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アジアを火の海に投げ込むな 標的にされる日本列島

 北朝鮮のミサイル発射や核開発を口実にして、米政府が軍事挑発をエスカレートさせている。米トランプ政府は北朝鮮への先制攻撃も辞さないこと、単独行動をする用意があることを表明し、朝鮮半島へ原子力空母を急派した。これと連動して安倍政府は朝鮮への経済制裁延長を決めたうえに「敵基地攻撃能力の保有」を急ぎ、全面戦争をも辞さない構えを見せている。一方、北朝鮮は「ミサイルの標的は在日米軍基地」と表明し、その飛距離からして岩国基地が攻撃対象になると見られており、基地の街では緊張感が高まっている。朝鮮半島周辺ではこの間、過去最大の30万人が参加して米韓軍事演習をくり広げ、これに反発する形で北朝鮮がミサイル発射をくり返してきた。アジアを火の海に投げ込みかねない軍事衝突の危機が深まっており、米軍の行動如何によってはミサイル攻撃の標的にされかねない日本社会にとっても無関係でおれない事態を迎えている。

米韓軍事演習で挑発した結果

 北朝鮮が核開発やミサイル発射実験をするのは朝鮮戦争以来、アメリカが日韓に大量の核兵器を配備し、朝鮮侵略計画に基づく大規模演習を毎年続け、核攻撃態勢を強めていることが根源である。


近年の米軍再編をみても、朝鮮や中国をにらんだ高性能のミサイル発射機能を持つイージス艦を配備し、横須賀に原子力空母を配備し、青森にミサイル攻撃機能を高める米軍のXバンドレーダーを配備するなど攻撃態勢の意図は露骨である。


 とりわけ、米海兵隊基地のなかでもっとも朝鮮半島に近い岩国基地は格段の増強を図っている。厚木基地所属の核搭載可能な空母艦載機59機と兵員を今年7月から移す準備を進め、最新鋭ステルス戦闘機F35や垂直離着陸可能な戦闘ヘリ・オスプレイを配備し、3月末には近くの広島・呉基地に海上自衛隊最大のヘリ空母「かが」(基準排水量1万9500㌧)を配備した。ヘリ空母は滑走路が必要な戦闘機が離着陸する装置はないが、広い甲板を持ち戦闘ヘリやF35Bなど垂直離着陸機は自在に運用できる。「かが」就役で自衛隊保有のヘリ空母は「ひゅうが」「いせ」「いずも」とあわせ4隻体制になった。朝鮮有事となれば、岩国基地のF35を「かが」に積んで出撃したり、自衛隊の艦船が米軍機を運ぶ体制にほかならない。岩国配備の空母艦載機は真っ先に最前線の攻撃に加わる体制をとることになる。


 

 こうした動きに加え3月から4月末まで米韓軍が大規模軍事演習「フォールイーグル」を実施している。米原子力空母カール・ビンソンを中心とする米空母打撃群、佐世保基地配備の強襲揚陸艦ボノム・リシャール、韓国海軍のイージス駆逐艦、原子力潜水艦など60隻余りを朝鮮半島近辺に集結させ、事実上の軍事包囲体制をとった。岩国基地所属のF35やグアム配備の戦略爆撃機のB2やB52、米国本土のステルス爆撃機B2、在韓米軍基地のステルス戦闘機F22などあらゆる最新戦闘機も動員した。各国の首脳暗殺や政権転覆作戦を実行するシールズ(米海軍特殊精鋭部隊)やグリーン・ベレー、デルタフォースなどもっとも野蛮な特殊暗殺部隊を本格参加させ、総勢32万人もの米韓軍が朝鮮半島近辺で実戦さながらの爆撃・侵攻訓練を繰り広げた。


 演習は「北朝鮮の核・ミサイル発射の兆候があれば30分以内に先制打撃する」もので、アメリカの指揮棒でわずか30分以内で日韓の米軍基地から軍事攻撃を開始する危険な内容である。同演習の方向性を示す「テーラーメード型抑止戦略」や4D作戦はきわめて具体的で、先制攻撃を仕掛けて北朝鮮のミサイル基地を破壊した後、首脳陣の斬首・除去を実行し、平壌を占領することを想定していた。朝鮮半島はいまだに休戦状態が継続し、戦争が終結していない。その近辺でわざわざ大規模軍事演習をやるのは軍事挑発にほかならない。軍事緊張を極限まで高めて相手に手を出させ、野蛮な殺戮に踏みきって支配下に置くのが、アメリカが戦争を引き起こすとき使う常套手段である。

米国は単独行動表明 防衛ではなく先制攻撃

 今回もさんざん軍事挑発した結果、案の定、北朝鮮がミサイルを発射した。すると、米国のティラーソン国務長官が「戦略的忍耐の政策はもう終わった」「あらゆる選択肢がテーブルの上に乗っている」と素早く反応し、先制攻撃の可能性にまで言及した。「アメリカと日本の同盟関係は、アジア太平洋地域の礎だ。北朝鮮の核・弾道ミサイル問題に対応するため、日本とアメリカとの2国間、日米韓の3カ国間の協力を強化していく」とのべ、日本や韓国を米本土防衛の防波堤として動員する意図も示した。さらに米中首脳会談では会談の最中にシリア爆撃を強行し、中国が北朝鮮問題で有効な手を打たないなら単独行動をする用意があると表明し恫喝を加えた。


 ミサイルの性能でいえば、北朝鮮が今回発射して失敗したとされる飛距離は60㌔だった。シリア爆撃で米軍が五九発打ち込んだトマホークの飛距離(1250㌔~2500㌔)と比べても技術差は歴然としている。


