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風力発電ができた町の話 日本最大規模・三重県青山高原等の実例 三重県歯科医師・武田恵世氏の講演より

 山口県岩国市と周南市、島根県吉賀町にまたがる山間地では、4300㌔㍗の風車33基を建設する巨大な風力発電建設計画「西中国ウインドファーム」(事業者・電源開発株式会社)が浮上している。こうした問題を地域の人々に周知し、風力発電の問題点について考えていくために、錦と吉賀の風力発電を考える会は21日、岩国市文化会館に武田恵世氏(歯学博士)を招き、講演会「風力発電ができた町の話」を開催した。武田氏は日本で最初の大型風力発電所がある三重県青山高原在住で、20年にわたって風力発電の問題について研究し、各地で講演会などをおこないながら発信を続けている。今回の講演会では、実際に青山高原で起こっている低周波や騒音による健康被害や土砂崩れなどの実情と合わせて、風力事業者による地元や住民を無視した姿勢や現在の日本の電力事情などにも切り込んだ内容を報告した。武田氏の講演の内容要旨を紹介する。

 

◇      ◇

 

武田恵世氏

 私が歯医者であるにもかかわらずなぜ風力発電に詳しくなったかというと、実は1999年に三重県の青山高原で日本初の風力発電所ができた。私はその頃環境問題にとりくんでいたため、「これはいいことだ。ぜひ増やさなければ」と思い、風力発電のための会社設立まで真剣に考えていた。だが、いろいろ考え調べた結果、「全然だめだ」ということがわかった。今日はそのことについて話したい。

 

 2007年、当時風力事業への出資や会社設立まで考えていた私のところに、中部電力の子会社で青山高原一帯の風力発電建設をおこなう「シーテック」の電力部長たちが訪ねてきた。そのときに彼らは風力発電について「発電しなくてもいい。建設さえできればいい。補助金をもらえるから」といった。そして2011年の東日本大震災で福島原発事故が発生し、それをきっかけに各地で風力発電が増加。その頃から全国・世界で風力発電による被害が問題になってきた。

 

 青山高原には最大時94基の風力発電が建てられ、現在も91基ある。これは国定公園内では全国一の規模で、当時の三重大学の清水幸丸教授は「世界的にも模範的な成功例だ」と評していた。だが、「模範的な成功例」とはいうものの、データは「企業秘密」ということで示されない。

 

三重県青山高原に林立する風車(青山ウインドファーム)

 私は風力発電事業への出資条件を考えるうえでさまざまなことを検討した。しかし風力事業によって得られる利益は、トータルで見るとほとんど見込めないということがわかった。当時から私は主な会社や大学に風力発電の成功例と、それに関わる検証可能なデータを公開するよう問い合わせていたが、いまだに回答は得られていない。

 

 風力発電について検討するさいに注意しなければならないのは、立場による発言の違いだ。私たち一般市民は、風力発電は地球温暖化防止の手段の一つと考える。しかし、業界側の人たちにとっては、風力発電を推進すること自体が目的だ。一言で「業界」というが、建設会社や金融機関、企業丸抱えの大学の寄附講座、研究機関、経産省、関連県部局などさまざまある。彼らにとっては推進以外に選択肢がない。

 

 寄附講座とは何かというと、例えば名古屋大学に「洋上風力研究講座」があった。この講座は日立造船が人件費や光熱費、出張費まですべて負担していた。それでいて「公平公正な研究をしている」といっていたが、そんなことできるわけがない。他にも「日本風力発電研究所」というものもある。これも「公平公正な研究」を掲げるが、実際には日本風力開発という風力発電専門会社の子会社だ。そういう人たちは基本的に風力発電の良いことしかいわない。どんな問題があろうと「将来性がある」「発展を続けている」という。問題点について聞くと「それは些細なこと」「必ずしも○○とはいえない」「将来の課題」だという。

 

FIT制度の仕組み 消費者には賦課金

 

 風力発電は、電気の力でブレード(羽)を風上に向け、回転させることで発電する。停電するとブレードの向きが変えられなくなり発電することができなくなる。また、風が強すぎると電力で自動停止する。しかし停電すると止まれなくなるので、ブレードが回りすぎて壊れてしまう。

 

 風力発電などの再エネは、地球温暖化防止のためだといって推進されている。CO2の排出量を削減するために火力発電を減らし、その代わりになる再エネを優遇し、火力発電よりも安く主力にするという。

