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「台湾有事なら軍事関与」を明言 日米首脳会談 アジアで戦争煽る米国と矢面に立つ日本 互いに支持率は低迷

 米国のバイデン大統領と岸田首相が23日、日米首脳会談をおこなった。共同会見ではバイデン大統領が、台湾有事が勃発すれば軍事関与する意志を明言。岸田首相は「日本の防衛力抜本的強化」「防衛費の相当な増額」「国家防衛に必要なあらゆる選択肢の検討」を公言し、中国を想定した敵愾心をあらわにした。経済面でも日米を含む13カ国で「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)を発足させ、中国包囲体制を強める姿勢を示した。米国はウクライナ戦争直前、ロシアへの執拗な挑発と親米的なウクライナ政府への軍事支援を活発化させた。その動きに続いて今度はアジア地域でも中国への挑発とその隣国である日本への軍備強化の動きが露骨になっている。

 

日米首脳会談でのバイデン大統領と岸田首相(23日、東京)

「ウクライナと同じ事起きる」 バイデンが本音吐露

 

 台湾問題は中国との軍事衝突に直結するデリケートな問題であり、しかも中国の内政問題であるため、米国もバイデン政府登場までは50年以上も日米政府間文書で触れてこなかった経緯がある。ところが2021年4月のバイデン大統領と菅首相(当時)による日米首脳共同声明では「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と52年ぶりに明記した。そしてロシアによるウクライナ侵攻を経た今回の日米共同声明では、「台湾に関する両国の基本的立場に変更はないことを述べ、国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定の重要さを改めて強調」と記載。バイデン大統領にいたっては共同記者会見で「中国が台湾に侵攻したとき、米国が台湾防衛で軍事的に関与する用意があるか?」と問われると「イエス、それがわれわれのコミットメント(誓約)だ」と明言した。

 

 しかもバイデン大統領はウクライナ危機と関連させて「ロシアは経済制裁でウクライナ侵攻の代償を長期に負わなければならない」「このことが台湾を武力で奪おうとする中国にどのようなシグナルを送るかだ」とも発言した。そして「われわれは“一つの中国”政策を支持している。だが中国が台湾を武力で奪う権限を持っているという意味ではない」とのべ、もし中国が台湾に侵攻すれば「ウクライナで起きたのと同じようなことが起きる」と挑発ともとれる発言をくり返した。米ホワイトハウスはバイデン大統領の会見後、「米国の“一つの中国”政策の変更はない」との声明を出して火消しに動いたが、「台湾防衛への軍事関与」発言自体は撤回しなかった。

 

 他方、岸田首相は「ロシアによるウクライナ侵略のような力による一方的な現状変更の試みを、インド太平洋、とりわけアジア、東アジアで許さぬよう日米同盟の強化が不可欠」と共同会見で強調した。共同声明には「核兵器を含む米国の戦力で他国に日本への攻撃を思いとどまらせる」という「拡大抑止」や「対処力」の強化も明記した。さらに岸田首相がみずから「ミサイルの脅威に対抗する能力(敵基地攻撃能力)を含め国家の防衛に必要なあらゆる選択肢を検討する決意」や「日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する決意」を表明し、米国側が賞賛する形となった。

 

 日本国内メディアは「米国が中国に対する従来の“あいまい戦略”を転換した」と指摘しているが、米国側の対中国・台湾政策は最初からなにも変わっていない。ただ本音を表明しただけに過ぎない。顕著なのは、こうした米国の言動に媚を売り、「戦争放棄」を国是とする日本の首相がみずから対中国を想定した「敵基地攻撃能力の活用」や「防衛予算大幅増額」を公言し、対中国戦争の前面に躍り出る自爆行為をエスカレートさせていることだ。

 

 具体的な軍備増強については辺野古への普天間移設、馬毛島への米軍空母艦載機訓練場建設を含む在日米軍再編を着実に実施していくことを共同声明に明記した。

 

 こうした動きについて中国外務省報道官は23日、米国による「台湾防衛への軍事関与」発言を批判し「強烈な不満と断固とした反対」を表明した。米国側に「台湾問題で言行を慎み、“台湾独立”勢力に誤ったシグナルを出さないよう促す」と警告し、「中国にはいかなる譲歩の余地もない」「必ず揺るぎない行動をとって自らの主権と安全の利益を守る」と強調している。

 

中国包囲の経済枠組み構築へ  13カ国参加のIPEF

 

 日米首脳会談でもう一つの柱となったのは、インド太平洋経済枠組み(IPEF=アイペフ)発足等、経済的な中国包囲網を形成していく動きだ。これについて米国側は「“開かれたインド太平洋”の実現に向け、米日が他の11カ国とともにIPEFをうち出す」と明らかにし、「民主主義陣営における2大経済大国の米日は民主主義の強さを実践している。われわれの協力はプーチン大統領によるウクライナ侵攻に地球規模で対峙するという点で極めて重要」と強調した。現在、IPEFに参加を表明しているのは日米に加えて、豪州、ブルネイ、インド、インドネシア、韓国、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの13カ国だ。「世界の国内総生産(GDP)の4割を占める経済圏になる」「2017年に当時のトランプ大統領が離脱を決めた環太平洋経済連携協定(TPP)に代わる枠組み」といわれている。

