いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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森友学園 手引きまでしていた財務省

工事中の瑞穂の國記念小学院

 安倍昭恵首相夫人などが名誉校長になり、国有地の実質的な無償譲渡が発覚して物議を醸した森友学園問題。追及すればするほど異常な行政手続きが横行していたことが明るみに出たが、北朝鮮騒動の陰に隠れ、そのままなかったことにしたいという願望がありありとあらわれている。ただ、何一つ疑惑の解明はされていない。国民の犯罪取り締まりを強化する共謀罪を審議し、「教育勅語」の復活、「憲法改正」まで唱える輩が、一方では自身や身内の不始末にはなんのケジメも付けないまま煙に巻くという自堕落な様を見せつけている。森友問題はその後どうなったのか? を追った。
 
 曖昧にできぬ国有財産私物化

 籠池理事長の証人喚問後、疑惑が膨らむなかで政府側は証拠の徹底的なもみ消しと疑惑追及の幕引きに終始してきた。国会では質問を制限し、法案審議の場で野党から森友問題の質問が出ると「法案審議と関係ない」として法案の強行採決をおこない、しまいには森友学園への国有地売買関連の文書が各省庁から提出されない問題についても「行政文書の公開は与党の同意が必要」と主張し、国会の国政調査権すら否定している。


 一方、安倍昭恵の代理として森友学園側の要望を関係省庁に伝え、回答までしていた谷査恵子秘書のFAXについては「行政文書ではない(私的活動だった)」と閣議決定したり、唯一開示した文書でも、100ページ中黒塗りがないのはわずか9ページのみという徹底した隠蔽姿勢を見せつけた。特定秘密保護法では、「我が国の安全保障に関する情報のうち特に秘匿することが必要であるもの」としているが、現実には公権力にとって不都合なものはみな葬る対応となっている。だが、その後も明らかにされる事実は、もはや公務員の「忖度」のレベルをこえ、昭恵夫人の直接関与による後押しによって森友学園の学校設立案件が動いていたという経緯を浮き彫りにしている。


 安倍政府や昭恵夫人の「てのひら返し」で一気に破産手続きへ追い込まれ、大阪市からの業務改善命令を受けた籠池前理事長は4月26日、国との録音データの一部を公開した。昨年3月15日に籠池夫妻が財務省本省を訪問し、理財局国有財産審理室の田村嘉啓室長らと面談したさいの国有地売買をめぐるやりとりだ。田村室長は、昭恵夫人付きの谷査恵子秘書からの問い合わせに対応した人物でもあり、音声記録は日本音響研究所の声紋鑑定でも本人のものであることが確認された。


 録音データによると、「国の土地の問題」で訪れたことを明かした籠池氏の「どういう内容かご存じですか?」との問いかけに、田村室長は「報告は受けています」「だいたい状況は承知しています」と返答。ちなみに3月24日に国会に参考人として出席した迫田前理財局長は「(森友学園の件について)報告は一度も受けたことはない」と答弁しており、虚偽答弁の可能性が高まっている。


 続けて籠池氏は、近畿財務局が「地価を上回る瑕疵(かし)が発生する国有地は貸し出せないので契約とりやめになる」ため埋設ゴミを「場内で埋め戻して欲しい」と業者に要請していたことへの不満をぶつけた。「昭恵夫人の方からも確かここ(理財局)に聞いてもらったことがあると思いますけど、なにか変なことが起こっている」「(小学校校舎の)棟上げ式に首相夫人が来られて餅を撒くことになっているから、(工事の遅れるような事態に)余計にびっくりしている」「あの方(昭恵夫人)自身が愚弄されている」と昭恵夫人の名前をちらつかせてまくし立てた。そこで田村室長は「国有地は全国にありますけど、管理処分は基本的には全部財務局の権限でやっている。ただ、“特例的なもの”はわれわれのところ(財務省本省)にも相談に来ますので、こういう事実を踏まえてどうしたらいいのか、これはちゃんと検討します」と返答した。


 このやりとりについて、佐川理財局長は国会答弁で「(近畿財務局には)打ち合わせをした記憶はあるが、産業廃棄物の場内処分を求めるような発言をおこなったことはなかった」「(面会した田村室長は)記憶にない」と全面否定した。しかし、この面談からわずか9日後、土地問題が片付いたことを裏付けるように、森友学園は定期借地ではなく土地購入を申し出て、その後大阪航空局はゴミ撤去費用として8・2億円値引きした。