 

 では、風力発電はもうかるのだろうか? FIT制度(固定価格買取制度)というものがある。これは再エネを高く買い、消費者が「再エネ賦課金」を払って支えるというものだ。再エネ賦課金とは、再エネの高い買取価格を消費者全員で割るしくみだ。ただし、電気を大量に使う工場は減免されている。一般消費者がほとんど負担しており、電力会社の負担はない。電気代月1万円の平均的な家庭における再エネ賦課金の負担額は年間1万7160円。この10年間で15倍に増えており、2030年にはこれのさらに約2倍にまで増えると予測されている。

 

 2012年に始まったFIT制度の目的は、技術革新を促し、電気代を安く大量に供給することだった。しかし20年が経過してどうなったか?技術革新は進まず、電気代は高止まりしている。再エネはより大型化して増加しただけだ。

 

 普通の火力発電所は電力の場合、物価の上昇にともない電気の価格を値上げすることができるが、FIT制度は値上げができない。電気の価格は1日のうち時間によって変動する。しかし風力発電や太陽光発電の売電単価は高く設定しておいてどの時間も料金は変わらず、その差額を補助で補い「どんどん再エネをつくってください」という制度だった【図①参照】。

 

 ところが今、一般の電気の卸売電力の価格は20~40円と高騰している。一方FIT制度の買取価格は17円前後と一般の電気の価格を大きく下回っている。そこで、今年四月にはこれまでのFIT制度からFIP(固定補助制度)へと移行した。これは、電気の標準的な価格そのものに対して少しだけ補助を上乗せして売電することによって再エネをもうけさせるというものだ。この補助部分を私たちの再エネ賦課金で補っている。

 

CO2は削減されるか? 必要となる火力のバックアップ

 

 次に、風力発電はCO2排出削減の役に立つのかについて話す。電力系統は「同時同量」(発電量=使用量)を保たなければ大停電を起こす(厳密には3%の誤差まで)。そのため、電気需要に合わせて朝起きる時間帯から徐々に発電量を増やしていき、昼休み時になるとまた少し減らす。再び工場などが動き出す頃に増やし、そこから夜明け前にかけてまた少しずつ減らしていくというように、年間計画、時間計画に基づいて数分単位で発電量を調整している。

 

 では、風力発電でも同じようなことが可能か?みんなが起きる頃に都合良く風が強く吹くか?昼休みだけ弱く吹いて昼休みが終わればまた強く吹くか? それは無理だ。だから風力発電を動かしながら「同時同量」を維持するためには常に火力発電で発電量を調整しながらバックアップしなければならない【図②参照】。

 

 電気は安定供給が必須だ。三重県四日市では、わずか0・04秒の電圧低下が起きた。このとき、停電までには至っていないものの、約30の工場に影響が及び、約100億円の損害が出た。風力発電では0・04秒以上の電圧低下・変動は頻繁に起きるため、風力発電だけに頼ると大変なことになる。そのことを裏付ける私とシーテック部長らとの会談の内容がある。2007年時点の話だが、私が彼らに「風力発電は不安定ですね」と聞くと、シーテック側は「その通りです。実は本社(中部電力)からは、“これ以上送電するな”といわれているんです」といった。つまり中部電力からすると、「風力発電は作ってもいいが電気はいらない。送電されたら困る」ということだ。

 

 こういう不安定な風力発電を補うために、火力発電のバックアップ態勢が必要となる。しかし急に蒸気を沸かすことは難しいため、常に燃料を使って蒸気を捨てながら発電が必要な時に備えて待機しておく必要がある。燃料節約が困難なことについては経産省も認めており、「再エネは季節や天候によって発電量が変動し、安定供給のためには火力発電などの出力調整が可能な電源や、蓄電池と組み合わせてエネルギーを蓄積する手段の確保が必要」と説明している。

 

 また、風力発電はかえって排気ガスを増やすという例がある。アメリカのコロラド州では、風力発電と火力発電で電気をまかなっていた。風が強い日は風力発電を主にして火力発電を少しだけ動かし、風の弱い日は火力発電だけで発電していた。その結果、風の強い日(風力発電が主)の方が、排気ガスが激増した(2009年)。理由は、車が急停止急加速をくり返すと燃費が悪くなるのと同じで、火力発電の出力を風力発電のバックアップのために上げたり下げたりしなければならないからだ。結果として火力発電の出力は減っても、燃料の削減にはならない。

