てきて「私はもうどうにもならない…」というので驚いた。食べ物もろくに食べておらず、意識ははっきりしているが、足が立たなくなっているようだった。聞くと要支援を受けていて、ヘルパーにときどき買い物だけは頼んでいるが、家の中はぐちゃぐちゃだった。台所にあったのは味噌汁のなかにカレー粉が入ったようなものだけで、後は弁当や総菜を買って食べていた。慌ててイワシやイモを炊いて届けると、涙を流して喜んだという。
 知人の年金は月に約9万円ほどあるが、総合病院の他に2、3の病院にかかっており、車を持たないためタクシーで通院するしかないので、それだけでもかなりの額がかかる。それに医療費などを支払うと、手元に残るお金はそう多くはない。主人が亡くなり、子どもがいなかったために身よりがない。「もし自分と知り合いでなかったら孤独死していたのではないか。苦労して生きてきた人が、年をとって身寄りがなければ次次孤独死するしかないのだろうか」とやるせない思いを語った。「知人は年金が9万円あり持ち家だったからまだよかったが、金がなければ介護も受けられない。この国は一生懸命頑張って生きてきた者がこんな最期を迎えるような国なのかと思うと、そういう国民を救わないで安倍が好き勝手なことをして戦争までやろうかといっている。本当に許せない」と憤りを語った。
 ヘルパーの婦人は、介護に行っていた年配の婦人が最近亡くなったことを話した。子どもたちを育てたうえに3人の孫を引きとって育て、ようやくゆっくりできるかと思った矢先に肺がんで亡くなった。孫たちが手を離れてすぐだったので貯金する余裕はなく葬式代が出ない状態だった。月の後半だったため11・12月分の年金が15万円入るのと、子どもたちが工面して、なんとか火葬料だけは準備したが、葬式代を出すことはできなかった。「家賃が8000円のところに住んでいたが、家庭の事情もあって2万2000円のところに引っ越していた。1カ月7万5000円の年金で家賃を払い、食べることをしたらもう残らない」と話し、もっと年金が少ない高齢者も多く、同じような状況が広がっていることを危惧していた。
 国民年金で生活する80代の婦人は、「自分で死ぬわけにはいかないから、生きている限りは最低限の生活費が必要だ。そんな贅沢はいわないが、わずかな年金でどうやって生活していったらいいのかと近所の人たちといつも話をしている」と切実な思いを語る。
 年を重ねるとともに足が動かなくなり、今では玄関の段差も這って上がるような状態。どこかへ出かけるときにはタクシーを利用するしかない。年金は月に6万円ほどだが、そこから自宅の家賃が約3万円、光熱水道費、それに週2回通っているデイサービスの利用料が1万円はかかる。月8回の契約なので、体調が悪くて6回しか行かなかったとしても同じ額払わないといけないという。毎月絶対に必要な経費で年金は消えてしまう。
 「必ず自分で食事もつくっているが、最近は三杯漬けなどガスを使わない料理しかつくらないようにしているし、こたつも真冬になるまでつけず寒いときにはベッドでぬくもるようにしている。風呂に入れば下水道代も上がるから、デイサービスで入るようにして切り詰めて生活している。残った貯金を早く使い果たして生活保護を受けた方がいいのではないかと話になる」といった。
 年金の削減は、小泉政府が打ち出した方向を安倍政府が引き継いで実行しているものがほとんどだ。現在「2000年からの10年間で物価が下落しているのに年金を引き下げなかったから、本来の水準より2・5%多く支給している」として、2012年からの3年間で減額が進んでおり小泉政府が導入した「マクロ経済スライド」を来年度から完全実施する方向が進んでいる。物価の上下にかかわりなく、財政悪化分をそのまま削減するというのだから、高齢者の生存権など無視したものである。それで現在は現役世代の所得の60%台を補償しているものを、団塊の世代が65歳になるときまでに50%まで引き下げることを狙っている。