 「売買契約の締結」も佐川理財局長の嘘露呈


 これを受けて4月28日、民進党が開いたヒアリングに出席した籠池前理事長は、昭恵夫人の関与によって「それまで定借契約に難色を示していた財務省が平成26(2014)年夏ごろ突然、定借での契約に前向きになってくれた」「昭恵夫人には土地取引が終わるまで、交渉の推移を適時報告していた」「昭恵夫人に名誉校長になっていただいたことで、ある時期から土地についての物事がスピーディーに動いた」とのべた。


 昭恵夫人については「私の考えを説明し、それがどのような状態になっているのかを知っていただき、それを通じて各方面にわたって対応していただいた」とのべ、安倍首相と昵懇(じっこん)で36億円の公有地譲渡が問題になっている加計学園に行きたいと要望したところ、昭恵夫人の仲介で直接学園事務局と面談したことも明かした。


 さらに昭恵夫人は2014年4月、新たな小学校の建設予定地である豊中市野田の国有地にも籠池氏の案内で訪れていた。公設秘書を連れて同地を視察した昭恵夫人は、「近畿財務局との交渉がなかなか難しい状態」とぼやいた籠池氏に対して「なにかすることはないですか?」と答え、その年の夏ごろから「定期借地契約に難色を示していた近畿財務局の態度が変化した」という。


 当時、籠池氏は10日に1度は近畿財務局に出向いており、「昭恵夫人にはその都度、電話で交渉の経緯について報告していた」。2014年12月5日には塚本幼稚園で昭恵夫人が「ファーストレディとして思うこと」と題して講演し、同月17日には、近畿財務局から定期借地に関する「手厚い」手引き書が森友学園側に渡された。


 この手引き書は、森友問題を追及し続けてきた著述家の菅野完氏が入手公開したもので、財務省近畿財務局が作成した「今後の手続きについて」と題するA4三枚の資料だ。ここで財務局は、国有地を取得するために必要な手続きを懇切丁寧に説明しており、「定期借地契約は、大阪府私学審議会において本件計画が認可適当と答弁され、国有財産近畿地方審議会で本件売払いを前提とする貸付けが適当と答申され、その後、見積もり合わせにより貸付料が決定した後に締結されることになります」と、その後おこなわれる土地売買に至るまでの全行程のシナリオを記している。「大量の埋設ゴミ」が見つかって八億円が値引きされるのはそれから2年後の2016年3月であるにもかかわらず、すでに「着工後、森友学園が土壌汚染及び地下埋設物除去工事実施」や「財務局・航空局により作業状況・撤去範囲等の現地確認」など、国に撤去費用を求める手順までレクチャーしていた。


 この時点で財務局は「売買契約の締結」にまで踏み込んでおり、ここでも佐川理財局長の「第123回国有財産近畿地方審議会より前に、貸せるだろうとの見通しや、売買契約の見通しを伝えたことはない」「学校審議会の前に財務省近畿財務局から森友学園に対して予断をもって、国有地売却等の是非について申し上げた事実はない」という答弁の嘘が露呈している。佐川理財局長は「パソコン上のデータは短期間で自動消去され復元できないシステムになっている」などと文書の廃棄を開き直っていってきたが、相手がいる以上、嘘はいずれ発覚することは避けられず、政府が早期幕引きに躍起になる動機はここにある。


 まさに「名前と日付だけ書けば、定期借地ができる」という文書が財務局から手渡された後、翌2015年2月に国有財産近畿地方審議会で「条件付き国有地貸付」が決まり、5月には近畿財務局との間で定期借地契約が結ばれた。9月に昭恵夫人の名誉校長就任が正式決定し、11月17日には総理夫人付きの谷査恵子秘書から籠池氏の要望に対する回答がFAXで送られている。安倍昭恵の能動的な働きなしには考えられないウルトラCの連続であり、「私や妻が土地売買に関与していれば、議員を辞職する」とまでいって関与を否定した安倍首相の主張も通用しない事態となっている。


 そして、2016年3月11日には、財務局が示したシナリオ通りに森友学園が「地下からゴミを発見」し、3月15日には財務省の田村室長と面会。6月20日には近畿財務局から8億円以上の値引き価格で土地を購入するという流れとなり、籠池氏は「財務局が示したひな形通りに手続きを進めれば、土地取引が上手くいくと安堵した」とのべた。