 

 結論として、風力発電は地球温暖化防止の役に立たない。たまに、効果的な時間帯もなくはないが、全体としてはむしろCO2排出を増やす。太陽光発電も風力発電と同じ理屈で地球温暖化防止にはならない。地熱発電や中小水力発電なら可能だ。さらに廃材や食品カスを使ったバイオマス発電なら可能だと考えるが、森林を伐採して木質チップを燃料に使うのではCO2削減にはならない。

 

電気は不足していない 電力需要は年々減少

 

 電気はそもそも不足していない。2018年時点で、中部電力の火力発電所のうち31%が停止中となっている。かつて「総括原価方式」によって発電所の建設費は電気料金に上乗せすることができたため、火力発電所を作りすぎたという問題が背景にある。全国的に原子力発電所のほとんどを停止した段階で、すでに火力発電所の3分の1は休んでいたということだ。また、三重県では尾鷲三田火力発電所(原発1基分相当を発電)が2018年に電気需要激減のため廃止された。このように、電気は現段階でもまったく不足していない。それどころか火力発電所自体、大幅に余っている。それでもなお2020年3月の「発送電分離」によって、駆け込みで火力発電所が多数新設された。しかし現在、余りまくっている火力発電所をどうするのか? という段階にある。

 

 また、電力需要は年々減っている。省エネ家電の進歩や人口減少、電気を大量に消費する工場の減少などが大きな要因だ。この先電力需要が増える見込みはほぼない。日本総研が2050年までの30年間で電力需要は23・4%減少するという予測をしているが、これでもまだ甘いくらいで、もっと大幅に需要は減るだろう。

 

 中国電力でも当然電力需要が減っているので、風力発電の受入限度をもうけている【図③参照】。2021年11月末時点で、中国電力への風力発電の接続契約申し込み済みが120万㌔㍗あり、さらに656万㌔㍗が接続検討申し込み中となっており、中国電力が示す受入限度の残り枠に対して実に九倍もの申請が上がっていることになる。だが、中国電力は九倍もの申し込みがあるからといって受入を断っていない。今後は無制限無保証。つまり「風力発電を作ってもらってもかまわないが、電気を買わないということもあり得る。それを承知でどうぞお作りください」ということだ。

 

 事業者は、風力発電事業による地域振興や貢献、協力についてよく宣伝するが、実際に事業者にそんなことをする義務はない。全国で成功例を探したが見当たらない。また、公共事業ではないため国や県、市にも風力発電による地域振興、貢献、協力の義務はない。

 

 では、今後電力需要が激減し、採算がとれなくなった場合はどうするのだろうか? 例えば、「借地料は風力事業の利益から支払う」とか、「撤去時のために利益から撤去費用を積み立てている」などと業者は説明するかもしれないが、利益がないとなるとどうするのだろうか? という問題がある。そもそも国、県、市は事業者に対して優遇はするが、決して責任は持たない。

 

 風力発電の「メリット」といわれているが、実はそうでないこともたくさんある。

 

 ・固定資産税が入る→その分地方交付税交付金減額(プラスマイナスゼロか少しだけ)。
 ・電力をまかなえる→市民には無関係。不安定で、風力発電だけでは無理。
 ・林道ができる→確かに林道はできるが、従来の林道が等高線上に沿って敷設されるのに対し、風力発電の場合は巨大な資材を運ぶので等高線を無視して広く直線的な道路になるため補修も大変になる。
 ・雇用、仕事が増える→青山高原でも地元の仕事が増えることを期待したが、ほとんどなかった。仕事に来ているのは岐阜ナンバーや愛知ナンバー、静岡ナンバーの車両で、コンクリートミキサー車は大阪ナンバーだった。

 

低周波による健康被害 世界中で同様の症状

 

 風力発電の健康被害の実態を知るには、被害にあった方の話を聞くことが一番だ。すでに亡くなった方で、和歌山県の由良町に住んでいた谷口愛子さんという方がいた。当時70歳で風力発電から1・3㌔の場所に暮らしていて、風力発電による健康被害について各地で講演をおこなっていた。彼女は夜間つらい時は数㌔離れたコンビニの駐車場まで避難して寝ていたそうだ。

 

