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団結する民衆は決して敗れない

 新自由主義との激烈な闘争がくり広げられている中南米において、民衆に歌い継がれ、集会等になると大合唱でみんなを鼓舞する歌がある。『EL PUEBLO UNIDO JAMAS SERA VENCIDO』(訳・団結する民衆は決して敗れない)――。日本国内では『不屈の民』という曲名がつけられ、ごく一部の社会運動系の人々のなかでは知られてきた。

 

 この歌は1973年にチリで左派のアジェンデ政権が誕生したのを受けて、当時の人民連合政府の歌として作曲されたものだ。直後のアメリカの介入による軍事クーデターで政権転覆が謀られた後も、ヌエバ・カンシオン(新しい歌運動、中南米で盛り上がった音楽を通した社会変革運動)の一翼を担っていたチリの音楽家集団インティ・イリマニが歌い続けて世界中に知れ渡り、その後、各国で闘う民衆の歌として歌い継がれてきた経緯がある。中南米各国のみならず、スペインのポデモスも党大会で歌い、ギリシャのシリザも歌い、大衆闘争の場で一発気合いを入れて士気を高めていく際に、大群衆が「エルペーヴゥロ ウニード ハマッセラーヴェンシード!(団結する民衆は決して敗れない)」と拳を突き上げて叫んでいる光景がある。スペイン語バージョンであったり、各国独自の進化を遂げていたりさまざまである。

 

 アジェンデ政権の転覆からおよそ50年、チリの大統領選で35歳が新大統領に選ばれ、「チリを新自由主義の墓場にする」と高らかに宣言した。アメリカが武力による血なまぐさい弾圧によって支配し、新自由主義政策を持ち込んで搾取の限りを尽くしてきたのに対して、チリの民衆は屈することなく50年にわたって抗い、ついにひっくり返した瞬間だった。「団結した民衆は決して敗れない!」――。今回の選挙結果にもつながる2019年に首都サンティアゴで開かれた新自由主義からの転換を求める抗議デモには1700万人いるチリ国内の人口のうち120万人が集結した。年齢も重ねた音楽家集団インティ・イリマニのメンバーが舞台上で人民連合政府の歌を高らかに歌い上げ、大群衆が拳を突き上げている光景があった。同じ集会の別の場所では、各々ギターを持ち寄った群衆が、歌手ビクトル・ハラの代表曲でもある『平和に生きる権利』を大合唱している光景がYouTubeにアップされていた。恐らくビクトル・ハラの孫よりも年下であろう若者たちが、今を生き抜いていく闘いのなかで、脈々と歌い継いでいるのだ。

 

 インティ・イリマニの先輩にあたるビクトル・ハラもまたヌエバ・カンシオンの第一人者であり、音楽を通した社会変革運動に身を捧げた一人だった。アジェンデ政権を転覆させたクーデター勢力は、チリ国内での武力弾圧に乗り出し、活動家や多くの市民を逮捕してチリ・スタジアムに連行した。そのなかにビクトル・ハラもいた。連行されてきた多くの市民を励まそうと革命歌ベンセレーモスを歌ったところ、ギターを取り上げられ、二度とギターを弾けないようにと両手を撃ち砕かれ、それでも歌いやめなかったため、大衆の面前で射殺された――という伝説等々諸説あるが、いずれにしても虐殺された。享年40歳であった。

 

 民衆のたたかいのなかに感情を揺さぶる歌がある。文化がある。だからこそ強いのだろう。幾多の屍を乗りこえ、流血にもひるまずに「団結する民衆は決して敗れない!」を合い言葉にして、不撓不屈の闘いをくり広げてきた末の中南米における左派ドミノである。そのなかで果たしたヌエバ・カンシオンの役割は決して小さなものではない。その迫力はYouTube越しにもひしひしと伝わってくるものがある。地球の裏側で新自由主義に抗っている民衆がおり、50年がかりで打ち負かした快挙を喜びたい。

 

武蔵坊五郎  

          

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