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医療も介護も負担増大 高齢者の懐を狙い撃ち

 安倍政府の医療・介護制度改悪による高齢者切り捨てに対し、医療分野、福祉分野、高齢者団体を問わず、「国によるあからさまな姥捨て」「“枯れ木に水をやる必要はない”“いずれ死ぬ”との論理は相模原市の障害者施設での殺傷事件犯人と同じ」「明らかに基本的人権の保障を国に義務づけた憲法25条の改悪。安保法制、集団的自衛権で戦争のできる国づくりをやっている九条改悪と一体」「一方でアメリカ、財界いいなりで世界中にODA(政府開発援助)をばら撒いており、その規模は100兆円に達している」「戦中、戦後、焼け野原のなかから立ち上がり懸命に働き、子どもを育て、今日の日本をつくってきた世代に報いるどころか、切り捨てる政治に日本の明日はない」などの論議が活発に起こっている。

 75歳以上医療費を2割負担へ  海外にバラマキ国民の老後圧迫

 安倍政府は参院選後の7月、社会保障審議会医療保険部会で高齢者の医療費負担引き上げの論議を開始した。70~74歳の前期高齢者の医療費患者負担を1割から2割に引き上げたのに続き、75歳以上の後期高齢者(一般)の患者窓口負担を現行の1割から2割に2倍化する方針を打ち出し、2018年度までに結論を得て実施する段取りである。
 下関市内の内科開業医は「その本質は75歳以上のすべての国民を一人一人、家族の扶養からも、既存の公的医療保険からも切り離し、後期高齢者医療制度に強制加入させる“縁切り型”“姥捨て山方式”であった」「2007年4月1日、政府の“後期高齢者医療の在り方に関する特別部会”がまとめた基本的な考え方は“いずれ死ぬ”というもので、戦後の日本をつくってきた世代に報いるどころか、あからさまな“お荷物”扱いとした。これは相模原市の障害者施設での殺傷事件犯人の考えと同じだ」「後期高齢者医療制度実施で窓口負担を一般1割、現役並み所得者は3割、としたことから、“今後、2割負担、3割負担と引き上げる遠大な含みを隠している”と追及された。政府は黙って答えなかったが、その正体丸出しだ」と語った。
 周知のように、高齢者世代は若年世代とともに貧富の格差が著しい。事実、今年3月時点で65歳以上の高齢者世帯が生活保護受給世帯全体の50%を突破した。今年4月時点では高齢者世帯の生活保護受給は83万512世帯と過去最多を更新。そのうち1人暮らしの高齢者が9割を占めた。「基礎年金」といわれる国民年金の給付は月6万円台で、病気になったり介護が必要になって、それが生活保護受給の契機となるケースが多い。
 昨今、多くの高齢者は孤立している。子ども5人ぐらいが一般的な時代には、誰かが家に残ったが、少子化でほとんどが大都市にいる。また、働く国民の40%が低賃金・不安定の非正規雇用、若年層では2人に1人以上が非正規雇用。子どもは年老いた親の面倒を見たくてもできず、親も子どもを頼れなくなっている。また、「中間層」といわれ一定の年金収入がある親と、非正規雇用から抜け出せず40、50代の自立できない子が同居している。
 開業医のなかでは、「高齢者の所得格差は大きく、生活保護でないボーダーライン層も多い。政府がみずからの政治の結果である少子高齢化の現実を無視し、“搾れば搾るほどよい”という暴挙をやることは許されない。後期高齢者の窓口負担を1割から2割に倍増することは広く受診の権利を奪うことになる」と指摘している。
 もう一つ、社会保障審議会医療保険部会で今年末までに結論をまとめ2017年度からの実施をめざしているのが、「70歳以上の高額療養費制度」の月額負担限度額の引き上げである。
 現行の「70歳以上の高額療養費制度」は「現役並み所得者」で月約8万7000円を超えた分、「一般所得者」は月4万4400円を超えた分、「低所得者Ⅱ」(住民税非課税)は月2万4600円を超えた分、「低所得者Ⅰ」(住民税非課税で年金収入が80万円の必要経費控除後ゼロになる人)は月1万5000円を超えた分、がそれぞれ保険から払い戻される。
 これを70歳未満の高額療養費制度の月額負担限度額と同じ方向へ、いかに引き上げるかを論議している。
 現行の70歳未満の高額療養費制度は、すでに改悪に次ぐ改悪で重い負担となっている。住民税非課税の低所得者で月約3万5000円、年収210万円以下で月約5万8000円、210万円以上~600万円以下が約8万7000円、年収が902万円をこえると月約25万4000円、これらを超過した分が払い戻される。
 社会保障審議会医療保険部会の席上、委員の経団連社会保障委員会医療・介護改革部長・望月篤氏は「(高齢者の)高額療養費制度は世代間の公平性の観点からも、早急に見直すべきだ」と主張。日本医師会副会長・松原謙二氏が「高齢者が不安にならないようにすべき」と主張する一幕もあった。
 医療制度改悪は高齢者だけではない。2002年、小泉改革で被雇用者健保本人の患者窓口負担を、2割から3割に引き上げた。日本医師会が「混合診療拡大反対」とあわせて全国的な反対署名運動を展開、短期に600万筆をこえる署名が衆参両院に提出されるという世論の反発を招いた。このため、健康保険法改定で「(今後)患者への7割給付(すなわち患者負担3割)を維持する」と法律の「付則」で明記した。
 ところが保険外しをやって、なし崩しに七割給付を減らし、患者の3割負担にプラスした保険外負担を広げている。最近では入院給食の患者負担を1食260円から460円へとほぼ2倍化した。入院月額では2万3400円から、4万1400円へと、段階的に引き上げている。これに加えて、水道・光熱費や病室代(現在、保険適用の複数部屋)を保険外とし、患者負担とすることを検討している。
 また、「“かかりつけ医”以外の受診は定額負担を加算する」と、1回につき100円、200円の追加徴収をやり、診療抑制をやろうとしている。医療界では、「“かかりつけ医”という総合診療医の養成・配置は今からで、現状は内科でも呼吸器科、消化器科、循環器科を掲げた開業医にかかっており、患者の受診を抑制するもの」「最初は100円、200円でも、1回導入すると500円、1000円と引き上げるのは政府の常套(とう)手段」との批判が広がっている。