 風車による重低音や低周波音被害の特徴として、耳が遠くなった老人がより敏感に反応したり、国道や線路の音は気にならないが、風車の音はずっと鳴り続けるため辛いということがある。家の中でも柱を伝って恐ろしい音が入ってくるという。

 

 風力事業者は環境アセスのなかで騒音想定をやるが、これはあくまでシミュレーションでしかない。無風時に風車が平地で回った場合を机上計算するだけであって、風向や風速、地形は一切考慮していない。そして風の緩い日に予定地の住民を風力発電所見学に呼んで、簡易測定器による計測結果を示して低周波は出ていないと説明する。

 

 青山高原では、低周波音測定のために専門の教授(匿名希望)を招いて調査してもらったことがある。測定器は事業者が使う簡易的なものではなく、大きな風防を用いたものだった。調査の結果、ブレードが回転して支柱の前を通過するときに非常に強い低周波音を観測していた。その同じ日に、日本気象協会の担当者が簡易測定器で低周波音の測定をおこなっていたが、風の音が大きく測定不能だった。こうして業者は測定不能だったものを「低周波はない」とすり替えていく。

 

 山間部での被害の特徴としては、風車から谷底の集落に向けて直接伝わる音、向かいの山にやまびこのように反射して届く音、雲に反射して届く音がある。また、風車のブレードが支柱を通過するときに「シュッシュッ」という音がするが、その音の周期が人間にとってかなり大きな不快感を与え、睡眠障害にまで発展することもある。音の大きさの問題よりも、周期の問題が大きいと考えられている。そして音は風下に伝搬しやすく、予想しえなかった遠方にまで及ぶことがある。

 

 風力発電による健康被害は世界中で認められており、ヨーロッパを中心に27カ国、つまり風力発電がある国ほぼすべてで、風車から同じような距離の人たちがほぼ同じ症状を訴えている。共通する主な症状としては、睡眠障害、睡眠遮断、頭痛、耳鳴り、耳閉感、動揺性めまい、回転性めまい、吐き気、かすみ目、頻拍、イライラ、集中力や記憶力の異常、覚醒時もしくは睡眠時に生じる身体内部の振動感覚など。だいたい不眠や船酔いに似た症状が主だ。実際に海外では風力発電機被害に病名がついており、「心臓音響病」「慢性騒音外傷」「風力発電機症候群」があげられる。原因は騒音だけでなく、低周波音や超低周波音がある。内耳をはじめいろいろな内臓器官が共鳴振動して平衡感覚や受容器のバランスを乱してさまざまな症状を引き起こす。

 

 重低音や低周波音の特徴として、遠くまで届くことや遮音壁やガラスでは防げないことがあげられる。共鳴振動しやすく、部屋全体や雨窓、ふすまがガタガタと揺れることもある。広い部屋だと少しましだが、狭い部屋だと症状がひどくなるとの証言もある。私自身は普段青山高原に住んでいても何とも感じないが、疲れたときに少し休んだり昼寝したりすると、風車の音やブレードの影が気になってしまうことがある。

 

 オーストラリアのウォータールーでは、3000㌔㍗の風車が三七基建設されたが、周辺約3㌔の住民たちが自宅を離れ、ゴーストタウンになった。住民たちは風車の騒音を「いつまでたっても着陸しないセスナ機」「止まらない夜行列車」と例えている。セスナ機も夜行列車もいつ動いていつ止まるかわかるが、風車の音はいつ始まっていつ終わるのかがわからない。それを我慢することはあまりにも酷だ。ベルギーでは、洋上風力発電を海岸から二三㌔離すということが法律で決められた。ドイツやオランダでも40㌔離すことになった。それくらい距離をとって建設しなければ住民が納得しないようになっている。

 

 環境省は騒音について、指針値以下の騒音でも問題が起こる可能性を指摘しており、アノイアンス(ひどいわずらわしさ)や、睡眠障害を起こす可能性にも言及している。しかし、「健康に“直接的影響”を及ぼす可能性は低い」としており、この文言を利用して事業者側は「健康被害はない」と保証されたかのように説明する。そのため、あとから健康被害や苦情を訴えたとしても、事業者や学者は「気のせいだから我慢するべきだ」という。住民が我慢を強いられる理由はない。

 

 環境省も、騒音基準と低周波音の参照値について「あくまで基準や参照するものであって、我慢しなくてはならない基準ではない。被害が出ないという値でもない」との見解を示している。

