いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

前例ない全国的な野菜高騰 コロナ機に東京に物流が集中し品薄に

 全国的な野菜の高騰が家計や食品関連業界を逼迫(ひっぱく)させている。通常であれば比較的価格が安定している根菜類を含め、すべての野菜が購入をためらうほど高騰しており、旬の夏野菜も例外なく高い。少しでも安い野菜を購入しようと農協の100円市や道の駅にはたくさんの市民が押し寄せたり、飲食店や弁当屋はメニューや具材を変えたりと、前例のない全国的な野菜の高騰にみなが翻弄されている。その一方で供給を担う市場や仲卸業者が懸命に量確保のために動いている。このような事態が起きた原因はなにか、かかわる人々の苦労と努力、今後の見通しや、毎年起こりうる災害にどう備えるべきなのか、下関市内の野菜の流通にかかわる仲卸業者、市場、八百屋、スーパーで働く人々に実態を聞いた。

 

1玉158円のタマネギ

 

 関係者によると、現在の野菜の高騰の原因は、長雨と日照不足によって野菜全般が発育不良になっており、収量が減り全国的に品薄状態に陥っていることにある。野菜を確保するために全国的規模で争奪戦が起き、値がつり上がっている。

 

 下関市地方卸売市場新下関市場の昨年と今年の月間売上高(7月)を比較すると、取扱量が大きく減っている一方で金額は上がっており、重量単価は昨年の153%となっている。品目別に見てもどの品目でも重量単価が上がっており、高騰していることがわかる【表参照】。

 

 仲卸業者や市場関係者からも尋常でない高騰が生業を逼迫させていることが語られている。現在でもジャガイモは通常1箱1800~2000円のところ6000円、レタスは通常1箱3000円のところ8000~9000円、ナスが通常1箱1500円のところ3000円、ニンジンが通常10㌔1500円のところ6000円など、2~4倍で推移している。

 

 九州地方をはじめ、関東・東北などの広い範囲で大雨が続き、野菜が例年通りに育たなかったり、長雨に打たれて傷んでしまったものも多かった。とにかく収量がなく、どの業者も買いたいのに買うことができない状態だという。全国的品薄となればより高値のつく関東方面に引っ張られることになり、地方はさらに品薄になってしまう。

 

 今後の見通しとしては、ジャガイモについては北海道産が出回り始めることから今月中には落ち着いてくるようだが、そのほかの野菜については学校給食が始まる9月までに値が戻るかわからない。レタスに見られるように、あまりにも高値になっているために買い手がつかず値が下がる傾向も起きているが、台風も次々に発生しており、現場では気をゆるめることはできない。

 

スーパーの売り場では

 

 このような事情を反映して市民の台所と直結するスーパーの売り場(複数のスーパーを参考)でもレタス1玉398円、ナス2本入り1袋298円、ジャガイモ1袋298円、大1個158円、タマネギ1袋298円、大1個98円、ニンジン2本198円など、どれも主婦が思わず手を引っ込めてしまう金額となっている。

 

 品揃えと安定的な供給体制を強みとするスーパーでは経験したことのない品薄・高騰に対して、急遽売り方と出す量の二つを工夫して対応している。通常であれば入ってくる予定だった夏野菜が入らないために棚のレイアウトを大きく変えたり、野菜を2分の1、4分の1にカットして単価を下げ、個数を確保して販売している。

 

 とくに担当者が苦労しているのがレタスだ。長野県内で大雨被害が出たことで特産のレタス生産も大きな影響を受け、全国でレタスが品薄になっている。この影響によりもっとも高いときで1箱7000~1万円にもなり、現在下関市内のスーパーの売価では1玉が598円になっている所もある。傷んだ外側の葉をとった小さなレタスは298円。通常この時期だとレタス1玉は158円ほどで、今年はあまりにも高く数量が少ないため、これを2分の1や4分の1にして販売しているスーパーは多い。

 

