いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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尖閣騒動 米国の日中戦争策動が背景

 日本と中国双方が領有権を主張する尖閣諸島(中国名は釣魚諸島)周辺海域で海上保安庁が中国漁船を拿捕し、船長を拘留している問題をめぐって、日中政府間の対立が激化している。「島の領有権をめぐる対立などどこでもある問題だ。話し合いで解決すべきだ」「二度と戦争などやってはならない」との世論が高まっている。だが事態は、話し合いにいかず緊張の度を増している。「日米安保条約」でアメリカの属国にされている日本。その中国との関係は米中関係とは切り離せない。アメリカが一貫して中国を仮想敵とみなし、二重三重の包囲網をめぐらして、とくに日本をその手代として使っているという軍事戦略から見ていきたい。
 今回の事件そのものは中国漁船と海上保安庁の巡視船が衝突したというものだが、日本政府が日本の領海で起きた事件だと主張し、中国船長を逮捕・拘留して釈放しないために中国側が対抗措置をとっているのである。菅政府は「船長を国内法にもとづいて粛粛と対応する」といっているが、それ自体が日本の尖閣諸島に対する領有権を認めることになるので許せないというのが中国の主張である。
 17日に発足した菅改造内閣のもとで、中国船長への10日間の拘置延長を決めて、対立をエスカレートさせた。
 これに中国政府が怒って、日本との閣僚級の交流停止など外交上の報復措置をとった。菅政府はこれに対し、国連総会に出席する菅首相が中国の温家宝首相との会談の見送りを決め、さらに中国首脳が出席する予定のASEM(アジア欧州会議)に出席しないことを決めた。
 この日中政府間関係の激化に対し、アメリカ政府は表向きは「両国政府の対話が必要だ」(スタインバーグ国務副長官)といいつつ、裏では火に油を注いでいる。米国務省は八月中旬、「日米安保条約」が尖閣諸島にも適用されることをあらためて確認した。ウォルシュ太平洋艦隊司令官は、米軍は事態の悪化に備え「同盟のパートナーを支援する態勢」を整えていると言明した。
 長年にわたって対日政策の指揮をとってきたアーミテージ元米国務副長官は、中国漁船拿捕事件や普天間基地移転問題、今月予定している日米首脳会談などについて、アメリカの意向を菅内閣に直接伝えるために訪日している。
 仙石官房長官との会談で、彼は「中国は尖閣諸島で日本を試しているのだ」とか、中国の海洋での活動の活発化は東南アジア諸国への警告でもあるとかいって、菅政府が日米同盟の強化の立場から、中国に強硬姿勢をとることが要であるとハッパをかけた。
 オバマ政府はこの一年対立と緊張を高めてきた米中関係の一環として、日中間の「代理戦争」を仕掛けているわけだ。

 軍事的恫喝強める米国 在日米軍再編も進行

 米中関係は今年1月のアメリカによる台湾への武器売却に抗議して、中国が軍事交流を中止したことを契機に、オバマ大統領のダライ・ラマとの会談、グーグルの内政干渉と対立がエスカレートしていたが、「韓国」海軍哨戒艦沈没事件を「北朝鮮の魚雷攻撃による」とアメリカと「韓国」政府がでっち上げ、黄海での合同軍事演習を画策したことで激突状態となった。とくにアメリカの原子力空母ジョージ・ワシントンを中国の庭先に派遣するとしたことは、中国の首都北京や天津、東北地方などを射程に入れた中国への軍事挑発だと激しく反発、合同演習はひとまず日本海側で先行させることとなったいきさつもある。先日、米高官が訪中し、軍事交流再開の兆しも出ているが、中国の国力が増大し、資源を求めて「外洋進出」に乗り出せば、西太平洋での覇権を維持したいアメリカとの争奪が激化することはいうまでもない。
 中国市場をめぐる争奪がかつての日米戦争の要因であったことは、歴史が教えている。戦後ただ一人戦争で肥え太ったアメリカは、百年来の野望であった世界諸民族絶滅による覇権確立をめざし、アジアでは日本を単独占領し、日本を基軸に東南アジアに至る米軍基地網を張りめぐらした。中国など革命に勝利した国国に戦争を仕かける準備をした。現に朝鮮やベトナムに対して侵略戦争をやり、敗北した。
 中国に対しては、当時の指導部にあった自国利益第一のブルジョア民族主義を利用して、反米から親米へと転換させ、資本主義化の道へと舵を切らせた。ソ連の崩壊、アメリカの衰退のなかで、1990年代には中国は経済面、政治面で大きな影響力を持つようになった。その中国が21世紀にはアメリカに対抗する大国となることを警戒して、「軍事的に最大の潜在的競争国」と位置付けた。1990年代末から、中国をどのようにアメリカの支配下に縛りつけ、従わなければ戦争という手段に訴えてでも中国をたたく戦略に力を入れ始めた。現在、米中間の経済的依存関係は相当に深まり、中国はアメリカ国債の最大の持ち主ともなっている。それだからこそアメリカは軍事的恫喝を一段と強めることで、アメリカの利益に従わせようと懸命になっている。
 米国防総省が今年2月に発表した「4年ごとの国防計画の見直し(QDR)」は、中国への対応を重視している。QDRは中国が弾道ミサイルと巡航ミサイル、新型の攻撃型潜水艦、高性能の戦斗機など軍事力増強をはかっていると警戒感をあらわにしている。そして、「中国の軍事的脅威」を煽り上げて、海軍が最新鋭の攻撃型原潜の能力強化や無人戦斗攻撃機の配備、空軍が長距離爆撃機や新たな統合巡航ミサイルの開発など、中国に照準を合わせた前方配備態勢を強化している。
 在日米軍の再編もその一環である。アメリカはその核政策のなかで、「在日米軍の長期のプレゼンスを確実にし、アメリカの最西端のグアムをその地域の安全保障活動の中核にする」とうたっている。在日米軍を恒久的に日本に居座らせ、またグアムを西太平洋地域の軍事的な中核拠点にして、アジアでの権益確保をはかり、日本を盾にして中国との原水爆戦争をやろうとしているのである。