 

 だがIPEFは「貿易」(デジタル経済の促進を含む貿易の推進)、「サプライチェーン」(半導体や重要鉱物等の強力な供給網の構築)、「脱炭素」(環境にやさしいインフラの整備)、「税・反腐敗」(税逃れや汚職の対策)の4本柱で構成し、新たな参加国には対応できる分野から部分的にとりくむことも認める枠組みだ。したがってIPEFは関税引き下げを通じた貿易の推進にとりくむわけではない。同枠組みに関する声明は「この枠組みは、我々の経済の強靭性、持続可能性、包摂性、経済成長、公平性、競争力を高めることを目的としている。このイニシアティブを通じて、我々は、地域に置ける協力、安定、繁栄、開発、そして平和に貢献することを目指す」としており、要するにアジア地域で中国に対抗して日米の影響力を強める足がかりにするような構想となっている。

 

 日米首脳は外務・経済担当閣僚による協議の枠組み「経済版2プラス2」を7月に開くことでも合意している。さらに来年、日本が議長国を務めるG7サミット(主要7カ国首脳会議)については、被爆地で岸田首相の地元・広島市で開催する方針も明らかにしている。

 

バイデンの支持率過去最低に 「間違っている」75%

 

 一方、米バイデン政府の国内支持率は、就任1年半で最低を記録している。国内でのインフレ加速や格差拡大、さらにウクライナ戦争をめぐってウクライナへの武器支援やロシアに対する好戦的対応についての米国内世論を反映したものといえる。

 

 米NBCニュースの世論調査(成人1000人を対象に5月5~7日、9~10日に実施)では、「米国は正しい方向へ進んでいる」と答えた人が16%に留まる一方、「間違っている」と答えた人は75%にのぼった。「間違っている」の回答が70%以上となったのは7カ月連続で、75%に達したのは調査を始めた過去34年間で5度目。また、バイデン大統領の支持率は過去最低の39%に低下し、56%が「支持しない」と回答している。無党派層の支持率は「危険水域」といわれる35%に突入した。

 

 AP通信の調査(1200人を対象に12~16日に実施)でも、バイデン大統領の支持率は39%と過去最低を記録し、就任直後の61%から大きく下落した。同政権の経済政策を支持するとした回答も2割に落ち込んだ。

 

 米国内では、コロナ禍でまひした供給力の回復の遅れに加えて、ウクライナ危機によって資源価格全般が押し上げられていることによってインフレが加速。4月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比8・3%上昇し、変動の大きい食品とエネルギーを除いたコア指数も6・2%上昇するなど、市場予想を上回る物価上昇となっている。生活必需品であるガソリン、卵、粉ミルク、さらに原油、中古自動車、不動産の価格も暴騰している。

 

 供給の混乱で最も深刻な不足に陥っているといわれるのが乳幼児用粉ミルクで、今年2月以降、各地の食料品店の棚から商品が消えた。これは2月、米最大手アボット・ラボラトリーズのミシガン州の工場で製造された粉ミルクを飲んだ乳児4人が感染症で重体に陥り、同工場が閉鎖されたことに端を発したもの。他の大手メーカー3社(ペリゴ、ネスレ、ミード・ジョンソン)もそれを補える生産量を増やすことができていない。コロナ禍の行動制限が解除され、子育て中の親たちが職場復帰するタイミングと重なって供給ひっ迫に拍車がかかった。
 バイデン政府は国内生産を促すため国防生産法(DPA)に基づく緊急権限を行使し、ドイツから35㌧の粉ミルクを軍用機で緊急調達する事態にもなっている。

 

 エネルギーの中心である原油価格を下げるには、ロシア・ウクライナ戦争の停戦が必須だが、米議会下院は、ウクライナへの兵器の供与や人道支援などを強化するため、バイデン大統領が当初求めていた額から70億㌦上乗せした約400億㌦(5兆2000億円)の追加の予算案を可決。停戦に動くどころか背後から長期戦を後押ししている。

 

 またアメリカの物価高の大きな原因は、最大の貿易相手である中国との間の物流停滞で、上海でのロックダウンによる生産遅延の影響も大きく受けている。ウクライナでの代理戦争の長期化や巨額の軍事支援、台湾海峡をめぐる挑発的発言など対ロシア、対中国包囲網の強化を前面にうち出しているものの、米国内世論はそれになびくどころか反発を強めており、起死回生を狙った好戦的姿勢は裏目に出ている。

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