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SDGsと漁業をめぐる国際的な動き JCFU全国沿岸漁民連事務局長・二平章

1.持続可能な漁業をめざす国際的な歩み

 

 1972年ストックホルムで開催された国連人間環境会議以降、地球環境保全のための指導理念として登場したのがSD(サスティナブル・ディベロップメント:永続可能な発展)であった。次世代の人びとのために地球環境を守り、自然資源を絶やすことなく永続的に利用し続けていこうというよびかけである。

 

 この理念は、地球サミット(国連環境開発会議1992年)で「リオデジャネイロ宣言」として採択された。国際的に「持続可能な(SD)社会づくり」に合意した文書として人類史に残る宣言である。この宣言の影響を色濃く受けて漁業分野でも1994年に「海の憲法」と呼ばれる「国連海洋法条約」が発効、1995年にはFAOが「責任ある漁業のための行動規範」を採択、環境や次世代の人類にも配慮した水産資源の持続的利用を実現するための行動規範を提示した。2001年には、マグロなど高度回遊性魚類の保存と管理および国際的協力を規定する「国連公海漁業協定」が発効、それ以降に発効した大洋別のマグロ類の地域漁業管理機関、たとえば中西部太平洋まぐろ類(WCPFC)条約(2004年発効)や新全米熱帯まぐろ類(IATTC)条約(2010年発効)などでは、SDの理念にもとづく混獲生物の保存措置や海洋環境における生物多様性保護などの明確な条文が記載されるようになっている。

 

2.S D G s達成に不可欠な家族農業・小規模漁業

 

 2007・2008年に世界的な経済危機、食料危機がおきると、それを契機に貿易自由化や新自由主義的政策の流れに抵抗する農民運動や市民運動が活発となり、国際社会では農薬や化学肥料を多量に使用し、効率性を重視し、農地収奪をすすめる工業的な農業ではなく、環境にも社会にもやさしい家族農業を重視する動きが顕在化した。これら農民、市民の運動は国連を動かし、2011年には国連総会が「2014国際家族農業年」の設置を決定し、2014年には「国際家族農業年」イベントが開催されたのである。

 

 そして、2015年には「持続可能な開発(発展)のための2030アジェンダ」を採択し、2030年までに達成をめざす17の目標を明確化したSDGs(サスティナブル・ディベロップメント・ゴールズ:持続可能な開発目標)を発表したのである。

 

 さらに、SDGsを実現するために不可欠なのが「家族農業」であるとして、2017年に国連「家族農業の10年」(2019~2028)決議、2018年には「農民と農村で働く人びとの権利宣言」が国連で採択された。なお、国連文書にある「家族農業」には「小規模家族漁業」、「農民・農村」には「漁民・漁村」の意味が含まれ、文書中には多くの小規模漁業、漁民の記述がある。

 

 国連は、SDGs達成へ向けて、「家族農業」に関するこれらの採択や宣言を行いながら各国に「家族農業」や「小規模漁業」の振興施策を推進し、持続可能な食と農、食と漁の世界をめざす取り組みを呼びかけている。SDGsには17の国際目標の下に169のターゲットと232の指標が定められている。目標14に「海の豊かさを守ろう」があり、ターゲットに沿岸環境の保全や小規模沿岸漁業者への経営配慮について記載されている。

 

3.「国際小規模漁業年2022」とは

 

 このようなSDGsと「家族農業」「小規模漁業」への取り組みのなかで、国連は2022年を特別に「小規模伝統漁業・養殖業に関する国際年(International Year of Artisanal Fisheries and AquacultureIYAFA)(略称国際小規模漁業年2022)」と定めたのである。

 

 「国際小規模漁業年2022」は、2016年の第32回FAO水産委員会(COFI)で提案・承認されて、その後にFAO理事会、総会での承認を経て、2017年の第72回国連総会で、正式に国連の国際年の一つとして宣言された。

 

 昨年11月19日には、「国際小規模漁業年2022」の開催式典がFAOで行われている。「国際小規模漁業年2022」は「規模は小さいが、価値は大きい(Small in scale, big in value)」をスローガンに掲げて、①小規模伝統漁業・養殖業の認知度を高め、理解を深め、その持続可能な発展、特に食料安全保障と栄養促進、貧困撲滅および天然資源の利用への貢献を支援すること、②小規模伝統漁業・養殖業に従事する漁業者、養殖漁業者、バリューチェーンに関わるその他の関係者および政府関係者の間の意思疎通と協力を促進し、漁業・養殖業の持続可能性を促進するための能力および社会的開発と健全性を高めることなどを目的にしている。

 

 世界で漁業を営む1億4000万人のうち90%は、小規模な家族漁業者であり、その家族漁業が魚介類消費量の60%以上を供給している(FAO、2018)。国連はその現実と重要性を世界各国が認識し、健全な食料システム構築に向け小規模伝統漁業の持続可能な発展を保障するために、小規模伝統漁業への支援施策構築を各国へ呼びかけているのである。

 

4「国際小規模漁業年2022」にふさわしい年に

 

鰯を水揚げする漁業者(2021年10月、下関市)

 日本の漁業経営体は約8万、その9割以上が小規模沿岸漁業経営体である。1993年以降25年間で沿岸漁業経営体は46%にまで減少した。国境付近の不審船を監視し、沿岸の環境や地域雇用を守り、新鮮な魚介類を国民に届け、魚食文化を支えてきた日本の漁業は今危機に直面しているといって過言ではない。

 

 自公政権のもとで2018年に成立した「改悪漁業法」により、漁業調整委員の漁民選挙権がはく奪され、地元沿岸漁民の優先的な漁業権が奪われ、沿岸漁民による釣り漁業などの資源にやさしい漁法による漁獲権利までも機械的に数量規制する漁獲管理が行われ、さらに企業漁業優遇の大型船の規制緩和などが進められようとしている。日本の漁業政策は小規模漁業重視の国際的な流れとは真逆な道を進んでいるといってよい。国連がよびかけた「国際小規模漁業年2022」についても農水省の取り組みやメディアでの報道もほとんどない。日本の小規模・家族漁業の発展にむけて地域漁業を支える沿岸漁民と漁協、地域自治体が一体となり、ぜひとも「国際小規模漁業年2022」にふさわしい取り組みをおこない、世界の潮流と手をたずさえて進んでいく年にしたいものである。

 

(茨城大学客員研究員)

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