 

 世界中で起きている風力発電被害当事者の意見を調べてみると、事業者も行政も因果関係を認めようとしないこと、風力発電から十分に離れると症状が治まることがあるという内容が一致している。実際に青山高原でも睡眠障害が多発したため、事業者のシーテックは風車の夜間停止や住宅への二重サッシの設置をおこなった。しかしその3年後、新しい風力発電を建設するためにおこなった説明会の場では、「二重サッシ設置はただのサービスだった」といい、風力発電による睡眠障害などの被害を認めようとしなかった。健康被害が出た場合、我慢して暮らし続けるか、引っ越すしかない。

 

風力の自然への悪影響 土砂崩れも頻発

 

 風力発電建設によって、シカが激増している。また、山の麓でもシカ、イノシシ、サルが増えたともいわれるようになった。風力発電機を建てるには、支柱の周辺を平地にして切り開くため周囲に法面もできる。こうして整備した場所には、外来牧草を植える。今まで笹などしかなかった山に、栄養満点の牧草が大量に植えられることによってシカが増える。また、夏場は風が少なく風車が回転しないので動物は山の中にいるが、冬場に草が枯れてエサが減るのと同時に風が強くなって風車が激しく回転するようになると、音を嫌って動物たちが山から麓へ下りてくる。

 

 また、イノシシの凶暴化も問題になっている。風力発電がある南伊豆町では、風力発電がよく回転しているときはイノシシが活発になり、いつものように追っても逃げず、逆に向かってくるようになっていることも報告されている。これは、風力発電機症候群や振動音響病の症状の一つで、複雑な思考ができなくなったり、簡単な計算ができない、怒りっぽくなるなどの特徴がある。これが人間同様、イノシシにも影響が及んでいると考えられる。

 

 自然景観への影響もある。景観法や環境条例では、建造物は樹冠(森林の上端)、尾根筋をこえないという規定がある。しかし風車は再エネで、いいものだから例外とされている。

 

 また、風力発電建設は尾根筋を切り開いて開発するので、激しい土砂崩れなどの被害も起きる。青山高原でも崩れた土砂が道路を寸断し、濁水によって上水の取水が停止する事例が頻発した。ところが、このときシーテックの所長は「私たちは規格通りの工事をしたので問題はない。悪いのは規格だ」と開き直り、上水道に濁水を流し込んでも平気な顔をしていた。

 

 さらに青山高原で風車のために切り開いた場所の法面で土砂崩れが起きたとき、事業者が「復旧完了した」というので現場を見に行ってみると、崩れた土砂の上を土で覆っただけだった。だが土砂崩れの起点となった場所は塞がずにそのままだったので理由を聞いてみると、「水が湧き出しているので塞げない」という。こうなることは開発する前からわかっていたはずだ。

 

風車(上)の真下の法面が崩落。シーテック社は「今後何年もこのまま置いておく」とし、放置している。(三重県)

 別の場所で起きた土砂崩れでは、風車の根元の法面が崩壊した【写真】。だがシーテックの部長は「今後何年もこのまま置いておく」と話しており、すでに10年このままの状態で放置されている。やはりここも土砂崩壊場所から水が湧き出していて止まらないため補修できないという。また、周辺を覆っているコンクリートは非常に薄く、伐採した木々の根を抜かずに舗装しているため、コンクリートも崩れやすい。

 

 青山高原ではあらゆる場所で土砂崩れが起きており、風力発電の観察舎の下地が崩落したりもしている。また、尾根に沿って風力発電のために舗装された道路が土砂崩れの起点となるケースも多い。だが、シーテックは「知らない」「放置している事実はない」「行政と地主とよく協議している」という。

 

 土砂崩れを放置したまま風力事業を終えた事業者が山を地主に返還した場合、返された山は地主が管理しなければならなくなる。自然災害には多くの補助が出るため地主の負担ゼロで直すこともできる。しかし人工造成をした場合は全額地主の負担で直さなければならない。

 

 青山高原では風力発電によって鳥類への影響も出ている。絶滅危惧種であるクマタカはいなくなり、同じく絶滅危惧種のヨタカは3㌔以内から姿を消した。世界的にも野鳥激減の報告は多数ある。

 

地元には不利益ばかり 風車撤去せず放置も

 

