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傾くマンション 住民の生命と安全を二の次にする投機

 三井不動産レジデンシャルが売り主となり、三井住友建設が元請として施工した横浜市の大型マンションが傾いた問題は、不動産・ゼネコン業界が抱える構造的な問題を暴露すると同時に、人生でもっとも高い買い物といわれ、一生をかけてローンを払いながら生活基盤にする住居にかかわることから、その信用性を文字通り土台から揺るがす社会問題となっている。
 
 技術ありながら粗悪品乱造

 傾いた大型マンション「パークシティ LaLa横浜」(地上12階、全705戸)は、横浜市都筑区の利便性のいい住宅街に建てられ、竣工された07年当時、国交省が後援する都市みらい推進機構から、土地活用モデルの審査委員長賞を受賞するなど話題の物件であった。だが、昨年11月、住民から、4棟あるうちの1棟で「棟と棟を繋ぐ渡り廊下の結合部分の手すりがズレている」との指摘を受けたことから問題が明らかになった。
 指摘を受けた三井側は、当初「東日本大震災の影響の可能性が排除できない」などとごまかしていたが、それを不信に思ったマンション管理組合が横浜市に調査を依頼。実地調査で手すりや床など複数箇所でズレが確認され、マンションそのものが最大で2㌢傾いていることが明らかになった。
 その後、2次下請の旭化成建材が建物を支える基礎となる杭473本のうち83本、つまり6本のうち1本の割合で、杭の深度や杭を固定するためのセメント量のデータを改ざんしていたことが発覚した。また、傾いた棟にある計52本の杭のうち28本を調べたところ、支持層となる地盤の強固な岩盤に達していない杭が六本、長さが不足している杭が2本見つかるなど、マンションを支えていた杭打ちのずさんさが原因であることが明らかになり、三井も10カ月を経てようやく施工不良を認めた。旭化成建材が提出していた工事の報告書には、別の棟のデータをそのまま転用したり、書き換えたりするなど偽装がおこなわれていたが、元請の三井住友建設も、建築基準法に基づいて監督する横浜市もスルーしており、マンションの傾きが発覚しなければわからないままという検査・監督機能の崩壊状況も暴露された。
 杭打ち作業は、そもそも粘土質などの軟弱な地盤に建設するときに用いられる工法で、重機を操作して地面に杭を打ち込むと同時に、施工管理者が検査機器に映し出されるデータを見ながら、杭がしっかり打ち込まれたかどうかを確認する。だが、機器に映し出されるデータそのものが偽装されていたとしており、現在、施工に携わった旭化成建材の担当者がやり玉にあがっている。
 だが、建設関係者の間では、「起こるべくして起こった問題」「氷山の一角でゼネコン業界では常態化しているのではないか」「元請の三井住友も知らなかったはずはない」「日銀を挙げて煽り立てたマンション投機ブームがもたらした問題」と指摘されている。
 下関市の建設業者の男性は、「旭化成建材の問題もあるが、元請の三井住友が知らないわけがない。トカゲの尻尾切りにしか見えない。杭打ち作業は現場でかかわった人間ならば、杭が支持層に到達したかどうかは絶対にわかる。だが、現場で作業中に支持層の深さが違うことがわかっても、そこから設計のやり直し、数百本もの鉄骨を発注し直すことになればコストが膨らみ、工期が延びる。マンションは、建設する前から販売し、それを担保に工事費用を金融機関から借り入れるため、引き渡し時期が伸びれば金が入らず、資金繰りに影響する。元請の三井住友がコストを抑え、工期を延ばしたくないから暗にゴーサインを出したとみるのが自然だ」と指摘する。