 介護保険の負担来年8月からは2割へ

 年金削減が進むなかで、介護・医療分野では「医療・介護総合推進法」が成立。大幅な負担増や介護・医療の切り捨てが始まろうとしている。その一つが来年8月から介護保険の利用者負担を現在の1割から2割負担への引き上げだ。単身で年金収入が280万円以上、世帯所得が160万円以上の高齢者について2割負担にするとしている。
 特別養護老人ホームの入所要件を厳しくして「要介護3」以上に限定するほか、低所得者が施設に入所するさいの食費・部屋代の補助対象を縮小。所得が低くても単身で1000万円超、夫婦で2000万円超の預貯金がある場合は補助対象にするとしている。特別養護老人ホームを巡っては、これまで一人部屋のみ部屋代を徴収してきたが、相部屋の入所者からも部屋代を徴収することも打ち出している。
 医療費も70~74歳の前期高齢者医療費負担を1割から2割負担にしたのに続いて、75歳以上の後期高齢者の患者負担も1割から2割にするよう検討を開始。さらに入院給食費負担を1食250円から450円に値上げすることや、70歳以上の医療費負担上限(外来)を月4万4400円から入院と同じ8万7000円に引き上げることも検討されている。
 介護保険料は2年ごとの見直しのたびに引き上げられ大きな負担となっている。「姥捨て政策」と全国的な反発をよび、自民党が大惨敗する一因ともなった後期高齢者医療制度の保険料も毎回のように跳ね上がっていく。年金から天引きされるものは増える一方だ。
 小泉政府時期までさかのぼると、2006年には老年者控除48万円を廃止、公的年金控除も140万円から120万円へと縮小し、それまで非課税であった世帯が課税世帯になって市県民税が8倍に跳ね上がった家庭もあるなど、それ以前とは比較にならないほど負担が増加している。それに加えて最近では「復興税」と称して、市県民税均等割にもう1000円上乗せされている。安倍政府はこれに加えて今後、公的年金控除のさらなる見直しや高所得者の基礎年金の国庫負担分(現在は全体の五割)を削減することも狙っている。