 風力発電事業を推進するために事業者は「経産省の許可を得た」という。しかし経産省がおこなうのは許可ではなく「認証」であって、計画が規格に合っているかどうかの確認をするだけだ。経産省にとって環境影響などは関係なく、地主の同意さえあれば機械的に認証する。そのため強制力も責任もない。

 

 環境影響評価も、環境省の許可を得ているわけではない。簡単にいうと事業者が自分で問題を作り、自分で問題を解いて自分で答え合わせをしているようなものだ。事業者は順に手続きを踏めばいいだけで、国、県、市も助言をするだけ。市民の意見の採用は事業者次第だ。事業者は経産省や環境省の許可を得て、強制力があるかのような錯覚を狙っている。

 

 地主にとってのメリット・デメリットを考えてみる。借地料が得られることはメリットかもしれないが、デメリットも多い。事業中止、中断、終了時の補償がないことが多い。また土地を事業者に売った場合は次にどこに転売されるかわからない。跡地が産廃や除染残土の廃棄場所になる可能性もある。捨てられても文句はいえない。土地契約をめぐっては、「地上権」というものがあり、地上権が事業者に移った場合、地主の同意がなくても転売や又貸しが可能になる。また、土地を売った場合、株券や債券、約束手形による支払いにも注意しなければならない。価値がゼロになり、ゼロ円で土地をとられてしまう危険性もある。

 

 そして最近は「特別目的会社」や「合同会社」を作って事業をおこなうケースが増えている。これらは設立と解散が簡単で、融資や債権を集めやすいため事業者と投資家にとって有利だ。また、万が一倒産した場合でも出資金の額しか責任を負わなくていい。そのためファーストソーラージャパンという会社では出資金1円という例もあった。この場合裏を返せば、地主や地元にとっては圧倒的に不利になる。倒産や事故があった場合、簡単に事業者側が撤退できるからだ。また、撤去費用の供託などといった対策指導を事業者側が拒否する例も最近増えている。

 

 風力発電計画を見るうえで、「定格出力」について知っておかなければならない。原発、火力発電、水力発電の定格出力は発電機の普段の出力だが、風力発電の定格出力は、風速一二~二五㍍/秒の強風時の出力であり、ほとんどその発電機の最大出力のことを指す。これほどの風は傘が差しにくく、歩きづらいほどの強風であり、専門家も「そんな風はめったに吹かない」と指摘している。

 

 つまり、風力発電の設備容量(定格出力×数)だけを見て、「原発や火力発電の代わりになる」とはとてもいえない。実際に風力発電によって原発1基分(100万㌔㍗)を補うには、4300㌔㍗の風車が232基必要となる。実際に風車を一直線に並べて建設したとすると、京都から広島までの距離が必要だ。

 

 「太陽光発電と風力発電だけで再生エネルギー100%」という宣伝が増えているが注意しないといけない。千葉県の大学が同じ謳い文句で再エネをアピールしていたが、実際は風力や太陽光で作った電気を売電し、普段は火力発電の電気を使っていた。売電量と使用電力量が同量か売電が上回っているから「再エネ100%」と謳っているだけだ。つまり数合わせでしかなく、最近はこのような手法は「グリーンウォッシュ」(相殺の意)と呼ばれている。太陽光と風力だけで年間終日電気をまかなうことは不可能だ。

 

 また最近は風力発電の高額な撤去費用が問題になっている。中型機(750㌔㍗)の風車一基あたりの撤去費用は約1~3億円かかる。また、青山高原では業者やメーカーが倒産したため、そもそも風車の解体方法がわからないということが問題になった。さらに合同会社の場合、出資金のみの責任だけで撤去の義務がない場合もある。そして一時期ブームになった自治体経営の風車に関しては、撤去のための基金がなくなってしまい、5年や10年そのまま放置されている風車もある。最近、上越市では3年間放置していたら壊れ出したので、周辺を立ち入り禁止にしたという報道もあった。

 

 風力発電に未来はない。発電の不安定さの解消は無理だった。日本中に風力発電を建てればどこかで強い風が吹くので全国で連携すればいい、などという説もあったが、不可能だった。水素生産専用の風力発電の研究もおこなわれたが、水素そのものの使い道がない。安く発電しようという方向だったが、今は電気の価格は高止まりしている。結局、風力発電は補助や優遇なしでは自家消費専用くらいでしか使い物にならない。住民はこんなものにつきあう義務もメリットもない。

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