 このミサイル発射に対応して、米太平洋軍のハリス司令官はすぐさま、シンガポールからオーストラリアに向かっていた原子力空母カール・ビンソンを中心とする第一空母打撃群に急きょ朝鮮沖への派遣を命じ、攻撃態勢強化に踏みきった。同空母打撃群は1月にサンディエゴを出港し、東シナ海で海上自衛隊と共同訓練をおこない米韓合同野外機動訓練に参加した部隊で、北朝鮮をはるかにしのぐ攻撃能力を保持する。この部隊に「朝鮮半島周辺で活動し、核開発・ミサイル開発を続ける北朝鮮の挑発に備える」という任務を課し、常時、先制攻撃できる態勢をとっている。こうした事実は「ミサイルの脅威」「核開発の脅威」を煽り、北朝鮮に対する軍事包囲網を強めているのは、北朝鮮というより、米国の側であることを暴露している。

イラクの次は北朝鮮 解決遠ざける軍事挑発

 現在、米国の保有する核弾頭は約6970発で、北朝鮮の保有する核は約8発といわれる。現実の力関係は朝鮮が核ミサイルを一発発射すれば、数千発のミサイル攻撃を浴び、瞬時に北朝鮮全土が壊滅する力関係にある。したがって日本に北朝鮮が核ミサイルを撃つときは、自国が廃虚にされることを覚悟したときしかあり得ない。北朝鮮の核開発やミサイル発射が持つ意味は「核攻撃すればやり返すから撃つな」という抑止効果以外に軍事的な意味合いはなく、なにより米軍との戦力差は誰の目から見ても歴然としているのである。北朝鮮がすすんで日本へ攻め込むために核兵器を撃ちこむ理由はないし、蜂の巣になることがわかって軍事力を行使することほどあり得ない話はない。その行動は日米政府から軍事包囲や経済制裁で一方的に追い込まれたなかでの抵抗にほかならない。この戦争挑発をやめさせなければ解決できない、というのが客観的に見た現実である。


 事態の推移から見ると、拉致事件を起こし、ミサイルを発射し、核開発をしたから制裁・軍事攻撃に踏みきるという順序ではなかった。アメリカが引き起こした朝鮮戦争が1953年の停戦協定以後、いまだに交戦状態が続いており、1991年までは1000発を超す戦術核を韓国に実戦配備して恫喝していた。その後、2000年代に入ってもアメリカは北朝鮮についてイラクやイランと同様、「悪の枢軸」と呼び「核の先制攻撃をする」と公言してきた。イラク侵攻でフセイン政府を崩壊させると「イラクの次は北朝鮮」とアメリカが公言するなかで、北朝鮮が核開発を本格化させた経緯もある。


 さらにこの核開発問題をめぐってアメリカは、北朝鮮やイランの核武装は許さないが、パレスチナを攻撃するイスラエルの核武装や、中国に圧力を加えるインドの核武装は容認する二重基準を貫いてきた。万事アメリカのいいなりになるかどうかが基準であり、そのような基準ではすべての核兵器を廃絶することなどできない。北朝鮮に核武装をやめさせるなら、世界最大の核保有国であるアメリカこそ日本や韓国に配備する核を真っ先に廃絶させなければ、脅威を脅威で打ち返す構造が解消しないことは歴然としている。

前線基地となる日本 国土再び廃虚にする道

 北朝鮮が反発しているのはアメリカで、その米軍基地があるために日本列島が最前線の戦場にさらされるというバカげた事態が進行している。安倍政府がアメリカの意を酌み、日本全土の核攻撃基地化を強化していることが最大の悲劇をたぐり寄せている。北朝鮮に対しては、今月13日に期限を迎える輸出入の全面禁止などを含む独自の経済制裁を2年間延長することを決定した。


 また、韓国で国を二分して反対運動が起き、中国でも抗議行動が起きている米軍の最新鋭迎撃システム「高高度迎撃ミサイル(THAAD=サード)」を日本に配備する準備に着手した。さらに「北朝鮮の脅威に対処する」と称し、「攻撃される前に敵を叩く」という敵基地攻撃能力保有の検討を自民党安全保障調査会が主導して開始した。アジア諸国が出ていけといっているアメリカのためのミサイルの配備をみずから買って出て、敵基地攻撃能力も保有し、アメリカの変わりに日本から先制攻撃をやるというのである。同時にそれは在日米軍とともに攻撃目標となる軍事施設はすべて日本で引き受け、米本土防衛の盾になるという道である。


 アメリカは近年、中東でも中南米でもアフリカでも反米斗争が高揚するなか、軍事費がかさんで米兵の犠牲者が増え窮地に立っている。このなかで野蛮な戦争によって活路を見いだそうとしており、みずからの派遣部隊は最小限に抑え、在日米軍基地をミサイル攻撃の標的として前面に立たせようとしている。こうした日本や韓国を前面に立ててアジア人同士をたたかわせるアメリカの戦略にそって戦争を引き起こすことを座視することはできない。北朝鮮の事情がどうであれ、国際的な紛争は武力によって解決するのではなく、平等互恵の立場で話しあって解決するのが、第二次世界大戦の痛ましい経験に基づく教訓である。


 そしてはっきりしていることは、唯一原爆を人間の頭上に投げつけた最大の核大国はアメリカであり、その核兵器をなくすようにしなければ世界中の核兵器もミサイルもなくならないことである。


 「横暴なシナを懲らしめる」といって中国前面侵略させたのと瓜二つの扇動に乗せられるわけにはいかず、日米政府が企む危険な戦争策動を押しとどめる全国的な行動が急務になっている。

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