 認知症老人 後を絶たぬ徘徊や失踪

 「介護の社会化の実現」をうたって2000年にスタートした介護保険制度も、わずか2年後には介護報酬の引き下げや認定基準の厳格化をはじめとした大幅な縮小が始まった。さんざん期待を抱かせておいて、だまし討ちのようなことをやってきた。制度そのものが、それまで公費負担の福祉事業として、所得に応じた利用料の負担だった介護事業に市場原理を導入し、一律1割の「応益負担」としたため、必要な介護を受けられない在宅高齢者が続出した。さらに2006年の改悪では要介護1の高齢者の5~7割を要支援に引き下げて利用を制限した。
 また、特養など介護施設をつくるための予算が削られて施設が圧倒的に不足しているところに、医療制度の改悪で病気を持った高齢者が長期入院していた療養型病床31万床のうち23万床の廃止を打ち出し、行き場のない高齢者があふれた(現実には高齢者を放り出して殺すわけにはいかず完全に実施することはできていない)。小泉改革以後、一貫して在宅化の方向が進められるなかで、現役世代にその負担が大きくのしかかり、50代で仕事を辞めざるを得ない家庭も多くなっている。とくに認知症の高齢者を抱えた世帯は大変な状態で、介護する期間が長引けば年金だけでは生活が成り立たないことも、深刻な問題として語られている。今後3年間で全国150万人の要支援を介護保険から切り離す計画が進行しており、さらなる介護難民の増加が危惧されている。
 認知症の主人を10年間介護したという70代の婦人は、毎日大格闘だった経験を語る。主人は体が元気だったため、婦人がトイレに行っている隙に玄関を開けて抜け出してしまう。杖や持ち物にはすべて名前と電話番号を記し、近所の人や友人・親せきにも連絡を入れ、姿を見かけたときにはすぐに連絡してもらえるようにした。初めの頃は家から出ると急いで追いかけて連れ戻していたが、疲れていなければまたすぐ抜け出してしまう。そこでしばらく後をついて行き、2㌔ほど歩いて疲れてベンチに座るのを見計らって連れて帰るようになった。
 だが次第に目が離せなくなり、主人が寝てから洗濯などをする生活で、睡眠時間は2、3時間しかとれない毎日が続き、婦人の方もへとへとになっていった。ケアマネに調査に来てもらい要介護3に認定されたが特養は空きがなく、デイサービスやショートステイに通わせながら待機。悪化してからグループホームに入ることができたが、特養に入所するまでに2年間かかったという。
 ようやく施設に入所することができたものの、今度は費用の面での負担が大きくなる。夫人の年金が月15万円、主人が9万円で計24万円あったが、グループホームには月15万円におむつも自分で用意しなければならなかった。特養に入ってからは月11万円になったが、主人だけの年金では足りない。さらにグループホームに入所している間に、温風ヒーターで低温火傷をして10カ月、けがで3カ月入院することになり、その入院費用もかかってきた。
 「うちはまだ夫婦ともに年金があったのと、滞在期間が短かったので入所費や医療費を払うことができたが、とても余分なお金はなかった。これが5年、10年と続くと金銭的にもたなかったと思う。年金がこれより少ない人はどうなるのだろうか」と話した。さらに「もし子どもが介護することになれば、子どもには大学生の孫がいるし、その費用を払いながら親の介護もしないといけなくなる。うちは子どもに頼らずにすんだが、祖父母が孫に学費を送る余裕はなくなっている」と高齢者を抱える家庭の生活が厳しくなっていくことを語っていた。
 70代の農家の婦人は、現在認知症で要介護4の舅(しゅうと)を自宅で介護している。足腰がしっかりしており家から抜け出してしまうため、家族が出かけるときにはドアを釘で打ち付ける。ガスもつかないようにして出かけるが、少少では自分で外して外に出てしまうのだという。地域の人人がみな知っているので、うっかり外に出てしまったときも、連絡してもらえるのが救いだ。それでも何度かひやひやしたことがあった。
 週に6日間デイサービスに通うようになって、その間に農業をしたり、用事を済ませることができるようになった。風呂も家族では入れることができなくなっていたので、デイサービスで入れてもらえるようになって助かっているのだと話していた。夜には睡眠導入剤を出してもらって、早めに寝るようにしているが、それでも夜中の3時、4時に起きてしまう日もあるため、婦人も寝ないで見ておかないといけない。「娘がいるからなんとかここまでやってこれたが、自分一人だったらどうかなっていた。ただデイサービスはありがたいが費用がかかる。舅が若い頃働いていたからその年金でなんとか払えるが、介護保険は保険料も高いし、利用料で年金がほとんどなくなってしまう」と実情を語っていた。
 認知症の高齢者を巡っては、全国でも徘徊して遠方で発見され、身元がわからないまま他県の施設に入所していた事例が社会問題になってきた。下関市内でも火の山に入り込んで遺体で見つかったケースもあり、個別家庭での介護へと逆戻りさせる方向に怒りが語られている。社会化しなければ解決し得ないものであることは、介護にかかわっている人人なら誰もが痛感している。
 「税と社会保障の一体改革」等等、さまざまな理由をつけて社会保障を切り捨てる政策が目下推進されている。海外に外遊しては得意になってばらまき、金融市場には年間80兆円もの資金を注ぎ込みながら、社会保障すなわち国民の医療福祉については自己責任に委ねるという二重基準である。とくに、稼ぎが年金しかない高齢者にそのしわ寄せがいっきに向けられている。
 超高齢化社会にあって国内は姥捨て山と化し、「労働力がいないなら海外移転」といって大企業も平然と海外へ飛び出していく。生命の再生産すら困難な状態になったのは、誰が見ても搾取のし過ぎが原因であるが、現役世代の暮らしを改善するわけでもなく、今度は海外に寄生していく道を進んでいる。そして戦後からこの方、独占資本の海外進出の原資を作り出してきた世代の老後は使い捨てである。介護にせよ、高齢者の貧困にせよ、個別の生活が破綻するだけでなく、社会全体にとって切実に解決が迫られたものとなっている。その抜本解決に向けた世論と行動を強め、政治を揺り動かす力を示すことが待ったなしになっている。

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