 あるスーパーでは白菜4分の1を298円、さらに8分の1にカットして販売していた。夏は白菜がない時期ではあるのだが、今年はとくになく、原価は1個1000円をこえている。通常であれば4分の1が198円だが今年は298円。消費者にとっては非常に高いが、この価格以下にはできないのだと語っていた。

 

 また、今まったくといっていいほどないのがナスだ。ちょうど花が咲いたころに降った大雨で花が落ちてしまい壊滅的被害を受けた。かろうじてできたナスも日照不足で育成状態が悪く、市場にもわずかしか出ていない。スーパーでの売価は2本で298円となっている。キュウリについては一時期は本当に品薄だったが、ここ最近は山口県内産が出てきたために価格は落ち着いてきているという。

 

 あるスーパーの青果担当者は、「とにかく品がないの一言。ほしい人が100人いるのに物が10個しかない状態だ。そして、例えば数ある野菜のなかでゴーヤがなければ別のものを買って対応できるが、タマネギ、ニンジン、キャベツ、キュウリ、レタス、トマトなど食卓に頻繁に出る野菜がすべて高騰しているので商品をそろえることができずに困っている。キュウリに関しては山口県産が出て落ち着いてきたが、こんなに品物がないことは初めてだ」と語っていた。

 

 前例のない野菜の品薄・高騰のなかでどのスーパーでも売れているのが低価格のもやしと菌茸(キノコ)類、そして袋に入った「カット野菜」だが、カット野菜のなかでもレタスについては欠品状態だという。

 

 先が読めないために広告を出すことも困難で、この状況がいつまで続くのかと頭を抱えている。

 

仲卸業者や青果店の声

 

 そうしたスーパーや学校給食、病院、施設、飲食業、加工業者などに野菜を納入する仲卸業者や八百屋からも悲鳴が上がっている。

 

 というのも、スーパーであれば収穫よりも前に価格が決まっており、給食であれば入札等で価格を決めて相手と契約しているため、納入業者としては赤字を抱えながら納入しなければならないからだ。

 

 ある仲卸業者は、「加工業者に野菜を納めているが、向こうも非常識な値段では販売できない。野菜の値段が2倍になったからといって加工品の値段を2倍にすれば客は買わない。だからこちらも2倍では売れない。本当は6000円したものを3000円で持っていったこともあった」といい、「給食用に納める野菜は3カ月ごとの入札で決まるため、野菜の値段が上がれば上がるほどうちは赤字になる。野菜が高かった時期は注文が来るのが怖かった」と話した。

 

 スーパーに納入する業者も同じで、「先にスーパーが値段を決めて広告を出しているため、どれだけこちらの仕入れ値が高かろうと決められた値段で納めなければならない。もしも、“そんな値段で入れられない”“勘弁してくれ”といえば“お宅が無理なら他をあたる”といわれて終わりだ。だから私たちは赤字を背負ってでも納めなくてはならない」と話していた。さらに、コロナ自粛が続くなかで市内の飲食店などに客が戻っていないことが影響し、注文が例年の3~4割減となっている。そのような事情が仲卸業者の経営に影響を与えている。

 

 前例のない野菜の高騰とはいえ、近年毎年のように起きる豪雨災害や長雨による被害に対し野菜の安定的供給を確保する体制の整備が求められている。甚大な被害を受ける地域が出ても国内の供給体制を保証し、なおかつ被害を受けた農家が再建できることが急務になっている。

 

 ある八百屋は、「熊本地震のさいに熊本のピーマン農家が自宅もハウスも失って立ち直れないという話を聞いた。また、岡山のブドウ農家が水害で根こそぎやられたという話もある。安定的な供給のためにもこうした被災した農家が再建できる体制が必要ではないか」と語る。

 