 日本や韓国の動員狙う 執拗に排外主義宣伝

 日米両政府は5月に日米合意をやり、名護市民や沖縄県民が猛反対している普天間基地の名護市辺野古に移転することを決めた。米海兵隊の「殴り込み」戦力を強めるとして、MV22オスプレイを同基地に配備するという。厚木の艦載機を岩国に移駐する計画も、愛宕山に米軍住宅を建設することを公表、岩国市民の反対意志に逆らってしゃにむに強行しようとしている。岩国には巨大空母の接岸できる岸壁もつくられており、中国や朝鮮に米軍が出動する巨大基地にすることもできる状況だ。
 先に日本海で実施された米韓合同軍事演習に参加した米空母ジョージ・ワシントンには、海上自衛隊の幹部四人が乗船した。敵を特定した演習に自衛隊が参加したのは初めてで、次に自衛隊艦船が参加することは必至であろう。
 アメリカが対中戦争をおこなううえで、日本や「韓国」などの動員は不可欠である。このためアメリカは、「米軍と同盟国に対して地域的な核の脅威が存在する限り、抑止には核が必要」といい、核戦力をはじめミサイル防衛(MD)や大量破壊兵器対抗能力や通常戦力投射能力などを強化している。また「同盟国・協力国の能力構築、共同演習・訓練、米軍の前方配備での協力」と称して、中国や朝鮮、ロシアをにらんで、日本や「韓国」に米軍基地と核攻撃能力を持つ部隊を増強している。
 菅政府が今年11月に策定予定の新「防衛大綱」のたたき台が先ごろ、首相の諮問機関から出された。そのなかで核問題について「一方的にアメリカの手を縛ること(「核を持ち込ませず」)だけを事前に原則として決めておくことは必ずしも賢明ではない」といい、公然と米軍の「核持ち込み」を容認することを提言している。アメリカの「核持ち込み」を認めることは、日本を中国や朝鮮に対する原水爆戦争の基地にして、日本を核戦争の戦場にしようとするものだ。
 昔から他国に戦争を仕かける支配者は、必ず仮想敵をつくり、国民の排外的な感情を煽り上げていく。かつて日本の支配者は「暴支膺懲」、つまり横暴な中国を懲らしめよと叫んで中国を侵略し、戦火をアジア全域まで拡大して惨敗、日本人320万人とアジアの人民数千万人を犠牲にした。現在でも、朝鮮が核実験をしたといって制裁を加え、先制攻撃まで公言する。同様に、中国の「軍事的脅威」を叫ぶアメリカの尻馬に乗って、中国を仮想敵とした排外主義キャンペーンを執ようにやっている。
 今回の中国漁船拿捕事件で緊張が激化しているのも、日本政府がアメリカの指図を受けて、尖閣諸島の領有権を盾に話し合いを拒否していることが直接の要因だが、大きな背景として「日米安保条約」にもとづいて日本に米軍基地を置かせ、自衛隊もその下請軍隊にして、中国への戦争策動を続けていることがある。排外主義宣伝を徹底的にうち破り、隣国との友好協力関係を築いてアジアの恒久平和を実現することが、独立と平和を求める日本人民の責務となっている。

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