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8月の自殺者が前年同月比15・3%増 コロナ禍の苦境反映

 8月に全国で自殺した人数は1849人にのぼり、前年同月比で246人増、率にして15・3%の増加となった(警察庁統計の速報値)。1日あたり61人以上が自殺したことになり、今年の月別では最多。厚労省によると8月の自殺者数が増加するのは3年ぶりという。昨年からのあいつぐ増税や物価高に加え、年頭からのコロナ禍による経済的打撃が襲い、雇用や収入、家計など圧迫したことが原因として考えられる。未曾有の公衆衛生危機にさいしても自助、共助にゆだねられ、目に見える公助が乏しい結果であり、「補償なき自粛」という生殺し政策のもとで広範な人々の生命を切り刻んでいる現状が露呈している。

 

 都道府県別では、東京が210人(前年同月比65人増)、愛知119人(同46人増)、神奈川109人(同27人増)、千葉107人(同47人増)、埼玉105人(同41人増)、大阪103人(同11人増)、福岡69人(同15人増)など、とくに首都圏や都市部で増加傾向が顕著となっている。

 

 男女別では、男性が1199人(同60人増)、女性が650人(同186人増)となった。

 

 自殺者の推移は前年同月比で1月の横ばい以降、2~6月は減少していたものの7月に2人増の1795人となり、8月に大幅増となった。1月に国内初の新型コロナ感染者が確認されてから、4月には全国に緊急事態宣言が発令され、「三密」をともなう業態の飲食店をはじめ、映画、演劇などのイベント会社にいたるまでが営業自粛となった。6月以降に特別定額給付金や持続化給付金などの経済的措置がとられ、多くの事業者が歯を食いしばるように耐えていたが、それらの一時的な対処療法の効果が切れ、「7月初旬からの第二波によって絶望的になった」と多くの事業主から語られている。

 

 しかも、「第二波」の到来にさいして国は、公的補償をともなう緊急事態宣言は発令せず、経済対策として旅行を奨励するための補助金制度「GoToトラベル」を敢行。その結果、全国で感染者が広がり、多くの都市で累計感染者数が「第一波」をこえ、旅館業から飲食店に至る事業者が「自粛」あるいは客足急減に追い込まれた。

 

 東京商工リサーチが7月に実施したアンケートでは、コロナ禍が長期化すれば「廃業を検討する可能性がある」と答えた中小企業は全体の7・7%(約27万6000社)に及び、今年上半期の全国の企業倒産件数(負債額1000万円以上)は4001件と11年ぶりに前年同期を上回った。8月までの上位は飲食店、ホテル・旅館、アパレル・雑貨小売店、建設・工事業、食品卸となっており、このまま推移すれば、20年ぶりに1万件に達するとみられている。また、年末までに休廃業や解散に追い込まれる企業も全国で5万件にのぼるとみられ、十数万人が失業するとの試算もある。

 

 経済活動が萎縮した最大の要因は、新型コロナの感染抑止のためであり、そのために企業は休業や時短営業に切りかえ、人々は外出などを自主的に控えるなどの自衛措置をとった。ところがコロナ感染を可視化するための国のPCR検査体制は遅々として拡充されず、新型コロナ感染者の8割が無症状者であるにもかかわらず、現在にいたるまでPCR検査の保険適用と公費補助の対象は有症状者や濃厚接触者に限られ、その他は自由診療扱いであるため検査費用2万8000~3万8000円は自己負担となっている。それでも患者や利用者の安全を担保しなければならない医療・介護従事者は、病院負担でPCR検査をしているところも多く、否応なく経営が圧迫されている。実態がともなわない「感謝」の言葉だけが虚しく飛び交う現状に現場の憤りは深い。

 

政府は更なる増税示唆

 

 各自治体では限られた財源のなかからPCR検査の助成や、休業協力金など減収に対する手当てを出しているが、冷え込んだ消費の回復や膨らむ負債を解消するには「焼け石に水」というのが実態といえる。

 

 そのなかで電撃辞任した安倍首相に後継指名された菅官房長官は、総裁選の候補者討論で「将来的には消費税は引き上げざるを得ない」と発言。経済対策としては「サプライチェーン(供給体制)の強化と2030年までのインバウンド6000万人」の達成をあげるなど、コロナによって破たんが明らかになった安倍路線の踏襲を宣言した。

 

 コロナ感染の終息という公的な役割を放棄し、ひたすら自助に委ねる政府中枢の思考停止によって、さらなる実体経済の破壊に拍車がかかることが危惧されている。コロナ禍における自殺者の急増は、国家の責任を放棄した殺人的な政治から、まともな社会運営へと軌道修正を促す政治的転換が迫られていることを突きつけている。

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