 ボーリング調査なし 森友側算出で8億値引


 さらに籠池氏はヒアリングのなかで、財務省が独自に「国有地のゴミ混入率47・1%としてゴミ撤去費用を算出した」としてきた8億円値引きの根拠について、「近畿財務局も大阪航空局も(埋設物に関する)資料は持っていなかった」「ボーリング調査などをすればまた費用がかかる」ため「国側の指示に従って森友学園側が撤去費を算出して資料を渡した」と明らかにした。


 籠池氏によると、地下埋設ゴミの対処をめぐって近畿財務局と意見が合わず、昨年3月15日に東京の財務省本省に訪問し、応対した田村室長は「貸し主の責任としてこれからどうしていくべきか早急に相談していく」と回答。その後、近畿財務局と大阪航空局から「埋設物に関する資料」の提示を求められたため、工事を担当した藤原工業、木原設計事務所が算出した複数のプランを提出し、それを引用する形で国交省が8・2億円の値引きを決めたという。これまで「ボーリング調査の結果」「独自調査による積算」という国の説明とは大幅に食い違っており、籠池氏は昭恵夫人の関与によって「神風が吹いた」とのべた。さらに、ゴミの存在はそれ以前からすでに両者の間で認識しており、その撤去費用の差し引きで土地価格を森友学園が要望する1億3400万円程度まで引き下げる手順を踏んだことも暗に明かした。さらに借地契約の賃料についても近畿財務局の前西課長補佐から「値段にはストライクゾーンがある。高い方は2700万円、低い方が2100万円」という具体的な賃料の提示があったことも明らかにし、「低い方にしてくれとお願いした」とも明かした。


 また、「難局に差し掛かった際には、昭恵夫人にその都度電話で報告しており、私だけでも20回、家内の方からも1度につき1時間、2時間ほど話をしている」こと、昭恵夫人が「名誉校長を退いた2月23日には、(退任の申し出が)安倍首相の国会議員事務所のFAXから発信されていた。それは、ちょうど財務省の理財局長から“しばらく身を隠してください”といわれていた時期」であり、「安倍事務所の初村秘書から連絡があり、強面の声で“もう下ろせ”“今日中に(ホームページの)顔写真もすべて外せ”ということだった」とも明かしている。問題発覚後、こぞって「迷惑だ」「関係ない」とシラを切っている「保守系」文化人や政治家などが学園で講演したさいには講師料として50~100万円を支払っていたこと、「安倍先生の場合は、国会議員の夫人であるため、当初の2回は差し上げていないが、3回目の講演で名誉校長に就任いただいた際は、10万円を包んでお菓子の袋の中に入れて渡した」とのべた。


 ヒアリングでの質疑は国有地問題だけに集中したが、財務局の国有地払い下げは、大阪府の私学審議会の「認可適当」の答申なしには進みようのないものであり、籠池氏は「大阪府が学校認可の申請書を受け付けているが、その6カ月前に計画書の提出が求められ、そのチェックのうえで申請書の受付となる。申請書の受付となると問題なく動いていくはずだった」とのべ当時、維新の会を直轄下に置いていた平沼赳夫代議士が森友学園の小学校建設を「日本にとってこれ程の朗報はない」という「推薦状」を書くほど絶賛するなかで大阪府の松井知事や橋下市長が「一生懸命」になって「ハシゴをかけて」いたにもかかわらず、今度はてのひらを返して学園つぶしに動いていることにも疑念を呈した。


 森友学園をめぐっては、稲田防衛大臣の夫である稲田龍示弁護士が森友学園の保育園に設立時から関与していたことも判明しており、あらたな事実を前にして、土地取引をめぐって買い戻し特約まで付いた継続案件の書類を「管理規則にもとづいて廃棄した」と主張する佐川理財局長も含め、今後の集中審議で会計検査院がどのような判断を下すのかが注目されている。


 一方、銀行口座凍結まで受けている森友学園(籠池町浪新理事長)は3月30日付で、新体制の声明を発表し、森友学園がおこなってきた教育勅語暗唱や自衛隊行事への参加などが「教育基本法が平成18(2006)年に改正された際に新たに設定された“我が国と郷土を愛する態度を養う”との教育目標を、幼児教育の現場で生かそうとした前理事長なりの努力と工夫の結果」であったことを明かし、1947年の旧教育基本法の理念に立ち返って立場を入れ替えることを宣言した。それと同時に、「教育勅語」の復活を閣議決定したのが安倍政府であり、森友学園をトカゲの尻尾のように切り棄てる一方で、その教育方針による学校づくりを積極的に推進してきたのは安倍政府自身であることをみずから暴露している。

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