 スーパー関係者は、「このたびの野菜の品薄には本当に困っている。毎年どこかで河川の氾濫による水害や土砂崩れが起きているのを見ると、治水をどう工夫していくかからやり直さなくてはいけないのではないかと思う。方法はいろいろあると思うが、治水を見直さない限り被害は出るだろうし、そのたびに被害を受ける農家も気の毒だ」と語っていた。

 

食料輸入依存の脆弱性が背景に

 

 今年の異常な野菜高騰は全国的に見ると4月ごろから首都圏を中心に始まっており、4月7日の新型コロナウイルス感染拡大に対応した緊急事態宣言の発動を契機としている。

 

 昨年末から今年にかけては暖冬の影響で野菜の生育や収穫時期が早まったため供給は潤沢で値段も安く、1月28日に農水省が野菜の消費拡大を掲げて「野菜を食べよう」プロジェクトを開始したほどだった。ちなみに「今が旬のお手頃野菜」として、「大根、白菜、キャベツ、レタス、バレイショ」をあげていた。

 

 ところが4月7日に緊急事態宣言が出たあとの4月14日時点での農水省の野菜販売価格調査では、キャベツやレタスなど葉物野菜の値上がりが明らかになった。それでも農水省はこのとき「天候不順もなく生産量に大きな変化はないので、さらなる高騰はなく、このまま平年並みの価格で落ち着くだろう」と予想していた。だが農水省の予想ははずれ、その後首都圏をはじめとしてキャベツが1玉400円など野菜の高騰に消費者が振り回される事態になった。

 

 新型コロナ対策での外出自粛や自宅待機、テレワークなどで家庭で料理をするケースが増え、野菜の需要が伸びたため、需要急増に供給体制が追いつかず、野菜の品切れが続出することになった。東京都の食料自給率はわずか1%であり、東京都以外で生産した農産物で都民が生活している。需要と供給のバランスが崩れるととたんに逼迫する構造になっている。

 

 そのなかで、卸業者が高値のつく首都圏に品物を集中させたため、地方の野菜が首都圏のスーパーになだれこみ、今度は地方で野菜の値段が高騰したり、品切れ状態になる事態に至った。

 

 その後記録的といわれる「低温」や「日照不足」に見舞われ、キャベツ産地の茨城産が十分に出回らないうえに、7月の豪雨災害で農業拠点の九州や長野などで農作物が大被害を受けた。

 

技能実習生の来日ストップ

 

 新型コロナ感染拡大のなかで4月以降野菜の供給が逼迫した要因の一つに外国人技能実習生の来日がストップした問題がある。コロナ対策による出入国制限で日本は農業分野だけで2400人の来日が不可能になった。

 

 国はキャベツ、タマネギ、大根、白菜を重要野菜4品目に指定し、安定供給のための産地を指定している。たとえば群馬県の嬬恋(つまごい)村はキャベツの指定産地だが、同村で栽培される夏秋キャベツは全国の5割以上のシェアを持っている巨大産地だ。そこでキャベツ生産を担っている主力は外国人実習生だ。村のキャベツ農家は361戸あるが、ほとんどが家族経営で、耕地面積が広いほど実習生に依存している。ところがコロナ禍のなかで予定していた実習生の6割が来日できなくなった。

 

 高原野菜の指定産地である長野県でも、外国人実習生の4割が入国できなかった。

 

 長野県はまた全国一のレタス産地であるが、7月の降水量が平年の2・2倍、日照時間が平年の32%と、長雨と日照不足に見舞われ、レタスの生育が遅れ、収量が減少している。長野県はレタス生産量で全国シェア34%を占めており、レタス高騰につながっている。

 

 巨大指定産地で、天候不順や人手不足などさまざまな要因で生産量が計画から大幅ダウンすれば国内の需給バランスは崩れ、価格は高騰する。

 

 とくにコロナ禍は農業が外国人に支えられているという現実を浮き彫りにした。農水省の調べでは2019年に農業分野で3万人を突破し、雇い入れ農家も10年間で2倍近く増えている。中国やベトナム、フィリピン、カンボジアなどアジア諸国から来日しているが、アジア各国の経済成長にともない、日本で実習生として働く魅力が薄れ、人集めは年々厳しさを増している。外国人に頼れなくなったときの日本農業をどう守っていくのかという課題が突きつけられている。