 安全性より利益優先 人が暮らす目的度外視

 広島市で建設会社に勤務していた男性は、「土木でも建築でも安全率をどのように確保するかという問題は大きな問題で、道路や下水などの土木工事は目に見えない部分が大部分を占めるため安全率200%などの過大設計が求められる。だが地上の建屋に目が行きがちなマンション建設では、安全率はコストとのせめぎ合いで軽んじられているのではないか。マンション建設は、発注業者と、許可登録された建設業許可業者が完成を請け負う契約を結んでおこなわれ、下請業者には契約を結んだ以上、設計図面に書かれたとおりに、その予算と工期で工事を完成させる責任が生じる。だが、実際には下請に丸投げされ、発注者の責任が問われない構造上の問題がある。三井などの対応を見ていると“なぜうちだけが追及されるのか”“みんなやってますよね?”という開き直りすら感じるが、融資する金融機関や投資家など背後に巨大な利益共同体があり、根が深いことを感じさせる」と話す。
 「アベノミクスで不動産バブルが煽られ、マンションは最大の投機の対象になってきた。広島市でも駅前や中心市街地は地上数十階建てのタワーマンションが建てられているが、実際に住んでいる人は少ない。駅東口の再開発では、市営住宅を潰して大和システムに売り払い、地上33階建ての高層マンションが建てられたが、マツダの役員などが節税対策で購入しているともいわれ、上流階級の有り余った資産の運用先になっている。タワーマンションでは高い階ほど分譲価格が高くなる。だが部屋の条件が全く同じなら一階の物件も、高い階の物件も相続税評価額は変わらないから、都会のタワーマンションなどは生前贈与をしたりするときに利用されている。投資家への転売目的で建物をつくるようになって、もともと狂っていた構造が表沙汰になったのではないか」と指摘した。
 広島市内では、リーマン・ショック以後、市場縮小にともなって各社支店が次次に撤退し、「借り手不在」の空き地や空きテナントが目立ちはじめ、集約された土地を狙って三井住友や三菱地所などの大手不動産がマンション用地として物色し、マンション建設ラッシュが加速した。
 広島駅周辺でも、市民に親しまれてきた市場や老朽化した家屋、商業ビルを撤去し、市と地権者、住友不動産を含む第3セクターによって地上52階もの巨大タワーマンションを建設中である。さらにその隣にも、戦後のヤミ市から市民の台所となってきた愛宕市場などの商業施設を老朽化を理由に撤去し、地上10階の商業施設棟と42階の高層マンションの複合ビル建設が森ビル(東京)などが絡んで、地権者の反対を押し切って強引に進められてきた。
 地権者からは、「マンション建設を進めるディベロッパーやゼネコンははじめから土地所有者や商売人の事情など考えていない。彼らはマンションや商業ビルを建てて、それを投資対象にして配当でもうけることを前提にしているから、その地で暮らし、商いをすることは否定される。市行政も莫大な助成金を払いながら、“書類さえ整っていれば反対する理由がない”という態度でろくに監督指導もせず、開発推進の強力な後押しをする姿もこの目で見てきた。横浜のマンションが傾いた問題も他人事とは思えないし、このような体質なら杭を抜くくらい平気でやるのではないかと思う」と憤りを込めて語った。
 マンションは「人人が暮らす住居」であり、生命がかかっている。ところが、そこで暮らす人間の安全など二の次でローンを組ませて売りつけ、いい加減なのだからたまらない。人人が暮らすという目的を度外視して、金融機関や投資家がマネーゲームの投機対象にし、公共性や安全性よりも企業の利益を最優先させる姿を象徴的に映し出している。
 市場原理主義がもたらした根深い問題として波紋を広げているが、いまや原発再稼働にしても、TPPや集団的自衛権の行使にしても、みな国民の生命や安全を二の次にして、もっぱら金融資本や大企業が商売の具にしていくのと重なる。建築技術はあってもいい加減な建物ばかり作り、完成品は粗悪品だらけという、目的をはき違えた笑えない事態が社会のいたるところで問題になっている。マンション建設については、Jリートなど不動産投機を煽ってきた金融機関の責任も大きい。

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