 介護でも負担率2割に 施設への入所断念も

 介護保険制度の改悪もすさまじい。8月、安倍政府は社会保障審議会介護保険部会で、2018年度の介護保険制度改悪に向けた論議を開始した。論議の中心は、介護サービスを利用する自己負担を現行原則1割から段階的に2割に引き上げることである。すでに2015年8月から「現役並み所得者」は2割負担にしており、特別養護老人ホームから退所せざるを得なくなったり、ショートステイなど在宅介護サービスの利用を大幅に減らさざるを得なくなり、家族はパニック状態となっている。
 下関市内の特別養護老人ホーム施設長は「“枯れ木に水をやる必要はない”と政府はいったが、高齢者は早く死ぬという考え方で、相模原市の障害者施設で多数を殺傷した容疑者の思想と同じだ。戦後の食料難で、栄養失調で子どもを失うケースもあるなか、懸命に働いて次世代を育てて今日の日本をつくってきた世代の苦労も知らず、アメリカナイズされた政治家や官僚が目先三寸、もうからなければ切り捨てるという。はらわたが煮えくりかえる思いだ」とのべた。
 次いで、2015年度の改悪で、特別養護老人ホームの旧来型複数部屋で月1万5000円の部屋代・水道光熱費を徴収していると説明。「年間18万円もの負担増だ。入所を断念するケースも出ている。現行の1割負担でもこのような実情にある。これを2割負担にしたらどうなるか。まさに“老後は金次第”で、ほとんどの庶民は施設には入所できないし、入所していても退所に追い込まれる。国によるあからさまな姥捨てだ」という。
 そして、8月19日の社会保障審議会介護保険部会でも、委員から「高齢者の経済的負担は限界にきている」「2割負担の対象を全体に拡大すれば、必要な介護を控えさせることになり、重度化する」などの意見が続出。結果的に重度化・重症化で介護費用の増大を招き、介護離職を増やすことは必至で、安倍首相のいう「介護離職ゼロ」の方針に逆行するとの指摘が出されたことを明らかにした。
 介護保険改悪で、要支援1、2の要介護者に対する介護予防サービスの大半を占める、ホームヘルパーによる訪問介護と通所介護であるデイサービスの市区町村の事業への丸投げを、2015年度から開始し、2017年度までの3年間で移行を終えるとしている。だが実際に移行しているのは3割強。低い介護報酬の設定で手を引く事業者も出ており、全国的にスムーズに移行が進む保証はない。
 安倍政府はこれに続いて、要介護1、2へのホームヘルパー派遣による生活援助(炊事・洗濯・掃除・買い物など)と、介護用具レンタル・購入への補助を、介護保険の給付から外し、全面自己負担とする方針を検討している。
 週に3回、2日に1回などのペースでホームヘルパーが在宅要介護高齢者宅を訪問し、本人の健康をチェックし、生活援助をすること、介護用器具で要介護者本人が自立した生活を継続する努力をすることが、いずれも重度化、認知症の重症化を抑える要となっている。
 安倍政府による生活援助、自立を維持するための介護用具レンタル・購入への補助外しが、住み慣れた地域での自立した生活を奪うことは必至である。ヘルパーが訪問して健康をチェックし、医療機関とも連携して担っている社会的な役割を否定し、その誇りも喜びも奪うものである。
 政府は「給食サービスの宅配がある」「コンビニや商店街の商品配送がある」というが、介護の専門家であるヘルパーの役割にとってかわることはできない。生活援助、介護用具レンタルなどの保険外しが、1人暮らしも多い在宅要介護高齢者の重度化、認知症の重症化を招くことを介護現場をあげて指摘し、警鐘を鳴らしている。介護度の重度化だけでなく、認知症の重症化による徘徊・暴力などには、家族や地域で対処することはできなくなる。
 特別養護老人ホーム施設長は、「現状でも“高い保険料とって介護なし”の実態は深刻だ。これに国が段階を画す姥捨て政治をやってきている。介護苦を原因とする心中や親族殺しという“介護殺人”が全国で2週間に1件のペースで起こっている。この現状を考えると、安倍政府の姥捨てが招く“介護地獄”がいかに荒廃した社会をつくり出すか、想像するのも恐ろしい。“金がない”と国民の生活、人権は切り捨て、アフリカに3兆円などとアメリカの戦略に乗って巨額のODAをばら撒いている。こういう転倒した政治はもう終わりにしなければと思う」と語った。

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