 

コロナ禍でとどこおる輸入

 

 今年の野菜高騰は、地域により、また月により複合的な要因が重なって起こってはいるが、その根底に流れているのは、自給率の低さだ。

 

 野菜の国内自給率は他に比べて高いといわれているが、2018年は77%で、しかも種まで遡った自給率はわずか8%だ。全体の食料自給率は2019年で38%と6割強を輸入に頼っている。

 

 コロナ禍のもとで、各国は食料輸出規制に動いている。3月からベトナムが、4月からカンボジアがコメの輸出を禁止した。タイは玉子の輸出規制をおこなった。ロシアも3月から全種類の穀物輸出を制限し、カザフスタンが小麦粉やソバ、砂糖、野菜などの輸出を中断した。

 

 日本は食料輸入をアメリカ、カナダ、オーストラリア、中国、ブラジル、アルゼンチンなどに依存しているが、いずれの国もコロナ禍に見舞われ、従来どおりの輸入ができない事態にある。とくに生鮮野菜は大手商社が中国企業と合弁会社をつくり、中国で生産させたものを逆輸入するという形で増大させてきたが、コロナで中国での生産も縮小し、輸入体制も整わないなかで激減している。

 

 輸入バナナの8割をフィリピン産が占めているが、コロナの影響で収穫や物流にかかわる人材不足となり輸入は激減、価格は高騰している。

 

 また、小麦は約9割をおもにアメリカから輸入しているが、家庭での小麦粉の需要が増えたためホットケーキミックスや強力粉など小麦製品の品薄状態が続いている。

 

 また、この間増加傾向だったアメリカやオーストラリアからの7月の牛肉輸入量が前年を下回った。コロナ禍でアメリカでは食肉工場の閉鎖があいついでおり、アメリカ国内のスーパーでも販売停止が出ているなかで、日本への輸出量も減っている。また、鶏肉は全輸入量の8割をブラジル産が占めているが、ブラジルはアメリカに次いでコロナ感染者が爆発的に増大しており、鶏肉輸入にも影響が出ると予測されている。

 

 ブロッコリーはアメリカ、メキシコ、中国からの輸入が多く品薄・高騰の可能性が高い。メキシコ産アボカドの輸入量も減少しており、価格高騰の恐れがある。アメリカ産と南アフリカ産が主力のグレープフルーツも高騰が警戒されている。

 

 例年であれば、国内で野菜が高騰すれば大手商社などが「チャンス」と見て、安い中国産野菜を大量に輸入して、大手スーパーが「特売品」として売り出すというケースが多々あった。だが、コロナ禍のもとで輸入がままならない。絶対的に供給料が足りないなかで、野菜など食料品が高騰し、消費者や業者を直撃している。

 

 国内での食料自給率は2019年時点で38%であり、これで国民の食料をまかなえないのははっきりしている。先進国の例を見ると、食料自給率はアメリカ130%、フランス127%、ドイツ95%、イギリス65%などであり、日本は最低水準だ。輸入に依存せずに食料を自給する体制をいかにして築き上げるのかに真剣にとりくまなければならない。ところが、政府は2018年12月30日に環太平洋経済連携協定(TPP)11を、2019年2月1日には日欧EPAを、今年1月1日には日米FTAを発効して、牛肉、豚肉、乳製品、野菜、果実など農産物輸入を急増させる体制をとり、食料自給率を格段に下落させる方向だ。

 

 野菜高騰は最近では自然災害のたびに毎年のようにニュースになっているが、今回のコロナ禍のもとでの野菜高騰は、輸入依存の食料供給体制が国民に食料不足や飢餓のリスクを押しつけるものだということを如実に示した。

関連する記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。